科学部部長
科学部。神耀学園にある化学や物理、生物、開発といった科学的な専門分野を凝縮した部活である。様々な研究が行われており、大きい部活なのだ。
その中でも科学部部長がとても有名なのだ。ここでい言う部長は実は神耀学園のスリーオブカードの1人なのだ。選ばれた理由は単純明快で超が付く程の天才だからだ。
若いながら大学にも席が置ける程と言われている。どんな難問も解き、テストだって毎回満点。はっきり言って有り得ない天才だ。見ている世界も違うのだろう。
更に科学部部長は他にも有名である。それは会う事で分かる。
「ノックしてもしもーし。失礼します」
ガチャリと扉を開けると白衣を着た生徒が熱心に研究を進めている。見ていても何の研究をしているか分からない。だが科学部に来たのは研究を理解する為ではなく、牛妻豊恵に会いに来たのだ。
牛妻豊恵は有名であり、目が胸に釘付けになるのだから男子生徒に聞けば分かるだろう。猫柳銀一朗はすぐ近くにいた男子生徒に聞いた。そして返ってきた答えは部長室にいるとの事だった。
友人に顔を出しに行くと言った牛妻豊恵。どうやら同じスリーオブカードの称号を持つ科学部部長が友人のようだ。案内されて部長部屋の前に来る2人。
「どうする猫柳。出てくるの待つか?」
「取りあえず部屋に入って話を聞くさ。向こうが込み入った話なら気長に待つ」
「そうか。んじゃあ入るか」
猫柳銀一朗は扉に手をかける時、自分の尻が誰かに撫でるように触られた。しかも馬城義輝もだ。そんな唐突な事を受ければ2人は声を上げてしまう。
「「うおおおっ!?」」
すぐに後ろを向きながら自分の尻を片手で防ぐ。そして尻を触ったであろう人物を見る。白衣を着た男子生徒がいる。オレンジ色の短髪が目立ち、長身がスラリとしている。そしてスタイリッシュな感じのポーズをとっている。
「あらん。こんにちわ後輩ちゃん達。良いお尻だったわよん」
「「誰だ!?」」
仲良くハモる。そして警戒する。いきなり背後から尻を撫でるように触られれば誰だって警戒するだろう。
「アタァシは科学部部長の猿蔵信吾よん。愛しのハニーと呼んでね」
「猿蔵先輩と呼びます」
(オネェかよ!?)
猿蔵信吾。超天才で科学部部長であり、オネェである。神耀学園の有名なオネェだ。
「何か用かしら後輩ちゃん達?」
「はい。まず俺は猫柳銀一朗です」
「おれは馬城義輝っす」
「ギンちゃんとてるちゃんね」
呼び名に関しては気にしない。元々似たような呼び方はされているからだ。
「実は牛妻先輩がここに来ていると聞いて来たんですよ。じつは牛妻先輩に聞きたい事があるんす」
「ふぅん・・・アタァシに会いにきたわけじゃないの」
「はい」
キッパリと答える。嘘は言っていない。
「まぁいいわ。ミルクちゃんに会いに来たんなら部屋の中よ。ちょうどアタァシとの用事も終わったしね」
(ミルクちゃんって・・・。まあ気にしない)
「ミルクちゃーん。アナタにお客よん」
「はーい。私にお客って誰・・・って、銀一朗くんじゃない。どうしたの?」
「話がしたいと思って・・怪奇の話です。前話したのが面白くてもっと話したいんですよ」
「あら。それは嬉しい事を言ってくれるわ。じゃあお話しましょうか。ここで」
「ここで?」
怪奇伝承の話をするには場違い感があるが、どうやら気にしないようだ。科学と怪奇とは矛盾的である。
「大丈夫よ。ここにいる信吾・・・もとい愛しのハニーは科学部部長だけどオカルト関係にも寛容だからね。寧ろ興味深いと好きみたい」
「ええ。オカルトもスキよん。科学的観点から調べるのも興味深いからねえ」
