硬い骨
薄暗い墓地。
霧がモヤモヤと出ている。
その場にいるのは猫柳たちと霧骨たちであった。
「ここどこだ?」
「ここは妖怪空間よ」
猫柳の問いに切子が答える。
「正解だ。ここはがしゃどくろの妖怪空間だ」
「はーい。ここはーほーねのはーかばー」
骨の墓場。
がしゃどくろの妖怪空間に閉じこまれたようだ。
「ここなら遠慮なく暴れるだろ?」
骨の墓場から脱出するにはこの空間を創ったがしゃどくろが解くか、強制的に解かせるかだ。
「こっちから解く気はねえぜ」
「そうか」
「さっさとぶちのめすぞ」
銀陽ががしゃどくろに突撃する。
それを防ぐがしゃどくろ。
「うーんーつよいー」
「まじか。がしゃどくろが押し負けとる」
「まーけーるかー」
押し返す。骨妖怪と猫妖怪の押し合いが始まる。
妖怪同士が力比べをしている中、霧骨が話し出す。
「さて、少し話そうぜ」
「何でアタシの仲間を襲ったの!!」
「そればっか、最初に言ったろ。それは俺をぶっ飛ばせたら言うって」
「あいつをぶっ飛ばせ猫柳!!」
「そこで俺に振るな。ま、ここから抜け出すにはそれしかないがな」
切子を地面に下ろし、前に出る。
いきなり襲ってきた理由を聞く。
霧骨いわく、おもしろそうだったからだと言う。
「俺は楽しければ全て良しっていう考えでな」
過去を振り返らず、現在を信じ、楽しければ良し。
という3つの信条を持っていると説明してくる。
「目の前におもしろそうな物があれば誰だって食いつくだろ」
「ありがた迷惑だ」
人の人生にケチを付ける気はないが、他人を巻き込むのは勘弁してもらいたい。
猫柳たちはバイトをこなすはずが横から関係ない面倒事が割り込んできたので頭が痛い。
「がしゃどくろ、力比べはいいから鎧になれ」
「あーいい」
紫色のコートを脱ぐ。がしゃどくろの身体が霧のようになり、霧骨の身体に纏わりつく。
そして霧が骨の鎧へと再構築されていく。
「妖怪憑き。鎧骨」
骨の鎧姿の霧骨が目の前に現れる。
「銀陽頼む」
猫柳もまた妖怪憑きの状態になる。
バイトをこなした数は少ないが、危険を乗り越えたことで自信は着いてきた。
相手は今までの中でも強敵である。油断しないようにしなければならない。
「アタシも・・痛ッ」
「お前は休んでろ。ダメージが残ってるだろ」
切子の頭をポンポン叩く。
「任せろ」
ニカッと笑顔で安心させる。
「うにゃ・・」
ドキリ。
(え、ちょっと待って。今の・・・)
胸を抑える。暖かい何かがある感じがする。
この感じは一目惚れのようなものだろうか。
(落ち着けアタシ、相手は人間・・・)
切子が暖かい感情に悩んでいる一方、猫柳は霧骨に近づく。
「遅れちまったが、まずは自己紹介だ。霧骨京谷だ」
「猫柳銀一郎」
簡単な自己紹介をした瞬間、2人同時に走り出し、拳を突く。
「だああああああああああああ!!」
「ウガァァァァァァァァァァァ!!」
殴打が続く。蹴りが続く。それによって重い衝撃が響く。
妖怪憑きのおかげで身体は強化されているが霧骨の拳をくらうだけで骨まで響く。
頭にくらったら意識が飛ぶ可能性がある。
「ぐ・・・・・」
霧骨から一旦間合いをとる。
「痛・・・骨に響く」
両手をプラプラさせる。顔にはにじり汗。
「ったく、とんでもない力だな」
「クハっ。俺は小難しい事考えるのは苦手なんだ。単純にぶん殴るが良いんだよ」
肩をグルグル回す。
「久しぶりに骨のある奴に会えてうれしいわ」
ガハハハハハハハハ、と笑う。
一気に間合いを詰められる。
「もっと殴り合おうや!!」
拳が顔面に目掛けて来る。
「うわ!?」
自分の顔に目掛けて来る拳を間一髪でかわす。
その瞬間、空ぶった霧骨の腕を取り、一本背負いで投げ飛ばす。
「おらっしゃああああああああああ!!」
ブォンと投げ飛ばしたかと思えば、猫柳も一緒に空中に飛ばされていた。
「なんでだ!?」
「ギャハハハハハハハハハハハハハハハ」
2人仲良く飛んで、地面に落ちる。
「くそっ。何で・・・」
霧骨の姿を見て、いろいろと納得のいった。
霧骨の背中から骨の腕が生えている。
「背骨腕」
猫柳も飛ばされたのは、あの腕せいだ。
霧骨を投げ飛ばした瞬間に背骨腕に掴まれ、投げた勢いにつられて一緒に飛ばされたのだ。
(一瞬だったが、背中に違和感があった。その時掴まれたのか)
背中の骨の腕がギシギシと動く。
「休まず行くぞ!!」
背骨腕が伸び、猫柳に向けて振り下ろされる。
「ぐ!?」
背骨腕が振り下ろされる前に後ろに跳ぶ。
(危ねえ。あんなのくらったら、ぺしゃんこだ)
猫柳が立っていた場所は陥没していた。陥没した穴を見て、背筋がゾッとする。
グシャっと音が聞こえた。見ると地面を掴み、背骨腕を軸に霧骨が飛んでくる。
骨の腕が3本目の足になっているようだ。
後ろに跳んでいる状態なので突っ込んでくる霧骨をかわせない。
(マズイ!)
