狐と酒飲み
こんにちは。やっと更新できました。
ドンドンカンカンドンドンカン。
軽快な太鼓のリズムが聞こえてくる。さらに周りからは楽しそうな声も聞こえてくる。さらに追加で屋台からは美味しそうな匂いまで薫る。この状況は盆祭りなのだ。
小さい頃から毎年来てるけど、この祭りも相変わらず賑わいだね
「だよね~。優、姉さんはたこ焼きが食べたい」
「わたしはかき氷が食べたい」
「当たり前のように奢らせる気だね」
蛇津は家族と新稲町で毎年開催される盆祭りに来ている。町で行われる祭りと言っても規模は小さい。それでも祭りは人を楽しませる力があるのだ。
「今年は何が当たるかな~?」
「ハハハ。美央は賞品が当たる前提だね」
「毎年当てるからね」
新稲町で行われる盆祭りには抽選会がある。それは祭りに来場した時に番号の記入されたカードが貰える。そして祭りの終盤に抽選会が始まり、言われた番号と同じカードを持っていれば賞品がもらえるのだ。毎年、各賞品は良いものばかりである。
「抽選会が始まるまで遊ぼうよ優」
「そうだね。祭りは楽しまないと損だからね」
盆祭りを楽しむ蛇津たち。今は大仕事が始まる前の息抜きみたいなものである。九怨討伐作戦は明日の夜から決行される。それまでは英気を養うくらいしかない。
「明日の夜からイロイロな意味で大変だ」
「そうね」
横に白羅がいつの間にか現れていた。いつもの着物ではなく、浴衣を着ていた。盆祭りに浴衣姿は似合う組合わせだ。
「盆祭りも良いものね。ところで優君、今晩に私が大人の階段を登らせてあげるわ」
「何ですかいきなり!?」
「だって明日の夜から優君が知らぬ女と関係を持つなんて耐えられないわ!! なら私が1番目になるから!!」
「ちょっと待ってください!! 何でオレが明日から女性と関係を持つ事前提なんですか!?」
「だって場所は遊郭なのよ。可能性は0じゃないわ!!」
実際は白羅の言う通りだろう。蛇津が事件解決の為に駆け回る場所は遊郭。場所が場所なのだ。紫と美艷からも言われている。作戦の過程で遊郭の女性と身体を合わせる事もあると。
「そんなの私は耐えられない!!」
「それは私だって嫌だけど、断腸の思いでの作戦なんだから」
蛇津の横にまたも白羅と同じようにいつの間にかに美艷が現れていた。
「こんばんわ。美艷さん」
「こんばんわ。優君」
挨拶をした後の動作が早い。美艷は自分の胸元に引き込む。むにゅんっと柔らかい感触と甘い香りに包まれる。この早い動作に驚きとドキドキを感じてしまう。
「ねえ優君。今晩は時間ある? 私とイイコトしない?」
「その話はもう白羅さんとしました」
白羅の目が鋭くなる前に離れようとするが離れられない。むしろ、逆に引き込まれていく。
「うふふふ。ちょっとソコの物陰まで行きましょう」
着物をはだけさせ、色香を蛇津に向ける。これにはイロイロな意味で堪らない。だがこの後はナニかが起こるわけもなく、白羅によって引き剥がされるのであった。
「で、何の用かしら女狐?」
「私も盆祭りを楽しみに来たのよ。そしたら優君がいたのよ。これはもう運命だと思ったわ」
「そしたら優君に抱き付いていたと。落ち着きなさいよ」
「貴女に言われる筋合いは無いわ」
言い合いはまだ続くようなので蛇津はその場から離れて屋台に行く。買ったのはラムネとフランクフルト。自分の分だけでなく白羅たちの分まで買う。言い合いをしているから喉が渇くと思っての気遣いだ。
蛇津の感想としては盆祭りにラムネの組合わせは良いものだ。飲むと喉の渇きが癒され、サッパリする。
「ふぅ。ラムネは美味しい」
「はぁ。このフランクフルトが優君のだったらなぁ・・・」
「モゴモゴ・・・そうねぇ」
「・・・静かに食べてください」
一休憩した後、盆踊りを見ながら美遊郭について話始める。
「美遊郭に人が入り込むって、どうやって入り込むんですか?」
