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銀色神妖記  作者: ヒカリショウ
10章:七害祭
81/150

泥壌汚園

猫柳が今いるのは東京ビックサイトの外だ。犬坂と羊島と一緒に環境展エコライフを見学していたのだが、謎の騒音から始まり悪臭、地震と発生した。

その影響で外までエコライフ参加者の行列によって追い出されたのだ。その時に犬坂と羊島と逸れてしまった。

しかも今は足元が水浸しである。さっき海の水が流れ込んできたのだ。これには多少驚いた。



「何なんだいきなりよお。くそっ、爛と羊島が心配だ。今すぐ中に戻って探さないと!!」


「ちょっと待った銀一郎!! ここにいたか!!」


「銀陽の声が聞こえる。どこだ銀陽!?」


「お前の背後だ」


「・・・普通に出て来てくれ」



猫柳の背後に銀髪猫耳で着物を着た男性が至近距離でいた。間違いなく銀陽である。

銀陽の口から聞かされる。この状況は妖怪が起こした怪奇だという事だ。ただの自然現象でも何でも無い。

今までの怪奇事件でこれ程大きな怪奇は無かった。塵山一揆も大きな怪奇事件であったが未遂で終わった。しかし今回はもう既に怪奇が起きている。

舌打ちをしてしまう。何も分からないまま、みすみす怪奇を起こしてしまうとはバイトをしている身として情けない。



「舌打ちをしている暇ではないぞ。さっさと妖怪を倒しに行くぞ。さっきクロから念話があった。ここにいる妖怪は計7体いるそうだぞ。さっき私が五月蝿い1体を潰したから残り6体だ」


「何、もう倒したのか? やるな銀陽」


「それに犬坂達が既に他の妖怪達と戦い合っている。私達も行くぞ!!」


「おう!! じゃあ早く中に急ぐぞ!!」



東京ビックサイト内に急ぐ。



「妖怪は外だぞ銀一郎」


「・・・・・・そうか」



ピタリと足を止め、回れ右をする。

そのまま走りながら銀陽と妖怪憑きをする。もう既に周りには一般人は居ない。気兼ねなく妖怪憑きの状態で動く事が出来る。



『ふむ。中に3体、外に4体妖怪がいるな。外の1体意外はもう既に戦闘が始まっている』


「俺はその残り1体を探せば良いんだな」


『ああ、でも向こうから来るだろうがな。どこも妖怪との戦いが起きてるから、残り1体も気になって出てくるだろう』



バチャバチャと足音を立てながら残り1体の妖怪を探し回る。向こうから出て来るかもしれないと言うが分からない。

見つからないように怪奇を起こすだけの可能性もある。足を動かすのも早くなる。

バチャバチャバチャバチャバチャ・・ぶちゃ。

何か柔らかいというか、何というか分からない物を踏んだ。でもこの感触は子供頃に触った物である。

足元を見ると水浸しの地面が泥だらけになっていた。



「泥? まあ水浸しになってたら泥があってもおかしくないな。でもここら一帯に砂場があったか? ほとんどがコンクリートの地面だと思ったが」


『この水浸しの原因となった海の水が流れ込んできた時に同時に泥も流れ込んできたんだろ』



その可能性はある。津波が持ち込んでくるのは何も水だけではない。木や魚、泥などがあるはずだ。



「うわっ、この辺り泥だらけじゃないか。ここまで流れ込んで来たんだな・・掃除が大変だろうな」



ぶちゃぶちゃぶちゃっと泥の中を進んでいくと急に泥が集まりだし、盛り上がっていく。

泥は人間大くらいまで盛り上がっていき、腕らしき物が伸び、頭の部分も形成されていく。グパッ丸い目が開かれる。



『泥妖怪か、早速出てきたぞ銀一郎』


「おう、銀陽行くぞ!! ・・・で、あいつは何者だ?」


『奴自身から聞いてみるか。まあ見れば分かるがな』


「じぶんは、ななさいのせいえいかいきしゅうの、どろたぼう」



泥田坊。

全身が泥で構成されており、手の指が3本に1つ目のある姿をしている。泥から上半身のみを現している。

泥の為か名の通りどろどろしている。見ていて少しでも衝撃を食らわせば崩れそうだ。



「あああ。さいごのなながいさいの、こうがいは、じぶん。どじょうおせんがはじまる」


「土壌汚染だって!? どっかで聞いたな。確か・・・特専で習ったな、公害の1つだ。内容は、えーと何だっけ? 土壌に有害物質が浸透して土壌や地下水が汚染された状態だったな」


