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銀色神妖記  作者: ヒカリショウ
10章:七害祭
79/150

毒煙汚染

モクモクモクモクモクモク。

東京ビックサイト上空に謎の煙が充満している。その煙の見た目は白い雲のような煙ではなく、いかにも身体に悪いというのが似合いそうな紫と黒の色が混じった毒々しい色の煙であった。



「上に妖怪を感知して来てみましたがぁ、こんな毒々しい煙がありましたぁ~」


「愛夢から見て、やっぱり毒ですか?」


「はいぃ~姫音様ぁ。あれは毒ですねぇ~」



上空に充満している煙は毒で決定のようだ。もしこれが地上に流れ混んで来たらひとたまりもないだろう。まだ地上には人がいる。猫柳たちがいる。この毒の煙を何とかしなければ、と思う羊島であった。

その時、毒の煙から何かがはみ出し、こちらに向かってきた。

毒の煙から出て来たものは何か分からないが、毒から出てくるものは基本的に毒だろうから向かってくる何かから避けた。



「何でしょうか?」



羊姫の目の前には白い煙がモヤモヤとしていた。それがそのうち、人間の形に変化していく。



「ヤッホー!!エンラちゃんだよ!!」



煙の身体である女の子が元気良く挨拶してきた。その姿からすぐに妖怪だと分かった。



「エンラちゃんは七災の精鋭怪奇衆の煙々えんえんらって妖怪でーす!! よろしくね」



煙々羅。

名前や姿を見ると分かるように煙の妖怪である。モクモクとしており、煙の妖怪とは珍しい。

ピシッ!!っと決めポーズをしながら自己紹介までしてくれた。羊姫の最初の印象は元気な女の子だと思った。見た感じ的に悪いようには見えない。



「穢れもあるわけではありませんねぇ~。正常な状態ですぅ~」


「貴女は一体・・・?」


「さっき言ったでしょ、エンラちゃんだって。ところで、あなたの名前は?」


「あ、失礼しました。羊島姫音と申します」


「姫音様ぁ。答える必要は無いと思いますぅ~」


「愛夢、名乗られたら答えるのが義務ですよ」


「なるほど。キオンちゃんか。よろしくね!!・・・そうだ、遊ぼうよ!!」


「え?・・遊ぶ?」


「うん遊ぼ!! せっかくここまで来たからには楽しまないとね。一応、蝉の言う通りに公害を起こせば後は自由にしていいみたいだし」



煙々羅は真上を見上げる。充満している毒の煙を見るとニコリと笑う。

そして、もう充分に溜まったから下に流すと言う。



「そんな!? あの毒の煙を下に流し込んだら大勢の人達が危険に!!」


「んう? だってそうしないと遊べないし」



煙々羅は特に気にする事も無く毒の煙を地上に流し込むと告げる。

実のところ、彼女は七害祭の目的に対して興味が無い。祭りだから遊びたいし、楽しみたいというのが本音なのだ。

そして、遊ぶためには蝉から言われた指令をこなす必要があった。それが今、上空に充満している毒の煙を地上に流し込む事だ。それさえ終われば後は自由。



毒煙汚染どくえんおせんだ!!」


「待って下さい!!」


「えー。何々? エンラちゃんは早く蝉の指令をこなして遊びたいのに」


「あの毒の煙を地上に流し込まないで下さい。地上には多くの人間がいます。それに私の友達もいます。もし、毒の煙が流し込まれたら死んでしまいす!!」


「そんな事言われてもなー。エンラちゃんは遊びたいから、どうでもいいよ」



人間が死のうが何だろうが関係無いと言う。ただ遊びたい。それだけが煙々羅の望みである。自分自身が望む事を他人にとやかく言われても止める事は出来ない。羊島の声は聞いてもらえなかった。



