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「で、これは何?」

 ちょっと待ってて、と言われ教室に置き去りにされて300秒。息を切らせ戻ってきた明石が手渡したのは、見覚えのある布の塊だった。

「何って、制服よ」

「いやそれは分かるが」

 確かに、ここ上川魔専(上川高等魔術専門学校)の制服だ。しかし渡されるとしたらこれはおかしい。だってーー

「何で女子制服なんだよ!」

「着るからよ」

「俺男なんだけど!?」

「昨日着てるし今更よ」

 そりゃ拒否すりゃパンイチで校内徘徊することになる状況をお前が作ったからだろうが。と、いけしゃあしゃあと宣う明石に拳を握り締める。一度は社会性を優先させたとはいえ、斎藤少年にも男としてのプライドがある。易々とは女装を受け入れられない。

 と、明石は不意に真剣な表情になり、

「結局、確たる原因がわからないんだから、やれるとすれば再現ーー成功したときの状況を、なるべく作るしかないのよ」

「ぐっ……」

 確かに、いつまでも口だけで動かないよりかは万倍マシだ。探究における常套手段ではあるが、常套なだけに実績があるということだ。

「他意は無いんだよな」

「そりゃあるよ。じゃなきゃ協力しないし」

「素直だな!」

 彼女がこの状況を楽しんでいることは明らかだ。だがそれだけじゃないことは彼も理解している。

 奥歯を噛み、ゴクリと男としてのプライドを飲み込んだ。

「ぐぅ…………せめて人目につかないところで」

「当然♪自習室を借りてそこでやるよ」

「了解」


※※※


 自習室とは、医術科と研究科にだけある多目的室だ。といっても、机と椅子があるだけの一般教育校のものとは違い、医術科なら医療シミュレーターが、研究科な魔術シミュレーターがそれぞれ各部屋に備わっている。特に医療科のものは充実しており、メスやクーパーといった医療器具。魔術で作られた生体ダミー(臓器や血管、神経までも本物の人体そっくり)が用意されている。



 と、いうわけで、肩を並んで自習室へ向かう。途中、何人かの医療科の学生に出会ったが、奇異の目で見られることはなかった。当然だ。まだ男子制服だし、渡された女子制服はちゃんと紙袋の中だ。

「何で今からビビってるん?」

「いやだって……」

 人が通る度にビクつく肩を見て、嘆息する明石。

 しかしさもありなん。確かに見た目はまるで問題ないが、手に女子制服を提げている事実と、それをこれから着なければならないという緊張感が掛け合わさり、周囲の音や気配にやけに敏感になってしまっているのだ。

「そんなビビリでよくこの学校入ったよねぇ」

「だからビビってねぇ」

 返す言葉も、力が入って硬い。

 明石はもう一度嘆息して、手の中のカードキーを弄ぶのだった。

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