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婚約破棄? したいのならお好きにどうぞ?

作者: らすく

「——と、ここまので調べで間違いなく君が犯人と確信したわけだが。もし、反論があるのなら好きなだけ言い訳をするが良い。

 まぁ、反論することが出来るのなら——だがね」


 朗々とした口上を垂れ流し、見下すような視線で私を見つめ、ばら撒くように証拠の写真を足元へ投げ捨てるのは、(わたくし)の元婚約者、この国の第二王子であらせられるレオンハルト殿下です。

 色づいたいちょうの葉を思わせる金の髪に、サファイアを思わせる碧眼、私よりも頭一つ分高い身長に、スラリとしつつもしっかりと筋肉のついている肉体。まさしく正統派王子、というお方でしょうか。

 その左腕に自分の腕を絡ませ、まるで子犬のように震えているのは、小麦のような茶色の髪にオニキスを思わせる黒い瞳、私と同じ160㎝ほどの身長でありながら、どこか小動物を思わせる女性。それが男爵令嬢のソフィア様でありレオンハルト殿下の現恋人。

 二人の後ろには四人の殿方が控えており、宰相のご子息を初め、大商人の嫡男、若くして才能を認められた楽士の卵や希代の錬金術士と呼ばれる少年など。この学園で"特別"の名を手にした方全員が、まるで私を親の敵を見るような目で睨んでいます。


「わ——」

「全ての証拠はこの勇者こと、当学院理事長であるランドルフの名に、相違ないことを誓おう」


 口を開こうとしたところで、すぐ横からさらに大きな声を被せられたので、そのまま口をつぐみます。

 ——そう。

 極めつけはこのお方、若くして魔王を討伐し、この学園の特別理事長として就任した彼の存在がありました。

 彼は、私の2倍はあろうかという逞しい左腕を挙げ、右手を胸に当てると、証言に嘘偽りがないと誓う宣誓の敬礼を用いて、ソフィア様の左隣、レオンハルト殿下の逆側に位置しました。

 2mを超す長身に鍛え上げられた逞しい肉体。短く刈り込まれた炎のように真っ赤な髪にアメジストを思わせる紫の瞳。それが私達とほとんど年が変わらないはずの特別理事長ランドルフ様。

 なめ回すような視線で私を見て、見せ付けるようにソフィア様の左手を取ると、その手の甲に口付けをいたしました。ソフィア様は慌てるそぶりを見せますが、その口許に笑みが見えるのは……、きっと私の被害妄想でしょう。

 なので私は答えます。


「私から言うようなことは、何もありませんわ」


 同様に宣誓の敬礼を持って返すと、私達を遠巻きに見守っていた生徒達からどよめきが起こりました。

 人通りの多いサロンで、しかも人が一番動くであろう昼休憩の時間帯でこのような事をしているのですから、見物人が集まるのは仕方のないことでしょう。

 食事中の生徒諸君はもちろん、噂好きな生徒や講師陣がにわかにこぞってきて、それなりの人だかりが私の後ろに出来ております。


「ふっ、つまりそれは、全ての罪を認める。と言うことで構わないのだな?

 この麗しきソフィアを妬み、嫉妬に駆られたがゆえに嫌がらせを行い、更には脅迫めいた文章を送り付け、実際に恫喝まで行った。そう言うことだな?」


 高らかに宣言するレオンハルト殿下の言葉に、軽くため息を吐くと、

「ですので、言うべきことは何も無いと言っております」

 と静かに答える。

 

 たかぶる感情を抑えるため、瞳を閉じて気を落ち着けようとした瞬間、左頬に弾けるような衝撃が走り、勢いよく右側へ体をよろけさせてしまいました。

 何があったのか……、は考える必要がありませんね。床に膝をついた状態で改めて先程まで立っていた場所を見ると、レオンハルト殿下が右の手で、平手打ちをした体勢のまま立っているのが見えました。

