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銀色神妖記  作者: ヒカリショウ
13章:狐の遊郭
108/150

狐のお願い

新章です。読んでってください!!

今回は狐ですよ

ミーンミーンミーンミー。

蝉の鳴き声が至る所から響いてくる。この鳴き声を聞くと夏の風物詩と考え込んでしまう。

バタンっと車のドアから出てくる青年がいる。青年の名前は蛇津優。神耀学園に通う学生だ。彼は夏休みがお盆になった事で母親の実家に帰省しているのだ。

よくお盆や正月に親戚たちが本家に集まる日があるだろう。まさにソレである。

蛇津は神耀町から離れ、今いるのは母親の故郷である新稲町(にいいなまち)だ。蛇津にとって新稲町はとても心が癒される場所である。どんな町かと言われれば、田舎と答えるしかない。周りは緑に囲まれ、少し歩けば川や田んぼが見えてくる。だが蛇津にとって大自然に囲まれる事は大好きなのだ。空気も美味しく感じる。



「着いた着いた。ジイチャン達は元気かな?」



車から荷物を持ち上げて家の中へと運ぶ。母親の実家はなかなか大きい。流石に親戚一同が集まる本家だ。



「ただいま~!! 今帰ったよ」



ドタドタドタドタドタドタ。

誰かが走って来る。そして、その誰かは一直線に蛇津の懐に突っ込んできた。



「優おかえりー!!」


「キャッチ!! 相変わらず元気だね美央(みお)


「まあね」



彼女は巳波美央(みなみみお)

小学5年生の元気一杯の女の子。巳波家の1人娘だ。

巳波と言う姓は蛇津の母親の旧姓である。この事から蛇津と美央は従兄の関係だ。



「ただいま美央~。お姉ちゃんも来たよ~」


「おかえり(れい)お姉ちゃん!!」



蛇津の後ろからのんびりと表れた女性は蛇津の姉だ。蛇津麗(へびづれい)。黒髪で長髪であり大和撫子の言葉が似合う。



「おう。来たか優に麗。家の中に上がれい」



今度は美央の後ろから白髪の老人が出迎えに来てくれる。言わずもがな、蛇津たちの祖父だ。



「うん。帰って来たよジイチャン。皆は元気?」


「おう。皆元気過ぎるぞ」



ニカッと笑顔で返してくれる。蛇津たちが巳波の家に来るのを楽しみしていたように、蛇津の祖父も蛇津たちが帰ってくるのを楽しみにしていたのだ。特に蛇津に会うのはとても楽しみにしている。何故なら巳波家は生まれてくるのが女の子ばかりで男の子が少ないのだ。だから蛇津の祖父は孫の蛇津が生まれた時は大いに喜んだとの事だ。

幼い時から甘やかされ、祖父の事が大好きなお爺ちゃん子だ。



「今回も風呂に行くか?」


「うん。勿論行くよ。もうジイチャンと山の上の風呂に行くのは恒例だからね」



山の上にある風呂。それはごみ処理場の余熱を利用したエコ的な銭湯だ。

幼い頃から必ず入りに行っている。



「私も行く。あそこの銭湯はフルーツ牛乳が美味しいし」


「おう、行くか!! 母ちゃん達はどうした?」


「ただいま~」



蛇津の母親たちも、ただいまの挨拶をする。実家に帰ってくれば積もる話もいくらでもある。しかし、その前にやる事がたくさんあるのだ。

今日は親戚一同が集まる。今は蛇津家が1番乗り。これから昼食作りを手伝わなければならないのだ。と言っても既に8割が完成しているので蛇津たちが手伝うのはほんの少しだけだ。

蛇津姉弟がするのは美央の遊び相手が主な仕事みたいなものであった。



「遊ぼうよ優に麗姉ちゃん!!」


「はいはい、勿論遊ぶよ。でもこれから親戚達が集まって昼食だから後でね」


「それくらい分かってるって」



ニッコリと笑いながらゲームのコントローラを持っている。説得力が無い。



「やっぱ暑い日は冷房の効いた部屋でゲームだよね」


「ある意味、将来有望だよ美央は」



ゲームはまだ出来ないけど談笑は出来る。何かあったか?何をやったか?等々と話していると親戚たちが挨拶に来てくれる。親戚一同が集まれば、昼食が始まる。

育ち盛りの美央は早くも席に着き始める。やっぱり元気な女の子だ。蛇津たちだけでなく、親戚たちも思う事だった。



「いっただきまーす」



美央の号令とともに昼食だ。始まれば談笑しながら食べるや飲めやの状態だ。

大人たちは昼間から酒を飲み上機嫌で口が達者になり、子供たちは飯を食い終われば持って来たゲームをしたりする。その光景を見ながら食事をするのも、たまには良いと思う蛇津であった。



