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やりすぎチュートリアル

作者: さやか

気づけたのは運がよかった。

俺の名前はチュー・トリアル。

なんだこの変な名前と自身の名前を理解して最初に思った事こそがよかった。

何か引っかかる名前だとずっと考え続けた幼少期。

何が引っかかるのか答えが出たのは少等舎に入舎した後。

そこで学んだ世界の歴史。

歴史というか、神話ともいえるそれを何ども何度も飽きる程反芻して…漸く気づけた。


この世界がRPGの世界だってこと。


ロールプレイングゲームってなんだよ、というところから考えていき、年単位で時間をかけてゆっくりと思い出したのは所謂前世の記憶。


俺はこの世界とは別の世界にかつて生きていて、今俺が生きている世界をゲームとして扱っていたという記憶。


だけど、その記憶は非常に曖昧で具体的に別世界でどのように生きていたという個人情報は思い出せない。

また、ゲームの内容も漠然としか思い出せなかった。

キャラクター名とかストーリーとか?

残念ながら全く思い出せない。

ただ、一つだけ明確に思い出したものがある。

それは自分の役割。

それは自分の変わった名前からも察するように…

主人公のチュートリアル担当ということだ。

ただこのチュートリアルが何かが漠然としていてよくわからない。

なんとか思い出せたのは主人公に戦い方を教える為の最初のイベントということ。

ただ俺達が住むこの世界では戦闘と一言で言っても多種多様だ。

その中でも主流なのが武道、剣技、魔法の三種。

武道とは所謂殴る蹴るを駆使した肉体的戦闘手法であり、様々な流派がある。

一つでも免許皆伝が得られればその道の玄人として飯が食べていけるだろう。

ここに加えて剣技、魔法、何も片手間で物に出来るような代物ではない。

剣を極めし者は騎士団へ、魔法を極めたき者は魔導師へ弟子入りをして。

どちらか一つでも形にするだけで膨大な時間が必要になる。

どちらも物にし使えるようにするのは神の加護を持つ主人公ならいざ知らず凡人には到達不能な神の領域だ。

これだけでも盛りだくさんなのに、主人公は手持ちの武器を強化する為の生産も覚えなくてはならない。


…って事に気付いた時の俺の絶望感わかる?


俺はそんなオールマイティじゃないよ!

て、事だ。

今日まで甘々と暮らしていたただの一般市民の子供に一体何を求めるのかと。

無論、ゲームでの登場はまだ先だ。

具体的には10年ぐらい先。

何故なら俺はまだ子供。

記憶の中の俺の年齢を想定するに18歳から20歳くらい。

だからまだ時間はある。

けれど、たったの10年。

それしか時間がないのだ。

これは今までサボってきた分までしっかり勉強しなくてはいけない。

俺のチュートリアルが悪かったせいでこの世界がゲームオーバーになったらどうすればいいのか。

今から10年、死ぬ気で武道も剣技も魔法も生産も勉強しなくては!!!

俺は燃えた!

完璧なチュートリアルを主人公に行う為俺は今までの自分を恥じて真剣に凡ゆる事を学ぶ事にしたのだった…!