 どうやら左頬を打たれ、その衝撃で飛ばされたようです。人垣の中から悲鳴が上がります。

 少し視界がゆれて足が震えようとしますが、それを抑えて立ち上がると、ツカツカとレオンハルト殿下が近づいてくるのが見えました。

 もう一度ぶとうとしたのでしょう、目の前で立ち止まると右手を振りかぶりました。同時に、私と殿下の間に一人の少女が割り入ってきました。


「お願いです殿下。私は全然気にしていませんから、これ以上酷い行いはどうかお止めになってくださいっ。

 私の為とはいえ、殿下がこれ以上傷つくのを、黙って見ていることが出来ませんっ」


 少女はソフィア様でした。ソフィア様はそう言うと、振り上げたレオンハルト殿下の右手を優しく両手で包み、涙を流しながら自分の頬に押し付けたのです。


「ソフィア……、君はなんて優しいんだ……」


 レオンハルト殿下はそっとソフィア様の涙を掬うと、私を睨みつけて口を開きました。


「レオナ、君はこんなに優しいソフィアを傷つけ続けた。

 侯爵令嬢に到底相応しくないその振舞い、私から父上に報告させて頂く」


 あまりにも予想通りな言葉に、私は震える口をキュッとつぐみ、ただ一言「お好きにどうぞ」と答えます。


「俺からも言わせてもらうが、この学園は常に正しくあらぬばならねぇ。それをここまで無視してくれて、だ。卑劣な振舞いの末に許しを乞うことすらしねぇ。ソフィアが何と言おうと、はいそうですかと許すわけにはいかねぇんだ。分かってるな?」


 先ほどの返答が気に食わなかったのでしょう。理事のランドルフ様が足音荒く、眉間に深いシワを寄せながら詰め寄ってきました。

 この言葉、間違ってはいますが、言っていることに納得できますので、「そうですね」と答えます。


「分かってんなら話は早ぇ。貴様は退学だ。

 今日中に荷物をまとめて寮から出ていけ、いいなっ!!」


 ランドルフ様のお言葉に、ざわめきがより大きくなりました。

 退学……、ですか。

 その言葉に、震える肩、揺れる視界、勝手に動きそうになる唇を意思の力で押さえつけ、しっかりと眼前の光景を(まなこ)に映します。


 サロンの中央に立つソフィア様、そしてそれを支えるように右隣にはレオンハルト殿下、左隣にはランドルフ様、その後ろに四人の男性が立ち、揃って全員が私を睨み付けております。

 私の後方には、動揺する生徒や講師陣が多数おりますが、構図をうまく切りとれば、雑他な人々はフレームから外れます。

 これぞまさしく、悪役令嬢を追い落とそうとするヒロインとその彼氏(ハーレム)達のスチル。

 前世の私が幾度となく繰り返した、乙女ゲームそのままの世界が目の前に広がっております。

 ここでレオンハルト殿下がお決まりのセリフを吐くのでしたっけ。


「貴女には完全に失望しました。

 婚約の話は全て白紙に戻していただき、私の父や貴女の父上に全ての所業を報告させていただく。

 いいなっ!!」


 拍手したいほどに一言一句間違わず、しかも盛大などや顔でのたまうレオンハルト殿下を見ていると、とうとう我慢が限界を超えて、抑えていた涙が溢れ出してしまいました。


「……くっ」

「何を泣いている!! 全てはレオナ、君がソフィアに嫉妬さえしなければ——」


 ご高説痛み入る台詞ではありますが、これ以上はもう持ちそうにありません。左手で口元を押さえつつ、右手を広げてこれ以上は勘弁してくださいとジェスチャーで伝えます。

 そして揺れる肩を見て、レオンハルト殿下はなにかに気づいたのでしょう。


「何がおかしいっ!!」


 さすが目ざとさにかけては他の追随を許さない、冷徹の貴公子(笑)レオンハルト殿下。

 すぐに気づかれ、問い詰められてしまいました。

 

