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銀色神妖記  作者: ヒカリショウ
16章:風神の申し子
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風神

C地点。高い高いビルの屋上にて扇橋飛三郎は佇んでいた。



「よお、最近ぶり」

「おお、銀一郎じゃないか」


彼の服装だが私服ではなくて黒い羽織を着た姿であった。あの姿が彼にとっての仕事服なのだろう。


「こんなことを聞くのもなんだけど…お前って正気か?」

「いきなりじゃん。正気のつもりだけど」

「戯遊楽ってのに会わなかったか?」

「会ったよ。でもそんなことは後でな。今は仕事を完遂しないとな」


扇橋飛三郎の仕事はこの町の穢れを祓うこと。怪奇の専門家であり、陰陽師として間違ったことは言っていない。寧ろ猫柳銀一郎は彼の仕事の邪魔をしてはいけない。

普通なら横やりなんて入れないで専門家である彼に任せて自分たちはさっさと家に帰るべきだろう。


「だけど穢れを滲み出しているお前が穢れを祓うっておかしくないか?」

「おかしくないだろ」


穢れを受けてしまったら祓う。おかしくはないが飛三郎自身が問題だ。

まずは自分よりも町の穢れを祓う考えが危ないと猫柳銀一郎は思っている。自分をどうにかしなければ他をどうにかできるはずがない。

例えば、風邪をひいている医者が患者を治せるはずが無い。まずは自分を治せということだ。


「まずは自分の穢れを祓えよ」

「自分よりも町の穢れを祓う。オレなんかより町のみんなが危ないだろ?」


お互いに間違ったことは言っていない。猫柳銀一郎は1人のために、扇橋飛三郎は大勢のためにとどちらも正しい。

だからお互いに1歩も退かないし、どちらも正しいと思っているので話は平行線だ。ならばやることは1つだと同じくお互い思い当たった。

どっちも正しいのなら、どちらかを黙らせればいいだけだ。


「俺は穢れを纏うあんたを止める。それがバイトだからな」

「バイトか…それは。いや、こっちは本来の仕事をしないといけない。それにこの町は怪奇を数多く発生しているおかげで穢れが集まりやすくなっている。だから早くしないといけない」