そして、あの日から心を入れ換え10年。

武道の師匠に土下座して一から学び鍛えた10年。

騎士団少年隊に入隊して必死に剣を学んだ10年。

偏屈な魔導師に弟子入り志願して小間使いから始めて頑張った10年。

ドワーフの国に行って一から生産を学び、自国に戻って自身の工房を持つに至った10年。

俺なりに凄い必死に頑張った。

どこまで達すれば主人公にチュートリアルが出来るようになるのかわからなかったので、実力不足とならぬよう必死で学んだ。

運がいいのか、それとも世界の大いなる意志か、俺についた師匠達は腕は勿論、物を教えるという事に熱心な人達だった。

俺も主人公に対してチュートリアルを行う時には単純な技だけではなく、熱意、即ち敵を絶対に倒すという心構えを教えていきたいと思った。

そんな俺の決意を嘲笑うかのようにこの世界はゲームの通りに動いた。

遠い北の地で魔王復活の兆しがあった。

同時にこの世界の神たるお方が聖女に神託を授けた。

神託曰く、いずれ復活するであろう魔王を倒す為、神の加護を授かった男の子が世界のどこかで生まれたらしい。

しかし、彼が今どこでどのように生きているのかは世界各国の王族皇族の必死の捜索を持ってしても不明。

世界は今、いつ魔王が現れ俺達の生活を脅かしてくるか戦々恐々としており、一刻も早く神の加護を持つ男の子を探さんとしている。

俺がそうなのでは?などと寝ぼけた事を言われた事もあったが勿論俺は違うわけで。

でも、必ず俺の前にその男の子が現れるという確かな根拠があり。

俺は日々彼を待ち続けた。


そして遂に彼に出会った。



場所は酒場。

成人して初めて酒場に来て以来俺はこの酒場に通い詰めている。

理由は単純。

なんとなくここで主人公と出会いチュートリアルが始まるという気がしたからだ。

記憶にあるわけではないが、初めて来た時、あ、ここだと思ってしまったのだ。

ただ具体的にどうやって始まるのかがわからない。

無論、俺は自らの任務を完璧にこなすつもりだ。

なのでとりあえずいつチュートリアルが始まってもいいように酒を飲むことだけは控えた。

酒に溺れては出来る事も出来ぬ。

いつだって俺は酒場でミルクを頼んでいた。

毎日ミルクを頼み待ち人を待つ俺。

酒場のマスターも俺の行動には慣れたのか何も言わなくてもミルクがすっと差し出される。

今日彼が来るのか、それとも明日か?

それとも……


からん


「!」

俺の心臓が大きく高鳴った。

来た。

彼を見た瞬間、彼が主人公だとすぐにわかった。

名前も顔も全く記憶にない。

それでも彼が主人公だと断言できたのは偏にその顔立ち。

金色の髪に青い瞳、新品の革鎧を着た王子様のように整った顔立ちはどう見ても主人公!

よし、彼に絡まなくては……!

って、どうやって??

今更な疑問が頭を過る。

俺は今まで主人公の為にと必死で凡ゆる事を学んできたが生来器用な方ではなくどうも人と話すのが下手だ。

何故か俺が話しかけると途端に用事を思い出してどこかへと行ってしまうのだ。

こんな俺に初対面の主人公に絡むなど出来るのだろうか?

彼は店に入ると俺の隣に立った。

別に俺に用があるわけではないのは彼の視線を見れば一目瞭然。

彼はマスターに用があるのだ。

しかし、不躾に彼を見過ぎたのだろう。

主人公は俺の視線に気づいてこちらに顔を向けた。

「……」

「………おい、何見てんだよ」

「え!?あ…はぁ…」

まさか彼の方から声をかけてくれるとは思わず間抜けな声を出してしまう。

「なんだよ、間抜けな声を出しやがって…」

彼は不機嫌そうに顔を歪めてそう呟くと再びマスターの方に顔を向けた。

あ、会話が終わっちゃう…。

焦りがよくなかったのだろう、ミルクをうっかり零してしまった。

その大半が彼の革鎧にかかる!

「うわっ!?」

「す、すみません!」

「てめぇ、何しやがるんだよ!?」

「あの、悪気はなくてですね」

「あったらぶっ潰してやるわ!

てか、この鎧大枚叩いて漸く買えた新品なのに!!

おい、クリーニング代くらい寄越せ!」

あ、はい!と勢いよく財布を出そうとして、はたとその手を止める。

これって嫌だといえばチュートリアルに進めるのでは?

よ、よーし、断るぞ!

「断る」

勇気を振り絞って断ってみた。

「ああん!?人の服汚しておいてそれはねぇだろ!?

しかもその仏頂面、どう見てもチンピラだな!?てめぇ、表にでやがれ!!」

やったぁぁ!!

俺は内心大喜びだ。

仏頂面で大柄な体格もありチンピラ呼ばわりはいつもの事なので全く気にならない。

そんな事よりこれで彼に武道剣技魔法生産のノウハウを叩き込めば俺が生まれてきた意味が成される!

俺はウキウキと彼についていき、表に出た。

「あの、チュー・トリアル様…大丈夫なのでしょうか…?」

共についてきたマスターが心配そうに声をかけてきた。

「大丈夫」

俺は大きく頷く。

「そ、そうでしたか…」

どこかほっとした顔を見せるマスター。

普段は能面だから珍しい。

「全力でいくから」

「ひえっ!?ちょ、医者!?いや、葬儀屋を呼ぶか!?」

大慌てで店の奥に入っていった。

何故に?

「おい!よくも俺の鎧を汚してくれたな!?

