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第五話 精霊の怒り

 痩せた木々が立ち並ぶ森の中を十㎞ほど歩いた。

 妙な霧が出てきた。木々も太いものが見えた。


 セオがちょいとばかし怖い顔で立ち止まる

「着いた。ここが精霊の住処だよ」


 霧が出ている以外は普通の森に見えた。

「いたって普通の森に見えるね」


「精霊の力に隠されているからね。でも、今は違う」

 精霊が入れてくれたのなら、話し合いに応じる気があるのかな。


 ステは叫んだ。

「おーい、精霊さん、話をしよう。出て来ておくれ」


 セオはステの行為に面食らった

「いきなり呼び掛けるのかい?」


「だって、出てきてくれないことには話にならないだろう」

 森の木がざわめく。風が逆巻き半透明な人間になった。


「我を呼ぶのは何者だ?」

 ステは率直に切り出した。


「俺はステ、こっちはセオ。この森にある木と鉄を譲ってほしい」

 精霊は怒っていた。


「後から来て森を枯らし、大地を汚した人間が何をほざく」

 セオが実情を精霊に告げる。


「村の人間は鉄を欲しています。この下には褐鉄鉱の鉱床がある。また、精霊さんが隠してきた森の木々も、わずかだがある。人間は両方を欲しがっています」


 精霊は怒りの顔で、要求を突っ撥ねた。

「勝手なことをばざくな。世界は人間のためにあるわけではない」


 ステも精霊の言い分は理解していた。だが、ここで簡単に引き下がるわけにはいかない。

「でも、このままでは衝突します。どうにかどけてもらうわけには、いきませんか?」


 精霊は頑くなな態度で、ステの要求を拒絶した。

「駄目だ、駄目だ。この土地は渡さぬ。どうしても欲しいなら、力づくで奪ってみろ」


 セオは困った顔して肩を(すく)める。

「ほら、だから交渉にならないって主張したんだ」


「よし、とりあえず探そう」

 セオはステの言葉を理解できないようだった。


「何を探すんだい?」


「ここより、もっと条件が良いくて、住みやすい場所さ。そう、精霊さんが移動したくなる、良い土地だよ」


 セオは暗い顔で首を横に振る。


「結局どこに行っても同じだよ。人は今後も増え続ける。どこに行っても、人間がやって来るんだ。精霊と人間はぶつかる」


 セオの諦めの早さにステは苛立った。

「そんなの、探してみないと、わからないだろう」


「僕には見えるね、人と精霊がぶつかる未来が」

「じゃあ、精霊がいなくて、鉄がいっぱいある土地を探して、人間を移動させよう」


「無理だね。人間はあらかたここら辺の鉄を掘り尽くした。付近にある鉱床はここが最後だ。あとはもっと遠い場所だ」


 セオの言葉にステは驚いた。

「それじゃ、ここを掘りつくしたら村は終わりだろう」


 ステは冷たい顔で断言した。


「精霊と戦いに勝って鉄を掘っても、精々十二ヵ月か十五ヵ月しか鉄は保たない。でも、村の行く末を決めるのは、僕たちの仕事じゃない」


 このままじゃ、まずいぞ。精霊も人も不幸になる。

 ステは考える。


「海がないから漁業は駄目。土地が痩せているから農業も駄目。鉱業も先行きが暗い。観光資源もない。もう、人間には先がないぞ」


 精霊が厳しい表情で冷たく言い放つ。

「ならば、やはりこの土地は渡せぬな。先がないなら、人間が村を捨ててこの地より去るがいい」


「思いついた。精霊さんがい、転移門があるなら、転移門を低コストで運用できないかな?」

 精霊の表情は明るくない。だが、ステの問いには答えてくれた。


「我が地脈を流れる魔力の動きを変えてやれば、今よりは低コストで転移門を使えるようになるだろう」


「移動コストが安いのなら、オリーブの街から要らなくなった鉄製品を安く買う。ケトル村に運んで、再生して売ってはどうだろうか」


 セオはちょっぴり考える仕草をした

「オリーブの街の廃品回収業者がいくらで鉄を回収してくるかによるな」


 ステは希望が見えたので提案した。

「調べてみないか? 古鉄の値段」


「調べるのはいい。だけど、転移門の使用料金を考えると、再生した鉄でも割高だと思うよ」

「まずは数字を調べてからだ。よし、また、来るよ、精霊さん」


 精霊はむっとした顔で追い払った。

「なるべくならもう来るな」


 セオとステは転移門を使い、オリーブの街に行く。

 ステはセオに頼んだ。


「セオは鉄の値段を調べてくれ。俺はパインの値段を調べる。パインなら、痩せた土地で育つと父さんに聞いた」


「パイン? 聞いた覚えのない作物だな。まあ、いいさ、二人で同じものを調べてもしかたない。夕方にまた転移門広場で落ち合おう」


