作者がテンプレ異世界物を書こうとしたらこの変態が主人公になった件
*注意*
作者にこのような性癖はございません。
6月。休日。ジメジメする梅雨の暗雲はただでさえ何もないこの都市を灰色に染めてやる気を奪う。外に出る気もない俺は家のソファでアイスを食いながらぼやく。
「ああ、嘆かわしい。」
突然だが、この地球上には獣耳をもつ人型生命体は自然界に存在しない。
さらに、獣耳をもつ人型生命体(以後ケモミミ人と訳す)を人工的に作りだすことはカルタヘナ法という法律によって禁止されてる。
つまり、
「俺は現実世界でケモミミ人には会えない!ちくしょう!!」
「バカ兄がまた何かバカな事言ってる。」
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俺は愛染健太郎。18歳の普通の男である。趣味はweb小説とラノベの読書とゲーム。性癖は上の文を読めば分かるだろう。
「性癖ですでにど変態だよバカ兄。」
ちなみに的確かつ辛辣なツッコミをしてるのは俺の妹の美悠。家族思いの優しい妹だが口調が性格に追いついていない。
「ム。今なんか失礼な事考えてだでしょ、バカ兄。」
あと無駄に鋭い。
「彼女が欲しいーなぁーとか考えていた。」
「作ればいいじゃん。前のバレンタインにもらった本命チョコ、たしか宇田川さん? あの人でもいいじゃない。むしろ甘いもの苦手でも手作り本命チョコ捨てるのは失礼だから妹に食べてもらうのってどうよ?もてないどっかのブサ男が聞いたら確実にバカ兄を殺しにくるわよ。」
「誰だその物騒なブサ男は?そしてそのチョコ食うお前もどうなんだ?」
「注目する所がおかしい。話を戻すけど彼女欲しいんだったら作りなさいよ。」
「そうは言うがなぁ。この日本に頭からセクシーなうさ耳がはえてる美少女とか、頭からかわいい猫耳がある美少女とか、普通人耳があるところにキュートなたれてる犬耳がある美少女とかいると思うか?」
「できるじゃない。耳のついてるカチューシャを女の子につけて完璧。」
「ちがーう!それはただの偽物だ!そもそもそれは髪のアクセサリーだから本来の耳にすら注目が行ってない!髪にリボンつけるのと同じ意義だ!」
「いいじゃない。偽物でも。そして耳無くても。」
「よくない。よくない!」
大事な事だから二回言う。
「春香だってブサメンよりイケメンとつき合いたいだろ?それと同じ理屈だよ。」
「宇田川さんはかなりの美人に見えるけど?」
「ケモミミ無くしてどう女を見れば美しいと思えるんだ!?」
「普通に見たら見えるわよ!」
はぁ?
「どこが?」
「顔とか。頭部以外のパーツとか。」
「頭がなかったら人ですらないだろう。」
「だれも頭部を取れと言ってないよ!?」
「でも耳がないと………」
「いくらでも注目するところあるでしょう!?髪型とか性格とか!こう、ボン!キュ!ボン!な所とか!」
「ああ、うさ耳を帽子で隠してたんだけどいきなり帽子が脱げて耳がいきよい良く出てくるシナリオ?あれいいよね!」
「実現可能なシナリオにときめいてよ!もうこの際目でも足でも脇でもいいから二次元から離れて!」
「それこそ無理だろう?いくら俺でも脇下からケモミミが出てきたら引くぞ。」
「ああ、もう無駄な会話だった!……なんでバカ兄はこんな変態になったんだろう。」
「おい。聞こえるぞ。」
「聞こえるように言ったのよ、バカ兄。」
はぁ、とため息をだしながら自分の部屋を目指して歩き出す春香。やっぱり分かってくれん。
俺はケモミミが好きだ。
俺はケモミミが大好きだ。
兎耳が好きだ。猫耳が好きだ。
犬耳が好きだ。狼耳が好きだ。
狐耳が好きだ。鼠耳が好きだ。
虎耳が好きだ。熊耳が好きだ。
狸耳が好きだ。馬耳が好きだ。
ロバ耳が好きだ。鹿耳が好きだ。
羊耳が好きだ。牛耳が好きだ。
猿耳が好きだ。象耳が好きだ。
豚耳が好きだ。とにかくケモミミが好きだ。
小説で、
漫画で、
アニメで、
ゲームで、
童話で、
雑誌で、
映画で、
コスプレで、
同人で、
歌舞伎で、
有りと在らゆるケモミミ文化が好きだ。
しかし現実だけには、ケモミミ人はいない。
この世界に本物のケモミミ人がいないのが本当に悔やしい。そもそも小説やゲームにはまったのも脳内でケモミミ人に合う為である。むなしい。現実世界に来てくれないだろうか。
ブツン!
