化け猫
投稿です。
まだまだ頑張ります!
ダレカ来タ。
ソトデ、ナツカシイ、カンジガシタケド。
ソレヨリモ、コノ家ヲ、マモラナイトイケナイ。
コノ家ヲ、コワシテナルモノカ。
ボクハ、アノ人達ヲ、イツマデモマッテイル。
「さっそく家の中に無断侵入したけど、なんていうかさぁ」
「ああ、何か無駄に広く感じる」
なぜ2人がこんなことを言っているかというと、外見の家は普通の大きさであったが家の中が異常であったのである。
家の中が外からじゃ考えられない異様な広さであり、部屋の数もいくつもある。
まるで迷路屋敷だ。
「やはり妖怪屋敷となっていたか。全くめんどくさいことになった」
「そうねえ。さっさと元凶を退治しないといけないわ」
「「妖怪屋敷?」」
妖怪屋敷とは、ある妖怪がここを自分の場所だと認識したことで発生する空間である。
空間はその妖怪が望む空間へと変化する。広くなったり、狭くなったり、空間そのものが全く違うものになったりなど。妖怪空間とも言う。神様の場合だと神殿、もしくは神域とも言う。
ある意味、異世界のようなものだ。
「異世界ってファンタジーのようなものを思い浮かべる」
「妖怪や神様が存在している時点でファンタジーだと思う」
異世界という定義は単純にゲームのような魔法とか剣、魔物などの世界だけではない。
異世界とは自分自身が知っている社会以外の世界のことだ。
1度も外国に行ったことがない人にとって外国は未知の世界ではないだろうか。
妖怪や神様が存在する空間も異世界であり、人間が立ち入る所ではないからだ。
今から入る屋敷は妖怪が住んでいる。これだけで、人間の社会を覆す。
猫柳たちは今まさに異世界の扉の前にいる。
「素敵な空間だね」
「最悪な空間でもあるけどな」
「さっさと行くぞ」
銀陽がポテポテと歩く。
広い広い空間、歩き回るのは疲れる。そして周りからの異様な雰囲気、普通に怖いだろう。
でも、やっぱり1人より数人なら、多少は楽である。
誰かが言った。人間は1人では生きられない、何もできない。
でも気の合う仲間がいれば不安がなくなる、何とかなる気がする。
「何か空き巣になったみたいだよ」
「言うな優」
「しかし、元凶が見つからんな」
「もっと奥でしょうね」
白羅が蛇津の首元で囁く。
確かに白羅の言う通り、奥に進むごとに何かを感じる。
これが妖気というものかもしれない。
「なあ銀陽」
「なんだ」
「さっきから小っちゃい何かがいるんだけど、これってさあ」
「雑魚妖怪だ」
さっきからチョロチョロいるのはやはり妖怪のようだ。
パッと見て、何の妖怪かは分らない。でもいろんな妖怪がいる。
「あ・・何か踏んだ」
「俺も踏んだ」
「この程度の妖怪なら悪戯くらいにしできないわ」
「雑魚ども邪魔だー!」
銀陽が鼠を追う感じに走り回っている。
小さい妖怪達は喚きながら逃げている。
「なんか笑っちゃうな」
「もしもーし」
猫柳が扉を開ける。
広い広い畳部屋であった。学校の体育館くらいはあろうか。
そして中心にぼんやりと薄黒い猫が佇んでいる。
「もしかしなくても、あれが元凶か」
「そうね。あの猫、妖気を滲み出してるし」
「こっちに気付いたみたいだ。」
「グググニャアアア。 コノ家ハ、コワサセハシナイ! ヴュアアアアアアア!!」
猫の体が膨張を始める。どんどんと大きくなる。
これが話で聞いた黒い大きな物体の正体のようだ。
その正体は化け猫。その名のとおり猫が妖怪に変化したもので、油を舐めたり、寿命を超えると妖怪となると言われている。
「銀一郎、蛇津!!、後ろに下がれっ!!」
銀陽がボンッと音と共に変身した。
銀陽は猫妖怪と言っていた。銀陽も化け猫なのだろうか。
「・・・久しぶりにこの姿になるな」
大きな体、毛並は銀色、二又の尾、鋭い眼つき、身体の所々に赤と青の模様。
「銀陽って、案外スリム!」
「そんなことは後にしろ」
銀陽がこうも変身したとは、やはり妖怪なんだなと思う。
銀陽は妖怪だと言っていたが、でもどこか神秘的な感じもする。
