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銀色神妖記  作者: ヒカリショウ
15章:異形の目
135/150

竜の目

お待たせしました。


夕刻。この時間は昔から妖怪に遭遇する、あるいは大きな災禍が起こるなんて伝えれている。

「そこにいる彼は誰だろう。良く分からない」といった薄暗い夕暮れの事象だ。それに掛けているのか、怪人もこの時間帯によく出没する。

蛇津優たちは天緋に指定された場所に到着していた。この場所にもある建物があった。

その建物とは竜之宮グループが経営している建物だ。今まで怪人が出現した場所には必ずあった。もしかしたら怪人は竜之宮グループに所属する者じゃないかと予想したのだ。

だがそれは予想でしかないため、竜之宮夕乃に報告して確認するつもりだったが聞けなかったのだ。そんな時に天緋から場所の指定をしてきた。

気のせいかもしれなかったが天緋は今回の怪奇事件について何か知っている感じであった。寧ろ答えを知っているのようだった。



(天緋様は何か知っている。それはまさか怪人の正体か?)



その答えはこの場所にある。天緋に指定された場所に怪人は現れる。周囲をぐるりと見渡す。何も無い。



(何も無い・・・いや、人が居ない?)



夕刻なら人が家に帰り、人が少なくなるのは変なことではない。しかし周囲に誰一人いないのは少し変である。

今いる地点は人通りは多い方であり、そう簡単に人がいなくなるのは無い。



「まるで人払いされたようだ」


「やっぱり優君は鋭いわね。正解よ。それに後ろよ」



無数の剣や槍が降りかかり足下に突き刺さる。まさに今回の怪奇だ。だが異形の目を見たからといって身体の自由は奪われていない。

どうやら異形の目を持つ怪人を見た人は金縛りをくらうのではなくて、足がすくんだのだろう。普段なら怪奇に遭うことなど、まず無いからだ。まさかの現実離れのことが起これば混乱するだろう。



「誰ですか?」



目の前には黒いコートを着た怪人がいる。異形の目はギラリと赤い。フードで顔が隠されて分からない。だが異形の目だけは見える。



「・・・・・」


「だんまりね。何か話してくれないと会話にならないわよ会長さん」



白羅の言った言葉には驚かない。蛇津優が予想していた怪人の正体だったからだ。



「竜之宮会長は何でこんな事をするのですか?」



怪人は話さない。無言で見てくるだけだ。

右腕を空に向けるとまた無数の剣が現れる。普通なら驚くが美遊郭での怪奇事件で慣れている。

しかし、竜之宮夕乃が襲ってくるとは驚いている。それともこれも実力を見たいためにしていることなのか。だがそれは違う。今度に飛んでくる無数の剣は確実に斬り裂く飛び方だ。



「白羅さん。神憑きです」



神憑きにより神の力を得て、無数の剣を白蛇之太刀で防ぐ。またしても地面に剣が突き刺さっていく。これでは剣の畑ができるだろう。



『またいきなりとはね。どういうつもりよ?』


「・・・・・」



何も話さない。その代わりに返事は無数の槍が出現する。手には西洋の剣と日本刀が握られている。

宙に浮いている槍と共に走ってくる。



「話を聞いてくれないか。ならこの状況からできるのは一度止めるしかない」



剣が打ち合わられる。

手数は圧倒的に不利である。こちらは太刀1本。相手は無数の武器。誰が見ても不利だと分かる。



「ならこっちも手数を増やそう」



水を収縮する。水の形は大蛇へと変形する。



「水幻自在・蛇。水大蛇(みずおろち)



うねりながら宙に浮いている槍を飲み込む。まず無数に作られていく武器をどうにかしなければ負けてしまう。



(だけど竜之宮先輩だって無限に武器を作り出す事はできないはずだ。限界があるはず)



原理は分からないが竜之宮夕乃は無数の武器を作り出している。しかし無限では無いと予想をしている。彼女は怪人となっているが人間だ。人間なら無限なんてことは無い。

無数の武器を作り出しているということは何か使用しているはずだ。何かを作り出す時にゼロからでは生み出せない。



(オレが水を生み出しているの同じ原理で精神力とか気とかかもね)



あれだけの武器を作り出しているのなら相当な力を使用している。耐えていれば力を減らせるだろう。しかしそれはジリ貧となる作戦とも言えない作戦だ。オススメしない作戦であり、勝利は難しい。



(こっちの勝利条件を考えよう)