「くくっ、うふふふふふっ……」


 ですが笑いと言うものは、抑えようとすれば抑えようとするほど我慢できなくなってしまうものです。

 下品にならないよう口元を押さえながらですが、漏れてしまう愉悦の声は我慢できそうにありません。

 ——だって、元婚約者の癖に、ゲームの台詞同様、婚約を破棄したいと真顔で言い放つのですから。これはおかしくもなりましょう。


「今すぐにその笑いをやめるんだレオナっ!!」

「とうとう気が触れたか? これだからプライドしか能のねぇ貴族の女って奴は」

「……うわっ、思ったよりも悲惨」

自業自得(ぽそり)


 彼等は口々に好きなことを言っておりますが、いつまでその口を開くことが出来るのでしょうか。


「……どうやら、全て君の言っていた通りになってしまったようだね。レオナ」


 後方の人垣から聞こえてきた声は、レオンハルト殿下と似ているようで全く違う温かみのこもった声。

 どうやら、私がこらえきれずに吹き出してしまったため、予定より少し早いですが出てきてくださったようです。


「お疲れさま、レオナ」


 右肩に手を置かれたのでしょう。暖かいぬくもりを感じると、私だけに聞こえる声量で、愛しいお方の優しい声が耳に届きました。

 逆に目の前の二人、いえ、ソフィア様を除いた全員が、彼の存在を信じられなかったのでしょう。開いた口が塞がらない様子で、ぽかんとこちらを向いたまま、何も言えないようです。


「レオナ様の知り合いのようですけど、今はこの国の第二皇子殿下であるレオンハルト様と、この学園の理事で勇者でもあるランドルフ様がお話ししてます、部外者はお控えいただけないでしょうか?」


 そしてソフィア様は彼が何者か分かっていないようです。国政のため、あまり表舞台へ顔を出さないお方ですが、この国に仕える者なら誰でも分かっているはずですのに……。

 前世で飽きるほど読んだweb小説の中にこのような展開はいくつもありましたが……、実際に目の前で起こると思っていた以上に滑稽ですね。


「すまないが私も十分に関係者なのでね。君は少し黙っていてくれないかな?」


 優しい口調ではありますが、明らかに拒絶をはらんだ言い方をされたからでしょう、ソフィア様は顔を真っ赤にされると、レオンハルト殿下とランドルフ様に何事か耳打ちをなさったようです。

 ですが、耳打ちを返されると明らかに顔を青ざめさせ、二人を盾にするように後ろへ隠れてしまいました。


「……兄上」


 大きく息をのんだレオンハルト殿下が、やっとの思いで声を絞り出すように言いました。


「何故……、このような場所に?」

「何故……、と言われてもね。大事な婚約者の身に何かあっては大変だろう? 影の報告で今日決行されると聞いたのでね、公務を一時棚上げしてこちらへ足を運ばせてもらったという訳だ。

 ま、レオナが打たれたときは思わず飛び出そうとしてしまったがね」


 肩に置かれた手に少しだけ力がこもるとすぐに離れ、まるでレオンハルト殿下、ランドルフ様の二人から私を守るように、私の目の前に立ったのは、この国の第一皇子、そして私の婚約者でもあるアルベルト殿下です。

 レオンハルト様と同じ金の髪ですが、その輝きはまるで黄金で糸をつむいだらこうなるのだろうかというほど繊細で、同じサファイアのような瞳でも、アルベルト様の瞳は深い海のように引き込まれます。こうして見比べるとレオンハルト様の目はガラス製の偽物としか思えません。