ふと思い出す猫柳銀一朗。怪奇伝承をまとめたレポートを見た時、中には科学的に解明された怪奇伝承があった。それがもしかしなくても目の前にいる猿蔵信吾が手伝い解明したと言う。
どうやら猿蔵信吾は怪奇伝承研究会の非部員らしい。実はある意味部員は2人居たという事実。
「じゃあお話をするためにお茶菓子を用意するわねん」
「じゃあこっちは自己紹介しましょう。えっと、銀一朗くんの隣にいるのは?」
「おれは馬城輝義っす。よろしくっす!!」
馬城義輝が思った事は『胸がでかい』である。猫柳銀一朗と同じ気持ちであった。男して無視することが出来ない。
アイコンタクトで猫柳銀一朗と意思疎通をする。
(おい猫柳、すげえぞ)
(ああ、デカイ。とんでもなくデカイな)
(何が詰まってるんだろうな)
(夢とミルクじゃね)
男同士で勝手なアイコンタクト。それよりも簡単な自己紹介をして、お茶菓子を食べながら怪奇の話をするのであった。出されたお茶菓子はバニラのジェラートであった。甘くて冷たくて美味い。
「で、どんな怪奇のお話?」
「前に妖怪に出遭ったって言ってたじゃないですか。それについてもう少し詳しく聞きたいんっす」
「いいよ。私が出遭った妖怪を詳しく言うなら『角の生えた和服の女性』だったの」
『角の生えた和服の女性』。少し名称が変わったがそれでもまだ有効な情報では無い。より詳しく聞かなければならない。
「不思議な女性だったわ。見ただけで人間じゃないって理解できたし」
「何か会話でもしたんすか?」
「小さい頃だったからあまり覚えてないけど少しだけ会話はしたわ。内容は・・・差し当たりの無い日常会話ね。天気の話とか好きな食べ物とか」
「なるほど。何か貰ったとかありますか?」
「無いわ。でも関係あるか分からないけど拾った物ならあるよ。その妖怪に出遭った日にね」
胸の谷間から取り出したお守りのような袋からビー玉のような物だった。胸の谷間から取り出した事に関してはとりあえず置いておく。
そのビー玉のような物は透き通っており、桜色をしている。不思議な綺麗さを持っている。貸してもらい、見る。特に何か異変を感じるような事は無い。ただ不思議と綺麗としか思えないのが感想だった。
妖怪に出遭った日に拾ったと言うがそれが関係あるか分からない。妖怪が居た近くで拾ったのかと聞くがそうで無いらしい。拾った場所自分の家の前で拾ったとの事。
「何か分からないけど不思議と惹かれるの。この玉に・・・不思議よね」
もしかしたらただのビー玉かもしれない。だがもし、怪奇的な物なら新たなヒントになるかもしれない。妖怪である銀陽なら何か分かるであろう。
「牛妻先輩。良ければですけど1日だけ貸してもらえませんか?」
「良いけど。どうして?」
「牛妻先輩の出遭った妖怪に興味が出たんすよ。それで調べてみようかと思ってたんですよ」
そのビー玉のような物が関係あるかは分からない。だが調べてみる価値はある。妖怪と出遭った日に拾ったというのが気になる。猫柳銀一朗の勘が響くのだ。
「じゃあはい」
「あざっす牛妻先輩」
それから話を続けて聞きたい事を話していき、科学部室を後にするのであった。
「それにしても可愛い後輩たちねえ。ミルクちゃんはどっちが好み?アタァシがてるちゃんかな。あの鍛えた身体は良い」
「信吾くんは相変わらずだね」
「今日は愛しのハニーって読んでえ」
「愛しのハニーは相変わらずだね。私は銀一朗くんかな」
猫柳銀一朗たちが科学部の部屋から出て行ってから猿蔵信吾はコーヒーを淹れる。ミルクと角砂糖をコップに入れて机に置く。
牛妻豊恵はミルクを入れ、猿蔵信吾は角砂糖をこれでもかというくらい入れる。
「糖尿病になるよ愛しのハニー」
