塵塚怪王
町から外れた道のりを超え、林道の中を進んでいく。すると古い骨董品店が見えた。
店の名前は左から読んで、塵福。 店先には和服の黒髪美人が箒を持って掃除をしている。
「お、黒髪和服美人。猫柳と蛇津はどう思う?」
「「文句無しに良い・・・痛っ!?」」
2人の言葉がハモる。そして犬坂たちから身体を強くつねられる。
「何をやってるんだ。向こうも気付いたようだぞ」
和服の黒髪美人が猫柳たちに気づき、掃除を止める。軽く会釈をしてくれる。
「いらっしゃいませ。ようこそ塵福へ」
「ああ。そんなのはいいから話が聞きたい。付喪神のな。人間の振りはしなくていいぞ。ここにいる奴等は全員関係者だ」
「・・・そう。ついに来たのね。バイトの関係者が。私も会いたいと思っていたの」
「そうか。お互いに都合が良いわけだ」
銀陽の言葉から彼女は人間ではなく妖怪。
「外だと何だから、中で話ましょう。お茶も出しますよ」
店の中に誘われる。そのまま気にせずに入ろうとすると、背後から殺気を感じる。
「後ろよ!! あんた達避けて!!」
和服の黒髪美人が大きな声を出す。その声に反応し、背後を振り向くと刀を振りかぶった女性がいた。狙いは猫柳。それに気付いた銀陽がすぐさま妖怪憑きを行う。
「計画の邪魔者は始末する」
「うおおおお!! 真剣白羽取り!!」
タイミングバッチシで刀を受け止める。受け止めたとしても、襲撃者は押し斬ろうとする。両腕から力を抜けば頭から縦に真っ二つだ。
「このまま・・・斬る!!」
「そんな事は」
「させないヨ!!」
刀を持った女性の背後に白い尾で突き刺そうとする蛇津と月の刃を持った兎姫。
同時に薙ぎはらう。しかし、かすりもしなかった。
『上だ、気をつけろ!!』
上空でバク転しながら避けていた。そのまま着地し、刀を構え直す。
「奇襲は失敗か。残念だ」
「なあ銀陽。刀に女性、顔に仮面って」
『うむ。断切や髪切りの情報と一致している。奴が刀華で間違いないだろう。ちょうど良い。今捕まえて計画について吐かせてやる』
「やはりバレていたか。予想はしていたが計画も嗅ぎまわっていたようだしな」
刀華を逃がさないように周りに囲む。
「この人数は不利だな。余計な事はせずに撤退するか。どうせ計画は漏れるだろうからな」
手鏡を取り出し、自分自身を映す。すると鏡の中に吸い込まれて行く。
『逃がすな!!』
急いで走り出すがもう遅い。
カランと手鏡が地面に落ちるだけであった。
「逃がしたか・・・」
畳部屋。周りには古そうな骨董品がズラリと並ばされており、なかなか雰囲気のある。
座布団に座っているとお茶と羊羹が出される。銀陽はさっそく一口でたいらげた。
次に自己紹介から始まる。なぜここに来た理由も含めてだ。
「私の名前はチドリ。ここの塵福の店主をやっているわ。何か欲しい物があれば安く売るよ。・・・さて、どこから話そうかね」
「お前達は何者だ? あと羊羹おかわり」
「私たちは付喪神の集団と言うべきかね。・・・はい、おかわり」
「やっぱり付喪神の関係か。でもお前は付喪神ではないだろう?」
「さすがに分かるかね。確かに私は付喪神ではないわ。付喪神たちをまとめる存在よ。みんなは王と呼ぶ」
「今までの付喪神が呼ぶ王ってまさか・・・」
「誤解が無いように言うけど私ではないわ。王って呼ばれているのは私の兄さんよ」
彼女には兄がいるようだ。そして、その兄こそが今回の黒幕であろう。
兄の名は塵義。付喪神の王であり、塵塚怪王と呼ぶ。
「やはりそうでしたか。塵塚怪王・・・まさかの大物ですね」
予想していた事が当たっていたが、それでも相手が大物というのに驚きを隠せない。
「穀菜は黒幕を知っていたのか?」
「今までの判断材料で予想したまでですよ。予想的中で驚きです。しかし塵塚怪王に妹がいるのはさらに驚きですがね」
「こっちにも事情があんのよ。私は塵塚怪王の妹っていうのは確かさね」
ズズズ、とお茶をすする。そして一息。
「1番聞きたいのは計画なんだが、話してくれるか?」
相手が付喪神の王っていうだけで驚きだが、その王である塵塚怪王が黒幕の計画が1番重要である。猫柳たちは命まで狙われたのだ。もう引き返せない。猫柳は真剣な目でチドリにはっきりと質問する。
「もちろん。私はその計画を止めさせて欲しいのよ」
計画内容をチドリははっきりと答えてくれる。計画名は塵山一揆。
日本中に捨てられているごみを付喪神化させ、一揆を起こす。物が捨てられない世界にするそうだ。
計画を実行する場所は富士山頂。そこから塵塚怪王の力によって日本中の捨てられたごみを付喪神にするらしい。捨てられているごみの量は数え切れない。それら全部が付喪神になったとしたら大パニックである。まず手始めに関東県内から一揆を始める。それが明日に実行されるのだ。それを可能に出来る理由は塵塚怪王の力に霊峰とも呼ばれる富士山があってこそ。そして富士山頂から各地のごみに伝える手段として機材を設置する。そして計画実行という流れである。
