忍び寄る目
やっと20話を越しました。
次は30話まで目指します。
夜の廃工場に2人の男が立っている。
見た目は青年くらいだろう。
「おもしろい話があるんだけど聞く?」
「あん?聞く聞く」
「僕たちと同じバイトをしてるやつらがいるんだよ」
「へぇ」
「・・・あまり驚かないんだね」
「こんな怪奇なバイトはありえないが、俺ら意外にもいるだろう。俺らだけが特別じゃねえし」
「確かにね」
「でも気にはなる。探せるか?」
「もちろん。目目蓮」
壁という壁に目が浮き出してくる。
ギョロギョロギョロギョロギョロギョロギョロギョロギョロギョロギョロギョロ。
数多の目が廃工場内を見渡している。
この数多の目は目目蓮という妖怪である。
元は目の妖怪ではなく、碁打ち霊の念が住んでいた家に籠り、碁盤に目が現れた言われている。
「いつ見ても気味が悪い」
「そう言わないでよ。僕も最初は気味が悪かったけど、慣れると愛着が湧くんだ」
優しい瞳で目目蓮を見渡す。目目蓮も全ての目が優しい瞳になり、キラキラしている。
「目目蓮。聞いていた通り、僕らと同じ2人組でバイトをやってるやつがいるみたいなんだ。探してくれ。銀猫を連れてるらしいよ」
パァン!!!
手を叩いた瞬間に廃工場内の目目蓮が目を閉じる。廃工場内の異様な空間が晴れる。
しかし全ての目が閉じたわけではない。いくつか閉じていない目が残っている。
「どうしたの目目蓮?」
目目蓮がギョロギョロと目を動かし、何かを訴える。
「ふぅん。そんなことが」
「なんだって?」
「鎌鼬って妖怪覚えてるかい?」
「おう。それがどうした?」
「その同胞一匹が僕らのこと探し回ってるんだと」
「ふん、敵討ちか?」
「かもね。あれはこっちが悪かったからね。主に君が」
「ちっ、夜道に用心しねぇとな」
「だね」
「・・・・・ところで、いつも思うんだが目目蓮とどうやって意思疎通してるんだ?目だけだろ?」
目目蓮は目だけの妖怪。耳も口も無い。
「アイコンタクトだよ」
優しい瞳で目目蓮を見る。目目蓮もまたキラキラしながら見つめ返す。
「そうなんだ・・・」
目目蓮がアイコンタクトをとっている青年の側に集まってくる。そして青年の身体にくっつく。
目玉人間の完成。
「こらこら。目目蓮、くっつくなよ。くすぐったいだろ」
「目がくっつくとくすぐったいんだ・・・」
もう1人の青年は異様な光景を見て、苦笑いをする。
「じゃあ帰ろう。今日の報告会はここまでだ。さよなら霧骨」
「おう、じゃあな。数多目」
2人は暗闇の中に別々に帰り、消えた。
鎌鼬の切子が猫柳と銀陽の前で正座をしている。
「さてと、そろそろ話してもらおうか切子」
「ふん・・・・・・・・・・」
「また啜られたいか?」
銀陽が口を開く。
頭から啜られるのは正直キツイ。同情ものだ。
「待って待って!!分かった、言うから!!」
切子も必至だ。何度も頭から啜られていたが、切子の反応を見ると耐性は付かないようだ。
猫柳は茫然と銀陽と切子を見守っている。猫柳としては切子に啜られ地獄は食らってほしくはない。
啜られれば当然、涎まみれになる。猫柳の部屋でやられたら部屋が涎で汚れ、掃除するのは猫柳自身だ。
切子のためにも風呂も沸かさないといけない。いろいろとめんどくさい。
「じゃあ話してもらおう。銀一郎、茶と菓子!!」
「ヘイヘイ」
今日のお菓子は水羊羹。
「切子、何で俺らをいきなり襲ってきたんだ?」
切子は鎌鼬という妖怪だ。
始めに出会った時は暴走してたわけでもなく、邪気が出ていたわけでもなかった。正常な状態だった。
しかし切子は正常にもかかわらず猫柳を襲ってきた。猫柳は切子に襲われる理由が思いつかない。今まで妖怪と縁など無いはずだ。
猫柳ではなく銀陽にあるのではないかと考えたがそれも違う。
「アタシがあんたたちを襲ったのは敵打ちのため」
「「敵討ちぃ?」」
(切子に敵討ちされる理由が思いつかないぞ)
「何かしたっけなぁ?」
「でも・・あんたたちじゃなかった」
「ん?」
猫柳たちではなかった。
ということは猫柳たちは切子に何もしていないということだ。でも襲われた。なぜ襲われたのだろうか。
「・・・勘違い・・か?」
「う・・・」
切子が目を逸らす。
「ほほぅ、勘違いで私たちを襲ってきたとぉ?」
「・・・そうです」
銀陽が口を大きく開ける。
「待って!!ちゃんとわけを話したでしょ。啜られるのはもう嫌っ!!」
「待て銀陽。話はまだ終わってないから後にしてくれ」
「後にしないで!」
猫柳たちを襲ってきたのは勘違いということは理解した。でも誰と勘違いしたのだろうか。
そして敵討ちとは?
