怪馬
猫柳と犬坂組に馬城組が合流し、兎姫から送られたメールを頼りに首切れ馬がいる場所に急いで向かう。
「見えたぞ。あそこに妖怪空間の入り口はある」
「え、妖怪空間って?」
「私が創り上げた神域のようなものです」
馬城の疑問を穀菜が答える。
彼等の目の前に歪んだ空間がある。あれが首切れ馬が創り出した妖怪空間への入り口である。
「入るぞ!!」
「おう!!」
首切れ馬の妖怪空間、恐馬場に入り込むと蛇津と兎姫が戦っていた。
状況を見ると蛇津と兎姫は無傷であり、無事である。しかし首切り馬の姿が何か違う。
首の無い馬の姿であるのだが、馬の尻尾が首切れ馬の身体に巻きついて鎧のように纏われている。
「おいおい。蛇津たちは馬の尻尾を回収したんじゃないのか? メールには回収したってあったのに」
「逃がしたか? 白蛇と月兎は何やってんだ」
見ているだけでは何も起きないので、蛇津たちの援護に行く。
「大丈夫かー!!」
「皆、下に気をつけて!!」
「下・・・?」
「急いで横に跳べ銀一郎!!」
「馬城殿!!」
ズボォア!!
地面の中から1.6mのハサミが姿を現す。ハサミは黒い腕のようなものが掴んでいた。
ハサミは猫柳と馬城が持っている袋目掛けて大きく開き、切断するべく閉じた。
ジャキン!!
「「うわっ!?」」
ハサミの餌食にはならなかったが神馬の身体の一部を入れていた袋が切断された。
袋の中からさがりと馬の目が飛び出す。2つの神馬の身体の一部は首切れ馬の元へ向かう。
そして神馬の身体にくっ付く。足の部分以外が元に戻った。
「穀菜、神馬は元に戻ったのか?」
「いえ、あれは違います。 元の姿に戻ろうとする意思は感じられますが、別の物になっています」
黒い靄が神馬だったものを包み込み、黒い球体となる。
ピシリと亀裂が入り、割れる。中から出てきたのは脚が1本無い、馬のような妖怪であった。
怪馬。
馬が妖怪化し、首切れ馬よりも凶暴である。
「まさか合体するとは」
「妖気が膨れ上がったぞ。私らも行くぞ」
怪馬の出現に驚くが、それよりも気にするべき事がある。
地中から出てきたハサミについてである。あのハサミは一体何なのか、猫柳たちが持っていた神馬の身体の一部が入った袋を狙った後は消えていた。
ハサミは物を切断する道具である。そのハサミを誰かの腕が掴んでいた。
(この場に俺様たち以外にも誰かいるのか?)
クロがここら一帯の気配を調べるが、さっきのハサミを持った腕の誰からしき気配はもういなかった。
(おかしい。この妖怪空間から消えたのか? 入ったら簡単には出られないはずだが・・・)
「ブォオオオオオオオオブルルルルルルルル!!」
「神馬よ。私の声を聞いてください!!」
穀菜が怪馬になってしまった神馬に声を掛ける。
しかし声を掛けても返事はただの怪馬の不気味な咆哮のみであった。
「やはり私の声は届きませんか・・・」
「バァァブゥルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルル!!」
蛇津たちが攻撃を止め、猫柳たちの元へ戻ってくる。
「さっきのハサミも気になるが、まずは怪馬をどうにかしよう」
「ええ。クロ神憑きを・・・」
「お待ちください皆さん。ここ私が馬の神として、馬城殿と一緒に決着をつけます。お願い出来ますか馬城殿」
「もちろんだ!! おれの出番が来たぜ。猫柳たちはおれの活躍を見てな!!」
「「「「頑張れ」」」」
「もしもの時は私たちも動くぞ」
銀陽が猫柳の頭の上に乗る。
銀陽の言う通り、もしもの時は馬城を援護すべき構えていなければならない。
「・・・ハサミにも気をつけないとな」
「もうこの妖怪空間にハサミを持った奴の気配は無いぜ」
「もしかしたら、そのハサミを持った人物が神馬をバラバラにした犯人かモ」
「可能性はあるね」
クロはもういないと言うが、それでも周りを警戒してしまう。
馬城と穀菜は神憑きの状態になっており、怪馬の前に出る。
神憑きの状態になっている馬城は馬をモチーフとした姿であった。
馬の耳、馬の尻尾、髪の毛は鬣が伸びている。腕と脚には馬の毛皮のような籠手が装備されていた。
「力が溢れる!! 今なら何でも出来そうだ!!!!」
『油断はいけませんよ馬城殿』
「分かってる」
『あまり苦しませず、一瞬で片付けます。私としても神馬、いや怪馬を痛めつけたくは無いので』
馬城が構えると怪馬が3本の脚でバランスを取りながら突撃してくる。
突撃してくる怪馬を馬城は正面から受け止める。
「どうららああああああああああああああああああああ!!」
『闘心馬力。馬城殿の闘争心に比例して馬力が上がります』
突撃を止め、右拳を前に突き出す。
ドコォン!!!!
怪馬が突き飛ばされた。馬の体重は固体によって1tを超えるものもいる。
怪馬も大きさからして1tはある。その怪場を突き飛ばした馬城の怪力が分かる。
「まだまだ!!」
突き飛ばされた怪馬が体勢を崩し、立とうとしても3本脚のため時間が掛かる。その隙が決定打を狙う時。
全力で走り出し、攻撃を繰り出す。
「瞬馬轟蹄!!!!」
馬城の足に馬の蹄の靴が装備され、轟くように蹴り入れる。
ズドォンン!!!!
