生徒会長
新しい章へとなりました。
視点が猫柳銀一朗から蛇津優へ。
夏休み明け。新たな気持ちで学園に登校する者たちと億劫な気持ちで登校する者たちが増える日にちだ。
体育館に全校生徒が集まり、学園長の長い話を聞く。中には眠くなる者もいるが気持ちが分からないわけではない。何もせずに長い話を聞くのは眠くなるものだ。
周りには既にウトウトとしている生徒もいるのであった。蛇津優はその姿を見て思う。
(学園長は無意識に生徒会長と張り合っているから話も長くなるって聞いたけど、そうかもね)
神耀学園の生徒会長。生徒や教師からも絶大な指示を得ており容姿端麗、成績優秀、運動神経抜群と非の打ち所がないくらい完璧だ。
そのため、演説時は学園長よりも凄みがあったりする。そのせいか分からないが学園長が対抗して演説が長くなっているなんて密かに言われているのだ。
学園長が対抗しているそんな生徒会長の名前は竜之宮夕乃。竜之宮グループと言う世界的大企業の令嬢だ。
(現実に会長みたいな人はいるものなんだね。ん、学園長の話が終わったみたいだ)
学園長の話が終われば夏休み明けの全校集会も閉会だ。生徒たちもゾロゾロと教室に戻っていく。戻りながら学園帰りの事を話している。今日は早帰りなのだ。夏休み明けの全校集会が終われば後は下校するのみだ。
蛇津優の友達である猫柳銀一郎や馬城義輝も「だりぃー」と言いながら早く帰りたいとぼやいている。
(ギンも馬城も夏休み明けはヤル気がない。全く仕方がないな)
ヤレヤルと思いながら自分自身も少しヤル気が無いと思うのであった。なぜならこの後は帰るだけだからだ。
そんな中、犬坂爛が猫柳銀一郎たちに向けて生徒会長を見習いなさいと言う。学園の生徒会長である竜之宮夕乃は確かに見習う模範生だろう。
「本当にいるんだな天才って」
生徒会長の話や学園の有名人の称号であるスリーオブカードの話をしていると呼び出しの放送が流れる。その呼び出し相手は蛇津優だった。
「登校初日から何したんだよ優」
「何もしてないよ。心当り無しだね」
実際に心当りが無い。蛇津優は登校から猫柳銀一郎たちと一緒にいたから問題行動は起こしていない。そもそも優等生である蛇津優が問題を起こしたなど猫柳銀一郎たちは思っていない。恐らく悪い意味での呼び出しではないだろう。
気になりながらも蛇津優は呼び出し先である生徒会室に向かうのであった。
後ろからは猫柳銀一郎たちが生徒会の勧誘だと予想しているのが聞こえた。
「生徒会の勧誘か。ギンの勘は当たるから、油断できないよ」
生徒会室に向かう。なぜ呼び出された理由を考えながらだ。まず問題は起こしていない。ならば猫柳銀一郎が予想していた勧誘、もしくは何か頼み事かもしれない。
考えながら歩いているといつの間にか目的地に到着するものだ。
ドアをコンコンとノックして、返事があったので入る。
「失礼します。蛇津優です」
「ああ、君が蛇津か。知っているだろうが私は生徒会長の竜之宮夕乃だ」
生徒会室にいる生徒会長。凛々しく、美しいと言う言葉が似合う。
長い碧色の髪を揺らして近づいてくる。スタイルも抜群であり、女優を目指せるくらいだ。前髪で右目を隠している髪型もしている。
「夏休み明けから呼び出してすまないな。実は君に話があるんだ」
「オレって何か問題を起こしましたか?」
「フフフ、そんな事で呼び出したわけではないぞ。それに君は優等生だと聞いている」
まさかと思いながら何か問題を起こしたのかと聞いたが否定してくれた。ホッとするのであった。
では、何の呼び出しになのか。その呼び出しの意味は蛇津優が予想していない事だった。
「私ははっきりと言う主義だ。だから蛇津もはっきりと答えてくれ」
何だろうと思いながら肯定する。蛇津優もまた質問されたら答える主義を持っている。
「単刀直入に聞く。君は何と言う神と、もしくは妖怪と怪奇事件を解決しているんだ?」
「それは・・・」
まさか生徒会長から怪奇事件の事について聞かれるとは誰が予想しただろうか。冗談で聞いているわけではないだろう。竜之宮夕乃は真剣な眼差しで答えを待っている。
(会長もバイトの関係者なのか)
過去に数多目楽や霧骨京谷と言ったバイトの同業者と出会ったことがある。怪奇事件解決のバイトをしているのは自分だけてはないのだ。
神耀学園の生徒である蛇津優や猫柳銀一郎が怪奇事件解決のバイトをしているなら他の神耀学園の生徒もしている可能性は大いにある。だから目の前にいる竜之宮夕乃が当てはまるだろう。
「オレは白羅さんと言う神様と怪奇事件解決をしています」
「フッ、そうか。正直に話してくれてありがとう。知らない、誤魔化すと言った事を言われたらこちらも冗談で済ますつもりだったからな」
椅子に座るように促された。そして座ると紅茶を淹れてくれ、高級なケーキまで出してくれた。メイドが。