『聞く耳持たずぅですねぇ~。このままではまずいですぅ~』


「何か彼女に私の言葉が届くような案があれば良いのですが」


『姫音様ぁ~。エンラちゃんはぁ遊びたいと言っていますぅ。ならぁ遊びと言う言葉を使ってみましょうぉ~』



遊びたい。煙々羅はその気持ちに一直線である。ならば、こちらも彼女の気持ちに合わせる。そして話のペースを乗せれば何とかなるかもしれないだろう。



「エ、エンラちゃん!! そんなに遊びたいなら遊びましょう!!」


「え、本当に!? やったあ!!」


「その代わりに上空にある毒の煙を消して下さい。それが遊ぶ為の条件です」


「えー。遊ぶのに条件なんて必要ないよ」


「じゃあ遊ぶのに毒の煙を地上に流し込む必要もありませんね」



遊ぶのに条件はいらない。

この言葉で煙々羅の言う指令とやらの毒の煙を消させようとする。羊島は煙々羅の思う優先順位が指令と遊びで半分くらいと分かっている。

ならば遊びの方に優先順位を少しでも上げれば煙々羅は指令の事を忘れるだろう。



「うーん。自分で言っといて何だけどそうだね。遊ぶのに指令とか条件とかいらないよね!!」


「そうですよ。だから毒の煙を消して遊びましょう」


『何とかなりましたねぇ~。これで公害を1つ防ぐ事が出来ましたぁ~。後で銀一郎様ぁに褒めてもらいましょうぅ~頭をナデナデしてもらいましょ~』


「もう、何を言ってるんですか愛夢は。そ、そんな事は・・・でもして欲しい・・ごにょごにょ」


『素直が一番ですよぉ~』



羊島と愛夢は乙女の妄想よろしくの世界に入り込んでいる。

一方、煙々羅は何で遊ぼうかワクワクしながら上空で飛びまわっている。もう彼女の頭の中は遊ぶの一択である。

毒の煙が煙々羅の身体に吸収されていく。上空にあった毒々しい煙が完全に消えた。



「さあ遊ぼう、今遊ぼう、何して遊ぼうかな!?」



毒の煙が身体に混じった事で煙々羅の白い煙の身体は毒々しい色の煙の身体になった。



「じゃあ遊びは鬼ごっこ!! 鬼はキオンちゃんね。よーいどーん!!」



勝手に鬼ごっこを始める。

本当は公害を起こす違う妖怪の所に止める為に行きたいが、ここで煙々羅と遊ばないと毒の煙を撒き散らしそうだ。公害が起きようとしている中で遊ぶのは不謹慎かもしれないが仕方がない。



「エンラちゃんを捕まえられたらキオンちゃんの勝ちだよん!!」



東京ビックサイト内に入り込み、下へと逃げていく。

ここで羊島はある事に気付いた。鬼ごっこするのは構わないが、煙々羅の身体には毒の煙が混じっている。その彼女が逃げるのに下へ向かった。これでは毒の煙が地上に送り込まれたのと同じではないか。



「もし、エンラちゃんが間違えて毒の煙を放出したら・・・・」


「さっきまでのが意味無いですねぇ~。今、東京ビックサイト内には人がいないのが不幸中の幸いですがぁ~」



東京ビックサイト内はもう誰もいない。居るとしても犬坂たちと七災の精鋭怪奇衆だ。一般人は巻き込まれる可能性は低い。



「でも犬坂さん達が危ないです。早くエンラちゃんを捕まえないと」


「急ぎましょうぅ~。犬坂様ぁ達が危ないですしぃ~さらに外にまで出られたらまずいですぅ~」



急いで煙々羅を追いかける。

鬼ごっこ。子供の時に誰もがやった事のある遊びである。

鬼ごっこのルールは簡単である鬼役が逃げる役を捕まえるだけのいたって簡単なものだ。だが相手は妖怪である。しかも煙の妖怪。そう簡単には捕まらないだろう。さらに煙なので隙間に簡単に入り込んで逃げていく。鬼役としてはとてつもなく困難である。