「敵討ちってのはそのままの意味よ、仲間の敵討ち。相手はあんた達と同じ2人組の人間で妖怪と手を組んでいたわ」
切子の話をまとめるとこうだ。
切子が猫柳を襲ってきたのは勘違い。
切子の目的は仲間の敵討ち。相手は俺と銀陽のように人間と妖怪のと手を組んだ二人組。
猫柳と蛇津を見てその2人組と勘違いし、まず猫柳を襲ったという流れだ。
「俺と銀陽みたいな奴らがいるんだ」
「いるだろうな。このバイトは日本中の妖怪・神に伝えられている。参加している奴らもいる」
「どれくらい?」
「知らん」
どれくらいかは分からない。しかし妖怪も神様も数えきれないくらい存在する。
銀陽や白羅もその一部だ。ならば他の妖怪や神様も同じことをしていても不思議ではない。
「そのバイトってのが厄介なのよ。そのバイトのせいで仲間が襲われたんだし」
バイトは妖怪や悪神を沈静化するための仕事。その理由で退治することができる。
「そうだ。何で切子の仲間は襲われたんだ?」
「知らない。仲間と合流した時には皆ボロボロだった」
「仲間は無事なのか?」
「腕の良い妖怪医がいるから大丈夫よ」
妖怪にも医者がいるらしい。神様にも薬や医学に通じる神様がいるのだから、妖怪にも医者がいても不思議ではない。
「その仲間とやらが邪気とかでも放っていたんじゃないか?」
銀陽が切子の仲間が襲われた理由を推測する。
「それは無いわ。医者にもその可能性があるか聞いたら、それらしい事は無いって言われたわ」
「ふむ。考えられるのは妖怪狩り・・・か?」
「妖怪狩りぃ?何のために?」
「さあな。ただ単純に力試しだけかもな」
妖怪狩りならば何か意味があって行われているかもしれない。
力試しは猫柳みたいに妖怪憑きの力を手にしたら、その力を試してみたいということかもしれない。
今回で切子の仲間が襲われたのは後者ではないかと考えた。
「私達も気を付けないとな」
「俺達も襲われるってか?」
「かもな」
同じ力を持った者同士、腕試しでもしたいがために襲われるのだろうか。
(俺としては仲間になってくれるといいんだけどな)
「アタシがあんた達を間違えて襲ったわけは理解できた?」
「ん?おお、そうだな」
水羊羹をパクリと食べる。
「切子の仲間は運が悪かったな」
「アタシは仲間のためにも敵討ちはする」
切子は敵討ちをするのは諦めていないようだ。
そういえばこの頃、切子は各地を飛び回っていた。その度に銀陽に捕まえられていた。
それは単に銀陽から逃げ回っていたのではなく、敵討ちの相手を探していたのだろう。
敵討ちなんてやめろと言っても聞かないだろう。仲間がやられたのだ。言葉だけでは止まらない。
「敵討ちするにしても返り討ちになるなよ」
「およ?てっきり止めてくるかと思った」
「言ったところで止めないだろ」
「うん」
切子がこちらを見つめてくる。
「なんだ?」
「敵討ちの奴らは自分の力を腕試しするような奴だったら、同業者のあんた達に興味を持ってるんじゃないかと」
その可能性はある。どんな仕事でも同じ事をしているならば少しは気をかけるものだろう。
「ねぇ」
「なんだ?」
「囮になってみない?」
「やだ」
「・・・・・・・・・・囮に」
「やだ」
沈黙が続く。
「なんでよぉ!!」
「あたりまえだ!!誰が好き好んで囮なんてやるか!!」
誰だって狙われると分かって囮なんてやりたがらないだろう。やるのは物好きな奴だけだ。
「アタシの話を聞いて少しはかわいそうとか思わないの!?」
「思ったよ」
「ならいいじゃない」
「やだよ」
「同情するなら囮をやってよ」
「同情はするけど囮と関係無い」
「こんな可愛い子が頼んでいるのに!」
「自分で可愛いとか言うな」
「ぐうぅ」
「でも、確かに可愛いけどな」
「・・・・・・うう」
「そこで照れるな」
切子が頬を赤らめてうつむく。自分で可愛いと言っておきながら、人から真正面に可愛いといわれて恥ずかしがっている。
「話は終わったか?」
お茶を啜りながら銀陽が尋ねる。
「おう」
猫柳もお茶を啜る。
「まだ終わってなーい!!」
「銀陽、啜れ」
「あんぐ」
「いやぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「風呂を沸かしに行くか」
猫柳は風呂を沸かしに自分の部屋を出る。部屋が涎まみれになりそうなので掃除の準備もしないといけない。
(囮役は嫌だが少しは手伝ってやるかな)
背中の方から切子の悲鳴と銀陽の啜る音が聞こえてきた。
パタンと扉を閉める。
「助けてよぉぉぉぉぉぉ!!!」
「口からはみ出すな」
猫柳の部屋で悲鳴が響く。
読んでくれてありがとうございます!!
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