王宮職員寮の雑用係
自作短編「勇者は獲物を逃さない」の連載版です。
1~3話は短編とほぼ同じです。
初の連載なので至らない点もあるかと思いますが、どうぞよろしくお願いいたします。
「わぁ!すごいなぁ」
掃除の手を止めて窓から魔王討伐の旅に出る勇者パーティの壮行パレードを眺める。
私は故郷では狩りとかもやっていたので視力には自信があり、かなり離れてはいるがよく見える。
勇者は細マッチョで甘いマスクのイケメン。
聖女はウェーブのかかった金髪が風になびく儚げな美女。
戦士はガッチリ体型で一見怖そうだけど顔立ちは整っている。
賢者は細身で眼鏡のインテリ系。
そして魔術師は黒いフードで顔は見えない。
耳もいいので歓声も聞こえてくるが、再び掃除を始める。
「ま、私には関係ないもんね」
ここは王宮で働く職員の寮。そして私は一番下っ端の雑用係。
掃除・洗濯・調理などそれぞれに担当がいるが、手が足りないところをフォローしてまわるので1日中駆けまわっている。
ちなみにこの寮は平民向けで、貴族向けはもっと豪華なのが別にある。行ったことないから知らんけど。
就職先として貴族用の寮の仕事は人気があるらしいが、平民向けはあまり人気がないようで、私みたいな田舎娘でも身元確認だけであっさり採用された。
そんな状況なので常に人手不足でとにかく忙しい。
掃除が一通り終わって廊下を小走りで移動していると、コックコートの男性に呼び止められた。
「あ、いたいた。悪いけど次は調理場を手伝ってくれねぇか?」
「はいっ!」
いつものように笑顔で答えた。
勇者パーティが出立してしばらく経った頃。
なぜか私は王宮内にある宰相閣下の執務室に呼び出されていた。
メイド服姿の雑用係である私の目の前にいるのは、眼鏡をかけた銀髪のナイスミドルのとっても偉い宰相閣下。
宰相閣下が私の勤務場所である平民向けの職員寮に来ることなどまずありえないので、もちろんこれが初対面である。
「・・・あの、もう一度おっしゃっていただけませんか?」
「だから君には本来の職務とははずれるが勇者パーティのサポートに入ってもらいたい」
やっぱり何度聞いても理解できそうにないんですが。
「それっていったいどういうことなんでしょうか?」
「旅は順調に進んでいたと思われたのだが、初めての野営でトラブルがあったらしく、近くの村まで戻ってきてしまったそうなのだ。現在もまだその村に留まっている」
「え~と、それってつまり調理ができないとかそういうことなんでしょうか?」
「そういうこともあるのかもしれんが、まだ詳細な情報がなくて正確な原因は不明だ」
私はちょっと考えて宰相閣下に聞いてみた。
「でも、確か冒険者ギルドにそういうのを担当する支援職の人とかいるんじゃなかったでしたっけ?」
「依頼はしたが断られた。冒険者ギルドは今回の勇者パーティの選定で不正が行われたと主張しているのだ」
え~と、なんか予想外の発言が出てきたんですけど。
「そうなんですか?」
「・・・否定できたらよかったんだがな。王族や貴族が自分の子供達に箔をつけたくて、選定役の神殿幹部に袖の下を渡していたことはすでに判明している」
苦虫を噛み潰したような顔ってこういうのなんだろな~と宰相閣下を見ながら思う。
「え~と、そんな方々で魔王討伐とかできるんですか?」
「もちろんそれなりの実力があった上でのことだが、討伐は二の次で参加することに意義があるというかなんというか・・・」
そのあたりは深くつっこんではいけないな・・・と私は判断した。
「それはさておいて、どうして私なのでしょうか?貴族の方々のお世話ならもっと適した方がいると思うのですが?」
「勇者パーティとお近付きになりたい連中は山ほどいる。だが、この国の貴族にも派閥というものがあってだな、ヘタな人選は騒動の元になりかねんのだよ」
「なるほど。平民で、下っ端とはいえ一通りのことはできるのでこの私・・・ということですかね?でも職員寮の方は大丈夫なんですか?ただですら人手不足なのに」
宰相閣下はため息をついた。
「ああ、もちろん猛反発を食らったとも。君は随分と頼りにされているようだな。こちらとしても無理を言うので、君の不在の間の人員はなんとか確保すると約束した」
「なんだ、もうそこまで話は進んでたんですね・・・あ、でも旅ってことは実質無休じゃないですか?今の仕事は忙しいながらも休日はちゃんと確保できてたんですけど」
「大変申し訳ないが、そのあたりは報酬で対応するしかないと考えている」
私は少し考えてからずうずうしいことを思いつき、にっこり笑顔で宰相閣下に言ってみた。
「しかたないのでそれでよしとしますが、無事に戻ってきたら宰相閣下にご褒美をおねだりしてもいいですか?」
宰相閣下もしばし考えていたようだったが最後には折れた。
「本当に物怖じしない娘だな・・・わかった、私に出来ることであれば対応させてもらおう」