『かわせるだろう!!』
頭に響く銀陽の言葉で条件反射のように身体が動く。
「でりゃあ!!」
掴む力。
空気を掴み取り、その場で身体を捻る。
2人は衝突することなくすれ違う。そして同時に着地する。
(猫の野郎ぅ。空中でひねってかわしやがった)
「風弾」
猫柳が空気を掴み、投げ飛ばす。
風の弾だ。
「む」
3本の腕で風弾を防御する。
「さて・・・!?」
一瞬目を離した瞬間、猫柳が霧骨の懐に飛び込んでいた。
「風纏撃」
空気を掴み取り、今度は腕に纏う。
「ハァ!!」
拳が霧骨の腹部にめり込む。
「ぐおあ!?」
めり込んだ瞬間、纏っていた空気が破裂し、そのまま霧骨はふき飛ばされた。
「やっぱ硬てえな」
殴った拳をプラプラさせる。
「そりゃあ、頑丈だからな」
腹部を抑えながら立ち上がる。重い一撃をくらったはずなのに平気そうだ。
(平気なはずはない。ダメージがあるはずだ)
身体のあちこちをクキクキと鳴らす。
「聞きたいことがあるんだが。さっき空中で身体を捻ってかわしたよな」
「そうだが、何か?」
「お前の能力か?正確には銀猫の能力を使ってかわしたのか?」
空中で捻る動きは運動神経が良ければ出来る。猫柳も運動神経は良いと自負している。
猫柳は霧骨の攻撃をかわすために後ろに跳んだ。跳んでいる最中に次の追撃をかわすのは難しい。
空中で身体を動かすのは至難の技だ。
それを可能にしたのは掴む力だ。掴む力は幾つか応用が利く。
掴み取る事と掴んだまま固定できることだ。
例えば空気を一部掴み取り、切り離す事できる。これは風弾のような技が使える。
次に空気を全体的に掴む事でその場に固定できる。
猫柳が空中で捻ってかわしたのは空気を掴んで、その場で一瞬固定し、すぐに体勢を変えたのだ。
簡単に言うならば、猫柳の周りに空中に登るためのはしごがあるようなものである。
「そうだ」
「どんな能力だ?」
『教えるわけないだろ』
銀陽が変わりに答えた。
そりゃそうだ。という顔しながら腕をこちらに突き出す。
骨の籠手が変化し、銃のような形となる。
骨の銃口から骨の角らしきものが突起している。
さらに片目の部分には骨の照準器のようなものまで形成される。
「骨角銃」
骨の角が撃たれる。
それが何発も撃ってくる。一発一発の間のインターバルは約1秒くらいだ。
角なのだから先端が尖っているのは当たり前。被弾すればぽっかり身体に穴が空く。
「チッ。危ねえ」
『被弾するなよ。穴が空くかもだぞ』
「おうよ」
骨の角に被弾しないようにかわし続ける。
拳銃のように再装填することもなく撃ち込んでくるため、一息つく間もない。
弾切れの可能性は無いと考えた方がいい。
「どうしたどうしたぁ!!」
「今いい案を考えた」
空気を両手で掴み、背負い投げのように空気を発射された骨の角に向けて投げた。
投げられた空気は風の壁のようなものだ。その壁を盾に霧骨の元へ走り出す。
「チィ。弾が照準から逸れる」
その場から転がるようにかわし、真横から撃ち込もうとする。
「させるか!」
猫柳の盾となっていた風の壁を再度掴み、真横に投げる。
風の壁が方向転換し、衝突した。
直撃したことで後方へと吹き飛ばされる。
「何だと!?」
掴んだ空気を脚に叩き、纏わせることで空気のバネが出来上がる。
脚を屈める事で空気のバネが圧縮し、伸ばした瞬間に圧縮した空気が開放される。
一気にふき飛んだ霧骨の元に追いつく。
「頑丈なら容赦なくぶん殴る!!」
「チィ」
「うおらぁ!!」
ミィシミシ。
拳を硬く硬く握り締めることで何か腕力の枷が外れたような音が聞こえる。
ドォン!!
