第12話 遅刻者
どうしようもないほどに深く暗い世界……。
ここはどこ……?
声が……出ない?
いいや、音がないんだ。
今、私が立っているこの場所には音も……光も……時間も……何もかもがない。
そんな場所に立っている私も実は……。
実在しなかったりしてね。
×××
学園のコンピューター室、もう誰もいない時間、1台のパソコンのみ電源が切られていない。
そして、そこに浮かびあがるのだ。
ノイズ音を撒き散らしながら、ぐらつく画面に映るのは……。
『part1……嵐の中の魔女』
ただ、それだけだった。
×××
「それでは、ゴードン氏の裁判を行う。」
あの後、ゴードンが目を覚ますなり、あれだけの騒ぎを起こしたのだから当然ではあるが。
こうやって裁判の場へと連行された。
「その者は土の魔皇に目覚めたのであろう?ならば、貴殿如きが裁く事など出来るのか?」
「お言葉ですが、水属性の魔皇"シャムス様"。この者は魔皇になったとはいえ、問題を起こしたのは魔皇になる前。わたくしめが裁くのも可能かと。」
「そういう意味でもあるが、私が言っているのに力の面だ。魔力を封じるそれをしたとはいえ、魔神装は出来る。万が一、死刑にでもするのであれば私が手を下そうか?と、提案してやっているのだ。」
「そ、それはお願い致します。ありがたきお気遣い。」
兜の両側側部から角を生やした、青い鎧を身に付けている偉そうな男。
隣の国の騎士長をしている、水属性の魔皇。
名前はシャムス・グロゥデン。
騎士としての実力はもちろん、魔力の方も実力は本物で、噂では1体1でなら無敗だとか。
それと多分、あの格好は魔神装だろう。
理由としては、グレンも魔神装をしてこの場にいる事と言いたいとこだが。
何よりも俺も魔皇として立たされている。
この意味がわかるものもいるだろうが、わからない者のために説明しよう。
この裁判所には現在数百人の人間がいる。
もちろん、偉い人も何人か。
そんな中で全身タイツのような格好をした俺が、魔皇として罪人となっているゴードンを囲うように、立っているのだ。
なんの公開処刑だ。
「あ、あっちの鎧の裁判なのか。てっきりあの変態かと……。」
と、いう声も聞き飽きるくらいに聞いた。
今この場には、魔神装をしたグレン、シャムス、そして雷属性の魔皇リスタスク・スウェン、土属性の魔皇カシル・ステレテス。
そして、全身タイツの俺だ。
場違いすぎるだろう俺。
「同じ属性の魔皇としては庇ってやりたいけどな〜。地区一つが更地になる程ってのは流石に庇いきれないわ。」
「我としては、どうでも、良い。その男が死のうと死なのうと、無関係。」
いや、あの場所を更地にしたのはゴードンじゃなく魔女だ。
俺の家を……俺とフゥの家を更地にしたのは魔女なんだ。
それで改めて考えてみると俺は写真が1枚もなかったし、思い出の品なんてない。
フゥは母親との写真が何枚か、父親の写真は1枚もなくて不自然だが、何かあったんだろう。
それに歳を重ねるごとにフゥが母親と瓜二つになっていくのがわかる。
「おいおい待てよ。あの辺更地にしやがったのは魔女だ。そのくれぇの情報も聞いてねぇのか?」
「……ッ!小童が……。」
「ああ?今なんか言ったか?今てめぇを死刑にしてやってもいいんだぞ?」
グレンやめて、これ以上俺らへの評価が下がるような行動は慎んでくれ!
「ま、まあ。グレンの言い方は悪いんだが、そうです。実際に俺も魔女を目撃しています。」
場がしらける……そりゃそうですよね、いきなり全身タイツが喋ったらそうなりますよね。
帰りたい……っ!!!
「だが、彼が戦闘を始めた理由は魔女との契約のため、と聞いているが?それは充分な反逆行為、死罪に値するだろう?」
流石シャムス……痛い所を突いてくる。
確かにあれは間違いなく反逆行為だ。
現にグレンとも本気で殺り合うような勢いだったわけだしな。
「異論はないようですが?カルデ氏、何がございますか?」
「い、いえ……。」
返す言葉がない。
ここで放つ言葉なんか既に無意味なものばかりだろう。
「それではゴードン氏を死────」
「その判決ちょーっと待ってくれ!」
裁判所の扉を勢いよく開け、緑色の枠取りされた、白銀の鎧を纏う男が現れる。
風属性の魔皇ペルディ王子……。
「魔女が突如2人も現れ、更に俺の部下が3人目と思われる魔女を目撃しています。そんな状況で魔皇を失うのは痛手だと思うんすよねー。そこで!俺の管理下に置くってのはどうだろう、と提案させていただきます!」
「ゴードン氏を、ペルディ王子の管理下の置く……?」
「ああ!彼の魔神装についても少し調べましたが、魔力の消費をなく土を操る。操ると言っても自分の仮の体として、という形ではありますが、ここで失うには余りにも勿体ない。なので俺の管理下に置き、彼を立派な魔皇へと変えよう!」
「むむ……、異論のある者は?」
「いるわけないさ!」
ペルディ王子は自信満々に言い、自分の胸部に手を当て続ける。
「だってこの場に俺に勝てる奴がいないんだから!」
そう、彼は魔皇の中でも最強に最も近いだろう。