野ガマ
文字数を取り戻したぞ!!
まだまだかな?
風切り通りという妖怪空間に入り込むと普通の通り道であった。
だが、名前のとおり風がよく吹いている。少し強いくらいだ。
「あれ?ギンがいない」
「あら。あの銀猫はどこかしら?」
さっきまで一緒にいたはずなのに影1つ無い。まるで瞬間移動でもしたかのようだ。
猫柳の方が心配だが銀陽がいるから大丈夫だろう。こっちはこっちでこなすしかない。
白羅が蛇津の腕の巻き付く。
「この風切り通り・・・妖怪空間のはずなのに普通の通りしか見えない」
「そうね。この風切り通りという妖怪空間は見た目は一般道と変わらないわね。だから一般人が入り込んでも気づかないのかもね」
白羅の推測は当たっているだろう。
この風切り通りという妖怪空間が現実の通りと見た目が全く一緒なのである。気が付くのは妖怪や神様くらいだろう。今までの被害者は妖怪空間に入り込んだことに気が付かなかったのだろう。
「先に進んでみるか」
少し風切り通りを歩くとさっそく何やら視線を感じる。周りを見渡しても何もいないし、誰もいない。
「白羅さん。何か視線を感じる」
「優君。右」
右を見る。そこには特にないかと思ったが何かある。それは古い鎌だった。
「神さまと人間が一緒だなんて珍しいね」
あの古い鎌から声がした。
物が喋る。それに関する妖怪、神といえば。
「付喪神?」
「それ正解」
付喪神といえば長い年月を経て古くなったり、長く生きた依り代に神や霊魂などが宿った存在である。
古い鎌が人型へと変身する。見た目は少年くらいで緑髪が目立つ。
「ぼくは鎌の付喪神。野ガマとも言われている。名前は刈人」
野ガマの刈人。自分で名前をつけたのだろうか。そんな事を思っていると刈人の両手に鎌が出現し、こちらに向かって走り出してくる。
「カルカルカルカルカル」
鎌が振り下ろされる。
「うわっ!?」
「危ない!」
蛇津が白羅によって後ろに引っ張られる。
鎌は地面に突き刺さる。
「白羅さん、ありがとうございます。・・・でも首に巻きついて引っ張るのは・・・」
鎌で刈られることはなかったが顔は真っ青になった。
刈人は鎌を手でくるくる回しながら歩いてくる。
「さすがに躱したか」
「何のまねかしら?」
「なんのまね?そうだね、捨てられた恨み・・・かなっ!!」
今度は鎌を投げ飛ばしてきた。顔面に向かってくる。
「また!?」
白羅がすぐさま変身し、白い尾で鎌を弾き飛ばした
「カルカルカルカルカルカル」
「話くらいする暇があってもいいと思うのよね」
「カルカルカルカルカルカル」
「自己紹介からの刃物が飛んでくるっていう流れ・・・」
握手を求めたらナイフを突き出された気分だ。
「物には魂が宿る。物は人に使われて初めて幸福を得るんだ。でも捨てられるってとても悲しいんだ」
「・・・あなたは捨てられた恨みをこの通りに通る人間にぶつけていたのかしら?」
「うん」
「即答したよ」
刈人の目を見ると濁っている。捨てられた恨みにより変化した目だろうか。
「白羅さん。神憑きの発動をお願いします」
「え?いいの?」
「化け猫事件でこのバイトが危険というのは分かっています。だからこそやるんだ。強くなるために」
「優君・・・いつのまに成長して。任せて!!」
蛇津に巻き付く。
「巻き付きながらのハグ。巻きハグ巻きハグ」
目の前に危険が迫っている状況なのに綺麗な白羅に抱き着けられてうれしい蛇津。
「惚気を見るつもりはないんだけどね」
「白羅さん早く神憑きを」
「ええ、まかせて」
蛇津が光に包まれ、弾ける。
弾けた中には赤い目、髪は半分白くなり、白い尾を生やす蛇津が現れる。
「ふーん。おもしろいね」
もう片方の鎌を投げつける。蛇津はその鎌を白い尾で弾き飛ばした。
「んくくく。鎌はまだまだ出せるよ」
「全て弾き飛ばす」
「鎌流し」
流れるように鎌が右、左、上、正面と飛んでくる。
白い尾を鞭のように振り回し、全ての鎌を弾き飛ばす。
「その尻尾目障り」
『私の尻尾が目障りとは何よ。白くて素晴らしい尻尾じゃない。後で1時間くらい魅力を語ってあげるわ。もちろん優君も一緒に』
(あれ?何か白羅さんに巻きつけられながら白い尾について魅力を語られる自分が想像出来た)
(あの尻尾・・・邪魔だな。接近戦で切り落とそうか?)