馬の蹴りは相当な力を持っている。それが馬の神である保食神の力ならば想像を絶する。
怪馬は拳で突き飛ばされた時よりも飛ばされていた。
蹴られた衝撃が余程なため、ピクリとも動かない。
「勝利だ!!」
天に向かって人差し指を掲げる。
『馬城殿。怪馬の所へ行ってください。最後にもう1度話したいので・・・」
「・・・・・おう」
怪馬に近づく。ダメージが大きいため動けないのが分かる。
『私の声が聞こえますか?』
「バォブルル・・・・・」
『・・・そうですか。すまない、神として救いたいですが命は1度きり。それを破る事は出来ません』
「ブルル・・・」
『・・・そうですね。あなた神馬としての姿が見たかったです。・・・さようなら」
穀菜が別れの言葉を告げると怪馬が目をゆっくりと閉じる。
馬城は彼等が何を話していたか分からなかったが、悲しい別れという事は理解出来た。
怪馬は元のバラバラの馬に戻った。
『供養をします。馬城殿も手伝ってくださいますか?」
「もちろんだ。猫柳たちにも手伝ってもらおう」
猫柳たちも呼び、戦いの終わりを告げる。
しかし、事件は完全には解決してはいない。
☆
供養が終わり、穀菜の神域へと戻る猫柳たち。
穀菜は今回の依頼のお礼をしている。神にお礼をされるなんて不思議な感覚であった。
「皆さんありがとうございました。」
「あんま出番無かったけどな」
銀陽が皆の代わりに答えてくれる。
今回は神馬の身体の一部を回収する依頼であった。回収する事は出来たが首切れ馬の妖怪空間で集めた事が逆に利用され、怪馬を誕生させたので申し訳ない気持ちになっている猫柳たち。
「いえ、それでも私のために力を貸してくれた事には代わりはありません」
お礼の話に区切りが尽き、次の話題へと移る。
皆の顔つきが真剣な顔つきになる。その話題とは神馬をバラバラにした犯人についてだ。
今回の怪奇で首切れ馬が創り出した妖怪空間の中で猫柳たちを襲ったハサミ。
「ハサミは黒い大きな布ような腕が持っていたように見えたわ」
犬坂が言うように妖怪空間である恐馬場にいた皆がハサミを持った腕を見たのだ。
確証は無いが、犯人に関係するものかもしれない。
「あんな真似が出来るのは神様か妖怪くらいです」
「卯月の言う通りだぜ。もっとも微かに妖気を感じたから神では無く妖怪だろうがな」
怪奇を生み出した犯人を捕まえなければ、この怪奇は解決では無い。
穀菜の依頼はまだ終わっていないのだ。猫柳たちは気持ちを切り替える。
「あなた方にはまだ力を貸してもらいたい。よろしいですか?」
「ああ。もちろんだ」
「大丈夫だ穀菜。おれ等ならすぐに解決してやるぜ!!」
馬城が猫柳と共に元気よく答える。
それを聞いて微笑む穀菜であった。
「絶対解決すっからな!! 男と男の約束だ!!」
馬城が約束を言った瞬間、穀菜が何とも微妙な苦笑いを浮べる。
「ん? どうした」
「馬城、あんたさぁ・・・」
犬坂がため息をついている。犬坂だけではない、他の女性陣もため息をついていた。
「あり? どうしたんだ?」
「・・保食神は女神よ。穀菜は性別で言うと女性って事」
白羅が馬城の疑問と女性陣のため息の意味について答える。
馬城が額に汗を流し、すぐさま土下座をした。
「・・・・・すいません」
「モット謝るんだテルテル!! 女性を男性と間違えるなんてダメだヨ」
「ごもっともで・・・・・」
黙って見ている猫柳もまた穀菜の性別を勘違いしていたため、何も余計な事を言わないようにしている。
言ったら飛び火が来るのが明白だからだ。静かに見守る事にしている。
「優は知ってたか?」
「白羅さんが教えてくれたから知ってた」
しかし間違えるのは無理の無いかもしれない。
パッと見では一瞬、男性と見間違えるにはわけがある。
中性的な顔立ちに着物と袴の姿では見間違えてしまうかもしれないのだ。
それでも分かる女性陣はすごい。やはり同性だと分かるのかもしれない。
「・・・・・マジですいません」
「だからモテないんだヨ」
「返す言葉もねえよ・・・」
真剣な顔つきで話していたのに、今では空気が変わってしまって台無しである。
でもこんな雰囲気も悪くは無いと思う穀菜であった。
☆
どこかのごみ捨て場。
正規のごみ捨て場ではなく、不法投棄によって森に出来たごみ捨て場である。
誰かが無断に捨てると、それに続いてまた誰かが捨てるのだ。
この森には電子レンジや冷蔵庫、車まで捨てられている。
人間が不法投棄をしなければ環境は現在よりも良くなるはずだが、それが出来ないのが現状だ。
「何で人間はごみを捨てるのか・・・。アナタはどう思う?」
刀を持った謎の女性が捨ててあるごみを見て、ため息をつく。
そしてその事について誰かに問いかける。
「・・・・・」
壊れた車の上にフードを被り、1.6mのハサミを持った人物が座っていた。
小さい声で答えたため聞こえにくい。
「・・・そうかもしれない」
刀を持った謎の女性には聞こえたようだ。
「今回アナタが起こした怪奇のおかげでいろいろと動きやすかった。次も頼む。」
ハサミを持った人物は頷き、壊れた車の上から消えた。
読んでくれてありがとうございます。
今回はバトルシーンが短かったですが、どうでしたか?
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