(家族に親戚一同が集まるのも良いものだね。疲れる時もあるけど)


「おう、優。最近の学校はどうだ?」


「まずまずですね。テストでは上位に入ってるんで大丈夫」



親戚の叔父さんとの談笑が始まる。一緒に食事をしていれば当然の流れだ。内容も学校の事や人生の先輩としてのアドバイス等々。話をしていて面白い。ここまではだ。しかし、ここから先は少し疲れる。



「どうだ? 彼女は出来たか?」


「残念ながら、まだ」



何故か途中で恋愛の話になる。大人でも子供でも知り合いの恋愛話は良い肴になるらしい。

蛇津はまだ恋愛をしていない。この話は答えるのに少し疲れるのだ。周りの親戚たちも興味津々で話に参加してくる。



「早く恋人を見つけろよ。そしてジイサンとバアサンにひ孫を見せてやれ」


「そんなの早すぎですよ。全くもう・・・」



口に麦茶を含む。

周りからは陽気な笑いが聞こえる。



「なんなら叔父さんが紹介してやろうか?」



紹介してくれるのは嬉しいが蛇津自身はまだ早いと思っているので断ろうとする。でも叔父の話は止まらない。



「彼女なんかどうだ? ほら、優にいつもベッタリしている年上の女性だ。姉さん女房なんて良いと思うぞ」



この話を聞いて蛇津は頭にハテナマークを浮かべた。

いつもベッタリしてくる年上の女性など知らないからだ。誰かと勘違いしているのではないかと考えたが、次の叔父の言葉で頭を抱える羽目になるのだ。



「なあ白羅ちゃん?」


「そんな、いつもベッタリだなんてもう。叔父様ったら」


「ゴフッ・・・・・!?」



麦茶が器官に詰まり、咳き込む。この瞬間は息も出来ずに苦しいが、今は関係が無い。

蛇津の隣りからとても聞き覚えのある女性の声が聞こえた。それは誰かと特定するまでも無く理解出来る。その女性の名前は白羅。白蛇神であり、蛇津と一緒に怪奇事件を解決するパートナーである。

神なのだが、蛇津たちの親戚一同と普通に一緒に食事をしているのに驚いた。



「は、白羅さん!? いつの間にここに!?」


「あ、優君。口元が汚れてるわ」



優しく丁寧に手拭いで拭いてくれる。これには感謝。



「白羅ちゃん早速、妻らしい事をやっているな!! そのまま良い感じになって将来はジイサン達にひ孫を見せてやってくれ」


「もう叔父様ったら気が早いですよ。でも、優君とは将来は子沢山な・・・」


「そうじゃなくて。・・・取り敢えず向こうで話ましょう」



腕を引っ張り、その場から退散する。後ろから、お若い同士ゆっくりとか何とか言っていたが気にしない事にした。神である白羅の話を誰にも聞かれないように外まで出る。



「で、何でここにいるんですか?」


「優君の所に私は何時でもいるわ」


「・・・そうですか。全く、来るなら一緒に来ても良かったのに。いきなり現れたから驚きましたよ」


「ごめんね。少し準備してたのよ」


「準備? ああ、もしかして記憶の改ざんですか? 叔父さん達が普通に白羅さんの事を知っていたし」


「そうよ。色々と設定をしてきたわ」


「え、設定?」



実は白羅は蛇津が巳波の家に帰る前に出掛けていたのだ。それは白羅が蛇津の親戚たちに入る為に記憶を少し弄る必要があるからだ。その事に関しては蛇津も納得済み。そして、気になる設定の説明を聞く。その内容は実にある意味面白かった。

