髪切り
目の前には銀猫と黒犬がいる。
「呼ばれて来たけど何だ銀陽?」
「クロも一緒ね。何かあったの?」
猫柳の家の前に銀陽とクロが待っており、そのまま部屋に入る。この時、犬坂が久しぶりに猫柳の部屋に入ったと思い出していた。なぜ呼ばれたかの理由を話し出す。銀陽でなくクロが。その前にお茶とポテトチップを出す。
「実は犬坂が妙な気合を出していた髪切り事件なんだが、犯人がただの変質者ではなく妖怪という事実が分かったんだぜ」
「それって大きな口で黒い物体って奴?」
「それとは別件だぜ。まあ両方とも妖怪だがな」
髪切り事件の変質者は警察に任せようとしていたが、相手が妖怪とならば黙っていられない。
元々大事な髪の毛を勝手に切っていく奴なんて許さないと思っているので犯人が妖怪で怪奇事件と分かった今、犬坂がさらに気合をかもし出している。
さらに髪切り事件の犯人が大きなハサミを所持していたと銀陽が見たと言う。可能性として神馬の怪奇と繋がるかもしれない。
「なるほどね。それなら優たちも呼べばいいのに」
「パリパリッ。それはさっき犬坂が言ったように大きな口に黒い物体だったか? そっちを蛇津たちに任せるからだ。もう1つの怪奇も見逃せないからな」
銀陽がポテトチップスを齧りながら犬坂の対する答えを言う。
話では大きな口に黒い物体の怪奇は卯月が伝えに行ったという事。今回は怪奇が重なってしまったため、2手に分かれる作戦にしたのだ。
「馬城の方も別件で動いている。穀菜が調べたい事があるそうだぜ。俺様たちはこれから髪切り事件の妖怪を退治しに行くぜ」
これから退治しに行く。この言い方は髪切り事件の犯人の居場所が分かる含みをしている。
詳しく聞いてみると、やはり知っていた。銀陽の猫仲間とクロの犬仲間が探したの事。ある意味人海戦術だ。
「報酬は鰹節だから、今度用意しないとな」
「こっちはとりあえず肉だぜ」
仲間の猫や犬たちはタダ働きでは無いらしい。クロはちゃんと報酬は出しそうだが銀陽も出すようだ。
ただの食い意地の張った銀猫では無く、相手の事も考えている。少し見直す猫柳だった。
「仲間の犬たちの目撃パターンを計算し、出現場所をピックアップしたぜ。その場所を歩けば向こうから引っかかるだろ」
町の地図を広げると赤いバツ印が記してある。よく見ると猫柳の家から近い場所にも赤いバツ印があった。以外にも早く髪切り事件の犯人が見つかりそうの予感がする。さすが神と言うべきか。
「じゃあ、あたしが囮として歩くわ。そして変質者という妖怪の顔に今までの被害者の代わりに蹴りをぶち込んでやる!!」
「俺も囮になる。今回は男も狙われるから、カツラでも被って歩く・・・カツラっていくらするっけ?」
「よし!! 夜まで待機と飯だ。犬坂は一緒に飯食ってけ」
「いいの?」
「構わないけど、一応確認取ってくる。昔からの付き合いだから親も了承するだろ」
猫柳が部屋から出て行き、ドタドタと階段を降りる音が聞こえてくる。部屋に残るは犬坂と猫、犬。
「・・・そういえば普通にギンの・・男の部屋に入っちゃった。今更だけど何か落ち着かないな」
さっきまでバイトの話で気にはしなかったが、話が終わると急に意識をしてしまう。その様子に気が付いたクロがからかい出す。
「どうした犬坂? 部屋の物色でもしたいのか? ん?」
「な、何言ってんのよ」
「そりゃあ・・浮気してないか確かめたいんだろ? 少しなら手伝ってやるぜ」
「なっ!? う、浮気って・・あたしとギンはそんなんじゃ」
「照れるな照れるな。恋する乙女としては気になるよな。俺様は乙女ではないが」
「だったら分からないでしょ!」
犬坂とクロのやり取りを銀陽がポテトチップスをかじりながら、一言。
「神ってのは、ある意味下世話だな。パリパリッ」
「そう言うな銀陽。神様は人間の縁結びに関しては楽しみでもあるんだぜ。見ていても楽しいし、キッカケを作るのも楽しみなんだぜ」
「お前って縁結びも出来たっけか?」
「一応出来るぞ。それに大抵の神様は神無月で縁結びの会議までするからな」
「パリパリッ。そういえばそんなのあったな。・・・・そういえばベットの引き出しに・・」
銀陽が呆れながらも最後に意味深な言葉をボソリと言う。
その言葉に反応する犬坂とクロ、視線はベットの引き出しに注目している。何があるかは想像にお任せしよう。しかし猫柳に関してはピンチ到来である。静かにベットに近づく。犬坂は頭の中で引き出し開ける理由を考えていた。本当に開けていいべきか悩んでいるが正直クロのせいにしようと考えて始めていた。さっきも少し手伝うと言っていたのだ。では手伝ってもらおうと。