「そうだ。でも、じぶんがおこす、どじょうおせんは、ただの、どじょうおせん、じゃない」


『奴の言う通りだ。この泥から穢れを感じるな。そもそも流れ込んできた海の水からも穢れも感じる』


「ぎんねこの、いうとおりだ。この、どろは、けがれのどろ。けがれが、おせんしていく」



足元の泥から穢れを感じる。先程まで、早くこの怪奇を解決しようという気持ちが強かったから気付かなかった猫柳。

だが言われて確かにそうだと気付く。ここにいるだけで嫌な気分になってくる。



「祟り場になっちまうな。って事は何か災害が起こるって事か」


「そうだ。このまま、たたりば、となって、さいがいを、おこす」


「なんの為に起こすんだ。この泥妖怪」


「かんきょうのために」



どろどろの泥の身体のくせに強い意志を感じる。

べちゃ・・・べちゃ・・・ばちゃ。ゆっくりと泥田坊は猫柳に近づく。



「なかまも、なながいさい、のためにたたかっている。なながいさいの、じゃまは、させない」



泥の片腕が盛り上がり、伸びる。



「うおおおおおおおおおおおおおおおお」



伸びる泥の片腕が高く高く振り上げられ、振り下ろした。

べちゃあっ!!

猫柳は避ける。一直線に振り下ろされる攻撃は避けやすかった。

しかし直撃すればただではすまなそうだ。直撃したコンクリートの地面が陥没していた。

泥の妖怪とはいえ油断出来ない。泥は水を吸った砂で質量は重い。サラサラの砂をぶつけられても痛くは無いが、どろどろの泥をぶつけられたら痛い。



「おおおおお。たおす、たおす」



泥田坊の身体がさらに膨れ上がる。膨れ上がった部分は泥の片腕に移動し、ぶちゃあっと泥の片腕が3本に伸びる。



「泥腕が増えた!? いや、負けるか!! 銀爪紡断」



銀爪を構える。様々な方向から3本の泥腕が襲い掛かってくるの避けながら1本ずつ切断していく。



「まだまだ。おおおおおお」



もう片方の泥腕が新しく生えてくる。その泥腕がどろどろ変化していき、大砲のような形となった。



「どろたいほう」



ドッポンっと泥玉が発射される。猫柳は伸びる泥腕と泥玉を避けるはめになってしまった。



「おおおおおおおおお」


「こんな時だけど泥玉投げを思い出すな!!」



銀爪で全ての泥を切り裂く。そのまま泥田坊へと走り出す。



「おおおおお。どろうで、のびろ」



どろどろどろどろ。

泥田坊の背中が溶け出し、膨れ上がる。そして泥腕がさらに3本伸びる。



「無駄だ泥田坊、銀爪で全て切り裂く。銀爪紡断!!」



加速し、銀爪を振りかぶる。泥腕と泥玉を切り裂きながら本体の泥田坊まで突っ込み、斜めに切り裂いた。

びちゃびちゃびちゃ・・ばちゃ。

泥田坊の身体が崩れる。それを確認しながら銀爪に付いた泥をピチャッと払い落とす。



「泥の身体だから脆いな。・・・・・今ので倒したか?」


『うむ。今ので・・・倒してないな』



泥がまた盛り上がっていく。どろどろと人の形へと構成され、泥田坊が元の姿に戻る。

