表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/3

外伝M2-04-01 始まりは、慎二の元へ転移から


 私はイザベラ。 イザベラ・ラッセル。

 摩導具工房アルメーニ(Armeni)の上級工員よ。


 ある日、私が勤める工房の師匠から、彼の娘、そう彼は親友の父であり、その親友の命を救うため、私にお願いをするかもしれない と言われました。


 今、私の親友が死に至る病で苦しんでおり、師匠と私達工房の人間は、少し前からその治療薬を手にいれるべく、手を尽くしてきたのです。

 薬を探す中で、同様の症例がいくつか見つかり、それを治すためには特別な薬、そうエリクサーという物が必要だと言うことが判りました。

 それ以外では治った例は、まだ見つかりませんでした。

 また、私たちの世界には、既にその薬は手に入らない事実もはっきりしてきました。


 そんな手詰まりとなった私達ですが、とある朝、師匠が突然変なことを聞いてきました。


「イザベラ、君は夢に出てきたことを信じられるか?」


「どうでしょうね? でも、正夢って言うのもありますし、私にはわかりません」


「そうだよな。 あとで当たっていれば、正夢だったお言えばいいのだしな」


 師匠は、なんか夢が引っかかっているようなので、他に手もないので、思わず聞いてしまいました。


 それは、その朝に師匠が見た夢の話だそうで、エリクサーが手に入るチャンスがあり、そこに行けば、そんな夢のようなエリクサーが手に入るかも(・・)しれない。

 その夢の中では、師匠ではなく、なぜか私が旅立っていたと言われ、私が光る石に願いをかけると、そこに行けると言うのです。

 そして、そこに行けば、どんな夢もかなう世界があると、どこか聴いたような話を言うのです。


 それは、まるで見てきたかのような現実感がある夢だったそうで、目覚めてからもはっきりと覚えていたようです。


「それ、なんかとんでもない夢ですね!」

「でもイザベラ、何処だかわからないが、もしそんな遥かな世界に行けたら、よろしく頼むわ!」

 と、師匠からは、そんなふざけたお願い話であって、その時は二人とも笑っていたのです。


 が、私たちはすぐに笑ってはいられなくなりました。


 以前、私と師匠や親友などが参加した調査団で、北の地の探査の旅に出た時に親友と拾った石があります。

 その時以降、いつも小さな袋に入れて私たちの親友の証として、お守りのように大事に持ち歩いていました。


 話を聞いた日のお昼過ぎ、なんとその袋に入った石が突然光りだしたのです。

 布袋に入ったそれは、袋に入った状態であってもなお、袋全体が光って見えます。

 今朝の師匠の話を思い出しましたが、それは突然の事であり、私たちに何かを準備をする時間はありませんでした。


 私は急いで自分のカバンを取り、作業机の上の自分が使っている道具や記録簿をカバンに入れました。

 師匠は手近にあったいくつかの摩導具を手渡してくれました。


「今からどうなるかわからない!