美遊郭には妖怪の客の他にも人間の客もいる。だが人間がどうやって美遊郭に来たのかが謎なのだ。
「美遊郭に入れる人間も誰彼構わずと言うわけではないわ。美遊郭は夢と現の世界と同じような場所なの。入ると言うよりは迷い混むと言った方が正しいわね」
美艷が言うには人間が美遊郭に入り込む条件は夢と現実の区別が曖昧にならないといけない。
夢と現が曖昧だからこそ人間が美遊郭に居ても気にするなんて事を思わないのだ。
「美遊郭にいる人間は妄想の強すぎる人や現実を見ない人、普通の人とは違う感覚で生きている人が多いわ。勿論、普通に迷い混んだ人もいるけどね」
「場所が場所だからね」
「そして楽しんだ後はいつの間にか現実の世界に戻っているわけよ」
夢と現の世界である美遊郭。夢で楽しんだ後は現実に戻る。だが現実に戻れない場合もある。それは九怨が絡んでくるのだ。餌さとなるか、気に入られるかのどちらかになれば現実に帰る事はまず不可能だろう。
「さて、話を優君の貞操に戻すわ。何故、作戦の過程で優君が他の狐娘と身体を合わすかと言うとね、潜入する店がそういう店たがらよ」
九怨には部下がいる。その部下が働いている店に入り込み、気に入られるか上客認定されれば九怨を紹介してくれるのだ。その店とは勿論、美艷が言う身体を合わせる店。今で言うなら風俗だ。だから身体を合わせるかもしれないのだ。
「後、注意事項があるわ。作戦中は問題を起こさない事よ。起こすと百狐乱華と言う自警団が動くわ」
「自警団?」
「そうよ。美遊郭の治安を守る為にいるの。それに自警団に所属する妖狐達は皆が強者ばかりよ。相手にすると危ないわ」
ある意味で兵隊や警察を相手にするようなものだ。そう思うと自警団の百狐乱華を相手にするのはマズイだろう。
「特に百狐乱華の頭領は相当の実力者だから気を付けてね」
「どうせその上にいる九尾の狐の九怨と相手するんだから強さは関係無いわ」
「それは白蛇の言う通りね。でも無駄な戦いは起こしたくないわ。百狐乱華の皆も騙されてるのだから」
九怨の陣営は一筋縄ではいかない事が理解できる。明日から気を引き締めなければならない。
「じゃあ今夜は明日の為に私が優君を大人の男にしてあげるわ」
「それは私の役目よ!!」
「姉さんと美央が呼んでるからオレは向こうに行きますね」
白羅たちから離れる蛇津。このまま一緒にいたら本当にイロイロな意味で危ないと判断したからだ。
(男としては凄く興味はあるし、嬉しい。でも心の何処かにヘタレな自分がいるな。でも・・・いつかは決めないとね。今度ギンと相談でもするかな)
盆踊りを見ながらラムネをもう1本飲むのであった。カランとビンの中にあるビー玉が音を立てる。
☆
遂に九怨討伐作戦が決行される。まず九怨に会うための下準備だ。
紫が説明を始める。
「優殿には4つの店に通ってもらいます」
「4つの店?」
「そう。その4つの店に九怨の部下が4人いるでありんす。その4人に気に入られて上客になってくださいなんし」
「分かりました。でもどうやって気に入られるかが問題だね」
作戦は理解できている。しかし、どうやって実行するか考えてしまう。
「抱けばいいでありんす。そこで男を見せれば気に入られるんよ」
そもそも九怨の部下は良質な餌となる存在を探す命令を受けて店で働いている。そこで彼女たちを抱いて強く、逞しいと思わさせれば良質な餌さと決まる。
「ウウウウウ・・・他ニ作戦はナイのカ?」
「ティアちゃんの言う通りよ。やっぱ耐えられないわ!!」
膝をついて落ち込んでいる兎姫に白羅。この作戦に反対だからだ。
「安心しなんし。必ず抱くわけじゃないから」
「「ホント!?」」
「ええ。気に入られる方法はいくつもありんす。その4店舗にはある遊戯があって、それに勝てば気に入られます」