見た感じ、銀爪が効いているように見えない。泥の身体に攻撃してもダメージは0と言う事だろう。



「きかない、きかない、きかない」


『ふむ。ああいう妖怪は核があるはずだろう。それが弱点だろう。・・・無い可能性もあるがな』


「無い場合だとどうなる?」


『泥全体が本体だろうな。そうなると面倒だぞ』



泥はここら一帯に広がっている。猫柳の足元はもう泥だらけだ。もしこの泥が泥田坊の身体の一部ならば、既に相手の攻撃範囲にいる事となる。



「おおおおお」



泥腕を地面にべちゃあっと接続させた。その瞬間に猫柳の足元にある泥から泥腕が5本も生えてくる。



「やっぱりか。だが何度も同じ事をしても無駄だ。銀爪で切り裂く!!」



猫柳を囲むように泥腕が生えているのを利用し、身体を横に回転しながら銀爪で全てを切り裂く。



「おおおおお。この、すがたでは、かてないか」



泥田坊に泥が集まっていく。

どろどろどろ。べちゃばちゃべちゃ。

どんどんと泥が盛り上がり、泥の卵のような形となった。



「この姿では勝てないだって? おいおい、まさか!?」



ぶちゃあっ。泥の卵らしきものから泥腕が生え出した。中からは、より人の形に近い姿の泥田坊が出てきた。

最初の姿は泥から生え出した上半身のみの姿であった。今は泥の下半身が構成され、日本の足がしっかりと生えている。泥の両腕までも生えていた。

泥田坊の顔はまだどろどろとしている。だが、すぐに構成されている。泥の顔は3つ浮き出る。さらに目玉も3つギョロリと浮き出た。



(阿修羅像みたいだな。顔だけはな)


「第に形態だ。さき程とは、ちがうぞお」


「ん、何かさっきよりも滑舌が良くなってる気がする」


『なんだ? 奴は変身するたびに滑舌が良くなるのか? ・・・そうだな、人型に近づくつれ知性でも上がるかもな。取り合えず奴を攻撃して核があるか探してみるぞ』


「おう。任せろ!! あまり時間も掛けられないからな。祟り場をどうにかしないといけないからな!!」



ばちゃばちゃばちゃっと走り出す。それと同時に泥田坊も走り出した。

銀爪がさらに鋭くなる。それを向い打つように片方の泥腕が変化していく。泥の斧に変化した。



泥斧どろおの


「銀爪紡断!!」



銀爪と泥斧が交差する。



「重っ・・・。手首に負担が酷いな。折れるかと思ったぜ」


「強いつめだな」



交差して勝ったの猫柳の銀爪であった。しかし泥斧の一撃は想像以上に重かった。

銀爪で泥斧を崩したが衝撃が手首に重い重い負担が掛かったのだ。クキクキと手首を慣らす。

重い一撃だけでは無い。銀爪で切り裂いた時に泥の感触が強固になっていた。



「まだまだ。泥腕よ生えろ伸びろ」



どろどろどろ。ぼこぼこぉぼこ!!

崩れた泥斧の部分から泥腕が3本生え出した。伸びる3本の泥腕は猫柳にグネグネと襲い掛かる。



「ええい、何度も何度も!!」



ガシィッ!!

