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「じゃ、まずは何するか決めないとね」

 そう言ってホワイトボードに向かい、いつものニヤケ顔を貼り付けて少年を見下ろす明石。楽しげなその様子に、少年の不安は募る。

「まず初歩的なとこから確認してこうか」

 ボードに『浄化』と書かれ、その横に大きな括弧が現れる。

「斎ちゃんが使えた魔術は『浄化』と『細胞活性』。これを使うのに必要なのは……」

「対象の選択、だろ?」

「それだけ?」

「後は……魔力操作?」

「その通り〜ぱちぱち〜」

 彼女の気のない拍手にイラッときたが堪え、話を続けるよう促す斎ちゃん。

「魔力操作が正直鬼門かなーって思ってたけど、案外すんなり出来てたね」

「色々助けてもらったからな……」

 斎藤少年はこの学校に来てから、魔術が使えないからといって差別を受けたことはない。努力が足りないと叱責されることはたまにあったが、それでも彼が魔術を発動出来るよう、教師だけでなくクラスメイトまで、手を変え品を変え、様々な方法を教えてくれた。

「あの時も魔力循環は出来たんでしょ?その時何回ぐらいチャレンジした?」

「はっきり覚えてはないが……八回はやった」

「意外と少ないね。てっきり二十ぐらいはやってると思ったよ」

 脳内のイメージを切り替えるだけではあるが、時間は無慈悲に進んでいく。本当に幸運だったと、彼は頬を緩めた。

「たまたま当たりを引いたんだ。それでも結構苦戦したぞ?理想は一発」

「もう出来たことなぞるんだから、毎回そんな回数やらんでよろしい」

 確かにそうだと、浮いていた腰を落とす。

「私も見てたけど、魔力操作は申し分ない。普通ぐらいだね」

「微妙な褒め方やめい」

「合格点なんだからいいでしょ。それに医療魔術で大事なのって、魔術の技量じゃなくて使い方。じゃなきゃ解剖学なんてやんないって」

「確かにそうだが……」

 魔術の技量もあってこそ生きるものではないだろうか?と納得がいかない様子の少年に、明石はボード新たに文字を加えていく。

「いくら魔術って言ったって、ゲームみたいにパッとやったらHPが回復!なんて単純じゃない。ちゃーんと『どこをどのように治すのか』を見極める必要があるんだ」

「それぐらいはわかってる。魔術は所詮ツールだって」

 魔術で出来るのは、与えられたプログラムを実行することだけ。すり傷一つとっても、治すには浄化、細胞活性を行う必要がある。浄化も除去する対象、範囲を決めねばならないし、細胞活性も、活性に必要な要素をいくつか満たさねばならない。

「私たちは病気についてはまだ本格的にやってないけど、内科治療に関しては、術式の定義づけがもうめんどくさいらしいよ」

「内科治療はまだ医科学のが主流だしな」

 魔術が苦手な分野というのもある。それが、こういう定義づけに困るものだ。

「ま、その辺はおいおい。今の斎ちゃんにはまだ早いし」

「じゃあなんで話したん?」

「私が話したいからに決まってんじゃーん」

「時間ないって言ってなかった!?」

 そんな少年の叫びでようやく思い出したかのように「あ、そうだった」と呟き、彼女は声高に言った。

「じゃー今から魔力循環の練習しよっか」

「だからさっきまでの会話なんだったん!?」

 結局、魔術の技量向上に向けての訓練が始まったのだった。

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