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第二章



 第二章




 意識してしまったらもうどうしようもない。


 自分でも顔の熱が上昇しているのが分かるほど、多分今自分は酷い顔をしているだろう。


「……マジ、かよ……」


 女は煩くて重くて面倒で、ただヤれるだけで深い関係になる気はなくて、今までそうやって来た。もちろん最低なのもよく分かっている。


「どうすりゃいいんだよ……」


 いつも通りの屋上で頭を抱える冬夜の耳に、扉の開く鈍い音が聞こえる。


「おおー、悩んでるねぇ少年」


 心底楽しそうに言いながら近付いてくる友人を恨めしそうに見ながら、投げられた飲料水を受け取る。


「いいねぇ、初恋かぁ……お前も成長したんだな……」


 涙を拭う真似をしている樹の頭を軽く叩き、飲料を喉に流し込む。


「で? 言わねぇの?」


「何をだよ」


「好きだって」


「っごふっ!」


「きったねぇなぁ……。好きなんだったら言えばいいんじゃん?」


 男は即行動な樹は、恋愛に関してもそうらしい。しかし、自分は恋愛に関しては何もかも初心者なので、どうするべきなのか分かりかねていた。しかも相手は真面目で何の汚れもないであろう相手なのだから、余計に悩んでいるのである。


「委員長、俺には綺麗過ぎるんだよなぁ……」


「確かに穢れなき存在って感じだもんなあの子。でもさ、よく見たら小さいし可愛いよな」


 樹の言葉に冬夜の眉がピクリと動く。


「んな怖い顔すんなって。でもお前もそう思ったんだろ?」


 小動物みたいに小さくて、大きな目が特徴的な可愛らしい顔で微笑む姿を思い出し、鼓動が早くなる。


「俺が触ったら、壊れちまいそうだな……」


 自分の手を見ながら、大きくて重いため息を吐いた。


 好きになるまでそう時間はかからなかったように思う。ぶつかってから何度も悠の姿を探し、目で追い、何度も彼女の姿を見てきた。


 ちょこちょこと走り回る小さな身体。その度に揺れる綺麗な黒髪。たまに見るドジな姿も、楽しそうに笑う姿も、今は何もかもが愛おしく思う。


「向こうは確実にウブで真面目で穢れがなくて。お前は……ねぇ?」


「皆まで言うな、落ち込む……」


 もう一度大きく重たいため息を吐き、大の字になって寝転んだ。


 考えれば考えるほど、いい事が何もない気がしてくる。しかし、このままでいいわけはない。


「どうするべきなんだろうな……」


 口から出る言葉はほとんど同じ言葉ばかり。樹は初めてここまで悩む友人の姿に苦笑しながら、空を仰いだ。







 相談を受けてからも、時折冬夜が気にかかる悠だったが、それと同時に、最近やたらと冬夜からの視線に戸惑ってもいた。


 恋心を含んだそれとは違う、何か申し訳なさそうな少し苦しそうな表情を浮かべている時すらあった。それが一体なんなのか、全く分からないが、物凄く気になっている自分もいたのだ。


 冬夜と全く話さないわけではなく、どちらかと言えば話す方ではあるが、だからと言って、自分から聞きに行く勇気はない。影ながら心配し、日々過ごしていた。


「ねぇ、ちょっといい?」


 本に向けていた視線を声のする方へと向ける。


 そこにいたのは、必ずといっていいほど冬夜の側にいる、悠が冬夜とぶつかった時にもいた女生徒と、その友人であろう女生徒二人の姿があった。いつものようにふわりと巻いた髪が揺れる。


「話したいんだけど」


 冬夜の前で出すような甘い声とは似ても似つかない低めの声で言われ、悠は少し身構えたが、すぐに立ち上がって後について教室を出た。


「ん? おい、冬夜。あれってゆりと委員長じゃね?」


 廊下を歩いていた冬夜は、隣の樹の言葉に視線をそちらに向けると、確かにそこには巻き毛のゆりと呼ばれた少女と後二人の女子、そして悠の姿が映る。


 仲良しという雰囲気ではないのは誰の目からも明らかだった。


「まさかの呼び出し系?」


 言葉とは裏腹な緊張感のある樹の声に、冬夜の身体は自然とそれを追っていた。


 が、それを樹が静止した。


「ちょっとタンマ。多分お前だけ行くともっとややこしくなる気がするわ。俺も行くわ」


 言って樹が先に立ち、足早に追いかけた。


 好きだと自覚し、散々考えて、未だに悩んでいて、何も始まってすらいないのに、何故こうもややこしく事が進むのか。


 やはりどこまでも女は面倒だと改めて思った冬夜だった。


 







                                         続

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