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 時間というものは残酷なもので、誰しも平等に過ぎていく。順風満帆なマダムも、バイトを掛け持ちする苦学生も、家から出ずにゲーム三昧の引きこもりも。立場や場所が変わっても、同じ時間の中を過ごしている。

 つまりどういうことかというとーー

「はい。時間切れ」

「くっそぉ!」

 自習室にドン!と机を殴りつける音が響く。衝撃で震えた施術台の上には、腹を切り開かれたまま、仰向けに眠るマウスがいた。

「やっぱ間に合わなかったか……。ま、私らも結構難儀したとこやしねぇ」

「でも、俺だって同じ授業は受けてたんだぞ……」

 あれからさらに一週間が経った今も、斎藤は縫合魔術が習得できていなかった。

「あハハハ!やーやーっ、そんな簡単にやられちゃったら、授業で丁寧に、その場で教えてもらってる私らが形無しじゃん!」

「いや、そこまで言ってないが」

 医療魔術は、戦闘系の魔術師とは扱う術式の数が違う。そもそも外科治療に適性の高い医療魔術において、主に扱う術式は、『浄化』『細胞活性』『縫合』の三種類だ。その中でも最難関なのが、彼が苦戦している縫合魔術。通常なら習得に半年はかかると言われている。

「でさー。明日どうするよ」

「ぐっ……まぁ、なんとかやり過ごすしか……」

「それやる意味ないじゃん」

「むぅ…………」

 何故こうも彼が急いでいたかというと、明日にあるサバイバル演習のためだ。内容は簡単に言うと、ランダムに組まれた三人一組のチームで、北海道の自然豊かな山々に放り出され、そこで一週間生き抜くというもの。

 戦闘科と医療科の合同で行われる恒例行事で、この演習が出会いとなり、成立するカップルもいるんだとかいないんだとか。

「大怪我でもしてれば休めるかもしれないけど、たかだか魔術が使えない、って理由で休めるほど甘くないしねぇ」

 医療科で最も重きを置かれるのが、魔術師としてではなく、医者としての心得だ。

「特に竹山なんて、『魔術が使えないならメスを握れ』とか普通に言うでしょ」

「分かった。分かったからもうやめてくれ」

 逃げ場を続々と潰していく明石の攻め手に、とうとう白旗を上げる。ぐっ……と刻印の入った拳を握り締め、ふぅ、と一息吐く。

「気合入れるよ。逃げてらんないみたいだ」

「うん。いい顔だ」

 にへ〜と笑う明石は、何を考えてるのか。斎藤にはまるで理解が出来ない。

「もう今日は寝よ。疲れたし。朝早いし」

「だな」

 道具を片付け出した明石に倣い、片付けを始める斎藤。ふと、何かを忘れてる気がする彼だったが、それに思い当たるのは、一晩を明かした後だった。



「はいこれ制服。今日から一週間。斎ちゃんは斎ちゃんになるんだ!」

「何で!?」

「じゃないと魔術使えないじゃん。ほらほらもう時間!」

「ちょっ、魔術は使えなくてもって昨日……」

「逃げないとも言ったよね?ほらほら急ぐ!」

「くそっったれがぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 これほど運命の女神を呪ったことはないと、後に語る斎藤少年だった。


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