「意外ね」
「うるさい」
「化け猫が突っ込んでくるんだけど」
「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」
化け猫が咆哮しながら突っ込んでくる。
「チッ、もう突っ込んできたか」
「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」
銀陽と化け猫が激突し合う
「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」
「やかましいぞ!!この猫歴が十数年の化け猫がぁ!!」
化け猫が部屋の奥まで吹き飛ばされる。
しかし、すぐに立ち上がってくる。
「ガアァ。コノ家ヲ・・マモルマモルマモル!!」
「フン。頑丈だな」
銀陽に吹き飛ばされた化け猫は平気そうだ。
もう一度、ぶつかり合いが始まる。
向こうは言葉を発しているが会話は成り立たなそうだ。
しかし、化け猫は必至そうである。
「どうやらあの化け猫はこの家に執着しているようだね」
「ものすごい執着ね。向こうにも何かあるようだけど、こちらもこのままにするわけにはいかないわ」
「このままだとどうなるんだ白羅」
「良い質問だわ猫柳君。このまま化け猫が妖気を流し続けたら、この妖怪屋敷だけでなく、周りにも影響が出てしまうの。」
「それって妖怪屋敷の異常空間が外に溢れ出てしまうということですか?」
「その通りよ優君。今はただの広い空間だけど、もしこの空間の中身が炎であったら?」
「外に出たら大火災・・・」
この異常な空間が外にあふれ出てしまう。
ただただ広い空間なだけだが、化け猫が少しでも違う考えをもってしまえば空間が変化する。
変化した空間が危険な空間であったら、危険な空間が外に溢れ出てしまったら大惨事である。
「そうしないようにするのが私達の役目なの。私も戦線に行きますか」
白蛇の白羅が蛇津の首から降りる。
しゅるしゅると猫柳と蛇津の前に出る。空気中から水滴が発生し、白羅の周りを包むように集まる。
まるで水の卵のようだ。白羅を包んでいた水の卵が大きくなった瞬間、弾けた。
その中から現れたのは、艶やかな女性であった。
鮮やかな着物、腰まで伸びる綺麗な白髪、赤色の眼光、大きな胸、神々しい雰囲気。
そして、下半身は白蛇の胴体であった。
「ふふっ。どうかしら」
「「綺麗でっっっす!!」」
「ありがとう」
(好みかも)
蛇津はドキリとした。
(下半身が蛇ってどんな感じなんだろう)
猫柳は素朴な疑問を覚えた。
「なんだ、お前も戦えるのか」
「当たり前じゃない。ただの白蛇じゃないのよ」
「じゃっ見せてもらおうか。化け猫がまた突っ込んでくるしな」
化け猫が咆哮しながら再度突っ込んでくる。
「化け猫さん。あなたには悪いけどこちらも負けるわけにはいかないわ」
白羅の周りに水が集まり、水玉が複数個できる。
白羅が手を化け猫の方にはらうと水玉が弾丸のごとく飛んでいく。
「蒼玉。蒼色に染まりなさい」
化け猫が蒼玉によって包まれていき、弾けた。
「こんなものね」
「ただの水鉄砲みたいなもんだろ」
「うるさい。もっとすごいのがあるわよ」
これで決着と思えたが、そうではなかった。化け猫は起き上がってきた。
自分を鼓舞するかのように咆哮を上げる。
「まだまだ元気じゃないか」
「おかしいわね」
「弱いからだろ」
「あなたを先に仕留めるわよ」
「そんな言い合いしてる場合じゃないだろ。白羅、銀陽」
白羅と銀陽が言い合いをしていると猫柳がいつのまにか近づいていた。
相手はボロボロであるが気迫はなくならず、何度でも激突してくる。
銀陽と白羅にとって余裕のようだが、猫柳達にとってはそうではない。
その時、チリンという音が聞こえた。鈴が床に落ちた。それは猫柳がこの家に入る前に拾った鈴である。
「あ、落としちった。拾わねえと」
「グググ、その音、カタチ、ソノ鈴ハアアァァァ。」
「うん?何か化け猫が・・・」
