卯月が見たものは髪食い
学園での授業をこなしつつ、休み時間になると髪切り事件について、知り合いにそれとなく聞き込みをする猫柳たち。犬坂が言っていたように髪切り事件に変な噂が追加されていた。
黒い物体に大きな口。髪の毛を食い千切られる。元々は髪切り事件の変質者が長髪の男女から切った髪の毛を口に含んでいる姿を見たと言う噂と本当に大きな口のある黒い物体に髪の毛を食い千切られたと言う噂が混じってしまい、聞き込みから変な事件内容になっていた。
「大きな口のある黒い物体の部分に関しては確かに怪しいな。話によると昼でも夜でも出現するらしいじゃないか。しかもオレ等の住む町にいるとか何とか」
「おいおいマジか。案外身近じゃねえか。犬坂と兎姫の狙われる確立が2倍になっただろ」
「どこからでもかかってこいだヨ」
「そうね。変質者だろうが妖怪だろうが女性の髪の毛を狙う奴は蹴り飛ばす」
「狙われているのは女性だけじゃないんだけどね」
放課後すぐさま被害があったという場所に向かう。ドラマや漫画ではないが、犯人は事件のあった場所に戻ると言われている。
もしかしたら何か手掛かりがあるかしれないし、犯人本人がいるかもしれないからだ。
被害があったのは路地裏。町には路地裏いくつかあるため、どこの裏路地かは特定が難しいが噂の情報を頼りに候補を見つけていく。
「やっぱドラマみたいに犯人は現れないか。ていうかもし現れたとしても穀菜たちがいないから丸腰みたいなもんだけどよ」
「そんな事ないわよ。私がいるもの」
蛇津の胸元から白蛇がヒョイと顔を出した。その白蛇は神である白羅であった。
「あれ、白羅いたのか?」
「実は白羅さん、いつもオレと学園に来てたよ」
「そうなのか? 全く気がつかなかった。いたんなら言ってくれれば良かったんだが」
「あなたたちの学園生活だもの。神である私が介入したら悪いでしょ」
「ノ、割にはユウユウの服の中に入って介入してナイ?」
「可能なら優君と離れたくないわ」
言いたい事を言って、しゅるっと蛇津の服の中に入る白羅であった。
「マテ」
兎姫が蛇津の胸元に腕を入れ、白羅を引っ張り出そうと掻き回した。くすぐったいので笑い出す。
「捕まえタ!!」
「もっと優君の体温を感じたかったのに。でも家の帰ればいつでも・・・って握る力が強いわよ」
「神サマなら自重してくださイ」
「どうしようかしら?」
「オレも少し自重してくれるとありがたいんですが」
「えー優君まで。私はもっと触れ合いたいのに」
「触れ合うのは構いませんが、たまに・・その、舌で舐めるのはちょっと・・・」
「今のはどういう意味ダ!!」
「さすがに上から下まではダメだったかしら?」
「詳しク!!」
何かおもしろそうな話の展開が広げられている蛇津たちを見ながらニヤニヤする猫柳。いつもは蛇津の方がニヤニヤしているが今日は逆であった。
すると肩に犬坂の手が置かれる。何かと振り向くと、犬坂の無言で威圧していた。なぜ威圧されていたか分からない。
「え・・何?」
「急に思い出したんだけどさ。鎌鼬の切子・・ちゃんだっけ? あの時はうやむやのまま流されたから今度こそ詳しく聞こうかと」
「え・・・と」
猫柳の方もおもしろそうな事になりそうだと馬城が様子を見ている。なぜか少し羨ましいと思うのは男女の絡み的なものだと、馬城が頭に引っかかる。自分も青春したいと。
プルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルル。
急に電話のコール音が鳴り響く。
「あ、おれだ。もしもし・・穀菜か、何かあったのか? ・・・ていうか、携帯電話持ってんのか」
電話の相手が穀菜というのは疑問ではない。馬城が気になった点は神である穀菜から電話がかかってきた事である。これは神が携帯電話なんて持っているのかという疑問なのだ。
『携帯電話くらい持っていますよ。もちろん特別製ですので、馬城殿たちの使っている携帯電話には私がかけた履歴等は残りませんよ』
ついに神も電話を使う時代になってしまったらしい。神からかかってくる電話は一方的のようだが。
「話が逸れちまっただ、何んだ?」
『そうでした。1度戻ってきて欲しいのです。神馬について話したい事あるので』
「おう。ちょうど皆いるから今から行く」
『皆もその場にいるのですか? ならば伝えてください。銀陽殿が猫柳殿を探していたと。他にも・・』
「ふんふん。分かった、伝えとく」
携帯電話を切ると穀菜が伝えて欲しい事を猫柳たちに話す。
銀陽とクロが猫柳と犬坂を呼んでおり、一旦家に帰って来いの事。馬城も穀菜に呼ばれている。
「銀陽が呼んでいるのか、じゃあ今日は帰るか」
「オレとティアは馬城と一緒に行こうか?」
「それは大丈夫だ。特に皆で聞く話じゃないらしいから、おれが聞いて後で話すわ」
「ジャア、ワタシとユウユウはもう少し調査しヨ。時間もマダマダあるしネ」