強く握り締めた拳を顔面を突いた。殴られた音が大きく響き渡る。
霧骨は殴られた反動でさらにふき飛ばされ、墓石にぶつかる。
「やったか?」
『よく見ろ。敵ながら評価できる』
真っ直ぐ見る。
突いた拳は今までの中でも重い一撃であったはずだ。
しかし霧骨を顔を抑えながら立ち上がる。
「効いてない・・・事は無さそうだ」
ピシィ。
顔の鎧骨にヒビが入り、パリンと割れる。
脚は震えている。
「結構・・・効いたぜ」
脚を殴り、振るえを無くそうとする。
「なのに立ち上がるなんて頑丈すぎだろ」
もう一度殴ろうと走り出そうしたが、背後から大きな骨の腕が襲い掛かる。
『銀一郎後ろだ!!』
「なっ!?」
地中から大きな骨の腕がとび出している。
ガッチリと捕まってしまっている。
「捕まえたぜ」
大きな骨の腕は背骨腕。
いつのまにか地中に穴を掘り、背後を狙われたわけだ。
「早く振り解かねえと!!」
「させるか」
脚にも他の骨の腕が掴みかかる。
「何本あるんだよ」
がしゃどくろは多くの骸骨で誕生した妖怪だ。骨の腕が何本もあってもおかしくはない。
今掴まれている骨の腕はその数本にすぎない。
「骸骨腕鈍厳」
鎧骨の腕の部分がメキメキと音を立てながら変形する。
肘の部分に何かを放出する作りになり、肩には頭蓋骨が形成される。
「吸え、がしゃどくろ」
『あいあい』
肩のがしゃどくろが空気を吸い始める。
ズゥオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ・・・ゴォクン。
(やべえ、直感で分かる。かわさないとマズイ!!)
「放射ぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
肘にある骨の穴から空気が放出し、ロケットのように突撃してくる。
「死ねえ!!」
「やべっ・・・」
『く、仕方ねえ』
勝ちを完全に手に入れたと思い、口元を歪ませるが予想外の事が起こった。
ズバアァァ!!
背骨腕と霧骨に斬撃が直撃する。背骨腕の伸びる腕の部分が切れ、鎧骨には切り傷ができる。
「んな!?」
風の斬撃、鎌鼬のおかげで攻撃がズレ、直撃は免れた。
さらに背骨腕の捕縛も解け、自由になる。
「まさか切子か」
「ええ。危なかったわね」
「助かった」
『役に立つじゃないか』
トコトコと脇腹を抑えながら歩いてくる。
「まったく何が任せろよ」
「うるせ。逆転の案があったんだよ」
ズゥゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ・・・ゴクン。
「邪魔してくれたな・・・鎌鼬」
「マズイ!」
「てめえは退場しろ!!」
肘にある骨の穴から再度空気が放出する。拳を突き出し、ロケットのように突撃してくる。
拳は墓石に直撃しており、粉砕している。
「大丈夫か!?」
「痛たた・・・って何押し倒してんの!?」
顔が赤くなる。
「助けてやったんだろうが。あと顔赤いぞ」
「う・・いいから退いてよ!!」
助けたのにお礼も言われない。
こんな状況だが少し納得がいかないと思ってしまう。
だが気にせず、体勢を立て直す。助かったわけではないからだ。
「このやろう・・・鎌鼬」
「フンだ。一対一じゃあないのよ」
ズゥゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ・・・ゴクン。
メキメキメキ。
骨の腕がまた変形し、拳の先に鋭い鋭利物。
「穿骨腕」
『間違いなく穴がポッカリだな』
「だな」
「今度こそ外さねえぞ」
3度目の放出。
鋭利な拳が突撃してくる。
「切子、俺に鎌鼬をくれ!」
「え?・・はいよ!!」
先に風の刃が飛んで来て片手で掴む。
「それで迎え撃とうってか!!」
「こうするんだよ!!」
風の刃を腕に螺旋状に纏わせ、さらに空気も纏わせる。
そして回転させる。
「うおおおお!!」
「くたばれえ!!」
拳と拳が交差する。
「潰れろ!!」
鋭利物の拳を突き出す。
しかし、ズラされた。
「化勁みたいなもんさ」
化勁は攻撃の軌道を変化させて敵の技を無効にする事が出来る。
それを空気の回転で真似て見せた。
「く、猫野郎」
脚を取り、体勢を崩す。
そしてもう片方の腕に纏わせていた風纏撃で空中へと上げる。
(切り傷は・・・見つけた!)
今度は風の槍を切子からもらい、鎧骨の切り傷の一点に突く。
「んなあ!?」
バキン。
「いくら頑丈でも一点集中はキツイだろ」
空気を掴みながら空中に上げた霧骨の元へ跳ぶ。
ミシミシと拳を握り締める。
「がしゃどくろぉ。早く鎧を再構築するんだ!!」
「もう遅い」
空気を掴みながら高く跳び上がる。
「全力で全てをぶっ壊す。全力全壊!!」
鎧が壊れた部分。腹部に拳を打ち込む。
ドコォン!!!
「ぐぼぉぉぉぉぉ」
勢いよく地面に殴り落とされた。
鎧骨にピキピキィとヒビが入る。
「う・・がぁ」
ストン。安定しながら着地する。
疲れが一気に出たのか、仰向けに倒れる。
「全力で殴ったんだが、それでも頑丈だな」
読んでくれてありがとうございました。
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