「大丈夫よん。健康には気をつかってるからねえ」
健康に気をつかっているなら角砂糖を入れる量が有り得ないと思う牛妻豊恵であった。
「さて、健康診断の準備はできてるわ。またするのねえ」
「うんするわ。私も健康には気をつかってるからね」
「結果はいつもどおりかしらねえ」
「これも私の身体の謎を調べるためなの」
☆
またいきなりだと言うべきだろう。帰宅中にまた襲われた。『瘴気』にだ。普通に帰宅していた時に背後からいきなり瘴気が現れたのだ。
現在のところ猫柳銀一朗と馬城義輝は瘴気に追われながら人の居ない道を走り抜ける。
「猫柳、何だあれ!?」
「瘴気だ。毒の空気みたいなもんだよ。包まれたら・・・」
「包まれたらなんだ?」
「死ぬ」
「安直すぎだろ!?」
ドタドタドタドタドタドタドタドタドタドタ。
迷路のように道を曲がりくねるにくねる。これで瘴気に追われるのは2度目だと思う猫柳銀一朗。隣にいるのは美人の牛妻豊恵では無くて野朗の馬城輝義というのは胃に飲み込んだ。
だが戦力としては確実だ。瘴気をどう相手にするかは兎も角。
「で、どうするんだ!?」
「前に襲われた時は轟風で吹き飛ばした。今回も吹き飛ばす」
キキィッと足を止め、向ってくる瘴気に轟風を投げつける。
「轟風投げ!!」
轟風により瘴気を吹き飛ばす。霧散したかと思われたがすぐに瘴気が集まりだし、大きな瘴気の塊になる。
前と違って瘴気が消えない。
(根性のある瘴気だ。何て言っている場合しゃないな)
瘴気の塊がモワモワと膨れ上がれ、形を形成する。まるで蜘蛛のような形だ。瘴気蜘蛛と名付けるのがいいかもしれない。
背後はまた壁。そして目の前は瘴気蜘蛛。ピンチである。
「どっかの映画のシーンかよ!?」
「確かに何かの映画でこんなシーンあったな。でも何だかんだでピンチを切り抜けるもんだぜ」
猫柳銀一朗は空気を掴み、馬城輝義はどこから出したか分からない槍棍棒を持つ。そして瘴気蜘蛛に向けて同時に走り出す。
「だっらしゃああ!!」
槍棍棒を一閃。瘴気蜘蛛の脚を切断する。だが物理的に切断しても瘴気蜘蛛は気体のような物で形成された存在だ。すぐに再生する。
「再生する前に吹き飛ばす。風弾」
空気が収縮された弾を放ち吹き飛ばす。同じ気体同士なら効果はある程度有効であるはずだ。
「瘴気をどうにかする方法は吹き飛ばすくらいだ。轟風投げ!!」
「嵐弾き!!」
槍棍棒の刃の部分で弾き飛ばすように打ち込む。今回は相手が気体のような存在である為、団扇のように使う。
瘴気蜘蛛の身体半分を吹き飛ばす。再生する前に間髪入れずに何度も2人は打ち込む。
「おらっしゃああ!!」
「どらっしゃああ!!」
2人は同時に瘴気蜘蛛を完全に吹き飛ばした。それは1時間耐久戦であった。
「ぜえぜえ・・・やっと消えたぜ」
「まったくだ。はぁ・・だぁ疲れた」
その場にへたり込む。
「どっか自動販売機ないか猫柳?」
「えっと・・・あったあった」
財布から500円玉を取り出し、縦に投げつける。そして自動販売機の硬貨入り口に入らない。
「入らないのかよ」
「入ったらかっこよかったんだがな。何飲む?」
入らなかった500円玉を拾い、自動販売機に入れなおす。
「おれはソーダ」
「おう。ほれソーダ」
「サンキュ。ったく何なんだよいきなり」
猫柳銀一朗はコーラを飲む。喉をシュワシュワと炭酸が潤す。
「怪奇っつーのはそんなもんだ。でもどっから現れたのかは気になる。襲われた理由もな」
瘴気は妖怪でない。瘴気は空気のように存在するが空気と違って害だ。害だが襲う事なんてないのだ。
(操られている可能性。瘴気を使う妖怪。まだ分からないな)