刈人の腕から大鎌は生え出す。
「腕鎌」
足からも鎌が生え出す。
「脚鎌」
腕鎌が、足鎌が襲いかかってくる。
「カルカルカルカルカル」
「鎌は鎌らしく人の手で雑草を刈っていな!」
「その人間がぼくを捨てたんだろう?」
水が蛇津の周りにプクプクと水玉が浮き現れる。大きさはバスケットボールくらい。
「蒼玉」
蒼玉が刈人に向かって全て飛ばされる。対して腕鎌で蒼玉を全て切断しながら近づいてくる。
「カルカルカルカルカルカルカル」
「ならこれならどうだ!」
蒼玉を直線状に飛ばすのやめ、動きを止めるため刈人の周りにグルグルと囲む。
刈人の動きが止まった瞬間に一気に蒼玉をぶつける。
「どうだ?」
『まだのようね。よく見て』
水煙が晴れると刈人が腕を交差しながら膝をついてる。
さらに姿は鎌の鎧を着ているようだ。手、腕、肩、背中、膝、足、額と身体の至る所に鎌が生えている。
「効いていない?」
「効いたよ。」
「の割には元気そうだ」
「そうでもないかな。・・・水を操るのか。」
刈人は腕鎌と足鎌意外を引っ込めて走ってくる。
あの腕鎌に刈られれば胴体が真っ二つなのは間違いがない。
「間合いに入られるのはマズイ」
後ろに後退しながら蒼玉を打ち出す。
相手は自ら切りに行かず、鎌を投げ飛ばし蒼玉を潰す。
「カルカルカルカルカル」
「ヤバッ!!」
間合いを取られないようしていたが取られてしまった。
刈人の顔がニヤリと歪み、両腕の鎌をハサミのように交差させる。
「刈る!」
「させるか!」
2つ水玉を出し、近距離で破裂させた。
「あ」
「パアンってね」
破裂により2人は別々に吹き飛ばされる。
「痛って・・・」
『優君大丈夫!?』
「はい。白羅さんは大丈夫ですか?」
『私のことよりも自分の心配しなさい!』
「はい。でも・・・やっぱり心配だったから」
『優君・・・もう、優しすぎよ。でもそれがいいわ』
「ありがとうどざいます。・・・さて次はどう出るか」
吹き飛ばされた刈人を見る。相手は仰向けに倒れており、ピクリとも動かない。
「狸寝入りかい?」
「さすがにバレたか」
ムクリと立ち上がる。表情は笑顔であった。あの笑顔は戦いを楽しんでいる。
「そろそろ本格的に刈るかな」
跳躍し、こちらに向かってくる。蒼玉を打ち出し応戦するが全て叩き切られた。
そのまま回転しながら鎌を振り下ろす。
「二爪大鎌回転」
回転による遠心力で威力が上がる大鎌が蛇津へと襲いかかる。
「ぐ!?」
「カルカルカルカルカル!!」
ズガァンと音が鳴り響き、地面には亀裂が走る。土煙が舞い上がって辺りを包み込む。
『危なかったわね』
「・・・かわされた。いや、外されたのか?」
刈人の目からポタリの何かが落ちる。
涙ではない、水である。
「本当に危なかった。でも水を操るってのは何も飛ばすだけじゃないからね」
蛇津は蒼玉を撃ちだしたが大鎌で断ち切られた後の水を利用した。
水というのは切られても無くなるわけではない。蛇津はそこに気がついた。
蒼玉を切られて消滅したのは、水を操る力を破棄したからである。技が効かなかったので、無意識に水を操ることを忘れていたのである。
刈人の大技をかわしたのは、蒼玉を切らせた後に油断させ、背後から水を目に付着させたのだ。
視界が悪ければ技が外れる可能性は大きくなるからである。
「強いね。でも水を操る力は完璧じゃあなさそう」
「へえ。どうしてだい?」
「水を完璧に操れるなら目に付着させる程度じゃなくて、背後から大技でも出しそうじゃん」
刈人の考えは的中している。
蛇津は水の力を完全に操れない、力を使うのはつい最近なのだ。
本格な戦闘は今日が始めてである。技を出した後にすぐに別の技を出す程、慣れてはいない。
ほんの少し水を操るのが精一杯だ。
「バレてるよ」
『バレたわね』
刈人の身体中から鎌が生え出す。鎌の大きさはまちまちである。
鎌の刃がギラリと光る。
「鎧鎌」
「さっきの全身鎌だらけの技か」
「もうちょっと注意しながら刈りに行こう」
自分の周りに水を集め、蒼玉を作り上げる。
蛇津は考えていた。刈人を倒す案を、そして実行しようとする。
相手はもう油断などしない。注意をはらって来るだろう。
「また水玉?」
「今度は違うよ」
腕鎌を地に下し、引きづりながらこっちに突っ込んでくる。
「ほらよ!」
いくつも蒼玉が刈人に向かって放たれる。
しかし当たらず周りにプカプカと配置された。
「水蓮花」
「え?」
プカプカと浮いていた水玉が蓮の花の形へと変化する。
辺りが水の蓮で埋まる。
「きれいだね」
「でしょ」
「プレゼント?」
「まあね」
ただの綺麗なプレゼントではない。とんでもないプレゼントだ。
「なかなかの再現度だね」
