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銀色神妖記  作者: ヒカリショウ
16章:風神の申し子
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遊ぶ

細切れになった手紙が戯遊楽になって現れた。彼女は遊びに来たような感覚で口を開く。


「もう、手紙を細切れにしないでよ。これは遊ぶ約束をした題字なものなんだから」

「勝手に遊ぶ約束したのはそっちだろうが」

「遊ぶ約束の手紙を受け取った時点でそるはもうお互いが了承したことなんだよ」


遊んでいるつもりはないが彼女の起こした現状に介入している時点では遊んでいることになるのだろう。

正確には遊ばれている。今までの全ては彼女が原因で起こったもの。その彼女が遊んでいると思えば遊びなのだ。


「でもわるいが遊びは終わりだ」

「ううん。まだまだ遊び足りないよ。もっともっと遊ぼうよ!」

『おい、銀一郎。こいつは話を聞かないやつだ。ぶん殴ってでもいいから黙らせろ』

「もとよりそのつもりだ」


地面を蹴って彼女を捕まえるために走り出す。「望」と言うよくわからない祖式の1人らしいが捕まえて情報を吐かせれば良いだけだ。


「何して遊ぼうか。鬼ごっこかな。かくれんぼかな。ケイドロかな?」

「遊びは終わりだ!!」

「だるまさんが転んだにしよう!」


後ろを振り向いた。


「だーるーまさーんがころんだ!!」

「は?」

「はい動いたらからアウトぉ」

「何を言って、ぐおあ!?」


戯遊楽が振り向いた瞬間に猫柳銀一郎が後方に吹き飛んだ。何をされたのか分からない。分かったのは彼女が振り向いてから吹き飛んだだけだ。


『どうした銀一郎?』

「わ、分からねえ。いきなり吹き飛んだ」

「おい、大丈夫か?」

「ああ、大丈夫。まだ首は繋がってる」

「繋がってなかったら声をかけないし」


身体を擦りながら正面を見ると戯遊楽はまた背を向けていた。


「だーるーまさーんが」


またも『だるまさんが転んだ』の掛け声をいい始める。


「ころんだ!」


ピタリと止まる2人。ジロリと見てくる戯遊楽。そのまま見つめて数秒後にまた背を向けて掛け声を言い始める。


「まんまだるまさんが転んだだな」

「何も起きなかったというってことはそういうことなんだろうぜ」


彼女は『だるまさんが転んだ』をしている。『だるまさんが転んだ』のルールには2つの役割がある。掛け声を出す人とタッチをする人だ。掛け声を出している人にタッチをすればよいだけの簡単な遊びである。

その遊びに当てはめるなら、銀一郎が勝手に吹き飛んだのは掛け声のあとに動いたから。次の掛け声のあとに何も起きなかったのは動かなかったからだ。


「ーーころんだ!」

「おっと」

「はいや」


またもピタリと止まる。


「だーー」

「振り向いたあとは動かなければ平気みたいだな」

「でもいつまでも平気とは限らない。ならさっさとタッチをしないとな」


『だるまさんが転んだ』はタッチをするまで終わらない。だが子供の遊びには度々ルールが加わる場合もある。それは勝ち負けの明確だ。子供の遊びはたまに理不尽というか、よくわからない場合があるのだ。そのための明確化なのだ。