「では解散」
猫柳たちはそれぞれ自分の向かう場所へと移動する。
「あれ? おれはどこに向かえばいいんだ?」
また電話からコール音が鳴る。相手は穀菜から。
『すいません。場所を伝えるのを忘れていました』
「おう・・・場所は・・え、おれん家? 神域とかじゃなくて? ああ、おれん家」
その場に残った蛇津たちはまだ調査を続けるが、これ以上は有益な情報は得られなかった。仕方ないので休憩のためファミリーレストランに入る。いつのまにか白羅が人型になっており、その艶やかな美しさから周りの注目を浴びている。
「この姿じゃないと注文できないからね。・・・卵スープで」
「さり気なくユウユウの横を奪われたヨ・・・チーズケーキ」
「ハハハ・・・オレはバニラアイス。それと大盛りフライドポテトで」
注文し、店員が戻ろうとすると蛇津たちではない声に呼び止められる。
「卯月はこの抹茶葛餅パフェでお願いしますです」
いつのまにか兎姫の隣に短髪に兎耳を生やした小さい女の子が座っていたのだ。しかも彼女は卯月と言った。
「もしかしテ・・・ウヅキ?」
「そうです」
いつのまにか現れた卯月に白羅以外が驚く。店員も兎耳を生やした女の子に驚いていたが何も無かったように注文を受け、その場から去る。
「いつのまニ。ていうかカワイイ!!」
卯月の可愛い人型に目をキラキラさせ抱きつく。抱きつけられた卯月はワタワタと驚く。
白羅だけでも周りから目立つというのに兎耳を生やした女の子まで加わったため、さらに周りから目立ってしまう。兎耳が生えている時点で周りから目で必ず見られる。さっきも関から離れた人がこちらをチラリと見ていた。注目されるが卯月が小さい女の子の姿であるため、兎耳はオモチャのカチューシャとして見られないだろう。時間が経てば注目の目も減ってくるだろう。
「卯月に内緒でレストランに入るなんてズルイです。卯月も入ってみたかったんです」
「ナイショにしてわけじゃないヨ。今度違う店にも連れてってあげるから許してネ」
「やったあです!! あ、それと怪奇について話したい事があったです」
卯月が話したい事とは蛇津たちが調査していた大きな口に黒い物体についてだった。思わぬ情報の収穫に怪奇解決へと近づくはずだ。注文していたメニューが思いの他速くに店員が持ってきてくれる。
抹茶葛餅パフェを食べながら卯月が見た怪奇について話してくれた。
「むぐむぐ。確かにあれは大きな口に黒い物体・・というよりも大きな黒い身体でしたです。人間じゃなくて妖怪です」
「ウヅキが言うなら間違いないでショ」
「しかも穢れもありましたです」
「話を聞いてて思ったけど、たぶん髪食いって妖怪ね」
髪食い。
相手の背後に現れ、髪の毛を食い千切る妖怪。
自分の髪の毛に自信と誇りを持つ者の最大の敵とも言えるだろう。
「これで確定したね。穢れを持ち、人を襲っているならばバイトの活動だ」
調査していた事件が怪奇へと繋がった。これならば髪食いを探し出し、退治するだけだ。しかし退治に至るまでが大変である。探し出すのが困難なのだ。髪食いは蛇津たちの町に昼夜構わず出現するらしいが、町の広さを侮ってはいけない。
「町は広いから探すのは一苦労するかナ。とりあえず歩き回ル?」
「そうです。いつの時代も自分の足で探すものです」
髪食いを探し方は卯月の意見により、とりあえず歩き回るに決定した。
狙われるのは長髪の男女という事で兎姫はそのまま歩き回ればよいが、蛇津はカツラを被る事にした。髪食いにカツラという偽の髪の毛に誘われるかは分からないが。
「私の勘では男性の髪の毛よりも女性の髪の毛の方が狙われる確立が高いと思うのよね」
白羅が急に何かを思いついたように蛇津に向かって言う。その顔は何かを企んでるとすぐに理解できる程だ。キラキラさせている目は確実に蛇津を捉えていた。
「・・・何ですか白羅さん?」
「出会う確立を高くするために女装しましょう。・・・いいわよね?」
食べていたフライドポテトの味が無味になってしまった。蛇津の目に写っているのはすごい笑顔の白羅に、兎姫と卯月までもキラキラした目になっていた。味方は1人もいない。このままだと蛇津はなし崩し的に女装をする破目になるだろう。どう論破するかと考え、頭脳をフル回転させた。
「待ってくださ・・・」
「おもしろそウ!! ユウユウなら絶対に似合うヨ!! 女装するべきだヨ!!」
「ティア落ち着い・・・」
「卯月も良いと思いますです!!」
「あの・・・」
「決定ね。これから服を買いに行きましょか。支払いは私がするわ」
「オレの意見は・・・・・・」
頭脳をフル回転させても意味は無かった。白羅たちに引っ張られ、ファミリーレストランを出る。
蛇津の運命は如何に・・・・・。
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