(で・・でもこんな事していいのかな。嫌われたりでもしたら・・・)
「ただいまー。って誰?・・・あんたは」
犬坂が悩みに悩んでいたら勢いよく窓がガラリと開き、鎌鼬の切子が自分の家のごとく上り込んで来た。
妖怪とはいえ女の子が猫柳の部屋に急に上がりこんできたので言葉を失う。犬坂と切子がお互い見つめ合ってから数秒が経つ。
「あんたは鎌鼬の切子・・・ちゃんだっけ?」
「そうよ。あと切子でいいわ。あんた確か猫柳の友達もとい、片思いの犬坂爛だっけ?」
「ちょっ、片思いって!?」
「正解だぜ」
クロが代わりに答える。その瞬間さっきの言葉を訂正するように頭を軽めに叩く。
「痛っ。本当の事だろ」
クロの頭を叩き続ける。
それを気にせず切子は猫柳のベットに寝転がる。それを見た犬坂は声を少し荒げて注意した。
「な、何してんの!? そのベットはギンのよ!!」
「何って、寝てるだけ。そこまで変じゃないでしょ?」
「おい鎌鼬。今日も泊まりか?」
「そ。また部屋を貸してもらうわ」
「またって・・・。銀陽、切子は何回かギンの部屋に泊まってるの?」
「最近は毎日だな。前に言わなかったか? ほとんど同棲もみたいなもんだな」
同棲という言葉を聞き犬坂の頭にピシリとヒビが入る音が聞こえた。現実的にではなくイメージ的に。
そんなタイミングで猫柳が部屋に戻ってくる。これから一悶着ある可能性があるのに。
「おーい。母さんに話したらぜひ飯食ってけって・・・・・って切子じゃないか、今日も泊まりか?」
「うん」
「いつも言ってけど、自分ん家だと思ってゆっくりしていけ」
「また頭を撫でる・・・」
「悪い。何か条件反射で」
切子の頭を撫でる。猫柳は気付かないが切子はある顔をしていた。恥ずかしながらも嬉しそうな顔。
犬坂とクロだけは分かる。あれは乙女の顔であり、恋をしている顔だと。
(嘘でしょ。ギン・・いつのまに。本当に詳しく聞く必要がありそうね)
(おいおい何か面白くなりそうだぜ。これは引っ掻き回すか様子見かどっちにするか)
「ポテチうめえ。パリパリッ」
猫柳が切子の頭を撫で終わり、当初の話に戻そうとしたら肩に力強く犬坂の手が置かれる。その手の力強さは尋常ではなくメキメキと恐い音が聞こえてくるのが妙にリアルだ。なぜか犬坂の顔が見れない猫柳だった。
「肩が痛いんだけど。俺何かしたか?」
「本当に切子について詳しく聞きたいんだけどさ。何があったの?」
「前に話した通りだが」
「他にも何かあったでしょ?」
「何もありません」
犬坂の威圧でいつのまにか敬語になる。
実際の所、猫柳は分からないとしか言えない。何か余計な事を言ったら言ったで痛い目に合いそうだからだと本能が警告しているからだ。否定を繰り返すしかない。
「アタシと猫柳は特に何も無いから安心していいよ犬坂」
猫柳と犬坂の痴話喧嘩を見ても楽しく思わなかったのだろう。急に助け舟を出す。しかしクロが見事に引っ掻き回してくれた。
「何も無かった事はないだろう。さっき撫でられていた顔は何かあった時の顔だせ。んん?」
「な!?」
平然としていた切子の顔が見る見ると赤くなっていく。頭を撫でられていた時の顔は誰にもバレていないと思っていたのだろうか。
しかし他人から見ればバレバレだ。特に恋に敏感な人と下世話な人には。
「こ・・この下世話の神犬めぇ」
「バレてないかと思ったか? ん?」
ニヤニヤとするクロに鎌鼬を放とうと腕を振り上げようとしたが、猫柳に掴まれる。
「俺の部屋で鎌鼬を撃とうとするな!! あと肩が痛いです爛」
「手伝ってくれ銀陽。あとで美味いもん食わすぜ」
「いいだろう!!」
銀陽とクロが狙ったように猫柳たちを軽く蹴り飛ばす。するとベットに3人が一緒に寝転ぶ。
見た目は両手に花状態、男には羨ましい光景だろう。その羨ましい男である猫柳の反応は。
(両側から良い香りがする。そしてこの状況・・すごい役得だ!! あとが恐い気がするが)
猫柳もいっちょ前に男です。
犬坂はというと。
「ちょ・・・えっ・・・うう」
顔を真っ赤にしながらテンパっていた。
(ええ!? クロ何してんのよ!! ああでも、ギンの顔がとても近いよう)
恋する乙女であった。
切子はというと。
「あ・・・・・・・・・」
今までこのような体験をしてこなかったため犬坂と同じように顔を真っ赤にして固まる。
そんな3人を見てクロがニヤニヤしながら銀陽と部屋から出て行く。去り際に言葉を残す。
「ごゆっくり・・・だぜ」
「飯食ってくる」
「まっ待てええええええ!!」
犬坂の荒げた声が響く。
もう収集がつかない気がするが銀陽がさっさと飯を食いたいとの事で強制的に空気をぶち壊した。