「断切が関東県内に機材を設置していたって理由がこれか」
富士山頂から力や声を出す範囲は限られているからだ。そのためにモニターやスピーカー、スクリーンなどは塵塚怪王の声や力を伝えるために必要な機材である。
「塵塚怪王として捨てられた物を憂うのは分かるがそこまでするのか?」
「・・・兄さんは確かに捨てられた物を憂いていたわ。そして数々のごみを付喪神にしたり、自分自身が使ったりで救ってきた。でもこんな計画を考えるような事は無かった」
「・・・・・穢れか?」
話を聞く限り、塵塚怪王の塵義は普段良い妖怪である見える。しかし大それた計画を練っている事を聞いていると正反対だ。まるで急に性格が変わったのよう。人間でも妖怪でも急に性格が変わる事はない。あるとしたら何か理由があるはず。それを考えた猫柳が出した答えが穢れである。今までの怪奇事件でも原因としてあった。
「そう。いきなり穢れを持っていた兄さんには驚いた。理性はあるみたいで無駄に暴れまわる事はしなかったけど、考えが昔と正反対だったさね。私は禊をしろと言ったけど聞く耳なんて持たなかったわ」
「どこからか、穢れをもらってきたのか、もらわれてきたか」
「それは分からないけど、兄さんを止められない私は歯がゆい気持ちさ。だから私はバイトの人達の力を貸してもらいたい。それがあんた達と話したい理由さ」
「それに関しては任せろ。元々、神馬の怪奇事件から続いたものだからな。元凶を断つつもりでいた。でなければここまで来ない」
「ああ、銀陽の言う通りだ。邪魔者としてリストアップされてるらしいし、ここまで来て引き返せない」
皆の気持ちは同じである。ここで日本が大パニックになるような計画を無視するような奴等はいない。
「ありがとう。あんた達が良い奴等で良かったよ」
ニコリと笑うチドリ。
「では塵山一揆を崩す算段でも考えよう」
「まずは相手の数だね。聞く限り、計画は塵塚怪王1人で出来そうだから仲間が時間稼ぎのために襲って来そうな気がするんだ」
「蛇津の言う通りだろうな。計画の要は塵塚怪王で間違いない。仲間は邪魔をさせないようにこちらを潰しにくるだろう。今日、刀の付喪神が襲ってきたのが良い証拠だ」
「あんた達の言う通りよ。兄さんの力が計画に1番必要。仲間達は護衛と計画準備が仕事らしいからね」
「それで仲間の数は何人だ?」
「3人よ。襲ってきた刀の付喪神、鏡の付喪神の雲外鏡、藁人形の付喪神。兄さんはごみなら付喪神に出来るからいくらでも仲間は増やせるけど、一揆のために無駄な力は使わない。その3人が必ず来るわ」
塵塚怪王の力は物やごみを操れたり、付喪神に出来る。それを関東県内全域にするのだから無駄な力が使えないのは正しい。塵山一揆を崩すにはやはり塵塚怪王を止めるしかない。計画内容、場所、時間、敵の数も分かった。後は富士山頂に行くだけだ。
「明日が計画実行日なら今日で止めに行けばいいんじゃねえか?」
「それは止めといた方が良いわ。そろそろ日が暮れる。ここらは妖怪がウジャウジャ出てくるよ。襲われて無駄に力を使いたくないでしょ。富士山の付近だってそう」
「う、確かに・・・。でもよ計画が明日って言ってるが実は今日って事はないのか?」
「それは無いわ。兄さん自信が決めた事だし、力を使ったなら私が感じ取れるのさ。今の所、力を感じないから大丈夫よ」
「それでも、何か歯がゆいぞ」
「気持ちは分かるさね。でも計画はそうそう実行されないわ。富士山頂でやるからね」
「・・・・・どういう意味だ?」
「今日はウチに泊まっていきな。夕食も今から作るからくつろいでな」
チドリは立ち上がり、台所に歩いていく。泊めてくれるのは嬉しいが、勝手にくつろげと言われても急には出来ない。出来るのは妖怪や神くらいであった。銀陽はすでにゴロゴロしている。
少し落ち着かないが明日のために英気を養うしかないようだ。
「富士山頂か」
「どうしたの優君? 考え込んじゃって」
「チドリさんが言った富士山頂なら計画がそうそう実行されない。この言葉が気になってしまって。計画の場所が富士山頂と決めたはずなのに、実行しにくいなんて矛盾していて」
「ああそれね。実は彼女の言う通りなのよね。塵塚怪王も霊峰である富士山の力を借りるのは良い点だけど、山頂でっていうのがダメね」
「山頂に何かあるんですか?」
「ええ。私達と同じ存在がね」
☆
富士山八合目。
大きな鏡からぬるっと刀華が出てくる。周りには大きな鏡に映った少女の鏡子と大きな藁人形のワラワラがいる。