例えば『だるまさんが転んだ』で5回の掛け声のうちにタッチされなかったら負けるなどがある。もしも彼女もこれに乗っ取ってるのならばもう既に4回目。

次で5回目の掛け声になる。彼女にとって遊びの負けとはどういう意味になるか分からないがきっと良いものではないだろう。

2人は全力で走り出してタッチしにいく。


「ーーころん」

「タッチ!!」


ピタっと2人は同時に戯遊楽にタッチをして『だるまさんが転んだ』が終了した。


「あははは。君たちの勝ちー!!」

「勝ったならこれはどういうことだ?」

「これはね遊戯実現。私の能力だよ」


『遊戯実現』。これは遊びを現実にする異能。特に子供の遊びを実現させるのだ。

「遊びを実現させるだって?」

「うん。遊びなら全部現実になる。そっちの方が面白いじゃない!!」


子供の遊びを現実にさせるなんて驚きだ。それは夢のようであり悪夢のようだ。


「次は『どこいき』で遊ぼうっと」

「どこいき?」

「ああ、あれか」


彼らの間に円状のグラフが現れる。その円グラフには5つのの線で分かれており、何か文字が書かれていた。

その書かれた文字とは「アメリカ」、「トイレ」、「田中さん家」、「火山火口」、「異世界」であった。

それらには何の関連性もない。これらは彼女が決めたものだ。


「どこいきって何。銀一郎は知ってるのか?」

「ああ、知ってる。昔遊んだことがあるからな」


『どこいき』とは簡単に説明すると円グラフに書かれた場所に行って来て戻るという遊びだ。

遊び方としては石とかを円グラフ内に入れて、自分の石が入ったところに書いてある場所まで行って帰ってくる。それだけだ。


「ふーん。面白そうだな」

「案外面白かった記憶はある。でも『遊戯実現』の状況じゃあ怖いしかないんだが」


円グラフに書かれている文字を見て、ツッコミたい。


「アメリカ!?」

「大陸横断かあ…」

「トイレってどこのトイレ!?」

「指定が無ければどこのトイレでもオーケー」

「田中さん家って誰だよ!?」

「さあな」

「火山火口…」

「くおぉ」


そして最後。


「「異世界に行くの!?」」


最後に関してはちょっと興奮した。


「じゃあ始めよっか」


1つの石を手元に持っている。その石が円グラフに入ったら指定された場所に行かないといけない。だが発動している『遊戯実現』は遊びを現実させる。

ならば本当に行く羽目になる。寧ろ指定した場所に飛ばされる可能性が高い。


「どこに飛ばされても嫌だ」

「火山火口なんて飛ばされたら一間の終わりだぞ!?」


アメリカに飛ばされたら帰ってこれなそうだ。トイレと田中さん家はどうにかなる。しかし火山火口は終わりだ。異世界に関しては言わずもがな。

飛ばされて火口に落ちて死んでしまう。子供の遊びを現実にすると本当にエグイ。


「おいおいどうする!?」

「大丈夫だ。この遊びには抜け道って言うか失敗があるんだ」


失敗とは石が円グラフに入らなかった場合のみ。


「ってことはあいつの持つ石を奪いとれば良いってことか」

「ああ。投げた瞬間でもいいから石を奪い取ればこっちのもんだ」


『どこいき』の遊び方は大まかにあるが抜け道がある。そもそも子供の遊び自体が抜け道がある。

簡単なルールしかないからこそ、攻略する抜け道が案外あるものだ。先ほどの『だるまさんが転んだ』は正攻法だったが『どこいき』に関しては斜め上にいくような方法でも邪道なやりかたな方法もあるものだ。


「じゃあ、えーい!!」


石が円グラフ内に投げ込まれた。だが、その石が円グラフ内に入ることはなかった。

石は落ちずに空中で浮いているのだ。


「あれー?」

「石を落とさないで良いなら簡単だ。俺が風を操って浮かせれば良いだけだからな」


石はそのまま扇橋飛三郎のもとに近づいて細切れになった。


「あー!! なんてことをするんだ!!」

「石がなければ、『どこいき』はもうできない」

「ぶーぶー」


文句を言いたそうだが猫柳銀一郎からしてみれば、未然ではあったがわけの分からない場所に飛ばされる身にもなってほしいものだ。

だが彼女の『遊戯実現』も少しは分かってきた。この力は全部子供の遊びで成り立っている。知らない子供の遊びが出て来たら困るがルールを理解して抜け道を探せば攻略できるのだ。