 ステは市場でパインを探す。だが、パインは市場に出回っていなかった。

 よし、市場に出回わっていない。これなら、もの珍しさも手伝って、高値で売れる。


 ステは時間があったので、転移門からピオネ村に飛んだ。

 家に帰ると、オンジがいた。オンジは機嫌よくステを迎える。


「おや、お帰り、ステ。何か忘れ物か?」

「前に父さんが食べさせてくれたパイン。あれの種が欲しいんだ。何も産業がない村を救いたい」


 オンジは軽い調子で承諾してくれた。


「パインの種はダンジョン産や。せやから、本来ならステがダンジョンから取ってこなくちゃならん。でも、急いでおるようやからパインの種をやるわ」


 パインの種はダンジョンから出るんだ。ケトル村の仕事が終わったら、取りに行くか。


「わかった。今の仕事が終わったら、きちんとダンジョンに行って、パインの種を取ってきて返すよ」


 オンジは納屋に行くと、種が入った十㎏の袋を持ってきた。

「これに、パインの種が入っておる。あと、これ育て方の本や。これを、サービスで付けたる」


「ありがとう。父さん」

 オリーブの街に戻ると、セオが待っていた。


「古鉄の価格を調べた。古い鉄製品を熔かして再利用して売る事業は難しい。転移門を使って売るとなると、微妙だ。パインはどうだった?」


「果物はまだ出回っていない。だから高値で売れそうだ。ある程度の数ができたら、酒にして売れば競争相手がいないから売れる」


 暗かったセオの表情が明るくなる。

「よし、ポワロさんと交渉してみよう」


 屋敷に行き、ポワロと話す。


「鉱床のある土地を手に入れようとなると、精霊との戦闘になります。戦闘となれば、こちらも死者を出すでしょう」


 ポワロはむっとした顔で批難した。

「それで、おめおめと逃げ帰ってきたのですか?」


「代替案を持ってきました。鉄製品の再利用事業とパインの栽培です」

 セオが調べてきた鉄の価格と転移門の使用料金を纏めたメモを渡す。


 ポワロはメモを見る。だが、ポワロの態度は冷たかった。


「鉄の再利用事業は既に検討しましたが無理です。転移門を使えば採算が取れず、使わなければ、納期を守れない」


「精霊が協力してくれれば、オリーブの街に向けた転移門の使用魔力を抑えられます。使用魔力が少なくて済めば、コストも下がります」


 ポワロの表情は渋い。

「微妙なところだと思いますよ。それで、パインとは何ですか?」


「痩せた土地でも育つ作物です。葡萄と違ってまだ珍しい果物です。パインを栽培して酒に加工して輸出すれば、今なら金になります」


 ポワロが表情も硬く尋ねる。

「そんな、珍しい果物の種をどこから持ってきました?」


「実家の父に頼んで、分けてもらいました」

 ポワロは考える。


「なるほど、鉄の再利用事業と珍しい果物の栽培。一つの事業が危なくても、二つの事業があるなら、村は生き残れるかもしれませんね。領主様に掛け合ってみましょう」


 ポワロが部屋から出て行ったので、安堵した。

「これで、精霊との無駄な争いは避けられるな」


 セオは柔らかい表情で褒めた。

「ステは凄いね。村の滅亡を回避した」


「そんなことないよ。俺が気付かなくても、誰かが気付いたさ」


「ステはまだ気付いていない。今日の成果はとても大きなものだよ。ステには未来を変える力があるみたいだ」


 セオはオーバーだな。

「そんなに(おだ)てても何も出ないよ」


 翌日、朝食の後にポワロに呼ばれる。


「領主様はセオとステの意見を前向きに考えてくださる、との返事です。ついては精霊に協力を要請してください。精霊が協力してくれるなら、土地に手を出しません」


 精霊に会いに行くと、精霊はすぐに現れた。


「鉄の再生事業とパインの栽培で村は救われそうです。それで、一つ、協力をお願いします。転移門に使用する魔力量が減るように、地脈を調整してくれませんか?」


 精霊は腕組みして、難しい顔をする。


「簡単に言ってくれるな。だが、お前たちの努力は認めよう。ならば、地脈を変えてやるから、精霊石を持ってこい」


 セオは精霊の言葉に驚いた。

「精霊石だって? あれは、ダンジョンに行かなきゃないぞ」


 ステはそれほど難しい依頼だと思わなかったので引き受けた。

「いいよ。なら、取ってきます」


 セオは慌てて止める。


「待つんだ、ステ。精霊石は六大ダンジョンにしか出現しない希少な石だ。安請け合いすると、大変だぞ」


「大丈夫よ。俺の家の近くに六大ダンジョンの一つがあるんだ。パインの種もダンジョンから出るからついでに取ってくるよ」

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