…………え?ちょ、なんだ?
今視界がテレビのスイッチを切ったように一瞬で暗くなったぞ。
停電?いや、昼だから日食?それとも俺が気絶?
ブツン!
混乱してるうちに視界が明るくなった。
でもおかしい。
俺は家で春香とソファで駄弁っていたはず。
そして俺の家の床は石ではなく木で出来ている。
ついでにうちは二階があり、壁があり、屋根もある。
俺が今見えるのは白い石みたいな何かで作られた四角い床、角に古代ギリシャ系の円柱。天井はなく、清々しい青空と眩しい太陽が見える。壁もない。左右横を見ると雲が見える。相当高いところに居るみたいだ。階段、梯子、安全な出口になりえるものもない。口の中のアイスがより冷えて感じる。
「どこだここ!!?え、俺、誘拐された?海外?え?ええ??」
「まぁ、実質そうですね。」
「え、だれ?そしてどこから声が?」
「おっと、失礼しました。」
3メートル目の前に光の固まりが集まった。くそ眩しい。瞼をおろして目を手で隠しても光が目に突き刺さる。某テンプレネタをやるのをなんとか我慢する。
十秒後、光が収まったのを見て目を開け、手を退ける。
目の前に光があった所に背の高い女性が立っていた。
長いストレートな緑色の髪に、紙のように白い肌。
何故か「降臨!」と書いた黒いTシャツとジーンズを着ている。
顔と体のパーツは形も位置もいい。でも年齢が全く予想できない。母性あふれる笑顔で登場したけど幼く見えるし年上のようにも見える。
俺以外の人間が見たら誰でも美女か美少女と言うだろう。
残念ながらケモミミ人ではないので俺的にはアウトだ。
「……あんた誰だ?っつーかここは?」
「私は人間のいう神の一人。そしてここは次元の狭間にある私の部屋です。」
「へ?」
この人頭大丈夫か?
「愛染健太郎さん、あなたは異世界に召還されました。そして向こうの世界に行かれる前に私が無理矢理あなたをここに呼び寄せました。」
「つまりあれか、異世界召還系小説のテンプレ展開?」
「その認識でだいたいあっています。」
「はぁ...」
だめだ、電波系の人だ。しかも押し付けがましい部類の。
「急に呼び出されてもすぐに決断ができない。家に帰してください。」
「残念ながら愛染さんに決定権はありません。ついでに私を含む神々にも決定権がありません。この召還は向こうの世界の人が行ったものであり、私たちにはあなたをこういう風にとどめる事ができても一時的な行為とでしかありません。あなたの召還をこの世界のだれも望んでいないにも関わらず起こってしまった出来事なのです。諦めてください。」
「………ごめん、頭痛がしてきた。」
これは夢だ。そうに違いない。こんな突拍子もない話とこの未だに笑顔を崩さない中二病女の言う事を信じてたまるか。読み終えてないラノベは部屋に置いたままだし、いつかVR技術のゲームでケモミミ人の耳を堪能する夢も叶ってない。しかも異世界召還は魔王討伐がお約束。ただのケモミミ至上主義者の俺にどうしろと?くそ!さっきから頬を抓っているがやたら痛いだけで一行に夢から覚めない!
「信じたくないのはわかりますが、これは残念ながら現実です。諦めてください。」
えらい辛辣な(自称)女神だなオイ。笑顔で言う台詞か?
「ですが調べたところ、愛染さんには行く価値があるみたいですよ?」
「…………まさか」
「ええ、愛染さんが召還される世界には獣人がい「やったー異世界だ!!!!」」
獣人!と言うことは、ケモミミ!よし、これで耳もふもふが!耳もふもふが!夢でも現実でもいいや。愛しき耳に触れられる!もう寂しい妄想と戯れたり画面の前で手を二次元世界に届かそうとしなくてもいい!!異世界召還バンザイ!ついでに女神だとも信じよう!