「鏡通路」
「それは便利な技だな。鏡がある所ならどこにでも行ける」
「何処にでもは言いすぎです。そもそもこの技は繋げる鏡をチェックしないといけません。さて、報告を聞きたいのですが見れば分かりますね」
「ああ、襲撃は失敗だ。王の妹様、チドリ様の所にバイトの連中が来る事は予想していたから待っていたのにおめおめと逃げる事になるとはな」
「襲撃はおまけです。1人を仕留める事が出来れば良いなくらいですよ? 本命は人数の確認です。人数は何人ですか?」
「人間6人、妖怪と神含め6の合計12だ」
「神様は厄介ですね。基本的に神様は反則ですから」
「だが、神にも弱点くらいある。鏡子よ」
彼女たちの会話に割り込んでくる言葉。発せられた言葉の方向を見ると山頂の方から杖をもった男性が降りてくる。頭には2本の角、逞しい身体つきに鋭い眼光。しかし身体は傷だらけ。
「王、その傷は・・・!?」
「早く手当てをしないといけません!!」
鏡の中から医療道具出す鏡子。それを急いで持ち、王と呼ばれる男性の傷を手当していく。
「どっこいしょ。あー疲れたわい。お茶あるかの?」
岩場に座り、王と呼ばれる男性が急に老人のような話し方をする。
見た目からは貫禄がありそうなのだが中身は老人のようである。
「王よ。素が出ています。気をつけてください」
「んんっ・・すまぬ。王らしい話し方をせねば仲間に示しがつかんからな。・・ぬぐ、沁みる」
消毒液が傷に染み渡る。この痛みが手当てに効いているのか疑問である。
「我慢してください。所で山頂での話しは終わったのですか」
「ああ、終わった。この傷だらけの身体を見れば分かるが大変であった。やはりワシらの計画を見過ごしてくれるわけにはいかないようだ。神ならば無関心でいて欲しいものだ」
「浅間大神ですね。お茶どうぞ」
鏡子がお茶を鏡の中から出す。湯気が出ており熱いのが分かる。
それをお礼を言いながら口に含む。口の中を切っていたようでお茶の熱さで微妙に沁みる。
「そうだ。それよりも違う別名もあるが、まあ関係無い。彼女が計画を無視してくれると嬉しかったのだが、妙に正義感があるからな。最終手段の強行に出たが、やはり神格の高い神だった。苦戦に苦戦だ」
「それで傷だらけなのですね。おかわりのお茶をどうぞ」
鏡子がまたお茶を入れる。口の中が沁みるので少しぬるくして欲しいと思うが、彼女に善意を無視したくないので我慢をしている。
「ヨク勝テタ・・・王サマ・・スゴイ」
藁人形のワラワラがお茶請けの麦饅頭を藁の手いっぱいに持ってくる。
それを一つまみ、口に放り込んだらお茶で流し込む。
「さっきも言ったが神にも弱点はある。この山にいる彼女は穢れをとても嫌っている。彼女だけではない。他の神も穢れは嫌っている。神にとって穢れは逆のものだからな」
「と言うことは・・・彼女に穢れを?」
「うむ。ワシの穢れの力なら可能であった。しかし手酷くやられた。結果がこの身体だからな。」
「彼女は戦えるような神には見えませんが、意外ですね」
「彼女は神であり、無駄に神通力も強い。それに青木ヶ原樹海の木霊までいたからな」
「木霊までいたんですか?」
「小娘ながら鬱陶しかったわ。腕の傷がそうだ」
傷だらけの身体を見せ付ける。手当てをしているため見た目は多少マシになっている。
包帯を巻き終わり、医療道具を鏡子の鏡にしまう。
「手当て完了しました。・・・計画の方に支障は無いのですか?」
「明日だけだろう。彼女はすぐに禊で穢れを落とす筈だ。時間は少ない、明日は迅速に計画を始める。この傷だらけの身体も明日には直る。・・・もう寝る」
岩場に座ったまま眠ろうとする。しかし話はまだ終わっていなかった。
刀華が眠ろうとする王と呼ばれる男性に話しかける。
「王よ。バイトの件があります」
「何だ? もしかしてバイトの連中が来るのか?」
「その通りです。チドリ様の処にバイトの連中が来ています。計画が漏れているでしょう。さらに彼等は私たちのブラックリストです」
「そうか。チドリのやつは計画を必ず話すだろう。ワシらの計画を最後まで反対であったからな」
ため息をつきながら富士山の麓のさらに遠くを見つめる。まるで予想をしていたように首を横に振る。
「相手は何人だ? 無駄に多いと面倒だ」
「人間、妖怪、神を合わせて合計12です」
「うむ・・・少し多いな。計画はワシ1人でも出来る。お前たちはバイトの連中を足止めしろ」
「了解しました。我等が王、塵塚怪王。塵義様」
計画実行が近づく。
捨てられし物の一揆が始まる。
読んでくれてありがとうございます。
感想など待っています。
ついに黒幕の塵塚怪王の登場!!
付喪神の王って時点で分かる人には分かったかもしれませんね。




