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プロローグ

 プロローグ




 明るい赤の髪が目立つのは、他の色が皆地味だからである。


 しかし、目立つのはそれだけではない。両耳に光る複数の銀色のピアス。着崩された制服などなど、色々と要素はあった。


「おっす、冬夜」


「おお、はよ」


 挨拶に軽く返した少年、桜冬夜は眠そうに大きな欠伸をした。彼に目立っているという意識はないようだ。慣れているだけかもしれないが。


 左手をズボンのポケットに入れ、右手で頭を掻きながら靴箱へ向かう。


 いつもと同じ朝。しかし、その日は何かがいつもと違っていた。


「おはよー冬夜」


「冬夜君、おはよー」


 ほんの一部ではあるが、男女さまざまな生徒から声をかけられ、冬夜は眠そうではあるものの、ちゃんと全てに返事を返す。


 上靴の踵を踏み崩して履き、足を擦りながら歩きまた一つ大きな欠伸をした。


「こらっ! 桜君。上靴をちゃんと履きなさいっ! 髪もいい加減ちゃんと黒くしてきなさいっ!」


 廊下を歩く冬夜に、教師であろう女性が声を掛ける。しかし、当の本人はぼーっとしながら「はよーざいまーす」と軽く口を開いた。


「毎日ご苦労様ですねー。だからこれ地毛だって」


 軽く手を振り、教師の横をすんなりと通り過ぎる。背中にかかる声など気にも留めていない。


 開いている扉から教室へ入ろうと片足を踏み入れた瞬間、同時に胸の辺りに何かが当たる。


「わふっ……」


「ん?」


 違和感にそちらへ視線を向けると、鼻を押さえて立ち止まる小さな存在に目が留まる。


 冬夜はその存在を知っている。同じクラスにいるのだから当たり前である。


「ご、ごめんなさい……」


 鮮やかな髪色で全体的に派手な冬夜とは対照的に、背中辺りまである黒髪を後ろに束ね、黒縁眼鏡をかけた、長身の冬夜の胸の辺りくらいまでの背丈の女子生徒だった。


「おっ、委員長、おはよー。今日も真面目そうだねぇ」


 にこりと笑う冬夜を見上げて、委員長と呼ばれた少女、更科悠は鼻をさすりながら少し控えめに微笑んだ。


 どうしたものか。冬夜は未だにその場から動かず、ただ黙って悠をじっと凝視する。


 不思議そうに小首を傾げた悠も、自分を見つめる冬夜を見上げる。見つめあいなのか睨み合いなのか、よく分からないものが繰り広げられている。


「えっ……と……、桜、君?」


「とぉーやぁー」


 女子特有で少し高めの声がし、冬夜の左腕に細く白い腕が回され、香水の香りが鼻をくすぐった。


 ふわりと柔らかく巻かれた茶髪に、薄くではあるが化粧を施された女子らしい可愛らしい顔が冬夜を見上げる。


「何してんの? 入んないの?」


 そう言った後、目の前にいた悠をちらりと横目で一瞥する。


「委員長いたんだ、おはよー」


 現れた女生徒に挨拶を返すが、その返事を聞く事なく女生徒は冬夜にまた視線を戻し、甘い声を出す。


「ねぇねぇ、冬夜ぁ~、早くいこぉ~」


 明らかに敵視されているであろう視線を軽く受け、悠は冬夜の隣をすり抜けて教室を出て行った。


 その姿を目だけで追い、冬夜は女生徒に半分引きずられるように教室へと入って行く。仄かに香水の香りだけを残して。








                                           続

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