4つの遊戯。それに勝てば良いだけだ。だが簡単にいかないだろう。なぜならその4つの遊戯をする相手が九怨の部下4人なのだ。勿論、相手が有利はずだ。相手の陣地なわけだから。
「ジャア、ワタシはガンガン支援するヨ!!」
「いいのかい?ティアは何だかんだで付いてきただけなのに大きな事件に足を突っ込むなんて」
「イインダヨ。ワタシはユウユウの力にナリタイだけだかラ」
「ありがとうティア」
店を出て目的の店へと向かう。白羅は白蛇に変身し、蛇津の懐に隠れる。兎姫は卯月と共に違う作戦行動をする。そして美艷は蛇津を最初の店を案内し、紹介するのであった。
最初の店はミナミズと書かれた店であった。店の中に入ると賑やかな声と悩ましい声が聞こえてくる。
「いらっしゃいませ!!」
「こんにちは。水戯はいる?」
「いますよ。うちの売り上げナンバーワンは人気すぎて予約なしじゃ指名できないんですけど今回は運が良いですね。すぐに呼んできます。お客さまは隣にいる方ですね」
店の受付の狐娘が奥へと行く。
「何か居酒屋と風俗を一緒にしたような店ね」
「あら、白蛇の言う通りよ。ここでは酒を花魁と飲んで、良い感じに酔ったら行為に及ぶの」
周りをチラリと見ると花魁と酒を飲んでいる客が楽しそうにしている。花魁の狐娘は際どい格好やあられもない格好で客の相手をしている。そして、そのまま奥の部屋にへと行く。中にはその場で行為が始まっている者もいた。
「・・・・・・んん」
「うふふ。やっぱり優君も男として興味深があるのね」
「そりゃあ、男としてありますよ」
「なら私の店で相手してあげるわ」
キュッと白羅から首に巻き付かれる。返事を言わせないようにしている。白羅に巻き付かれるのは慣れてしまったが、首だけは呼吸ができなくなるので止めてもらいたい。
「いっらっしゃーい!! ご使命ありがとー!!」
奥から元気な狐娘が出てくる。狐耳と狐尻尾は当たり前にある。金髪のショートカットでスタイルの良い可愛い狐娘だ。服装はなぜか水着である。
「水着だ!?」
「あ、ワタシの水着で興奮した? 嬉しい!!」
彼女の水着はビキニタイプの水着であり、とても似合っている。
「自己紹介しないとね。ワタシは水戯。この店ナンバーワンだからよろしくね」
「よろしく」
蛇津も笑顔で返事を返す。そして握手を求められる。握手を求められたら握り返すしかない。手を伸ばした時にギュッと握手をする。だがこれで終わりじゃない。水戯がサービスと言って胸に手を押し付ける。
「や、柔らかい」
蛇津は顔を赤くしドキドキしてしまう。そんな顔を見て面白そうと思ったのか、さらにサービスつもりで抱きついてくる。
「今夜を楽しもうね」
腕を組まれながら席に案内される。まずは酒を飲もうとの事だ。しかし、蛇津は困る。まだ酒が飲めないからだ。飲もうと思えば飲めるかもしれないが未成年として飲めないのだ。
(未成年で遊郭にいる自体おかしいけどね)
それでも今回は怪奇事件解決の為に仕方ないと心の中で思うのであった。実際のところ美遊郭は人間の世界でないのだから未成年とかなどの違法や条例は関係無い。それに気付くのは後である蛇津である。
「じゃあコッチに来て来て。まずは一緒に飲みましょ」
「うん。・・・・・え?」
普通に返事をしてしまったが蛇津は酒がまだ飲めない。これはノンアルコールと言い直すしかないと口に出そうとした瞬間にゲームの説明がされる。
「実は楽しくなるゲームがあるんだけど・・ヤル?」
「あら。それは元々のつもりよ」
「ゲームと言ってもただの酒の飲み比べ。先につぶれた方が負けよ」
(えー・・・ゲームが酒の飲み比べって。オレ飲めないよ)
最初の店が出す遊戯がいきなり出来ない状況に悩む。
(さすがに優君はまだ酒は飲めないわよね。ここは私が代わりに酒を飲むわ)
(お願いします。でもどうやって飲みますか?)
(誰にも見られないように口を大きく開いて)
(はい。こおですか?)