このまま『遊戯実現』を攻略して戯遊楽を止める。


「ぶーぶー豚がぶー。…じゃあ次の遊びに変更しようっと」


次は何が来るか。どんな遊びだろうが攻略してみせる。なし崩し的に扇橋飛三郎と協力関係になったが状況が状況なだけにちょうど良い。

彼もまた戯遊楽の遊び相手に認定されているのだから。彼とはいろいろ話したいことがあるが今は戯遊楽をどうにかしなければならないのだから。


「次は『鬼ごっこ』だね。鬼役はするよ。そっちが逃げる側」

「鬼ごっこ?」

「昔よく遊んだな」


鬼ごっこ。子供の時はよく遊んだものだ。

ただ追いかけては逃げる単純なものなのに。子供の時は楽しかった思い出ばかりだ。


「ところで飛三郎のところの鬼ごっこは捕まったらどうなった?」


猫柳銀一郎のところの鬼ごっこは捕まったら鬼の交代である。


「こっちは捕まったら鬼が増えていくパターンだ」

「なるほど。じゃあ戯遊楽がやる鬼ごっこはどうなるんだ?」

「鬼役に捕まったら逃げる側は食われるよー」


戯遊楽がサラリと怖いこと言う。だが彼女の力である『遊戯実現』はその名の通り遊びを現実にする。

ならば鬼役である彼女に捕まったら物理的に食われるということだ。


「食わ…」

「れる…」


お互いに顔を見合わせる猫柳銀一郎と扇橋飛三郎。そして一目散にダッシュする2人。


「あははははは。待ってー」

「待ったら食われるだろーが!!」

「頭から食われたくないからな!!」


捕まらないように2人はビルからビルへと跳び上がって逃げるしかなかった。後ろには人間を食うを化け物が迫る。

彼女の『遊戯実現』は遊びが全てである。そのルールの中に居る限り彼らは何もできない。しかも戯遊楽が遊び相手を一方的に決めることができる。

遊びとは人によって様々だ。勝手に遊びを一方的に誘う奴もいれば互いに約束して遊ぶ者のもいる。彼女は一方的に遊びを誘う者だ。

彼女の『遊戯実現』は一方的に遊びに誘うため、遊びのルールの中に取り組まれてしまう。攻略法を見つけなければ応援も呼べない。

既に竜之宮夕乃が状況を確認しているが謎の組織である『望』のメンバーである彼女に迂闊には近づけない。


「どうする。何かないか!?」

「ないな!!」

「あいつの力は全部が遊び。その遊びには何かしら勝てる糸口があるだろ!!」


『だるまさんが転んだ』は相手に触れば勝ち。

『どこいき』は決められた場所に飛ばされるが、飛ばされる場所に石を投げられる前に止めれば平気だ。

では、『鬼ごっこ』はどうすれば勝てるか。どうすれば攻略になるのか。


「鬼ごっこの勝利条件をあいつを言ったか!?」

「言ってない。捕まれば食われるしか言ってないぞ!!」

「じゃあ勝利条件がないじゃん!?」

「じゃああいつが飽きるまで逃げろってことか!?」

「あははははははははははははははは!!」


笑いながら追いかけてくる化け物。食われないように必死に逃げる2人。彼女の『鬼ごっこ』の攻略を見つけようと頭をフル回転。

だがいつまで頭もフル回転させても『鬼ごっこ』の攻略法が思いつかない。だっていつまでたっても逃げるしか思いつかないのだ。

鬼は追いかける。追いかけられる側は捕まらないように逃げるしかない。時間制限なんて言っていない。立ち向かうなんてできない。触られたら捕まえたという現実になって食われる。