今ならクリーニング代だけで許してやるぞ!」

十メートル程度の間を空けて俺達は向き合う。

ひゅーっと風が一陣吹いて枯葉が一枚右から左へと移動する。

そんな中彼はビシッと俺を指さし糾弾する。

その仕草が俺が勝手に思い描いていた主人公像そのもので思わず見惚れてしまう。

だが俺は自分の役目を忘れてはいない。

首を横に振る。

「そうか…ならば仕方ない!俺の拳を受ければいい!」

言って彼は拳を握ると間合いを詰めて鋭い一撃を繰り出した!

バシッと俺はその拳を片手で受ける。

痛みは全くと言っていいほどなかった。

だが、俺のチュートリアルキャラとしてのスイッチを入れるには充分な一撃だった!!

「何!?」

「そ…」

焦る彼は拳を引こうとするも俺はその手を離さない。

「そんな拳で魔王と戦えるかぁぁぁ!!」

「!?」

俺はかっと目を見開き主人公を腹の底から叱咤すると空いていた手を握り込み主人公の鳩尾に一発!

「ぐはっ!?」

彼の体はくの字に曲がり口から唾きを吐き出した。

俺は彼の拳を離す。

主人公は俺の足元に蹲りもがくのみで立ち上がる気配がない!

こら!倒れてたらチュートリアル出来ないだろう!?

「そんなんで魔王に勝てると思ってるのかぁ!」

俺は堪らず蹴りを放つ!

易々と彼の体は空を飛び十数メートル先まで飛ばされる。

「あ…あっ…!」

「ほら!立て!貴様は主人公だろ!?

ここで立てぬなら魔王が世界を征服してゲームオーバーになるぞ!」

「は…いや…!」

「立てぬなら立たせてくれるわ!」

「ちょ…」

俺は彼の元まで走るとむずっと彼の頭を掴み立たせる。

今にも倒れそうな彼をそのまま支えてやる。

「いいか!よく見ろ!拳とはこう…放つ時に捻りを加えるのだ!

そうする事で会心の一撃が生まれやすくなる!」

「か…」

「これが会心の一撃だぁ!」

よく見ろという気持ちで彼の顔面に会心の一撃を叩き込む!

再び彼は宙を舞った。

どさっと地面に落ちた彼はまるで逃げるかのように匍匐前進を始める。

「こら!どこに行く!!」

俺はかつかつと彼の元に歩み寄ると片足で彼の頭を踏み抜いた。

「あ…あ…」

「何か言いたい事があるならはっきりと言え!」

「ず……ずみまぜんでじた…」

「……?」

何故か謝られた。

謝られた理由を少し考え……あ。

俺は満面の笑みを浮かべ胸を叩く。

「大丈夫だ!俺はお前を一人前の戦士にする為にいるのだ!

多少出来が悪くてもしっっっかり面倒を見るから安心しろ!!!」

「ひぃ…!?」

「さあ!立て!そもそもお前は拳の握りからして甘い!

そんな拳では魔王の腹に重い一発を叩き込めないぞ!」

「ひ…勘弁して…!」

「何っ!?拳のチュートリアルはもういいとでも思ってるのか!?

甘い!!貴様は甘いぞ!

貴様の最終的な敵はあの魔王だ!

俺などより遥か強敵!お前が勝たねば世界が終わるのだぞ!

単なるチュートリアルだと思ってスキップしてみろ!すぐに詰むぞ!しっかり学べ!

いいか!!?これが拳の連打撃だ!」

「ふべべべべべ!?」

魔王に勝つなら千発の拳を1秒で打てねばと思い俺は彼にしっかり見せるべく全力で放った!

主人公は再び宙を舞う。

そしてそのまま動かなくなった。

「…おい!どうした!?寝るな!

まだ蹴りと剣技と魔法と生産のチュートリアルが終わってないぞ!!?」

俺は彼の胸倉を掴みガクガクと揺するもピクリとも動かない。

「チューさん!」

そこに酒場のマスターが医者と共に現れた。

「もう勘弁してあげてください!」

「何!?」

「これ以上は死んじゃいます!」

マスターが泣きながら言うので改めて彼を見た。

うん、控えめに言って瀕死だ。

「そうか…」

俺は彼から手を離した。

「わかってくださいましたか…」

「一先ず死んで蘇生魔法を学びたいというその心意気!誠に天晴れ!!