「穢れているお前が穢れを祓う儀式をやって安全なのか?」

「安全さ」


その言葉に信憑性も安全性も感じない。


「ったく。えー…もうマジか。そうなのか」


扇橋飛三郎は頭ガシガシと掻きながらため息を吐く。まるで、こんなことはしたくないという感じだ。友達を殴るような雰囲気に似ている。


「じゃあしょーがない。聞き分けの無いダチには黙らせないとな」

「友達って言ってくれてありがとうよ」


猫柳銀一郎の肩に銀陽が乗る。


「さっさとぶちのめして終わりにするぞ」

「銀陽は急かすな」

「ヒュウ。その猫が相棒?」

「まあな。可愛いだろ」

「可愛い言うな」


猫パンチが頬に打たれる。


「オレの相棒は彼だ」


扇橋飛三郎の横に現れたのは神であった。


「このお方はシナツヒコ様だ。我々の一族が祭り上げている神様である」


急に彼の口調が丁寧になる。流石にチャラい彼も神には丁寧に接するのであろう。


「シナツヒコ…級長津彦命しなつひこのみことか。これはまた大物じゃないか。…どうやらそんじゃそこらの専門家じゃないってことだな」


シナツヒコと言う神の名前を聞いて全く分からない。だが銀陽が言うには大物の神様のようだ。

どんな神様と聞いて「風神」と聞いてすぐさま納得した。あの風神であり雷神と肩を並ぶ神様。誰でも「風神」と聞けば分かるはずだ。

それだけの知名度がある。しかしシナツヒコという名前は聞かない。


「その名前を詳しくないと知らないだろうな」


シナツヒコ。級長津彦命は風の神。台風や暴風を司ると昔から言われており祀られている。

誰もが風神と言うのがシナツヒコにあたる。


「風の神様が何をやっている?」

「猫の怪奇よ。私にもやることがあるのだ」

「そのやることとは?」

「言う必要はない」


2人は相棒の力を借りる。一方は風神の力を、もう一方は猫の怪奇を。比べるだけでどちらが勝つかなんて分かったもんだ。

だけど力を借りるだけで戦うのは人間である猫柳銀一郎と扇橋飛三郎。


「じゃあ行くぜ。猫の怪奇が風の神に勝てると思うなよ」


扇橋飛三郎を中心に轟っと風が巻き上がる。いつも外で感じてる風ではない。今受けている風は台風のような危険あ風である。


「妖怪退治のように殺しはしないさ。気絶してもらうか遠くに行ってもらう」


手を真横に振った瞬間に風圧が猫柳銀一郎にぶつかり吹き飛ぶ。バイバイと手を振るっているのを見てからビルの外まで吹き飛ばされた。


「言ってることが違くないか。普通屋上から落とさないだろ」

「妖怪と一緒にいるんだ。平気だろ?」


確かに銀陽のおかげで力がり、ビルから落ちても助かる。そもそも落ちはしない。

何もない空中で掴むと猫柳銀一郎はその場で止まる。


「ヒュウ…どうなってんのソレ?」

「うちの可愛い猫のおかげだよ」

『可愛い言うな』


銀陽の言葉は無視。

お互いに軽口を叩きながらビルの屋上へと戻っていく。ヤレヤレという感じで頭を振って身体を伸ばす。

まさかいきなりビルの外へと落とされそうになるとは思わなかった。普通だった死んでいたところだ。


「普通だったら死んでたぞ」

「お互いもう普通じゃないだろ」

「…そうだったな」


駆けだして右拳を顔面に向けて突き出したが途中で止まった。柔らかい何かが邪魔している。これは物体ではなく気体だ。


「風圧で止められたか」

「風を操る力はこういう方法もある」

「こっちはこういう力もある」


握った拳を開いて柔らかい何か。その何かである圧縮された空気をもぎ取ってもう一度殴る。


「あう!?」

「おら!!」


回し蹴りで相手の腹部を蹴飛ばして、そのまま更に殴りかかる。


「このヤロ!?」


扇橋飛三郎も応戦する。拳に蹴り。お互いに武術なんてやっていないのでまさに野郎の喧嘩である。

だがただの喧嘩ではない。お互いに喧嘩の域を超えた喧嘩だ。何せ武器が自分の四肢だけでなく、妖怪や神の力も借りているのだから。


刃風じんぷう

「鎌鼬か」


身体を捻りながら風の刃を避ける。


「よく知ってるな。てか有名か」


風の刃が乱雑に飛んでくるが避けては掴んで投げ返す。


「それって何でも掴めるのか?」

「何でもは試した覚えは無いな」

「水とかは?」

「掴める」

「溶岩は!?」

「試したことないな」


お互いの蹴りが交差して2人とも硬いコンクリートの地面に叩きつけられる。

ゴロゴロと転がりながら受け身を取って体勢を立て直して相手を見る。


「…やるじゃん。それ」

「称賛しながら鎌鼬を投げてくるな!?」


掴み直して投げ直す。


「その何でも掴むのは本当にすげーな」

「うちの可愛い猫のおかげだ」

『だから何度も可愛い言うな』


心の中に猫パンチされた気がした。


「うーん。うーーん。ぐだぐだやっても時間が過ぎるだけだしな。ここらで一発決めるか」


大きな竜巻が扇橋飛三郎を中心に発生する。こんなビルの上で竜巻が発生なんて天気のニュースはどう説明するのだろう。

同じことを思っているのか「今日の竜巻をどうやって世間に誤魔化すか」なんて呟いている。流石に大事過ぎることはあまり表では出せないようだ。


「仕事が終わったらウチの連中に頼んで情報操作するしかないな」

「なら最初っからすんなよな」

「そうだけどお前がなかなかしぶといからな。本気だ」


竜巻が大きくなり徐々に近づいてくる。これでは完全に竜巻に飲まれておしまいだ。


「終わりにしようぜ。一掃だ。神の風をここに。神風じんぷう


巨大な轟きを上げながら竜巻が発生する。その竜巻は小さな台風とも言うべきか。

ビルの屋上で竜巻なんて起こされれば何がどうなるかなんて誰もが分かる。ただ竜巻に巻き込まれるだけである。

猫柳銀一郎は人生初めての竜巻遊覧飛行の経験である。たまったもんではなく身体が引きちぎられそうになる。生身だったら死んでいる。


『まだ吐いていないか?』

「そこは生きているかじゃないのかよ」

『死人に口なしだ。だから生きていると思って問いかけた』

「それもそうか」


空中で掴むが竜巻の中では意味が無い。グルグルと永遠に回り続けるだけだ。


『最終的に彼方へと飛ばされるがな。まずは竜巻の中心に行け。竜巻の中心ならここよりも安全地帯だ』

「了解した」


ぐるぐると回っている状況だが脱出できる方法は考えている。


「頼むぜ羊島」


身体に巻かれた糸を強めに引っ張る。これは合図だ。羊島姫音に伝わる合図である。

読んでくれてありがとうございました!!

次回もゆっくりとお待ちください。

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