 お二人がそろっているところは初めて見ましたが、こうまで露骨に格が違うとわかるとは……。少しだけ、レオンハルト殿下に同情してしまいます。

 私がそんなことを考えている横で、アルベルト殿下の瞳に冷徹な輝きが宿り、目の前にいるソフィア様とその彼氏達(ハーレム)を見据えました。


「どうやら我が愚弟は、レオナの諫言を聞き入れることもできず、報告通りいいように踊らされていた。という事か。少し、いや、かなり情けないぞ、弟よ」

「何を言っているのですか? それに婚約者とは? 影とは一体何のことですか!」


 アルベルト殿下は自分の言いたいことだけ言うと、レオンハルト殿下の声に応えること無く、「ご苦労だったな。戻るがよい」と言いました。

 すると、錬金術師の少年がニコニコと笑いながら私達の方へ歩いてきました。


「お疲れ様です、殿下。いやぁ〜、わがまま娘の相手は大変でしたよ。

 おかげで研究が遅れるのなんの。だって、常に構って付きまとわないと、す〜ぐに拗ねて変な行動を起こすんですよ。好感度の調整が何だとか、フラグの回収がなんだのとぶつぶつ言って怖いのなんの。

 な・の・で、報酬に色つけといてくださいね」


 そしてアルベルト殿下の前で慇懃に礼をすると、無邪気な顔のまま、左手で金マークを作って様々な報告をしていきました。


 やれ、私を犯人と決めつけるための証拠のねつ造や、私のスケジュールの空白を狙っての犯行。口裏を合わせるために私の友人を買収、脅迫した手口に至るまで、ありとあらゆるランドルフ様とソフィア様が結託して行った悪事の暴露から始まり、ランドルフ様が魔王を倒したというのはまったくの嘘で、実際には本当の勇者を闇討ちし、その名声をかすめ取ったとんだ極悪人であることや、気に入った女生徒は権力に任せて好き放題していること、最近は毎晩ソフィア様といかがわしい行為を行っていると、証拠となる書類や写真と合わせ、事細かにみんなの前で朗々と語りました。


 報告の間にランドルフ様とソフィア様が逃げようとしましたが、こっそりと紛れていた衛兵に捕まり、無事お縄に。レオンハルト殿下や宰相のご子息、大商人の嫡男と楽士の卵は青い顔をしてその場へ崩れ落ちておりました。


「と、私が調べた限りでは以上ですね〜。

 念の為に言っておきますと、そこの四人は騙されただけでまだ肉体関係はありませんよ。

 ただねぇ〜、何回かひっそりとソフィアを疑うように仕向けたんですけど、盲目的に従うのが心地よかったのでしょう、逆に排除させられそうになりましたよ。物理的にね。

 と言うわけで四人共人の上に立つ器では無さそうですね〜」


 そこまで言うと、彼はペンを手の上で回しながら私の方を見ました。その、悪巧み大成功。みたいな顔でじっと見られると、少しムッときますね。


「因みにレオナ様が全くの無実ってことは間違いありませんよ。というか、レオンハルト殿下がソフィアにご執心なのを知って、彼女に殿下の妻としてやって行けるだけの教養を与えようと頑張ってくださってたんですけどね? ソフィアにはとんだ迷惑でしかなかったらしく、余計目の敵にされる結果となってましたけどね〜。あははっ」


 彼の笑い声を聞きながら、思わず遠い目をしてしまいます。

 まぁ、その頃はソフィア様がどのような人物か知らなかったので、素直に二人のお手伝いを。と考えての行動だったのですが……。今の報告を聞いたところ、彼女も原作の知識がある、私と同じ転生者に間違いありません。……しかしそうですか、私が悪役令嬢のように振る舞わなくともストーリーが進んでいたのはそんな訳だったのですね。