よし、このチュー・トリアル!!全力でお前をころ…」

「「しちゃダメーーー!」」

酒場のマスターと医者が俺に縋り付いてきた。

解せぬ。

俺は彼らの土下座を見て首を傾げるのだった。




あれから3日。

僕は病院のベッドで目を覚ました。

僕の名前はジョージ。

この国の端っこにある田舎町から冒険者として一旗揚げようと王都までやってきた。

王都についてアルバイトで稼いだお金をつぎ込んでやっと買えた革鎧。

これを着て早速冒険者としての人生を始めようと一人門出を祝うため酒場を訪れたら、奴と出会った。

奴は一言で言ってチンピラのような風貌。

ガンつけられているのかと思いちょっと威嚇したらすぐに目を逸らされたので、気に留める必要もない雑魚と思って視線を逸らした。

だが、このチンピラ、俺の新しい鎧を何故かコップに満たされていたミルクで汚しやがった。

クリーニング代を要求するも断られたので、俺も短気な性格だからキレてしまい、表に出ろとか言ってしまった。

こうみえて田舎じゃ負け無し、こんなチンピラ軽くのしてやると思った。

なのに。

結果は……

う、頭が痛い…!

本能が思い出す事を拒否している…!

あの場を取りなしてくれたのは酒場のマスターだった。

命の恩人である。

足を向けて眠れない。

そしてマスターは目を覚ました俺を見舞いに来てくれた。

そこで知った驚愕の事実。


彼の名前はチュー・トリアル。

その名を知らぬ者はこの国…いや、世界においている筈がない。


曰く。

百の武道家から免許皆伝を得た武道の天才。

曰く。

僅か15歳で10万の騎士の頂点たる騎士団団長の地位についた国が認める剣聖。

曰く。

世界一の魔導師と言わしめる魔導師にその身一つで弟子入りし、魔導の深淵を極めし者の称号を得た。

そんな彼が生み出す火炎は山より巨大な竜すら焼き払うらしい。

曰く。

偏屈で排他的なドワーフの国に行き彼らから生産の色はを叩き込まれ、帰国し自ら立ち上げた工房で作った武器が『神器』と鑑定される程の鍛治の腕を誇る。



「改めて彼の逸話を聞くと人間なのか怪しいですね…」

そんな人間に知らぬとはいえ喧嘩を売ってしまった事に打ちひしがれる。

「人間なのだよ、信じられない事にね」

「…もしや彼こそが神の加護を得た…!」

僕の言葉にしかしマスターは首を横に振る。

彼は神の加護を持たぬ者。

既に王家が確認したらしくそれは覆らない。

つまり、彼は神の手助けなくその領域に到達した者で。

「彼は天才ではない。彼は努力家なのだ」

「そんな…そんな人間がいるなんて…!」

「信じられないだろう?」

「全く。」

「だが、もっと信じられない事もある」

「え?これ以上何が?」

その言葉にそっとマスターは目を伏せた。

そして一言頑張れと呟き病室から出て行ってしまった。


それが何を意味するか、理解したのは退院の時。


「さあ!チュートリアルの再開だ!」

「ひぇぇぇ!?」

俺は看護婦さんから貰った花束を落とした。

まるでそれを合図としたかのように、チンピラにしかみえないその天才的努力家、通称万能鬼神チュー・トリアルが眼前に迫り。

放たれた拳が俺を宙に舞わした。


神様、俺が一体何したんですか?


「どうした!?この程度で参っていては魔王は倒せぬぞ!?」


どうしてこの人は俺が魔王を倒すなんて思っているのだろうか?

俺は単なる田舎者なのに……!


俺は知らない。

この鬼神から逃げる事が出来ず、マジで魔王を倒しに行く羽目になることを。


そしてこの男の方が魔王よりよっぽど恐ろしく強いということを。


俺は知らないのだった。


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― 新着の感想 ―
[一言] これぞ「真のラスボス」感…
[一言] さやか様の作品大好きです。 新作が読めて幸せ。 他の作品(二足のわらじとかデッドエンドとか)の 更新も待ってます! これからも頑張ってくださいね。
[良い点] テンポ良くさくさく読めて面白かったです! 確かに主人公にチュートリアルしてくれるキャラって、その時点で主人公よりよっぽど強いってことだし、よっぽど勇者に近いですよねw [気になる点] ジョ…
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