「飯だ!!」
銀陽のおかげである意味助かった猫柳。あとでそっと茶菓子をあげようかと考える。
しかし部屋で一悶着あったがこれで終わりではなかった。今度は夕飯の時に猫柳の母親が犬坂に、お似合いだとか嫁にだとか言って、食卓を困らせる一悶着があった。詳しい事は暇な時に語られるだろう。
「今日は静かに飯が食いたい・・・」
夕飯を食い終わると外に出かける用意をする。バイトの時間が近づいたからだ。怪しまれぬように猫柳は家族に犬坂を家まで送っていくと伝える。そう言えば誰もが納得する理由だ。そうすれば家族に心配させず一時的に夜の町に繰り出せる。
家の外に出ると辺りはもう暗い。頬を叩き、気合を入れると同時に恐怖も払拭する。
「準備はいいか? これから髪切り事件の妖怪を退治しにピックアップした場所へと向かう。出会ったらすぐに妖怪憑きで仕留める」
「了解」
夜の町へと走る猫柳たち。今この町には妖怪が跋扈している。
そのために猫柳と犬坂は髪切り事件の解決へ、蛇津と兎姫は髪切り事件に便乗した妖怪退治、馬城は穀菜の別件で動いている。自分たちの役割を持ってバイトが始まる。
☆
1人夜道を歩く少女の犬坂。辺りは不気味な程に静まっている。それでも彼女は黒髪のポニーテールを揺らしながら夜道を歩き続ける。
(こうやって夜道を歩くのは月下の美男子事件以来ね)
前の事件である月下の美男子事件を思い出しながら夜道を歩いていると背後からゾワリと悪寒を感じた。
「キレイな黒髪ねえ。わたしが切ってあげましょうか? ンフフ」
いきなりだった。犬坂の背後から急に話しかけられた。口調はどこかオネエっぽい。
シャキ・・・とハサミを開くような音が聞こえくる。
「わたしがキレイに切ってあげるわ。腕には自信があるの」
「嫌に・・・決まってるでしょ!!」
腰をひねり、背後にいる変質者に蹴りを喰らわす。変質者の反射神経は良いらしく、腕で受け止められていた。その時に見たくもない変質者の姿を見た。何とも奇抜な服装で、腰には散髪道具がつけてある。髪の毛はまとめて結んであり、紫色の口紅を塗っているなど濃い化粧が目立つ。
「あら? やる気? わたしこれでも強いよ」
「さっそく引っかかったわね」
「引っかかるって何の事?」
「こういう事だぜ。あと犬坂はこれでも強いぜ。油断してるとその顔に蹴りがぶちこまれるぞ」
「痛いぃ!?」
変質者の腕にクロが噛みついていた。
痛みに顔を歪ませ、ブンブンと腕を振ったが離れない。それならばと、変質者はクロの喉元にハサミの切っ先を突き刺そうとする。
「 危ないぜ」
ハサミの切っ先を避け、犬坂の前に着地する。
「 痛たた・・・。わたしの腕が動かなくなったらどうするの!?」
「さあな。しかし髪切り事件の変質者とやらが妖怪だとはな。それならば俺様たちも介入できるぜ」
「俺様・・・たち?」
「よう。あの時は逃がしたが、今度はそういかないぞ髪切り」
「ゲッ、あの時の銀猫。・・・あらいい男もいるじゃない。髪の毛もいい感じ」
「すごい悪寒がするんだけど」
銀陽と猫柳が妖怪と呼ばれた変質者の背後に現れていた。そして銀陽は髪切りと言った。
髪切り。
相手の背後に突然現れ、素早く髪の毛を切る妖怪である。キレイな髪の毛を切る事に幸せを感じており、ある意味変質者ではある。
「大きな口に黒い物体って奴じゃないがある意味当たりだ。それにハサミに関して聞きたい事があるからな。神馬の事とかな」
「神馬え? そんなの知らないわ。でも大きな口に黒い物体ってのは心当たりがある。たぶんアイツの事ね」
「アイツ?」
「髪食いって妖怪よ。でもアイツはダメね。わたしみたいに髪の毛を大事に思わない。ただの食材としか見ないわ。何かわたしに便乗して人間達から髪の毛を食い千切ってるみたいだけど、質の良い髪の毛まで食い千切られたら、たまんないから後で止めさせないと」
髪切りの右腕が大きなハサミへと変形する。腕の大きなハサミを見ると神馬の身体の一部を持っていた時に襲われた大きなハサミを思い出す猫柳たち。
「まあその前に、まずはあなた達から髪の毛を切らせてもらうわ。キレイに切ってあげる」
「嫌っ!! 髪の毛は切らせないけど、蹴りはあげるわ!!」
妖怪憑き、神憑きで応戦開始。
読んでくれてありがとうございます。
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今回は怪奇解決の前に軽めのイチャイチャシーンぽいの書きました。
それらしくなったかな?まだまだ未熟なので頑張ります!!
何かコメントがあれば是非ください。