白羅は蛇津の親戚の1家である白神家の娘となっているのだ。しかも血の繋がっていない娘という設定だ。色々と設定に違和感があるのだが、それで通したのだから凄い。



「何て設定ですか。・・・ハア」


「親戚とか従姉なら結婚が出来るけど、やっぱり気にする家はあるでしょ? でも血の繋がっていない設定なら恋も結婚も大丈夫よ」


「いや、そうじゃなくてですね」


「この設定はティアちゃんや優君から借りた小説から参考にしたものよ」


「原因がまさかの自分とは」



既に設定は決まっているので頭を悩ませない。特に悪いと言うわけでは無いのだから前向きに考える。



「フフフ。これで私達は家族親戚一同に公認ね」



何事もなく抱き付いてくる。最近、色々と追い詰められている蛇津であった。

でも男としては嬉しい本音はある。



「さてと、これから優君の先祖に挨拶してくるわ。さすがに私の正体は分かるだろうしね」


「それですけど、御先祖様は今いるんですか?」


「勿論いるわよ。今は親戚一同の食事を見ながらほのぼのとしてたわ」



お盆なのだから先祖が帰ってくる。蛇津もそれは理解している。実は先祖に会えると思っていた。

何故なら蛇津は神や妖怪と出会い、目で見る事が出来るからだ。ならば幽霊も見えると考える。しかし、今まで幽霊は見えた事は無い。



「日常ではそう簡単に幽霊は見えないわ。そもそも幽霊自体がこの世に留まる事が出来ないもの」



幽霊はこの世に留まる事が出来ない。その理由は迎えが来るからだ。

天国か地獄の裁判をする為の迎えだ。だから幽霊は直ぐにこの世からあの世へと行く為、霊感の強く見える人間でも毎日幽霊を見ているわけでは無い。



「テレビとかで幽霊特集が放映されているけど、あの幽霊達は迎えから逃げる、もしくはまだ迎えが来ていないのパターンが多いわ」


「でも今はお盆だから帰ってきているはずですが」


「先祖達はある空間の中にいるわ。神域のような場所にね」



先祖たちがこの世に帰ってきたら向かう場所がある。それは仏壇だ。

白羅が言うには仏壇は先祖たちがお盆に留まる場所であり、仏壇の中でゆっくりしているそうだ。たまに仏壇の中から出て来て散歩もするらしい。



「優君は挨拶したでしょ? ちゃんと気持ちは伝わっているから見えるようになっても、無理見ることは無いと思うわ」


「無理に見たいつもりじゃないんですけどね。でも白羅さんの言う通り見えるようになったからと言って見ようとするのは失礼かな」


「失礼では無いけど、幽霊は見ようとするものでは無いわ。じゃあ優君の先祖達に挨拶してくるわ。先祖にも公認してもらわないとね」



蛇津の先祖に神が挨拶に行く。それは先祖たちも驚くだろう。蛇津は自分の先祖たちが驚くのが少しだけイメージ出来た。



「御先祖様も家に帰ってきたら神様が居るのだから驚くよね」



家の中に戻ると蛇津は祖母から、いなり寿司を渡される。

外にある稲荷が住むとされる屋敷神やしきがみに供えて欲しいと頼まれるのであった。勿論断る必要など無いので引き受ける。

屋敷神とは屋敷の土地に祀られている小さな神社の事だ。屋敷およびその土地を守護する神でもある。ご神体も様々であるが巳波家の所の屋敷神は稲荷だ。



「お久しぶりです稲荷様。これはお供え物のいなり寿司です。早く食べないと腐ってしまうか、蟻に食べられてしまうので気をつけてください」



お供え物のいなり寿司をコトリと置く。そして両手を合わせて感謝をする。

巳波家に来て稲荷様に願いを言い、感謝するのも蛇津の恒例なのだ。



「・・・よし。戻るかな。白羅さんがまた何か言い出したら大変たをからね」



立ち上がり、家の中に戻ろうとした時に蛇津の背後から誰かに抱き付かれる。

背中からは柔らかい感触に甘い香りがする。これは蛇津が何度も経験した感覚。



「挨拶は済んだのですか白・・」


「お帰り優君。ずっと待ってたわぁ」



後ろから抱き付いた誰かの正体は白羅と思ったが違う。白羅の声ではなく、別の女性の声であった。

誰だと思い振り向くと、黄金色の髪に肩を露にした着方をした着物美人であった。だが、それらよりも目に留まったのは狐耳に4本の狐の尻尾であった。



「えっと・・・誰、ですか?」


「私の名前は美艶みえん



今度は正面から抱き付かれた。



神聖な祠の前で抱き合う男女。正確に言うと女性の方から抱き付いて来たのだ。

蛇津は謎の女性からの包容に嬉しいような不安なような気分でイッパイであった。

その女性は名前を美艶と言った。さらに蛇津とは面識があるような口振りだ。だが、蛇津は美艶と言う女性は知らない。そもそも狐の耳と尻尾の生えた女性は始めて見た。



「あの、苦しいので離れてもらえると嬉しいのですが」


「ダメ。もう少し優君を感じていたいの」