退治するのは問題外だ。尊敬する先輩にそんな事はできない。ならば気絶させるか捕縛するしかない。

次に作戦を考えなければならない。現在のところ作戦は耐えるしかない。



『優君。私は気にせずに退治するべきだと思うわよ。彼女がどういうつもりかは知るつもりも無いけど、優君の身に危険が迫るなら私は容赦なく退治するわ』


「待ってください。なぜ竜之宮会長がこんな事をするのかを確かめたいのです」



理由も無く襲ってくるはずが無い。何か理由があるはずである。

それが『異形の目』の可能性がある。竜之宮夕乃と会話が必要である。



「竜之宮会長。なぜ襲うのですか?」



蛇津優は問いかける。今できるのはそれだけだ。無視されようが関係ない。問いかけながら竜之宮夕乃を止めていくしかない。

怪人が、竜之宮夕乃が西洋剣を生成して襲い掛かってくる。



「白蛇之太刀」



剣と刀が打ち合う。そんな中、蛇津優は会話をするために何度も何度も言葉を発する。竜之宮夕乃は無視を続けるが、それでも言葉を発し続ける。

そんな状況が30分続く。そしてついに口を開いてくれたのであった。

その決め手となったのがこの言葉であった。



「何か理由があるのですか? ならば相談してください。オレは竜之宮先輩の力になります!!」


「お前に分かるのか・・・人とは違う異形が自分自身にあることを!!」



ついに話してくれた。しかし聞いた言葉は蛇津優にとって難しい言葉であった。



「それは・・・残念ですけどオレには分からない。オレの身体には異形が無いですから」


「なら私の邪魔をするな!!」


「それは出来ません。先輩がやっているのは矛盾ですよ。先輩は言ったじゃないですか。怪奇事件を防ぐのが使命だと・・でも先輩がやっているのは真逆のことです」


「私がやっているのは精神安定の治療だ。治療の邪魔をする方が止めろ」



竜之宮夕乃にとっては治療かもしれない。だが蛇津優にとってそれは治療でなく怪奇事件だ。それに初めて彼女と話した時に『異形の目の女』について怪奇事件と自分の口で話していた。

そして解決してほしいと実力を確かめるために任された。治療とは言いがたいが、治療ならなぜ邪魔をするようなこと頼んだのか。このまま『異形の目の女』について触れなかったら邪魔なんてことは無かったはずだ。

それなのに今、蛇津優と竜之宮夕乃が対峙している。



「本当は自分自身を止めてほしい人が必要だと思ってオレに頼んだんじゃないですか」


「うるさいぞ。それはお前の妄想だ」



西洋剣と白蛇之太刀がぶつかる。



「頼みに関してがオレの妄想だとしても先輩がしているのは怪奇事件です。ならばオレは怪奇解決として動きます」



ギリギリと剣がせめぎ合う。互いに一歩も退かない。それと同じで会話の戦いも退かない。



「なら私はお前を倒して治療を続ける。そうでもしないと私は自分でなくなるからな」


「それを止めるのがオレの仕事です。それにさっき気持ちが分からないと言いましたが、理解することはできます」


「何を言う。お前こそ矛盾の事を言っているじゃないか」


「オレは気持ちが分かるのと理解するのは違うと思っています。確かに同じような意味ですけどね」


「何が違うんだ!!」



剣の打ち合い。そんな中でも会話は続く。



「心でも読まない限り相手の気持ちが分かるのは不可能だ。そもそも相手の気持ちなんて分からない。でも理解できると言うのは先輩が話してくれれば理解できると言うことですよ」



意味が分からない。分かりやすく説明するならばこうだ。

よく相手の気持ちが分かるなんてこと言う人がいる。それは嘘であり、勝手な思い込みと思う。なぜなら人が思う気持ちと他人が思っている気持ちは別だからだ。完全に同じ気持ちになるのはできない。