誰にも見られないように腕で口を隠し、口を大きく開く。その瞬間に白羅が蛇津の口の中に入り込む。
これにはさすがに驚く。白羅という白蛇が口の中に入り、胃まで入ってくる。嘔吐が急激に来るかと思われたが意外にも無かった。白羅の力のおかげだろう。それでも違和感がハンパない。
(これは・・・何とも言えない気分だ)
(優君お酒を口に持ってくれれば私が飲むわ)
とても異様な感覚だが準備は完了。いつでも水戯の言う酒飲み遊戯に参戦だ。
「じゃあお酒持ってきてー!!」
店員が酒を持ってくる。その酒をグラスにトクトクと注がれる。そして水戯はグラスを持ち蛇津の腿に座る。
手を蛇津の懐に入れて弄る。その行動が男として反応してしまう。
「カンパァイ」
カンっとグラスを鳴らし、飲み干す。飲んでも味は分からないのは白羅が飲んでいるからだ。良い飲みっぷりと評価されるがそれも白羅のおかげだ。
「おかわりイクよ!!」
酒をいとも簡単に飲み干す。そして次から次へと新しい酒が運ばれて来ており、アルコール度数も上がっている。
「それにしてもカッコイイね」
「ありがとう。そういう水戯さんは可愛いね」
お互いを褒めながら酒を飲む。ただ話すだけでなく情報を引き出すように会話を始める。まずはごく普通に会話を進めて行き、普通に知りたい事をさりげなく会話に混ぜ込む。
「へー初めて美遊郭に来たんだ。しかも美艶に紹介されるなんてただの客じゃないね」
「ただの客だよ。そしてたまたま美艶さんに紹介された」
「ただ運が良かったって事ね。運が良いって言うと九怨様と同じね」
「九怨様と同じ?」
「そうだよ。九怨様は幸運に恵まれてカリスマ性も抜群なんだよ」
話を聞くだけで九怨がどれだけ尊敬と憧れがあるのかが分かる。さすがは美遊郭を1から創り上げ巨大までしたまではある。ただ実力があるだけでなく様々な才能面もあるのだろう。
酒を飲みながら会話が続いたが、ここで話がガラリと変わる。それは水戯からの賭けの提案であった。
「賭けですか?」
「そ。ただ飲んで盛り上がるのはツマラナイでしょ?」
酒を飲んで盛り上がるのが今のゴールなのだと頭で思う蛇津。
「アナタはワタシが相手してきた中でトップ5に入るからね。もっと本気になる為に賭けをすんのよ」
「なるほどね。構いませんよ。その賭け乗った!!」
「オッケー!!」
店員が新しい酒を持ってくる。先ほどよりアルコール度数が高い。これを見ればどのように勝負するかが分かる。
酒を飲み干せばアルコール度数を少しずつ上げていく。その勝負だが白羅がどれくらい耐えられるかが問題だ。
(いくらでもバッチコーイよ)
白羅が大丈夫と言う。ならば次は賭けの対象を言わねばならない。水戯が言った賭けの対象は料金の倍倍である。
「じゃあオレが勝ったら九怨様に紹介してください。それが駄目なら九怨様に会えるような良い情報をください」
ピクリと水戯の目が反応した。雰囲気も変わる。それは警戒するような雰囲気だ。蛇津は普通に賭けの対象を言った。九怨に憧れがあるから会いたいという気持ちを込めてだ。
「・・・フゥン。いいよ。その賭けに乗った!!」
雰囲気を元に戻す。
「じゃあ改めて酒飲み勝負!!」
グラスに酒をトクトクと注いで喉へと飲み込む。それを白羅が代わりに飲もうとしたが少ししか飲めなかった。なぜ少ししか飲めなかったのか、それは蛇津の口に入った酒の極少量が変化したからだ。その極少量の酒は針と蛇を組み合わせた形状となったのだ。
ソレが蛇津の口の中の血管を目指していく。そして注射のように入り込まれた。
『・・・成程ね。やってくれるわね狐娘め。さっきまで普通に飲んでたのに賭けになった瞬間にイカサマ能力ねえ』
蛇津は気付かない。全部酒を飲んだと思っている。しかし酒は変化させられ白羅の胃の中に入ったのではなく蛇津の血管へと入る。
(フフフン酒水遊戯。ワタシの変化の術でイチコロ)
水戯の変化の術は酒を他の何かに変化させる。そこまでは普通に変化だが変化させている物が物だなのだ。
酒は飲む物だが含まれている成分は時に危険とされている。それがアルコールだ。アルコールは本来は毒物とも言える代物だ。そんな物が血管の中に多量注入されれば死に至る。
さすがに賭けをしている勝負で相手を殺すという事はそうそうないだろう。それでも水戯が一瞬の雰囲気を変えたのが気になる。
『面倒な事をしてくれるわ。だけど私が優君の中にいる限り絶対に害を与える事はさせないわ!!』