「帰ろうぜ猫柳。また襲われんのは勘弁だ」
「そうだな。あと穀菜に瘴気について聞いといてくれないか?」
「おう聞いとく聞いとく」
帰る2人。
☆
銀陽に牛妻豊恵に貸してもらったビー玉のような物を見せる。妖怪と関係ある物か分からないが妖怪である銀陽に見せれば分かる。そう思いながら猫柳銀一朗は少し期待する。
そして返ってきた答えが猫柳銀一朗が期待していた答えであった。
「これは妖怪の物だな」
「本当か銀陽!!」
「ああ。これは妖怪が作った物だ。恐らくだがその妖怪の身体の一部で作った物だ」
身体の一部で作った。どの部分か気になるがそれは置いとく。ビー玉のような物が妖怪の物というのが大事なのだ。
「これを作った妖怪は分かるか?」
「分からん。こんな玉を見ただけじゃ判断できない。こんな物は作ろうと思えばある程度の妖怪が作れるから断定が難しいぞ」
「そうか。どんな妖怪なんかますます分からないな」
「もしかしたら玉を作る妖怪かもな」
「そんな妖怪いるのかよ?」
「様々な妖怪が存在するからな。いる可能性ある。私はそんな妖怪は知らないがな」
銀陽からビー玉のような物を返してもらい天井の明かりにかざしながら見る。妖怪が作った物。ならば何か意味のある物だろう。
どんな物でも何か使用する意味がある。このビー玉のような物の用途を考える。
(何だろうな。妖怪のお守りか?まさかな)
牛妻豊恵がお守りのように袋に入れていたのを思い出す。胸の谷間に入れていたのもだ。
(おっと、それは置いといて。爆発する・・・なんて物騒な物じゃねえよな)
一瞬恐い事を考えたが、すぐにその思考を追いやる。もしそうだったら牛妻豊恵の身が危険だ。それに小さい時に拾ってから今までに爆発なんて事はしていないから爆発物では無い。
余計な事を考えたと思うのであった。もう一度考え直す。正直なところ普通の玉の役割がよく分からないので、妖怪が作った玉も分からないのが本音である。
(うーん。俺の考えじゃ玉なんて何かお守り的な感じで使われるイメージだ。もしくはスポーツ・・・・・それはボールか)
「うむ。ポテチとビールは合うな」
銀猫がポテトチップスを肴に酒盛りをしている。猫柳銀一朗にとってもう見慣れてしまった光景だが、普通なら異様な光景だ。
「なあ銀陽。この玉の使用目的って分かるか?どういう為に使われる玉なのかさ。俺は何かお守り的なイメージしか湧かないんだ」
「パリパリ・・んあ?そんなの玉の中に何かを詰める為だろう。それがその玉の役割だ」
「中に何かを詰める?」
「ああそうだ。この玉には何か詰めてあったようだぞ」
クンクンとビー玉のような物を嗅いでいる。臭いで分かるのかとツッコむ。でも分かるらしい。
「この玉には瘴気が詰められていたな」
この答えに目が見開く。銀陽ははっきりと『瘴気』と言った。完全にこのビー玉のような物が今回の怪奇と繋がる。
「安心しろ。詰められていた・・だ。もうこの玉は空っぽだ。中にあった瘴気がどこに行ったかまでは分からないな」
「中にあった瘴気か。心あたりがあるぞ」
家に帰る前に猫柳銀一朗は馬城輝義とまた瘴気に襲われたのだ。いきなり、何も無い空間で瘴気に襲われたのだ。どこから現れたのかが疑問であったがビー玉のような物の中から出てきたのなら納得する事ができる。
「ほう、だから銀一朗から微かに・・・。おいこの玉はどこで手に入れた」
「学園の先輩からだ」
「その先輩とやらに明日会い行くぞ」
読んでくれてありがとうございます。
さあまた新たなキャラが登場だぜ!!
タイトルもその名の通りだ。でもあまり活躍しない・・・ゴメンネ。