 ……それに王女教育が迷惑とか、つまり、本当にただ単に逆ハーレムで楽しむことしか考えられない残念な方だった、と……。

 思わず膝から崩れ落ちてorzの格好になりかけましたが、この場でみっともない格好をするわけにいきません。殿下には苦笑いだけを向けておきました。


「確かにこの様子を見る限りでは、単に弄ばれただけのように見える。だが、そんな簡単に騙されるようでは、兄として弟の未来が心配だ。少し教育を厳しくせぬばならないね」


 周囲からは穏やかに笑っているように見えるでしょうが、レオンハルト殿下からは悪魔の笑みにしか見えないでしょう。そんな笑みでアルベルト殿下は四人を見回しました。

 その視線を受けた四人は、さらに震えて小刻みに顔を縦に振ることしか出来ないようです。可愛そうですが、こればかりは仕方ありませんね。


「と言う訳でお前は城に連れて帰る。レオナ、君も一緒に行こう。今はまだ正式に発表されてないが、君が私の婚約者であることを周知しておかなければ、弟のように勘違いする者が出かねない」


 アルベルト殿下がレオンハルト殿下の肩を掴み、強引に立ち上がらせると、別の手を私に向かって手を差し出します。苦笑してその手を取ると——。


「兄上、レオナは私の婚約者だったはずです。それが何故、兄上の婚約者となっているのですか」


 なんとか気を取り直したらしいレオンハルト殿下が、アルベルト殿下へと噛みつきました。


「彼女に弄ばれていたと知ると今度はレオナかい?

 我が弟ながら、頭の痛い節操のなさだね」


 アルベルト殿下の目がつと細められ、声が1オクターブ低くなりました。これは本気で怒っていますね……。


「そんなつもりではっ——」

「レオナ、君の口から説明して差し上げなさい」


 レオンハルト殿下の声を遮り、にっこり笑顔で説明を丸投げですか。元婚約者ながらあわれと言いますか、なんと言いますか……。

 けれどこう言われては仕方がないので、ため息をつきながらも最初から説明させていただくため、今までの記憶を思い返します。


 そもそも、レオンハルト殿下は理解しておられないようでしたが、私と殿下は婚約者同士ではなく、三人いる次期国王候補(殿下達)と同じく、三人いる王妃候補(婚約者)の一人として顔合わせを行ったのです。つまり、次期国王と王妃以外は予備程度の扱いだったのですね。


 顔合わせの際、レオンハルト殿下は同い年の私が自分の婚約者と思い込み、つい先日に前世の記憶を思い出す前の私も、脳内お花畑のアッパラパーだったので、言われるがままにレオンハルト殿下の婚約者と思い込んでおりました。当時5才の小娘だったとはいえ、ごく最近まで気付かなかった私も私でしたね。

 二人がそんな感じに育ったため、周囲も二人を婚約者として扱い、次期国王が第二王子と噂されるようになってからは、実際にそうなる可能性も充分にありました。


 けれど学園に入り、暫く経つとその歯車も狂い始めました。

 レオンハルト殿下がソフィア様にご執心になり、政務への関心が全く無くなってしまったのです。


 その為、それまでレオンハルト殿下主体で行っていた政務が軒並み滞ってしまい、困りきった役人達が、婚約者のように振る舞っていた私の元へ、何とかしてくれ。と泣きついて来たのは自明の理でありましょう。

 もちろん既に、レオンハルト殿下は私の言うことに聞く耳など持ってくださりませんでした。ですが、幸いなことに政務の内容は私も知っており、前世の知識で何とか出来ることは分かっておりました。

 納期が差し迫っておりましたので、責任者の所在は灰色のまま行わせていただいたところ、予想以上の仕上がりを見せることは出来ました。

 元々レオンハルト殿下が行っていた政務です、責任者のサインだけでも。とお願いに行っても門前払いが続き、このままでは王に報告することができない。と頭を抱えた私の前に現れたのがアルベルト殿下でした。


 彼は忙しいにも関わらず、私の様子を見ると直ぐに現状を把握し、書類を見せてもらえるかな? と言ってパラパラと書類をめくると、事も無げに責任者の欄へ自分のサインを書き込んでくださったのです。他の王子が行っていた政務に自分のサインを書き入れるなど、良くてレオンハルト殿下に使われていると見られ、悪ければ他人の功績を奪ったと叱咤されかねません。