次の酒が口に入ってくる。するとまた極少量の酒が変化して血管へと向う。そしてそのまま血管の中に注入されるとなるかと思えばそうでない。
酒の蛇が蛇津の口の中で弾ける。
『おっと、優君の口内に飛び散らないようにしないとね』
弾けた酒が蛇津の口内に付着しないように止める。そして酒の蛇が弾けた事にすぐさまに気付く水戯。
(ム・・・酒蛇が消えた。まさかカレが消したって事ね。それでも何も顔を変えずに気にせずにいる・・・しかもイカサマをしたという告げも無い)
次の酒のおかわりも飲む。また酒に変化の術を仕掛ける。だが仕掛けたのは水戯だけでは無く、白羅もまたお返しと仕掛ける。
(むぐ!?・・・まさか向こうも仕掛けてくるとはね。しかもワタシと同じような方法・・・イカサマも同じ。イカサマも真っ向から勝負とは気に入っちゃうね)
『フフフ。神の前でイカサマなんて出来ないわよ』
(カレやるわね。フフフン、イカサマを告げずに勝負しようじゃないの。異能勝負よ!!)
水戯が口の中の酒蛇を噛み潰す。そしてアルコール度数の上がった酒が持ってこられる。酒をグラスを注いで手に持ち、口に入れる。
お互いの口の中で勝負が始まる。蛇津はなぜ水戯がニヤリと笑いながら見つめてくる理由を何も知らない。
(今度はこんなのはどうかな?)
酒をリング状にへと変化させ、口の中で暴れさせる。この勝負は酒を口から吹き出しても負けなのだ。説明の時に言われてないが暗黙の了解だ。
酒をこぼしたり吐き出したら粗相となるからだ。ならば口から出すわけにはいかない。
『フゥン、そうきたのね。でも効かないわ』
蛇津の口の中で暴れる酒のリングを白羅が口を開けて咬んで飲み込む。変化したとは言え酒は酒であるから飲み込んでしまえば術は解ける。
(なかなかヤルじゃない。でも今ので顔がムッとしたから少しは効いたかな)
顔がムッとしたのは白羅が口の中で大きく動いたからだ。次の酒をグラスに注ぎ飲み込む。今度は白羅が水戯にお返しをする。
水戯が飲んだ酒はまたも酒の蛇となり、口内で跳弾させる。
「むぐ!?」
「ん? どうしたんですか水戯さん?」
「ゴク・・・なんでもないよ。おかわりイクよ!!」
『フフフ』
(ヤッてくれるじゃない。どうしたんですか?だなんて白々しい。でもこっちだって負けるか!!)
能力勝負が加わった酒の飲み比べはまだまだ続く。それでも遊戯に決着は近づくものだ。
(まだまだ飲んでる・・優と言ったけ。相当酒に強いわね。でも負けないわ。ワタシはこの力で鬼にも勝った事があるんだから!!)
蛇津の口に入った酒をまた針と蛇が合わさった形状に変化させる。
(やはり酔い潰すには酒を血管に流し込むむむむむぐ!?・・・向こうも仕掛けてきたね。もう相当飲んだし、そろそろ決着をつける)
水戯の口の中も白羅が操る酒蛇が暴れる。お互いの能力戦は終盤へと至る。蛇津の口の中で白羅が酒蛇を咬み潰す。だが今回は数が多い。酒の半分が酒蛇になっているのだ。
そのうちの数匹が血管の中へと入ってしまう。さすがに数の多さでは白羅の1咬みでは飲みきれない。その隙に逃げられたのだ。
『しまった。数匹逃がしわね』
すぐさま逃がした酒蛇を咬み潰す。それでも血管内に入った酒蛇により蛇津の身体に異変が起きる。
身体がクラリしたのだ。血管内に酒が直接入ればすぐに酔ってしまう。実際のところ蛇津は酒の匂いで場酔いしたと思っている。
『やってくれたわね女狐め。だけど神である私をナメてもらっちゃ困るわ。もう酒飲み比べは終わりよ』
「むぐぐ!?」
水戯の口の中にある酒が変化する。うねり回った後に球状へと変化したのだ。それに気がついた瞬間に噛み砕き飲み込もうとする。しかし出来なかった。
球状になった酒がいっきに破裂したのだ。破裂した酒は全て細い針状に変化して口の中にある血管に全て入っていく。口に含んでいる酒が全て血管に入った事で水戯がいっきに酔ってしまう。さすがの妖狐でも酒が血管に直接入れば効く。
(うぐ・・・まさか酒をこんなにも自在に変化させるなんて相当の技量の持ち主みたいね。この能力勝負はワタシの負けね・・・強い男)
顔を赤くしてポゥっとする。そのまま蛇津へと寄り掛かる。
「うふ・・うふふふ。アナタってお酒にとっても強いのね」
「ここまで飲めるって事はそうかもね」
蛇津と水戯の酒飲み比べ勝負は終盤へと近づく。お互いにどれだけ酒を飲んだか分からない。
(白羅さん大丈夫ですか?)