お願いに失敗する。このまま抱き付かれたままとなる。甘い香りに柔らかい感触。身体はいろんな意味で熱くなる。



「それに私の香りを染み込ませて白蛇の匂いを上書き中よ」


「え、白蛇って。貴女は・・・」



白蛇。それは白羅の事しか思い付かない。蛇津にとって白蛇と言われれば白羅しかないのだ。そもそも白蛇の匂いがどんな匂いかは分からないが。



「全くもう。まさか白蛇に取られるなんて思わなかったわ。でもこれで取り返せるし、契りも交わせ・・・っキャン!?」


「私の優君に何をしてるのかしら?」



件の白蛇である白羅が登場。自慢の尻尾で美艶の頭を叩いた。中々の重量感ある一撃で少し涙目になっている。



「あら、登場したみたいね」


「まさか女狐が私の優君を・・・寝とる所だったとわね!!」


「何を言っているのかしら? 私の優君よ」



蛇津は思った。どちらのものではないと。だが、そんな事は関係無しと彼女たちの言い合いは続く。



「て言うか貴女は何者よ?」


「それはオレも気になります」



耳と尻尾を見れば狐に関する存在だと分かる。だが、良いのか悪いのか。それは分からない。



「私は美艶。ウカ様に使える神使よ」


「ああ。神使」


「神使?」



神使。

名の通り神の使いもしくは神の眷族で神意を代行する存在である。



「それにウカの神使とはね。」


「あら? ウカ様とは知り合いなのね」


「ウカ様?」


「ウカ様とは宇迦之御魂神ウカノミタマノカミと言う稲荷神よ」



宇迦之御魂神ウカノミタマノカミ

稲荷神とも言われる神であり、穀物や生命を司る神である。



「なるほど。よく分かりました」



美艶の存在が分かった。しかし、蛇津はまだ分からない所がある。それは蛇津自身と美艶の関係だ。彼女は蛇津の事を知っているようだが、蛇津は知らない。一方的に知られている理由が知りたいと思うのは当然ある。



「それは簡単よ。そこにある祠があるでしょう? 優君は此処に帰ってくる度に祈ってくれる。違わないわよね?」


「そうですね」


「そんな信仰ある人間を覚えないはずないでしょ?」



ここで理解できた。白羅と同じ理由である。神が祈る蛇津を見ていた。その信仰している姿から覚えてもらったのだ。



「優君の信仰する姿は素敵。ウカ様も強く信仰してくれてるって喜んでいるわ」


「それは光栄です」



神が喜んでくれた。これは人間である蛇津は嬉しい。



「ねえ優君。話は変わるんだけど」


「何ですか?」


「私とバイトしない?」



バイト。

これは怪奇事件の解決の仕事だ。それを神使から誘われる。悪い気分ではない。しかし、蛇津は既に白羅とコンビを組んでいる。美艶には悪い事をしてしまうが断るしかないのだ。



「スミマセン。オレはもう白羅さんとコンビを組んでいるので」


「そうよ。女狐が私達の仲を引き裂く事はできないわ!!」



フフン、と鼻を鳴らして勝ち誇る顔をする。自慢の尻尾で蛇津を引き寄せ抱き付く。



「あら、そんなの関係無いわ。だって最終的には私と結ばれるんだもの。一緒になるのが遅いか早いかの違いだけよ」


「何を訳の分からない事を言っているのかしら?」


「ねえ優くん。白蛇より私に換えない? 私ならイロイロと教えてア・ゲ・ル」



美艶もまた蛇津に抱き付く。そして耳元に色っぽい声で息を吹き掛けてきた。これにはゾクリと感じてしまう。嫌な感じではなく、何とも言えない感じとしか表せない。



「こら!! 私の優君に色仕掛けしないで!!」


「 良いじゃない。全ての女は男を色仕掛けする権利を持っているのよ」



負けじと白羅は耳の中を舐めてくる。



「わわわわわ!?」



イロイロな意味でヤバイ。抱きつく2人から逃げ出そうとしたが失敗する。白羅と美艶は尻尾で拘束しているからだ。腕と足が動かせない。



「そもそも何で貴女は私から優君を奪おうとするのよ」


「それは優君が好きだから。私の好みだし、心から神を信仰する姿は素敵」


「それだけじゃない」


「誰かが誰かを好きになる理由なんて何でもアリなのよ。大事なのは自分の心が正直かどうかよ」


「誰かが誰かを好きになるのは何でもアリか。確かにその通りかもしれないですね」


「さすが優君。私の事を理解してるわ。んぅ」




顔を近づけ、唇と唇が触れそうになる。



「させないわ!!」



白羅のデコピン。美艶が仰け反る。額を抑えて涙目。



「案外痛いわ」


「私の目の前でキスしようとは良い度胸ね」


「やはり白蛇が邪魔ね」


「あの、そろそろ離してください」



尻尾で拘束されているので苦しくなってきたのだ。後、美女に抱きつかれて本当にドキドキ状態。



(凄く役得だけどね)