「今のって・・・え、メイド?」
「私の専属メイドだよ。気にするな」
気にするなと言われても無理だ。蛇津優は気にしたが生徒会室にメイドが現れた事を流した。そしてメイドはいつの間にか消えていた。
「さて、蛇津君。君とはこれから怪奇について話そう。君も気付いたと思うが私も怪奇事件解決のバイトを行っている」
竜之宮夕乃は自分も怪奇事件を解決している事を告白する。そして蛇津優を生徒会室に呼んだ本題を話す。
「君を呼んだのは怪奇事件を私と一緒に解決してほしいんだ」
怪奇事件を解決するにあたり他の同業者と組むのは悪い話ではない。個人だけで解決するよりも複数で怪奇事件を解決する方が断然に好ましい。
怪奇事件解決の仲間が増えるのは悪い話ではない。蛇津は勿論、相手の望む返事をした。
「こちらこそよろしくお願いします竜之宮会長」
「ありがとう蛇津。では私の目的、これから私達の目的を話そう」
「私達の目的ですか?」
「ああ。怪奇事件が穢れによって暴走した妖怪の仕業というのは知っているか?」
「はい」
「だが最近、怪奇事件の仕業が妖怪だけではなくなったのだ。神の仕業と言うわけではない」
怪奇事件の仕業が妖怪でも神でもない。ならば残っているのは人間だけだ。
「まさか怪奇事件解決のバイトをしている人が逆に怪奇事件を起こしているのですか?」
「その通りだ。理解が早くて助かるよ」
怪奇事件解決をする人物たちが怪奇事件を起こす。本末転倒だ。
なぜ本末転倒の事をしてしまうのか。それは妖怪の力に飲まれてしまうからだ。
人間は強大な力を手にいれたら考えを変えてしまう。良くも悪くもだ。
「私は、いや、我々は人間が怪奇事件を起こすのを未然に防いだり、解決をしている」
「我々?」
「ああ。生徒会と竜之宮グループだ。生徒会のメンバーは明日に紹介しよう」
竜之宮グループも怪奇事件を解決していると言う。まさか大企業が怪奇事件を解決しているとは予想外だ。
「しかし竜之宮グループの社員全てが関わっているわけではない。竜之宮一族と選ばれたメンバーだけだ」
「一族全員が妖怪や神の存在を知っているんですね」
「ああ。私の一族は昔から妖怪や神との関わりがある。紹介しよう。私のパートナーの神竜である天緋樣だ」
生徒会に竜巻が発生し、中心からは着物を着た女性が表れる。
長い黒髪に鮮やかな模様の入った着物。模様は竜だろう。右目は黒い布で覆っている。そして特徴的なのが竜の角である。
「よろしゅう。我は天緋と申す」
「よろしくお願いします天緋様」
握手を求められたので勿論、握手をする。とても強い力を感じた。
天緋は竜之宮一族の守護竜だと言う。竜之宮一族を生み出した存在らしく、昔から神と人間の交流をしていた。
だから竜之宮一族は神や妖怪の存在を知っているのだ。
「怪奇事件は妖怪だけが起こすわけじゃない。人間も起こしている。理由は様々だが、殆んどが力に飲まれて暴走していると言ったものだ」
「力に飲まれてなくとも自分自身の為だけの理由に怪奇事件を起こす者もいる」
「そして私はこの地域一帯の怪奇事件をグループから任されているんだ」
世界的大企業である竜之宮グループが怪奇事件解決に力を入れているのに驚きだ。世の中驚きばからりだ。
「私は怪奇事件解決をするために本格的な仲間集めをするつもりだ。そしてスカウト1人目が蛇津、君だ。他にも集めるが、蛇津は誰か他にも知っているか?」
「勿論知っていますよ。竜之宮先輩も知っているかもしれませんがオレの友達のギン達です」
「やはりな。これでも君達の事は調べていたからな。しかし実力はどうだ?」
「あります」
堂々と言う。一緒に怪奇事件を解決してきた仲だ。実力くらい分かる。
「そう堂々と言ってくれると期待してしまうよ。さて、早速だが怪奇事件を解決すると言う事で君の実力を見たい」
実力を見たい。それはそうだろう。これから一緒に怪奇事件を解決してゆくのだ。お互いの実力は知っておきたい。
「実はこの学園、もしくは周囲に変な怪奇事件が噂されている。『異形の目の女』と『原因不明の衰弱』だ」
『異形の目の女』は蛇津優たちが住む神耀町にて現れる怪人。夜中に現れ、出会った人は異形の目を見てしまうと剣が何本も降ってくるという怪奇だ。
次に『原因不明の衰弱』は神耀学園にて起こった怪奇。あるサークルに所属していた部員たちが原因不明で衰弱したという。病院にて検査しても分からなかったようだ。
「前者の怪奇は最近に起こった。後者は1年前から起こった事だ。さて、蛇津はどちらを解決する?」
蛇津優は選ぶ。怪奇事件を解決するために。
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次回もお楽しみに!!