(余裕よ・・・それに勝負は決まったしね)
「さて、そろそろラストスパートよ。小細工ナシで飲みましょ」
(ん?最初から小細工無しじゃ?)
蛇津は白羅と水戯が能力戦をしていたのを知らない。
「これが最後の酒ろぉ!!」
ドン!!っと大きなビンが机に置かれる。新しい酒であり、ビンには神殺しと書いてある。
名前の横にはアルコール度99%と書いてもある。
「それ酒じゃなくて、もうエタノールじゃないの!?」
酒飲みから薬品飲みへと危険レベルが非常に上がる。もう酒の飲み比べと言えない。
机にはなぜか試験管が置かれる。化学の実験でも行うのかと思ってしまうが試験管が何の為に用意されたかの理由がすぐに分かる。普通に試験管の中に酒を注がれる。
「試験管がグラス代わりなんだ」
「強すぎるからね。少量分よ。多量に飲んで倒れられてもワタシとしても店としても困るしね」
「アルコール度99%・・・」
お互いに酒の入った試験管を手に持つ。試験管からは強い酒の匂いがする。嗅ぐだけでクラリとしてしまうだろう。
美艶が合図を出すとすぐに酒を飲む。
「クハッ・・・・アア」
「・・・・・・ふぅ」
妖狐でもアルコール度99%はさすがに効くようだ。水戯の顔が赤く、クラクラと身体を揺らしている。酒が強いと言ってもここまで多量に飲めば限界が近い。
蛇津は酔っているふりをしている。酒は全て白羅の胃の中だから蛇津は酒に酔う事は無い。蛇津自身はなんとも無いが白羅自身が気になる。白羅も多量の酒を飲んでいる。
(本当に大丈夫ですか白羅さん?)
(超余裕よ)
白羅はまだ余裕のようだ。
「まだ・・イケるみたいね。まだまだ次イクよ!!」
酒が試験管にまた注がれ、手に持つ。そして飲む。それを2口3口と何度も飲み干す。
「本当に強いー。ワタシ、アナタの事気に入ったわ!!」
(気に入ったと言った。これで最初の作戦は成功かな・・・後は水戯さんとの勝負に勝つ!!)
酒の入った試験管をまた手に持つ。蛇津は白羅のおかげでまだ平気だ。水戯は机に頭を垂れてクラクラしている。次の酒飲みで決着がつく。
「レディィゴォ!!」
いっきに飲み干す。その後はゴトン!!と頭を机にぶつける水戯である。
「この勝負は優君の勝ちね」
なぜか周りの客や店員までもが歓声を上げる。それは水戯が酒の飲み比べに負けたからだ。
水戯は酒の飲み比べで負け無しであったが今日ついに負けたのだ。その強さを知っている者からしてみれば驚きなのだ。
「勝ったはいいけど・・この後はどうするんだろう?」
「水戯が酒でつぶれちゃったからね。ならこの後の本番は私が相手するわ」
腕を組んでくる美艶。そしてそのまま奥の部屋へと連れられるのであった。ついでに酔っている水戯もである。奥の部屋にパタンと入るのであった。
読んでくれてありがとうございます。
感想などあればガンガンください。
さて、蛇津がついに遊郭を体験しましたね。と言ってもまだ酒を飲むふりをしただけですがね。
未成年者は酒を飲んじゃダメだよ!!
 