「待ってください、エンラちゃん!!」


「待てと言われて待つ奴はいなーい!!」



縦横無尽に飛びまわって逃げている。普通に追いかけても捕まえる事は出来ないだろう。



「なら、こうするまでです!!」



キリリリリリリリリリリリリリリリ。

毛糸が蜘蛛の巣状に形成されていく。



「編み物語・蜘蛛網目くもあみめ


「んあ?」



毛糸の蜘蛛の巣にボフンっと捕まる。でも煙々羅は煙の身体なわけで、網に引っかかるわけはない。



「うんにゃ? これで捕まえたつもりかな?」


「・・・分かってたつもりですけど、やっぱり煙の身体には物理的に触るのは無理ですか」


「キオンちゃんが鬼ごっこに勝つには、エンラちゃんをちゃんと捕まえないとダメだよ?」



煙を捕まえろと言っているようなものだ。物理的に触れないのに無茶を言ってくれる。



(鬼ごっこと言われてまさかと思いましたが、これは絶対に勝てないゲームですね。なら私がする事はエンラちゃんを外に出さないようにする!!)



キリリリリリリリリリリリリリリリ。

毛糸の結界が周りに張られる。あまり意味は無いが障害物を張るだけでも多少は変わる。



「わーい!! アスレチックだあ!!」



毛糸の結界により室内がアスレチック風になっている。それを見た煙々羅はとても喜ぶ。その喜びを縦横無尽に飛び回る事で表している。

喜び、楽しみで毛糸のアスレチック内に居残るだろう。



『これで外に出る意思は少し消えましたねぇ~。後はどうやって彼女を捕まえるかですねぇ~』


「捕まえるのは無理と言っても過言ではないです」


『でもぉ捕まえないとずっと遊ぶはめになりますよぉ~』



愛夢の言う通りだろう。このまま煙々羅を外に出さないようにしても他の妖怪が何をしでかすか分からない。羊島がする事は煙々羅を外に出さないようにし、何とか捕まえる事だ。



「難関な問題ですよ」



キリリリリリリリリリリリリリリリリ。

毛糸を張りながら追いかける。



「こっちだよーん。捕まえてごらーんキオンちゃん!!」


「待ってくださーい!!」



何度も毛糸を煙々羅に絡みつけようとするが、やはり巻きつくはずも無く毛糸は煙々羅の身体から外れる。

最初は煙々羅の身体に核のような物があると考えたが何も無かった。本当に煙のみの身体であったのだ。

この事実は羊島にとって辛い。でも諦めるわけにはいかない。



(捕まえるのではなくて、動きを封じないと)


『彼女は捕まえられたらぁ姫音様ぁの勝ちと言っていますぅ~。触るだけではぁ無く捕まえる事が絶対ですぅ~。でも勝ち方は捕まえるだけではありませんよぉ~』


「そうですね。勝ち方は捕まえるだけじゃないです。動きを止めるのも勝ちですからね」



煙を捕まえるのは不可能でも煙の流れる動きを止める事は出来るかもしれない。勝つ可能性はまだある。

毛糸のアスレチックに羊島は毛糸をさらに巻きつけ、毛糸で出来た橋を完成させる。その上に大道芸よろしくのバランス感覚で乗る。そして、そのまま煙々羅に向かって走り出す。



「おおう、来た来た!! こっちこっち!!」


(さてと、エンラちゃんの動きを止める為にはどうすれば良いかを追いかけながら考えないと!!)