「その鈴はボクノダアアアアアアアア!!」
「うおおおおお!?突っ込んできたあああ!?」
「危ねえ!!銀一郎!!!」
銀陽が銀一郎を身体全体で包み込む。
そのまま化け猫に突き飛ばされ壁際に激突し、激突した際に土煙が巻き起こる。
「ギン!!!」
「大丈夫よ。ちゃんとあの銀猫が守ってたから」
いつのまにか白羅が蛇津の横に戻っていた。
蛇津の腕を抱きながら。
そして蛇津の腕に柔らかい感触が襲った。
(やわらかい・・・)
「白羅さんっその・・っ、その腕・・いやギンは・・・」
「猫柳君なら大丈夫よ」
(照れちゃって可愛い)
そんなイチャツキより逆方向、猫柳達の方の土煙が晴れる。
そこから現れたのは、2本の銀色の尻尾、銀髪、猫耳の猫柳であった。
「もしかしなくてもギン!?」
「どうした?どっからどう見ても俺だろ」
「鏡見ろ」
「ない」
「頭の耳と後ろの尻尾」
「・・・・・なにこれ」
「コスプレかい?」
「コスプレには興味があるがこれは違うぞ」
「奇遇だね。俺もコスプレは興味ある」
「待て話がずれる」
(そもそも銀陽はどこにいった?あんなでかい図体が見当たらない。縮んだか?)
「銀陽ーーー!!!!どこだーー??」
『ここだ』
「!!!」
(今、銀陽の声が頭に響いたぞ!?え?本当にどこどこ?)
「まじでどこ???」
『ここ』
「だから分からんって」
『お前の中だ』
「・・・・・・」
訳が分からない。
『仕方ないさっさと説明するぞ。化け猫は待ってくれそうにないからな』
化け猫は少し離れた所でこちらを窺っている。猫柳の状態を警戒しているのかもしれない。
しかし、さっきのように急に突撃してくるかもしれない。だって、まだブツブツと「鈴、すず、スズ」とか言ってる。
そして今の猫柳の状態、これは銀陽が憑りついたと言っている。妖怪憑きというものだ。その名のとうり、妖怪が人に憑いた状態だ。
良く言えば人が妖怪の力を行使でき、悪く言えば妖怪に操られるという訳だ。銀陽はさっきの吹き飛ばされた衝撃でつい憑りついちゃったとのこと。
『悪いな。すぐに離れるから・・・』
「ガアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!。」
『ちっ、また突っ込んできたか・・あの化け猫は突っ込むことしか考えないのか?』
そんなことを言いながらヒョイと化け猫の突撃を躱した。
「ちょ、銀陽。勝手に俺の身体を操るな」
『あん?化け猫に轢かれたかったのか?』
「なんでもないです」
『分かればよし』
「でも、このままか?」
『そうだな・・・おっと、また突っ込んできた』
「・・・・・・・・・・・・・・仕方ないな。この身体は貸すよ。怖いけどさ」
『いいのか?じゃあ遠慮なくっ!!!!』
「・・・少しは悩めよ」
そう言うと化け猫にまっすぐに突っ込んで行き、拳を突き出した。
拳が化け猫の額に当たった瞬間、化け猫が吹き飛んだ。
「自分の身体がとても軽い、それに力が溢れる感じだ」
『そりゃあ、この私が憑いてるからな。さて、時間を掛け過ぎたな。さっさと終わらせるか』
蛇津と白羅が近づいてきた。
そろそろ決着をつけようのことだ。化け猫はもうボロボロである。しかし決定打とも言える一撃を食らわしていない。
「まず仕留めるには相手の隙を突かないといけないわね。何か良案ある?」
「そうですね。なあギン、さっきの鈴持ってるか?」
「持ってるぞ。ほら」
蛇津が言うにはこの鈴で隙を作れないかということだ。
確かにあの化け猫はこの鈴に対してものすごい執着を表している。本当にさっきから鈴に対してブツブツ言って、もう鈴しか見えてない感じだ。
だからこそそれを利用する手はない。作戦は至って単純、囮り兼仕留め役と隙を作る役に分かれるだけだ。
「こっちだ化け猫!!この鈴はお前のだろう!?俺から取り返してみろ!!」
猫柳が大声を発しながら走る。化け猫の鈴を見せつけながら走る。
これに食いついてくれなければ作戦は始まらない。
(どうだ?食いついたか?)