「………切り替わりが呆れるほど早いですね。」と、言いつつ笑顔を崩さない女神。
「あ、そういえば調べたってどうやったんすか?」
「神の特権で時空間八次元自由に調べられるのです。方法は人の頭の中をのぞいたり永遠眼で視界を広げたりしてます。愛染さんの名前と性癖もそうやって調べました。」
「はぁ。」良く分からんけどこの女神はすごい。
「それで、女神様はいったいなに教の神?キリスト、南無、八百万、ギリシャ?」
「どちらでもありません。申し遅れました、私は力神。まだ拝められてませんので人間界では名前はありません。一応科学教の神で、神界ではフォースと名乗っています。」と言った後、女神は小さくお辞儀をした。
「ん?科学は宗教じゃないでしょ。」
「科学の基礎は人間の観測したデータです。その観測を人間が正しくできるという傲慢な信念を信者は持ちます。つまり『科学的に証明された』事を無条件で信じる人が科学教の信者です。」
プラトンの洞窟の比喩で影が実体だと思う人みたいなものか。分かりづらいもの言いだな。
「私は科学者が見つけたあらゆる力とそれを信じるものの信念の化身を神格化しちゃった者です。少し難しすぎる話でしたか?」
神格化しちゃった?どゆこと?
「………正直あまり分かりませんでしたけど、まぁいいや。で、力神様はなんでここに俺をひきとどめているんですか?」
「はっきり言って平和ボケしてる武人でもない現代日本人がそのまま異世界で奮闘しても犬死にするだけです。」
笑顔できつい事いいだすな。もしかしなくてもこの女神ドS?まぁ、事実だしこうやって引き止めているところをみると心配してくれてるのかな。
「異世界に召還、スリップ、転生する者に何らかの能力を授けるのが神々の間では暗黙の了解なのです。今回他の神共が面倒くさがりましたので、比較的に若い神の私に白矢がイヤイヤながら当たった訳です。」
……どこからつっこめばいいのやら。スリップ?転生?神々の後輩いびり?力神が善意で俺をひきとめてない?それともたぶん思い出し怒りをしてるのに笑顔のまま舌打ちして「あのじじぃ共……」とか言ってる力神が超怖い事?顔に青筋が見えるぞ。笑顔だから余計に恐ろしい。
「とりあえずこれを受け取ってください。」
「あ、はい」
力神の手から光る立方体が出てきた。それを俺に手渡す。俺の手に触れた瞬間消えて無くなった。
「自動翻訳の恩恵です。向こうで意思疎通できないと問題なので。」
「ありがとうございます。」
素直に感謝する。コレ無いと不便すぎる。ケモミミ人の恋人(作る予定です)の言葉が分からなかったら悲しいし。
「あと攻撃用の能力が欲しいです。それは自分で選べるんですか?」
「能力を渡す神の力によります。万能な神が渡す能力なら可能でしょう。今回は私からなので科学現象を操る能力に限られます。何かリクエストはありませんか?」
すごそうだけど科学知識の少ない俺には細かい注文はむりだ。
「とりあえず攻撃と防御両方に使えるものをお願いします」
喧嘩では美悠にも負ける俺にはやはり法則神から貰ったものに頼るしかない。まぁ、美悠は容赦のない空手の段持ちだけど。
「愛染さんには魔力は元からかなりありますので魔術を身につけるといいでしょう。あとは法則を操るものの中でリクエストにお答えできるものとなると…これですね。」
今度はジーンズのポケットから静電気がばちばち鳴ってる黒い球体をだした。
それをやはり俺に手渡す。また俺の手に触れた瞬間消えて無くなった。
「そろそろ私が愛染さんをここに引き止められる時間は終わるようですね。何か聞きたいことはありますか?」
「前から気になっていたんですけど、なんでそんな服装を?」
神がTシャツ?ジーパン?なぜ?
「……神が私室でくつげろげる服装をして悪いですか?」
「い、いえ、別に。」
そういえばここは力神の部屋って言ってたな。
「では、もうすぐ愛染さんは向こう側に召されるので、」
「オイ、言い方がおかしいぞ。」
俺が行くのは天じゃなく異世界だろう。思わず素でツッコんでしまった。
「最後にわたしから。」
そう言うと、今まで保っていた笑顔が急に無表情になり お?とかおもってる隙に、法則神は右手で拳を作り、距離を一気に無くし、低く屈んでいきよいよく俺の顎にジャンピングアッパーを決めた。見事な昇竜*だ。食べかけのアイスが口から吹っ飛んで、目前が眩んできた。ヤバイ、本格的に気絶しそう。
「だれが電波系で頭がおかしい辛辣でドSな中二病の(自称)女神ですか!!!」
ああ、そういえば、
こいつ頭の中覗けるんだった。
誤字、その他の間違いなどの指摘はありがたいので遠慮せずお願いします。
また、不定期更新ですがこれからもよろしくおねがいします。