意味は無いが毛糸を巻きつけようと何度も放つ。

キリリリリリリリリリリリリリリリ。

外したとしても毛糸を他の放ってある毛糸に絡ませる。そうすれば更なる毛糸のアスレチックが出来る。

相手が高い位置にいても、その高い位置に毛糸の足場を完成させる。そして毛糸のトランポリンを完成させ、跳ぶ。



「おお!? ここまで来るなんてスゴイスゴイ!! でもどうやってエンラちゃんを捕まえる?」


「今考え中ですよエンラちゃん」


「ふーん。でもエンラちゃんをどうやって捕まえるのか楽しみだな」



モクモクモクモクモクモクモクモクモクモクモクモク。

煙の身体が変化していく。煙の腕は鳥の翼のように変化する。意味があるのか分からないが、彼女が言うには雰囲気作りの為らしい。

鳥みたいに飛び逃げ回ると。その方がもっと逃げられる気持ちになるらしい。



「パッタパター。逃げるよん」



煙の翼を広げ、さらに逃げる。



『腕が翼の形になってもぉ逃げる速さは変わりませんねぇ~』


「そうですね。それにしても鳥の翼とは・・鳥は空を飛ぶ自由の象徴。自由な鳥は捕まらないって意味を込めて逃げてるんでしょうね」


『でもぉ鳥篭があるように鳥は捕まえる事がぁ出来るんですよぉ~』


「鳥篭・・・そうだ、あれを試してみましょう!!」



キリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリ。

羊島は毛糸を煙々羅の周りに放つ。毛糸が紡がれ、ある形へと変化していく。その紡がれた形は毛糸の鳥篭となった。



「編み物語・つむかご



逃げる鳥を捕まえる為に用意した毛糸で紡がれた可愛い篭が完成した。



「うん? この鳥篭は隙間があるよん」



隙間から逃げようとしたが、さらに毛糸が紡がれ隙間が消えていく。そして毛糸の鳥篭が縮まっていく。

そして煙々羅を包み込んだ。

それでもボフン、と音と共に毛糸の鳥篭から出てくる煙々羅。



「そんなのじゃエンラちゃんは捕まえられないよー!! 毛糸の鳥篭なんて隙間だらけだから煙のエンラちゃんには意味無し無し無しぃ!!」


「そうですね。でも何度でも捕まえましょう!!」



再度、煙々羅に毛糸の鳥篭放たれ、包み込む。

そしてボフン、と共にまた出てくる。だが、また包み込まれる。またボフン。また包み込まれる。それが何度でも続く。



「そんなの無駄だよーん!! 何度も包み込んでもエンラちゃんは脱出するからね」


「いいえ、そろそろエンラちゃんはある意味捕まりますよ。まず何か違和感がありませんか?」


「んー? 違和感? そんなの・・・あれ?」



鬼ごっこに夢中であった為、気付かなかったがよく自分の身体見ると縮んでいた。元の身体の大きさより半分くらいになっている。

これには煙々羅も驚く。なぜ縮んでいるかのかが分からない。



「煙は気体。触る事は出来ても、掴むや持つ等言った事は出来ません。しかし煙は微粒子を含んだ空気の固まりなんですよ」



冬にセーターを着て、煙に当たると臭いが付く事がある。これは煙に含まれる微粒子がセーターに付着し臭いを放っているのだ。

煙は人間の手によって捕まえる事は出来ないが、他の物で煙を吸着させる事は出来る。

その原理で羊島は毛糸の鳥篭で煙々羅の身体に含まれている微粒子を少しずつ吸着させていったのだ。

それを何度も毛糸の鳥篭で包み込んでいけば効果はある。その結果が煙に含まれる微粒子を削られ、小さくなった煙々羅である。



「私の手で捕まえるのは無理ですが、逃げられなくなるようにする事は出来ます。逃げられなくなれば捕まえたと同じ意味ですよね」



毛糸をクイっと引っ張ると毛糸で出来たアスレチックから更なる毛糸が飛び出し、何重のも毛糸の鳥篭が完成する。



「エンラちゃん。これで捕まえました」



何重のも毛糸の鳥篭が煙々羅を包み込んだ。



「うわあああああ!?」



・・・・・・・・・・・ポフン。

その後、毛糸の鳥篭から出てきたのは手のひらサイズの煙々羅であった。



「もう逃げられませんね。それにこれ以上包み込んだらエンラちゃんが消えそうです」


「ううー。もう遊びは終わりぃ?」


『終わりですよぉ~。この鬼ごっこの勝者は姫音様ぁですぅ~』



鬼ごっこはこれにてお終い。

読んでくれてありがとうございます!!

感想など待っています!!



煙の妖怪である煙々羅との戦い。どうでしたか?

まあ、戦いというよりも遊び相手になっていただけでしたけどね。

彼女は七害祭の意味を知らずに遊びとして参加しただけだからなぁ~。

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