泥腕を1本掴み取り、投げ飛ばそうとする。だが、ボロっと崩れ取れる。泥だから、いくらでも取り外し可能のようだ。



『おい泥田坊。もう一度聞く。貴様は何の為にこの七害祭を起こしている。さっきは環境の為とか言ってたな』


「そのとおりだ。環境のために、じぶんはうごいている。人間は環境をぐちゃぐちゃに、している」


『さっきよりも滑舌が良いせいか、話やすいな』


「ああ、聞き取りやすい。・・・さて、休憩がてら聞きたい事がある。お前はさっき環境の為に動いていると言ったな」


「そうだ。いちばん、じぶんが怒っているのは土が汚れる、田が汚れる。それがゆるせない」



泥田坊の身体がどろどろと溶け、さらに違う形へと変化していく。



「土はどんな生物にも必要なものだ。土があるから生物はしんかしてきた。そして生命のみなもとの1つである水が加わり泥が生まれた。泥は田をうみだした」



田。これを聞いて思い浮かべるのは田んぼ。それから米に繋がる。田んぼイコール米と思うのは100人中100人であろう。

泥田坊もそれは同じのようだ。



「田は米をうみだした。それは人間がいきるのに必要な穀もつとなった。そのおかげで人間はしんかへと近づいた。なのに人間がその土を田を汚した」


「土と田を汚してるか。正直否定が出来ないな」


「なぜ土を汚すのだ。なぜ、みずからの首をしめるのだ。なぜ他の生物の首まで、苦しめるのだ」


「聞いてて耳が痛くなるし、言い返せねえ」


『言い返さなくて良いぞ。既に環境が壊れているのは本当の事だ。だが今私達は何をすれば良いんだろうな銀一郎?』


「やる事は決まってるさ。それは俺の目の前にいる泥田坊という怪奇を解決する事だ」


「じぶんは環境をまもる」


「環境を守るか・・・言うじゃないか。でもよ、お前はこの泥で穢れを充満させている。お前のやっている事は矛盾じゃないのか!!」



穢れにより祟り場が完成する。そして祟り場によって大きな天災が起こる。

これは環境を破壊すると同じでもある。



「ちがう、これはやりなおしだ。天災で土にふくまれる穢れを消す。つぎは土を汚す人間をきれいにする。また昔みたいに田をだいじにする人間がふえてほしい」


「今でも田んぼを大事にしている人間はいるからな!! だから俺たちは上手い米が食える」


『その通りだ!! 泥田坊をさっさと止めるんだ銀一郎』


「うおおおおおおおおおお」



泥田坊の身体が盛り上がっていき、変形した。顔は変わらず3つ、泥腕は合計6本も生える。足も4本生えている。



「決着を付けてやる!!」


「おおおおおおおおおおおおお」



伸びてくる泥腕を掻い潜り、銀爪で泥腕を切り裂きながら泥田坊まで走りきる。



「核とか関係無い!! 泥全体を掴み投げ飛ばす!!」



泥の身体を掴み取る。

ガシィッ!!

銀爪を泥の身体に食い込ませながら掴み取る。そして泥田坊の身体が崩れる前に上空へと投げ飛ばした。



「泥田坊は泥の妖怪だろ。ならその定義から外してやる!!」


「おおおおおおお!?」



泥田坊が重力無視でさらに上空へと飛んで行く。



「追加だ。轟風投げぇ!!」



轟。とんでもない轟風が泥田坊に激突する。泥の身体はバラバラになりながらさらに上空へと上がる。



「おおおおおおおおおおお!?」


『泥の身体なら掴まれず、投げられないと思ったか? 私の力を舐めるなよ』



まだまだ上空へと上がる泥田坊。猫柳の目には小さくなって見える程だ。

バラバラになった泥の身体から水気か消えていき、どろどろの身体がサラサラになっていく。今日は暑く、温度も高く、太陽の光が降り注ぐ。



「泥ってのは砂と水が混ざった物なんだろ。なら泥から水を取り除けばお前は泥妖怪か? それは違うよな」



泥田坊は泥の妖怪である。なら泥の身体でなければ存在する事は出来ない。

猫柳はそれを利用する為に泥田坊を上空へと投げたのだ。地面には泥が大量にあり、そこから切り離したのが大事だ。

切り離せば、もう身体に泥を供給する事は出来ない。そして照り付ける太陽の光がガンガンに当たる上空へと投げ飛ばせば水分が消えていくのだ。

泥田坊はサラサラと砂になっていき、そして消える。残ったのは謎の靄のようなものであった。



「あれは何だ?」


『あれが泥田坊の本体だろう。そもそも泥田坊は泥に魂や意識の集合体が憑いた妖怪だからな。お、こっちに戻ってくるぞ』



猫柳の足元にある泥に戻ろうとするのだろう。泥があればいくらでも再生出来るからだ。



『あの本体を掴め銀一郎。私の掴む力はそれくらい出来る』



靄のようなものを右手で泥に憑く前に掴み取る。

むやむやと動いている。実体が無いのに掴んでいるとは奇妙な感覚だ。



「悪いがもう終わりだ泥田坊。お前は汚れている土や田を戻す為に戦っているようだが・・こっちにだって引けない理由はある。環境の悪化は俺ら人間が悪いと言うのは否定出来ない。でも俺ら人間が環境を改善しようとするのも事実だ」


『まだ人間が悪いと決め付けるのは早いって事だぞ泥田坊。それに土や田が大事など人間だって理解している』


「もう少し見ててくれないか? 人間が環境に対してどう努力するかをな。それで判断してくれ」



右手で掴んでいるむやむやしている靄のようなものが大人しくなり、すぅっと消えた。



「分かってくれたのか?」


『たぶんな。でもまた現れるかもしれん』



穢れのある泥と水が白き波紋によって祓われていくのが足元から感じる。

読んでくれてありがとうございます。

感想など待っています!!


これにて七災の精鋭怪奇衆との戦いは終わりました。

今回もまた大きな怪奇だったと思います。猫柳たちも大変ですね。

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