 もし本当に君がどこかに行くことになれば、その摩導具は高価な物なので、行った先で売ってお金にすれば、しばらくなんとかなるから」


 と、言って師匠に摩導具を何個かもらってきました。


 私たち二人は、パニックになっており、大事なものをもっと準備すべきでしたが、そこで時間切れでした。

 そもそも、この摩導具が売れるかなんて誰も判らないのに、やはり師匠もパニックしていたようです。


 私が、光る石を確認するために袋から出すと、既に石はまばゆいくらい強く光っており、直視はきついものがありました。

 あまりにもまぶしかったので、私はおもわずその石を覆うように両手で包み込みました。

 そう、祈るように、願うように。


 それがきっかけとなったのか、その光は、私と、私の片腕にぶら下げられたカバンを包み込み、一瞬強く光ると、私は工房から消えていました。


 私の旅立ちは急だったのよね。

 そう、何の覚悟も、何も準備ができないうちに……


 でも、あらかじめ聞いていたら、どんなところに行くかもわからず、怖くてどうなっていたか分からないから、それで良かったのかもしれないわね。

 そうして、私は慎二さんの元にやってきました。


 でも、そこからは苦難の連続でした。

 最初通じなかった言葉は、アーさんのおかげですぐに言葉が理解できるようになりました。


 あ、アーさんと言うのは慎二さんのスレイトのヘルパーさんで、慎二さんに言葉を翻訳してもらう事で私が理解できるようになっているらしいのです。

 らしいのですが、なぜ言葉がわかるか理解できていません。

 このには世界は、ものすごい技術があるようです。


 わたしは摩導具を作る工房でも上級工員なので、技術的に理解できないと、とても気になってしまいます。

 そうね、慎二さんの世界で言う、いわゆるリケジョ、理系女子っていう物らしいです。

 これって技術が得意な女性っていう、いい意味ですよね?


 摩導技術に興味があった私は、あちこちの摩導工房を訪れて研修させていただいたときは、毎日が天国でした。


 だって、北の地の旅の仲間である上級工員から教えられ、知らない技術が沢山あって、毎日夜遅くまで、教え込まれました。

 それぞれの工房で持つ技術は、一つ一つ異なり、目を離す暇がありません。

 私は、一生懸命ノートに記録をし、その記録簿は私の一番大事な宝となりました。


 本来は各工房の最大の秘密である摩導具の技術です。

 その北の地への旅自体がその閉塞された摩導工房の殻を破り、各工房の上級工員の技術を向上しようと言う目的がありました。


 旅に参加した仲間は、互いに勉強をし、次の世代に摩導具を引き継ぐであろう私や親友にも、様々な技術を託そうとしてくれました。

 おかげで、私は他の工員たちが知らない、複数の摩導工房の技術を知ることが出来ました。

 本当に毎日寝食を忘れ、摩導具の世界に没頭していました。 今思い出しても、とても楽しい旅でした。


 その大切な摩導具が……

 師匠に持たせてもらった摩導具や、持ってきた私の摩導工具やマナインクが、この世界に来たことで、それらがすべて使えなくなっていました。


 マナクリスタルはすべて蒸発したように消えていました。

 またマナインクはインクが変質したようで、金色のインクとそのインクが付着していた部分はすべてが黒くなって、手で触るとボロボロと崩れてしまいます。


 高価な純金を使った作られたマナインクポットが、真っ黒になっていたのにはショックでした。

 私のお給料では、とても新たに買えるようなものではありません。


 師匠が渡してくれた摩導具は、どれも全く動きません。

 調べてみたのですが、やはり摩導具に付けられたマナクリスタルが消えており、中のマナインクで描かれた摩導回路が、すべて真っ黒でボロボロになっていました。

 これじゃ動くはずがありません。


 治す工具も、マナインクもなく、壊れてしまったものは売ることもできずに、私は本当に無一文の状態になってしまいました。

 そして、この世界ではマナクリスタルの入手は困難との事も解り、私の専門職である摩導具知識も一切使えないようです。

 一度にすべてを失ってしまいました。


 さらに、私がここに来れば手に入ると言われたエリクサーについても、貴薬草とかいう原料は山の中で少し手に入ったのですが、肝心のエリクサーが手に入っていません。

 何とか、早く手に入れたいのですが、この世界でも私の世界と同様にエリクサーという物自体が無いようです。


 やはりこの世界にもないようなので、自分たちで作り方を探る必要がありそうです。

 いくら原料となる貴薬草が手に入ったとしても、作る方法が判りません。

 もし方法が判っても、この世界で作れるかどうかはわかりません。


 私も上級工員なので、たとえ原料があっても、製法がなければ作れないことは理解できます。

 また製法が解っても、製造装置など環境がなければ作れないことも判ります。


 こういう時、技術屋は妙に冷静になり、出来ない未来しか分析できないので、どうしても暗く落ち込む毎日となっていました。


 慎二さんは、優しくって、ちょっと頼りないところもあるのですが、私と同じモノを作っている方なので、どこか波長が合うのでしょうか?

 不思議なことに、慎二さんといると私も何でもできそうな気がしてきます。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