しかし理解すると言うのは勝手に気持ちを知ったかぶりをするのでは無く、相手から気持ちを言ってもらってから初めて理解できる。

要は言わなきゃ分からない、理解できないということだ。



「竜之宮先輩の本当の気持ちを教えてください。じゃなきゃ理解できません」


「意味の分からないことを言うな。私の気持ちを理解するのは不可能だ!!」



蛇津優は自分で言っていることが支離滅裂でも会話を止めない。この怪奇事件の解決は会話が必要だ。

会話を止めるな。手も止めるな。勝手に相手の心を聞き出す無粋な好意でも止めない。でなければ解決できない。



「私の気持ちを理解するのは不可能だ。お前には異形の目が無い。そんなヤツが分かるはずが無い!!」


「理解するさ」


「うるさい。お前に分かるのか。異形の目を持って生まれた気持ちが!!」



まるで崩壊したダムのように言葉が水のように出てくる。彼女自身も意識していないのか話してくれる。本当に思っていることをだ。

異形の目を持って生まれた竜之宮夕乃は物心がついたころには自分自身の目について悩んでいた。それは同年代の子に見つかった時に恐れだ。

見つかれば必ず気持ち悪いと言われたり、恐れられたりする。実際に彼女は昔に誰かに見られたことがあり、恐れられた。その誰かからは人を見るような目で見られなかった。

それから彼女は少しずつ変わってしまった。人を信じたくても信じられなくなった。心を許せる人ができない。



「誰にも話せずに自分の異形を抱え込む。そんな生活が続いて私は耐えられなくなった」



そしてついに自分自身が怪人として一般人に被害を及びだした。被害と言っても最初は驚かすだけのカワイイものだったが事件を起こすにつれ過激になってきている。

だが自分はその感覚が快感に変わり、コンプレックスを抑え込む役割となったのだ。

ある意味、治療というのは頷ける。だが怪奇事件を起こしてまで治療をさせるわけにいかないのだ。



(竜之宮先輩を止めるには誰かが異形の目を理解しなければならない。ならそれはオレが理解しよう!!)



白蛇之太刀を思い切り振りかざし、西洋の剣を弾き飛ばす。そしてそのまま力任せに竜之宮夕乃を押し倒す。

押し倒せば超至近距離となる。その状況で蛇津優は彼女に言い放つ。



「オレは竜之宮先輩の異形の目を理解します。恐いとも思わないし、気持ち悪いとも思わない!!」


「そんなのうわべの言葉だ!!」


「うわべでも無いし嘘でも無い。オレは竜之宮先輩を尊敬している。異形の目くらいでそれは変わらない!!」


「・・・っ!!」



相手の心を動かすには本心を言うしかない。人は嘘と本音が分かる。人によっては嘘を見抜けない人もいるが、本音の場合は直感で分かるのだ。

本音は人の心に向けて吹き抜ける。蛇津優の本音は竜之宮夕乃に少しは届いた。



「今オレは竜之宮先輩の目を見ても気持ち悪いと思っていません。恐いとも思っていません。そんなの変わった目だ。それだけだ」


「そんな言葉はいくらでも言える」


「でも嘘じゃありません。本音で言った言葉です。その目を見てどれだけの人が何を思ったのか知りません。でもオレはその目を理解します。その目の意味を受け止めます。竜之宮先輩もオレを信じてみてください」


「・・・・・・」



背後には剣が複数浮いている。いつでも蛇津優を刺すことはできる。しかし止まっている。

それは竜之宮夕乃が自分の意思で止めているからだ。蛇津優の言葉は本当に少しずつ届いている。



「信じてください。オレは竜之宮先輩を理解します。受け止めます。だからもう怪奇を起こさないでください」



できるかぎりの言葉を発する。最終的には信じてもらうしかない。

一方的でも、自分勝手でも信じてもらうしかない。目を逸らさずに異形の目を含めて真正面から見る。



「私は・・・怪人だ。異形の目を持つ怪人だ。人間であって人間じゃない」


「竜之宮先輩は人間ですよ。異形の目を持っても人間です」


「・・・そうか。私は人間か。異形の目を持つ人間か」


「はい。ちょっと違う形をした目を持った人間で、美しくて可愛い女の子ですよ」


「なっ!?」



頬を赤く染めた。どうやら蛇津優の今言った言葉がある意味一番届いたようである。



「私が可愛いなんて・・・異形の目を持っているんだぞ!!」


「嘘じゃないですよ」


「う・・・うう」



冷たい顔をしていたが今では逆に熱そうな顔をしている。聞きなれてないのか、まるで初めて可愛いと言われた初心な女の子の反応だ。



「帰りましょう竜之宮先輩。話たいことなら帰っていくらでも聞きます。ゆっくりと何時間でも聞きますよ」



カランカランと複数浮いていた剣が地面に落ちた音が聞こえた。

読んでくれてありがとうございます。

感想などあればください。


それにしても急展開すぎましたかね。

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