男なのでやはり嬉しい。



「女狐が先に離したら、一時的に離れるわ」


「それはこっちのセリフ」


「両方同時でお願いします。て言うか一時的って・・・」


「じゃあ質問に答えてくれたら考えてあげるわ」


「何ですか?」


「私と女狐。どっちを抱きたい?」


「意味が分かりません」


「私と女狐。どっちとセック・・・」


「言葉の意味が分からないんじゃなくて質問の意図が分からないんです!!」



中々答えにくい質問が来た。堂々と女性からこんな質問が来るとは思わなかった蛇津。本人が目の前に居なければ答えられるかもしれないが、今は両脇に居る。これは罰ゲームなのだろうかと思えてくる。



「ちょっと白蛇。そんな風に言ってわ駄目よ」



美艶が助け船を出してくれる。予想だとこの質問に乗っかってくるかと思われたが、嬉しい的中ハズレである。



「優君。私と白蛇で、どちらの夜伽を受けたい?」


「言い方を変えても意味は同じです!!」



蛇津の援護ではなく、白羅の援護であった。予想はハズレではなくて予想的中であった。



「で、どっちが良い? 優君なら必ず答えてくれるわよね」


「優君はヘタレじゃないものね」



逃げ道を塞がれてしまった。言葉的にも物理的にもだ。



「なっ・・・クッ」


「「どっち?」」



頭をフル回転する。こんな事で頭を悩ませるのはどうかと思ってしまうが、こんな状況に追い込まれてしまったのでどうしようもない。

蛇津としてはどんな質問は答える気持ちをいつも持っている。だが、今悩ませている質問は予想外なのだ。

それでも蛇津は答える。



「あ、っえと・・・ハ、白羅さん」



恥ずかしそうに答える。



「そ、そんな・・・」


「優君!!!!」



片方は残念な顔をし、もう片方は嬉しい顔した。



「どうよ女狐!!」



白羅のドヤ顔。勝ち誇った顔。そして尻尾の締め付けが強くなる。

苦しいとしか言えない。



「優君何でぇ?」


「それは・・・白羅さんが良いと思ったからです。勿論、美艶さんもとても魅力的ですよ」


「フフフ。負けを認めなさい」


「それは無理ね。確かにこの質問では貴女が選ばれたけど、ただそれだけよ。まだ優君はフリーだからチャンスはいくらでもあるわぁ」


「この女狐!!」



そのまま蛇津は開放されずに言い合いを聞く事となってしまったのであった。








                         ☆








「閑話休題よ」


「急に何よ」


「これ以上言い合いをしても終わりは見えないからね。本題を進めたいのよ」


「本題?」


「私がただ優君に逢いたいだけかと思ったら大間違いよ」



2人からやっと解放された蛇津。次に待っていたのは美艶からの大事な話であった。



「そもそも私が優君とバイトをしようとしているのはね、ある妖怪が起こしている悪行を止める為よ」


「ある妖怪?」


「有名な大妖怪。九尾きゅうびきつねよ」


「超が付く程の大妖怪じゃない」



九尾の狐。

有名過ぎる大妖怪だ。誰もが知っている。9本の尻尾をもつ妖狐であり、とてつもない妖力を持つ。その力は神と同等とも言われている程である。九尾の狐は絶世の美女へ化身するというのも有名だ。



「それって大仕事になるんじゃないの?」


「ええ。それに危険度も高いわ。だから強要はしないわ。これは私のお願いよ」


「それって貴女だけじゃないでしょうね?」


「もちろんよ。私だけじゃなくて、私の仲間も動くわ。ウカ様もね」



先程の賑やかさから一変であった。



「これはお願いだから、断ってくれてと構わないわ。もし、受けてくれるなら明日か明後日までに返事を頂戴ね」


「分かりました」



夏休み。蛇津に大きな怪奇事件が迫るのであった。



「返事の場所はここですか?」


「そうね。遅くなるなら夜はここで良いわ。もし昼までに返事が決まったらトウキョウ・ビックサイトに来てね」


「ん?」


「そこにいるから」


「えっと・・・」


「コミケに参加してるのよ。狐庵きつねあんってサークルにいるわ」


「・・・あれ」



真剣な話から180度変わった話になった。

読んでくれてありがとうございます。


今回は猫柳視点では無くて蛇津視点の物語となります。

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