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第一章



 第一章




 教室でぶつかってから、どうしても悠の事が目に入る。どこにいても彼女の事が気になってしまう。


 冬夜はこの理由がどう考えても分からなかった。


 誰に言うわけでもなく、冬夜は一人で悩んでいるようで、時折眉間に皺を寄せていた。


「冬夜、また皺寄ってんぞ。何かあんなら俺様が聞くよん?」


 屋上で寝転びながら眉間に皺を寄せる冬夜に、中学の頃からの友人、喜佐樹がからかうような顔でにやりと笑った。


「お前さ、今まで特になんとも思ってなかった子が、何でか突然気になりだすってどういう事か分かるか?」


「ぶっ!!!」


 口に入れたジュースを吹いた樹を、明らかに嫌そうな顔で見る冬夜。


「おまっ……相手誰よっ!? ゆりかっ!?」


「めっちゃ食いついてくるなお前。違ぇよ」


 身体を起こして座りなおし、空を見上げる冬夜の正面に移動して座り、明らかな興味を全身で醸し出してニヤニヤしている。


「お前がそんなん言うの珍しいじゃん。女は面倒くせぇとか、ヤれりゃいいとか言ってた奴がねぇ……ふーん……」


「んだよ……しゃーねーだろ、目に入ってくんだから。俺だって意味分かんねぇし……」


 未だによく分かっていない事が面白いらしく、樹はまだニヤニヤしている。それが面白くないのか、冬夜はまたも眉間に皺を寄せた。


「大人になったんだね、冬夜ちゃん」


「うっせぇよ。で、どうなんだよ」


「まぁ、これは自分で気付かなきゃ意味ねぇからなぁ。頑張って悩みなさいな、青少年」


 そう言って立ち上がり、樹は後ろ手を振りながら去って行った。


 残された冬夜は、意味の分からないモヤモヤにまた皺を寄せたのだった。








 図書室は静寂に包まれ、グラウンドで騒ぐ生徒達の声だけが微かに響いていた。


 本棚の間に立ち、本を選びながら悠はふと視線を感じてそちらに顔を向ける。


 机に頬杖をついてこちらをじっと凝視している視線とぶつかる。


「桜、君?」


 物凄く見られている。


 元々切れ長で鋭い目つきなので、少し不安になる悠。


 ここのところよく目が合うとは思っていたが、ここまで露骨なのは初めてで、悠はどうしていいか分からず、戸惑ってしまう。


「なぁ、委員長。俺さ、わかんない事あるんだけど」


 質問され、怒らせていない事に少しほっとする。怒らせた理由も見当たらないのだが。


「何? 勉強? 少しなら教えてあげられるかも……」


 そう言いながら冬夜に近付く足取りは軽い。冬夜の目の前の席に腰を下ろす。


「いや、勉強じゃなくてさ」


 勉強以外で自分が教えられる事があるのか。悠にはそれが分からず、小首をかしげる。


 二つに束ねられている髪がサラリと肩を流れた。それに目が行き、冬夜は無意識に触れていた。


「髪、綺麗だな。何かやってんの?」


「え? う、ううん、特には……」


 質問された後すぐに髪を遊ばれた事に身体が自然と緊張する。男に自分の部分を触られるのは、父親以外で初めての事で、どうしていいやら分からずなすがままになっていたが、ふと先ほどの質問が気になった。


「そ、そうだ、し、質問……何かな?」


 髪は触られたままだが、居心地はそこまでよくないものの、不思議と嫌な気持ちにはならない。


「……委員長はさ、今まで気にならなかったのに、突然気になりだした奴が出来るって、どういう事だと思う? 何でか目に入ってくんだ」


 まさか冬夜の口からそんな質問が出て来るとは夢にも思わなかったので、一瞬目を丸くしたが、真面目な性分な悠は、すぐに真面目に考え込んでしまう。


「えっと……あんまり私もそういう事に詳しいわけじゃない、から、そんなに参考にはならないと思うけど……」


 控え目に言葉を選びながら少しずつ話す悠の姿を見つめながら、冬夜はなにやら考えているようだった。その間も、悠の髪で遊ぶ事は忘れない。


「その人の事……好き、に、なってきてるんじゃ、ないかなって、思うんだけど……多分……」


 言われた言葉に一瞬遊んでいた髪を離しそうになったが、寸前で阻止した。


「その人の事知りたいから、気になって、探して、目で追うんだと思う……」


 またも多分と付け加え、苦笑する悠。言われた言葉にただただ放心する冬夜。


「……えっと……桜君、大丈夫?」


 心底心配そうに言う悠だったが、突然冬夜は立ち上がる。


「桜君?」


「悪ぃ、委員長……俺行くわ」


 言うが早いか、冬夜は足早に図書室を出て行った。取り残された悠は不思議そうにしていたものの、クスリと小さく笑った。










                                          続

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