 ですが殿下は、「私が考えていたより数倍素晴らしい出来ですね。責任は全て私が持つので、貴女は好きなように動いてください」と言ってくださいました。

 それ以降も私はレオンハルト殿下が放り投げた政務の肩代わりを続け、アルベルト殿下が影から日向から私を支え続けてくださいました。そう、宮中でアルベルト殿下がレオンハルト殿下の元に降ったという噂が流されても、です。

 「なぜそこまで私を助けてくださるのですか」と一度お聞きしたことがありますが、その時は、「ただ君が一生懸命だから」としか答えていただけませんでした。

 ですが、アルベルト殿下の隣はとても心地よく、少しでもその笑顔が見たくて必要以上に気合いの入った結果を出し続けたのは覚えていますね。


 結果、その噂は直ぐに陛下の耳に伝わることとなったのですが……。


 「説明のため登城せよ」と申しつかり、レオンハルト殿下へ一緒に登城するよう伝えたところ、ソフィア様とのデートがあるからと相手にもされず、、観念してアルベルト殿下と二人で、陛下へ全ての事情を話すために登城したところ。

 なぜか大笑いした国王陛下から、「時期王妃は決定だな」と認められてしまいました。

 その流れでアルベルト殿下への淡い恋心も覚られ、「アルベルトを次期王と決定するので我が娘となるように」と申し遣ってしまいました。


 ——とまぁ、こんなことがあったのですが、レオンハルト殿下へは、かなりはしょって伝えました。

 更にレオンハルト殿下の政務は、次期王妃である私へ正式に引き継がれたこと。

 それに伴い、レオンハルト殿下の王位継承権は剥奪されたので、学園卒業後はソフィア様のお邸に入ることが可能となっていたことを、事細かに説明させていただきました。

 途中、——いえ、かなり早い段階から白目を向いていた気もしますが、全ては自分の蒔いた種なのですから、自分の手で刈り取っていただかないとなりません。

 正直、これ以上は付き合いきれませんからね。


 説明の中で省略したところは多々ありますが、そこは私とアルベルト殿下、二人だけの馴れ初めなので、レオンハルト殿下にお聞かせする必要が無いと判断した次第です。二人だけの思い出なのですから、こんなところで話してしまうだなんてもったいなさすぎますものね。


 同じようにアルベルト殿下から、宰相のご子息や大商人の嫡男へ廃嫡の知らせを、楽士の卵へは王家からの支援打ち切りが伝えられました。

 小娘とこそ泥に騙されるようでは将来性が全く見えませんからね、これも妥当です。


 最後にソフィア様とランドルフ様についてですが、これだけの事をしでかしたのです。それ相応の報いを受けなければならないのは仕方ありませんね。


 全ての説明を終え、屍となった五人はその場にいた教師に任せることにし、私は改めてアルベルト殿下の手をとります。


「では、陛下へご報告に行きましょうか、——あなた?」

「あっ……、ああ」


 未だに慣れない呼び方ですが、この呼び方をしたときだけ、アルベルト殿下の耳の裏が赤くなるのを私だけが知っています。顔には全く変化がないのに、耳の裏だけが染まる、というのが不思議ですが、こういうところも殿下らしくて愛おしいと思うのです。

 引きずられるレオンハルト殿下の体を結婚式で引きずるヴェールに見立て、今はただ、この幸せを噛み締めるとしましょう。


流行りものだし書いてみようかな、と書き始めてみましたが、書き終わった頃にはブームが過ぎ去った予感?

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[気になる点]  脳筋勇者への制裁はなんもなし?
[良い点] 楽しませて頂きました~ [一言] >ですが殿下は、「私が考えていたより数倍素晴らしい出来"だ"ですね。 余分な"だ"が入ってるような?
[一言] 読んでいてとても気持ちが良かったです。ざまあ!とにやけてしまいました。 悪役令嬢をちゃんと見て支えてくれる旦那様ってのはいいもんですね ご馳走様でした!
2015/10/29 05:47 退会済み
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