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シンデレラにはならない  作者: 黒川 冬華
1章 旅立ち
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プロローグ

初投稿です。何卒よろしくお願いいたします。

 授業が終わり、教授であるルミエラ・マルーケルは自らに与えられている部屋に戻ってきた。その部屋は、本がきちんと並べられている本棚と、上に何も載っていない机くらいしか無い。物が必要最低限しかない、殺風景な部屋だ。


 我らフレアリスタ王国には、最高教育機関である学園が存在する。昔は貴族の子女が泊付の為に通っていた学園だが、今は優秀であれば平民でも通うことができる。ルミエラの生徒の中にも平民の者がいる。


 彼女が教えるのは歴史。今日の授業でちょうど、王国暦1000年代に入ったところだった。


 この世界で唯一精霊王がその建国に関わった国、フレアリスタ王国。その生い立ち故なのか、争いらしい争いも起きぬ平和な国である。


 しかし一度だけ、彼の国が戦乱の渦に巻き込まれた時があった。


 それが、王国暦1000年代。暗君と後世に残る者、そしてそれに成り代わり新たな歴史を紡いだ、偉人と伝えられている者たち。歴史書の記述も、この時代に限っては他よりも多くなる。成し遂げた事に優劣をつけるとするならば、この時代の者たちの名前を歴史家は挙げるだろう。


 その中でも、ルミエラの好きな人物がいる。それは、アリア・メル・マルーケル。元は平民の出自でありながらも、法の指者の右腕にまで上り詰めた才媛。その苗字が示す通り、ルミエラはアリアの子孫である。

 聞けば、彼女はこの学園に首席で入学したんだとか。当時はまだ、平民が随分と下に見られていた時代。しかも女性の地位もあまり良くなかったのだから、きっと苦労した事だろう。ルミエラは、そんな中でも輝いていたアリアを誇りに思う。


 上着を脱いでハンガーにかけて、ルミエラはコーヒーを淹れた。


 椅子に座り、コーヒーの香りを吸い込んで、ルミエラは目を閉じた。脳裏に浮かぶのは、屋敷に掛かるアリアの肖像画。


 シンプルながらも、安っぽくは見えない小綺麗なドレスを着て、男性の隣で微笑んでいる。


 元は平民だったことが信じられないくらい、上品さと美しさが際立つ。けれども、親しみやすさや優しさも感じられる様な、柔らかい笑顔である。


 そして、始めて彼女を見た者は、きっとその髪に目が行くだろう。


 どんなドレスやアクセサリーよりも光り輝く、金色の髪。きっと、誰よりも艶やかで、周りの人を魅了したのだろう。


 昔から、金色の髪を持つ者が歴史の節々で現れた。表舞台に登場した時、彼等は必ずその有り余る才能を発揮した。時の王と指者を支え、この王国を更に繁栄させた。彼女もそんな人物の一人である。


 ルミエラは目を開いてコーヒーを一口含む。机の引き出しから、大事そうに一冊の本を取り出した。


 表紙をするりとひと撫でしたら、丁寧そうにその本を開いた。中は、女性の流暢な字で書かれた日記帳の様だった。最初のページには、こう書かれている。


 今日から、日記帳をつけ始めようと思う。十六歳の夏、色々なことがあった。これからの毎日を記録するのはもちろんだけれど、折を見て今までの事も。特に、今年の春からのことは。わたしのことだけではなくて、周りの人のことも。まずは、彼が訪ねてきたあの日からだろうか──


 ルミエラは、じっくりとページをめくって行く。コーヒーの香り、古い紙の匂い、秒針の音……そんな穏やかな時間の中で──

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