水の蓮を鎌でツンツンと突いてみる。
「容易に触ると危険だよ」
「え?」
「さっき注意するとか言ってたのに・・・破裂しろ水蓮花」
「あ・・・」
蛇津の合図でパパアァァン!!と連鎖しながら破裂する水の蓮。
破裂による衝撃波が刈人に襲いかかる。
「ぐあぅ!?」
身体がミシミシと軋み、鎌にヒビが入る。
「ぐああああああ!!!」
水蓮花の正体は波紋のような衝撃波である。
物理的に効くのが難しいなら衝撃波のような技なら効くはずだ。
四方八方から襲い掛かる衝撃波がいくつも重なり、威力が倍増される。
衝撃波が止む。衝撃波の中にいた刈人は身体がボロボロで、全身の鎌がパキンと折れたと同時に倒れた。
「ぐぐ・・・」
『綺麗な薔薇には棘があるってね』
「蓮の花だけどね」
刈人が元の鎌の姿に戻る。
元の姿に戻った刈人は何も反応が無く、ただの鎌になった。
それをヒョイと拾い上げる。
『禊をしないとね』
「その後はどうしましょうか?」
『使ってあげるのも良いかもね』
「襲われた身としてはなあ・・・」
妖怪空間が晴れる。
後ろから声が聞こえてくる。この声は猫柳だ。
猫柳の後ろを見ると何かを啜っている銀陽がいる。
「無事かああああ!」
「大丈夫だよギン。ところで銀陽さんが啜っているのって・・・」
「おう。鎌鼬の切子だ」
「何があったんだい?」
「銀陽の怒りに触れたからソーメンのように啜られている」
「見た目は拷問だね」
蛇津の言う通り見た目は拷問のようだ。
啜られては吐き出され、啜られては吐き出されている。
切子はグロッキー状態だ。
「それにしてもその姿って」
「うん。これは神憑き。まあ、妖怪か神様かの違いだけ」
ネコミミ、二又の尻尾の青年と赤目と白い尻尾の青年が並ぶとコスプレ男子のようだ。
「白蛇、神憑きをしたのか。蛇津は戦力的にどうだ?」
切子をペッっと吐き出し、銀陽が聞いてくる。
白羅はポンッと神憑きを解除する。
「全然問題無いわ。これからにも期待ね。優君は私が育ててみせる!!」
「そうか。ならもっと無茶できるな」
銀陽が怖いこと言っていると猫柳と蛇津は思った。
「じゃあ禊に行ってくる。こいつらをポイッってぶん投げてくる」
「ちょっと待って。アタシは禊を受ける必要なんてないわ」
切子はベトベトの身体を起こし、反論する。
「確かにあなたは禊をする必要はないわね」
禊は穢れを除去して心身を清めるのだが、穢れを持っていない者が受けてもただの水浴びだ。
切子とは戦いになったが、彼女自体穢れてはいなく、正常だ。
「でしょ」
「確かにそうだが反省は必要だ」
「え・・・?」
後ろから銀陽が切子に近づきカブリと頭を咥える。
「もうイヤァァァァァァァ!!!!」
切子は銀陽に咥えこまれながら連れてかれた。
切子に関しては聞きださないことがある。でも今日は疲れたので帰って寝る。
風切通りの妖怪空間が完全に晴れる。
「優、尻尾を引っ込めたら帰りに飯食ってこうぜ」
「いいね。洋食がいいかな」
どこの店に入るかを考えながら猫柳達は帰路についた。
どこかの山奥。清く透明な水が流れ、周りま色鮮やかな緑が溢れている。
大自然の中にいると心が洗われる気持ちについついなってしまう。
そんな中、川から何か聞こえてくる。
「がぼがぼがぼがぼがぼがぼがぼがぼ」
切子が水流にもまれている。決して溺れているわけではない。
これはあくまで禊である。
「がぼがぼがぼがぼがぼがぼ!?なになに!?気づいたら溺れてるんだけど!?」
刈人もまた水流にもまれている。
2人仲良く禊が行われている。1人は元々禊の必要はないわけだが。
「おー。溺れとる溺れとる」
「溺れているんじゃなくて禊でしょ」
銀陽と白羅は煎餅を齧りながら禊の様子を見ている。
パリッと音を立てながら白羅は銀陽に気になることを聞いた。
「ところで何であなた達は鎌鼬に襲われたの?」
「知らね。いきなり襲われた」
「・・・・・本当?」
パリッ。バリバリバリ。
「・・・・・・ああ」
「今の間は何よ」
「記憶を確かめてた」
パリッ。煎餅を齧る音と川の中からの悲鳴が広がる。
切子がなぜ襲ってきたのかは分からない。しかし分からないままで終わらせる事はしない。この話はまた後日となる。
その後、切子は猫柳の家で厄介になっている。真相を知るまで切子を逃がさないつもりだ。
切子が逃げても毎回銀陽が咥えながら連れ戻しているのが日課になっている。
刈人は蛇津の家で厄介になっているようだ。捨てられていてグレていたが本来の使い方をされていて満足らしい。基本的に素直な性格らしい。
物として大事に使われるのは最大の喜びである。物は大切にしよう。
妖怪は野ガマです。
今回も戦闘シーンです。違和感ないかな?




