刀剣童女
田貫が本丸で寝っ転がって庭を見ている。縁側右手から審神者が続いて5歳くらいの童女が来る。
童女の外見説明(室町後期?)おかっぱ、くりくりとした目。
「おお、田貫か。ほらあいさつしなさい」
童女が田貫に頭を下げる。
審神者の外見説明、男か女かわからない、いつもにやにやして腹の底が読めない。
「なんでぇ、そのちっこいの?」
「同田貫の一族のひとりで懐剣だよ。婚家に嫁ぐ姫様用に誂えられた物らしいね」
童女、審神者の後ろにしがみつく。
「……戦力にも何にもならなさそうだな」
「上からの戦果目標は達成しているからね。君たちはおとなしく私に采配されていればいい。彼女は私の個人的な趣味だよ」
「童女趣味……」
「観賞用だよ」
田貫起き上がる。
「それと呼び名は『懐』だよ。こんなむさ苦しいのと一緒くたにするわけにはいかないからね」
「こんな弱っちそうなのが刀剣かよ」
「弱いのは君もだろ」審神者が田貫の耳を引っ張る。耳から手を放して童女にあやまる。
「ごめんねえ。この子少し弱くて」言葉の前に審神者の指先がおつむに向いていたのはただの偶然か。
門が開く音が聞こえる。馬の足音で審神者が重傷者を聞きわける。
「ああ、悪いけど少し用ができたからこの子を頼むね」
「子守かよ」
「ホントに悪いね。懐」
「子守られてるの俺かよ!!」
障子越しに覗く童女。少しして田貫の隣に座る。
「あー懐?」
童女が田貫の目を見る。顔立ちが自分と似ていることに気づく田貫。話が続かない。
戦に出たい。戦いたい。人を――。
「あー。お前、ひとを斬った事があるか?」
子供にする話題ではないと言ってから気づく田貫。
「ある」
庭を見ている童女。
「姫様が自害して咽喉を突いた時。炎に包まれてこのまま私も燃えてしまうかと怖かった」
「……」
「若い武者様が来て、姫様の御屋形様ではなかったけれど、私と姫様の遺髪を持っていった。姫様の亡骸を見て泣いていた。――田貫の兄様に少し似ている」
田貫をまっすぐに見つめる童女。
「姫様の御実家に遺髪を届けて、金子を頂くと酒と女を買っていた」
「謝礼目当てかよ」
「三日で手持ちを使い果たすと私を咽喉に当てて姫様と同じ使い方をした」
「……」
「男と女では肉の切れ具合も違うのだな。姫様はするりと咽喉奥まで貫けてすぐ血の泡でごぼごぼと息ができなくなった。男は一気に体重をかけて来たが腱に弾かれたかそれて長く苦しんでいたぞ」
「……悪かった」
「? 兄様は悪くない。あの武者様はなぜあのような事をしたのかな?」
「さあな、一緒に死にたかったんじゃねえの?」
「ならば炎にまかれればよかったものを、わざわざ日をまたいで、場所まで変えてなぜ?」
「知らねえよ。その時は生きようと思ったんじゃねえのか?」
「生きればよかったのに、私なぞ使わねばよかったのに、私はただの飾り物のままでよかったのに」
「……しょうがねえよ。俺らは道具で、人に使われるものだからな」
「田貫の兄様は懐が気味悪くない?」
「なんでだよ」
「持ち主だけを殺している」
「ちょうどいいから今の主を殺してくれ」
「兄様は優しい」
「何の相談をしてるのよ! 二人して!」審神者が再登場。
「うるせえ! 子守を頼んだのはお前だろ!」
後日、懐の方が年上とわかってビビる同田貫。
《終わり》