一章 第七話 「ミリアの秘密」
今回はちょっと危ない回です。
段々とラブコメになってきているような......
「今日は疲れたなぁ......」
「す、すいません。やっぱり足引っ張っちゃって......」
「あはは、いいんだよ。諦めなければきっと上手くなれるよ」
そう言っているが俺は高校生でサッカー部をやっていたんだが挫折している。
その教訓を生かして話しているのだ。
「そうでしょうか......」
「そうだよ」
クエストを完了させたので、ギルドに戻り、手続きをする。
報酬を受け取り、二人で分けようとするが。
「い、いいです。私は迷惑をかけてしまったので......」
「いいっていいって、若者が遠慮をするなよ」
俺もそこまで年は離れていないが、高飛車な言い方をする。
「で、でも」
「ミリアが敵を引き付けてくれたお陰で俺は楽にたたかえたんだから、これはそのお礼だよ」
「う、うぅ」
褒められることに慣れていないのか、少し赤面している。
どうやら了承してくれたようなので、分け前を渡す。
「問題は宿だよなぁ......」
「この時間で空いているかどうか......」
「ま、とりあえずあの宿に行くか」
ミリアを連れ、ギルドを出る。
宿が空いていることを願いながら、通りを駆け抜ける。
ミリアも必死ながらついてきているようだ。
「おっちゃん! 宿空いてる!?」
「おいおい、今日はえらく必死だねぇ? 汗びっしょりだぞ」
クエスト疲れの後に、かなり走ったからね。
後ろでミリアもぜぇぜぇ言っている。
「二部屋欲しいんだけど......」
「うーん、残念ながら二部屋は空いてないなぁ」
「マジか......仕方ないか、ミリア、他の宿を」
「ちょっと待ってくれ! 二つはないが、大きい部屋なら一つあるぞ?」
「えっ」
つまりはミリアと同じ部屋ってことか?
俺的には嬉しいは嬉しいがミリアは嫌だろうに。
「ミリア、そう言ってるがどうだ?」
「えっ、その、私は」
「あ、嫌なら嫌って言ってくれて構わないぞ?」
「い、いいえ別に構いませんが......」
「え、マジで?」
「は、はい......」
予想外だった。絶対に嫌がると思っていたんだが。
好感度が上がったってことなのか、遠慮されているのかが気になるが。
「じゃ、じゃあその部屋で」
「おうよ。ところでお前さんよぉ、見たところ剣しか背負ってないが着替えとかあるのか?」
「あっ、やべ」
「仕方ねぇな、一着だけ貸してやるから明日にでも市場に買いにいったらどうだ?」
「あ、ありがとうおっちゃん」
「いいってことよ。ほい、鍵と着替え」
「うう、優しさが身にしみるよ。はい、代金」
手慣れた手つきで鍵と着替えを取りだし、渡してくれる。
おっちゃん優しすぎる。
「じゃあ行こうか」
「は、はい」
前の部屋は二階の一番奥だったが、今回は一階の奥だった。
鍵を開けて中に入ると、かなり広めの部屋だった。
「おお、広っ」
「わぁ......」
「これなら快適だな」
「そうですね」
ていうか女の子と部屋に二人きりってよくよく考えれば凄く緊張する。
しかもベッドは大きいのが一つ。
やばい、胃が痛くなってきた。
「お、おぉう」
「......? どうしたんですか?」
「い、いや。何でもないよ」
思わず声に出してしまった。
危ない危ない、気をつけないと。
「き、着替えようか」
「あ......じゃあアキトさんからどうぞ」
「あ、うん」
そう言って、ミリアは後ろを向く。
えっ、ここで着替えろってことか?
「......」
ミリアは押し黙って、後ろを向いている。
覚悟を決めるしかないのか。
「......よし」
そうぼそっと口に出し、即行で着替える。
早着替えは得意なんです。
「ふぅ、終わったぞ。ミリア」
「じゃ、じゃあ次は私が......」
「あ、じゃあ後ろ......向いてるな?」
「は、はい」
やばい、心拍数がやばい。
大丈夫かな。翌日捕まったりしないかな。
期待と不安が頭の中で渦巻く。
「......」
再び長い沈黙が訪れる。
布が擦れるような音が聞こえるが気にしない。
心を無にするんだ。冷静に、冷静に。
「......よいしょっ」
ドスンッ、と重たい音が響く。
今のは何だろうか。気になるが、振り返れば即刻牢屋行きだ。
「あ、あの終わりました」
「お、おおう」
どうして会ったばかりの女の子と夜を過ごすことになっているのか。
ぎこちなく振り返ると部屋着に着替えたミリアが立っていた。
普段はフード付きのマントを被っているのであまり見えない素顔を改めて見るとやはり可愛い。
いや、何を考えているんだ。ただの変態になってきているぞ俺。
しかし、どこにそんなものをしまっていたのだろうか。あと謎の音。
あえて聞かないことにしよう。
「えっと......ミリアはベッドで寝てくれないかな?」
「い、いやアキトさんがベッドで寝てください」
「「......」」
気まずい、気まずすぎるぞ。
このままだとお通夜みたいになってしまう。
どうしよう。どうしよう。
「じゃ、じゃあ仲良く一緒にベッドで寝よう」
何を言っているんだ俺は!?
やばい、完全に引かれてしまった。
異世界ライフ、早速終わりました......
「......わかりました」
「はっはっは、まあそりゃ嫌だよね......って、え?」
今俺の聞き間違いでなければ、分かりましたって聞こえたのだが。
まさかそんなことは。
「わ、分かりました。ベッドも広いですし、二人で使った方が......」
「そ、そうだよな。やっぱり平和的に二人ともゆっくり寝られるしいいよな」
ゆっくり寝られるわけがないだろう。
俺の血迷った一言によって、ラブコメみたいな展開になってしまったじゃないか。
どうしてくれるんだ俺。
「えっと......そろそろ寝ませんか?」
「あ、う、うん」
バリバリ動揺しまくっている俺に対して、極めて冷静に対応するミリア。
ああ、この子はきっと大人なんだろう。
ぎこちなくベッドに潜り込むと、反対側からミリアが入ってくる。
ベッドが広いお陰で密着はしていないが、それでも近い。
考えてはいけない。今俺は女子と寝ているということを考えてはいけない。
まさか人生のうちにこんな体験をすると思ってもいなかった。
ありがとう神様。そして馬鹿野郎。
二人ともそっぽを向いて寝ているのでまたまた気まずくなってしまった。
そうだ、あの事を聞いてみよう。
「な、なあミリア」
「......何でしょうか?」
「あ、あのさ。着替えてるときに何か重たい音が聞こえたんだけど......何かな?」
「えっと......」
「い、言いたくなかったらそれでいいんだけどさ。ちょっと気になっただけで」
「......どうしても聞きたいですか?」
背を向けているので顔は見えないが、きっと神妙な顔をしているだろう。
声からその気迫が伝わってくる。
「......うん」
「いつかは話すことだと思っていたんですけど......」
しばらく間を開けて、ミリアが言った。
「私は......魔人族なんです」
ミリアちゃんの秘密が暴かれました。
謎の音の正体は何だったのでしょうか?
皆さんも考えてみてください。魔人族の特徴は何でしたっけね?
今回の話を読んだ皆さんの感想は分かっています。
いつからラブコメになったんだこの野郎と。
でも勘違いはしないでください。
これはラブコメじゃないです。
申し訳ございません。
次回の更新は諸事情により一週間遅らさせていただきます。
ご理解いただけますようお願いします。