「カエセェェェェェェェェェェ!!!!」
「スゴイ食いつきだ!!!!メッチャ突っ込んでくる!!」
しかし、作戦はこれで良い。あとはこの鈴を。
「自分の鈴くらい、自分でキャッチしろ!!!」
「ガアアアアアアアア!! ガッ!?」
化け猫は前のめり倒れた。後ろ脚に異変を感じた。
理由は簡単だ。化け猫の後ろ脚を見れば解る。
化け猫の後ろ脚には水の蔦のようなものが巻き付いている。
「青蔦。 相手の自由を奪いなさい」
「ギン、銀陽さん、あとは頼む!!!」
『よしきた!!銀一郎行くぞ!! 全力で全てをぶっ潰す』
強く握りしめられた拳が化け猫に向けられる。鈍い音とともに決着はついた。
大きかった化け猫は元の大きさの猫の姿に戻っている。
さっきまで発していた妖気は感じられない。もう動けないようだ。
「やっとおとなしくなったか。少し時間がかかったがバイトは終了だ」
「お疲れ様。優君、猫柳君。さて、あとは化け猫を・・・」
「どうするんですか?」
「禊って解るかしら?」
「穢れを祓うってやつの・・・」
「川だか滝だかに入るやつか」
「その通りだ。そこの化け猫を禊が行われる川や滝にぶちこむだけだ」
暴走した妖怪や堕ちた神は穢れを持っている。その穢れを完全に浄化するには禊を行う必要がある。
禊のおかげで暴走した妖怪は正常になり、堕ちた神は元に戻ることができる。
これもバイトの目的である。銀陽は面倒くさいらしい。
「あとは任せろ。バイト代も出るぞ」
「おう。っていつのまにか俺の中から出てるし」
「ギン、まだネコミミと尻尾はついてるぞ」
「なんで!?」
こういう時は元通りになっているはずなのだが、どうやらゲームや漫画のようにはいかないらしい。
説明を聞くと銀陽の妖力は猫柳の身体に残っているそうだ。その妖力が妖怪憑きの状態を維持している。
例えるなら、風呂から出た後に身体に水滴が引っ付いてる感じだ。乾けば水滴が消えるように、ほっとけば消えるとのことだ。もしくは自分の中に残った妖力をコントロールすれば良い。そんな説明を聞きながら長い長い廊下を歩き、妖怪屋敷から抜け出した。
「じゃあ禊に行ってくるわ。遅くなるかもだから先に帰っててもいいわよ」
「ほうりこんでくるから。銀一郎、晩飯頼む」
「待った。化け猫・・いや、チョウ。この鈴は返す。もう離すなよ」
(川の中にほうりこむけど、大丈夫かな)
これでバイトが終了した。
今考えてみると信じられない体験であった。
これがこれからも続くことを考えながら、頭の片隅に置き、帰路についた。
「ギン・・そのネコミミと尻尾どうするんだ?」
「・・・・・」
「ギン?」
「どうしよう・・・」
ぼくはチョウ。長い年月を生きたことで化け猫になれた。
川の中に投げ込まれた時は大変だったけど銀猫が教えてくれた。
ボクの家族が捜していると、それを聞いた時は嬉しかった。
ボクは妖怪になってしまったけど、家族に会うくらいなら大丈夫だよね?
鈴の音を鳴らしながらボクは彼に再開した。
読んでくださってありがとうございます。