「駄目だ!?」

「じゃあ考えるベクトルを変えようぜ銀一郎」

「ベクトルを変える?」

「鬼ごっこを攻略するんじゃなくてあいつを攻略する方法だ」

「そっちがもっと難しいわ!?」

「まだ可能性があるだろ!!」


鬼ごっこの攻略法が無いなら『遊戯実現』を攻略するか戯遊楽を攻略するしかない。

銀一郎は今の状況にあたるまで遡る。どこかに彼女の攻略するヒントがあるはずだ。もしくは彼女の能力に何かしら条件があるはずだ。


「あははははははは。食べちゃうぞー」


向こうも同じように身軽に追いかけてくる。有言実行なのか食べようと歯をカチカチと鳴らしている。

可愛い顔のくせに人食いとか怖すぎる。


「いっくよー」

「うわっ!?」


まるでロケットのように飛んできた。口を大きく開けて。


「かすった!?」

「かすりはセーフか!?」


身体に何も変化は無い。ならばセーフということだ。


「完全に身体にタッチしないと駄目なんだよね」


ユラリと立ち上がってくる。今だに歯をカチカチ。


『おい早く逃げろ。私は食うのは良いが食われるのは嫌だ』

『私もです。神喰いなんて以ての外です』

「「じゃあどうにかしてくれ!!」」


人外相手には人外に頼りたくなる。最も彼らも人の域を超えているのだが。


「そもそも神様にも効く能力ってなんだよ!?」

『彼女は人間でも妖怪でも神でもない。まったく別の存在。ならば概念が違うから効きます。最も神だからといって万能というわけではない」


神は万能なんて言われているがそうでもない。万能ならば「神殺し」なんて言葉は存在しないからだ。

神にだって弱点くらいある。傷を負うことだってある。


「マジでどうしよう!?」

「銀陽、何か一言!!」

『遊びなんて断れ』

「断れたらこんな状況には…」


ここで銀一郎は何かを思いつく。

戯遊楽の『遊戯実現』は遊びを基準にしている。全て『遊び』なのだ。開始から終わりまで全て遊び。

子供の遊びなのだ。この能力の概念は全て子供の遊びの感覚。ならば子供の遊びの終わらせ方なんていくらでもある。


「あいつは全部これは遊びって言っていた。なら遊びの終わらせ方は簡単だ」

「お、何か思いついたか?」

「なあ子供ん時ってどうやって遊びを終わらせてた?」

「そんなもん勝手に終わってたけど」

「じゃあ勝手に終わらせることができる。あいつも子供の遊びというのが基準だからな」

「どうやって終わらせるんだよ」

「この遊びは手紙から始まったんだよ」


本当の始まりは戯遊楽に出会った時からだが、彼女の言う『遊び』の始まりは手紙が届いてからだ。

ポッケから出したしわくちゃの手紙を出す。この手紙こそが一方的に誘われた原因。


「一方的に誘われた遊びなら一方的に断れるってもんだ」


後ろを向いて笑顔で銀一郎は手紙を破りながらこう言った。


「イチぬーけた!!」


ビリビリと手紙を破いてバラバラにする。


「ああああああ!?」


手紙を破いたことで戯遊楽が声をあげる。その顔は約束を破られたような顔だ。


「あああああ!? なんてことを!!」

「そういうことか。じゃあニー抜けた!!」


子供の遊びの終わり方は勝手に終わる。人それぞれであるがよく「イチぬーけた」や「ニイぬーけた」なんて言い方で勝手に終わらせるのがある。

ようは子供は遊びが飽きたら勝手に終わってしまうのだ。そこに承諾も何も必要ない。飽きたら終わりなのだ。


「あああ…遊びが終わっちゃう!!」

「遊びは終わりだよ。お前の『遊戯実現』は終わりだ」

「やだやだやだ。まだまだ遊びたりないんだよ!!」


『遊戯実現』は瓦解した。遊びの力はもう彼女は発動できない。

遊びとは1人でできるものもあるが、基本はみんなで遊ぶものだ。戯遊楽の行う遊ぶは全部みんなで遊ぶものだった。

ならば遊ぶ人がいなければ遊びは成り立たない。彼女の力は成り立たない。


「もうあんたとは遊ばない戯遊楽。さよならだ」

「グッバイ」


猫柳銀一郎と扇橋飛三郎は走り出して狼狽えている戯遊楽に一撃を繰り出す。


双風刃そうふうじん!!」

疾風捻はやてねじき!!」

「ああああああああああああああああああああああ!?」


2人の攻撃が直撃した戯遊楽は吹き飛ばされてそのままビルの下へと落ちていった。


読んでくれてありがとうございました。

本当に遅い更新ですがこの章ももうすぐ終了で新章に入ります。

次回の章は早めに更新出来たら更新します!!

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