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銀色神妖記  作者: ヒカリショウ
12章:阿波妖闘試合
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後夜祭

トントントントントントントントン。

ぐつぐつぐつぐつぐつぐつぐつぐつ。

お腹が空きそうなリズムが聞こえてくる。これは調理をしている音だ。料理の匂いも良いが調理中の音もまた良いと思うだろう。

その発生源の中心には猫柳と太三郎、他の化け狸たちがいた。



「俺がある意味優勝したから酒や新鮮な山の幸を手に入れた。でも、持ち帰るには量が多すぎる。だから祭の最終日の打ち上げで全部使いきるのは良い案だと思う」


「そうだな。俺も文句は無い。そもそも優勝者がどう使っても文句は言えん。そこの山菜を取ってくれ」



山菜の束を渡すと、とろりとした衣を浸けられ油の中へと放り込まれていく。

ジュワジュワアと音を立て、カラリと揚がって美味そうだ。



「美味そうだな山菜の天ぷら」


「そうだろう。この魚を捌いてくれ」



川魚を綺麗に捌いていく。猫柳にとって魚を捌くのは朝飯前だ。



「疑問があるんだが」


「何だ疑問って? お、魚捌くの上手いな」


「何で俺が料理してるんだ?」



つい先程まで祭の暴走を鎮圧させていた猫柳。原因を止める為に身体に鞭を打ちながら戦っていたのだ。そして最大の貢献者として動いたのであった。それが今は料理をしているのだ。



「おいおい、料理をするのは女だけじゃないぞ。男だって料理くらいするもんだ。男女差別はいかんなあ」


「そうじゃない。料理してる面子がおかしいだろ。優勝者の俺が料理しているのに違和感を感じるんだ」



優勝者なら料理を作る方ではなく、待つ方だと言う。しかも身体はボロボロなのでゆっくりもしたい。なのに料理をしている。



「優勝者のする事じゃねえと思うんだが」


「はっはっはっは。仕方ないだろ。人間の料理を作れるんだから作ってもらわんとな。それに俺らだけじゃなく、他の仲間たちも手伝ってるではないか」


「人間の料理って言っても屋台でいろいろとあったじゃん」


「屋台の食い物は覚えたが、それ以外はまだだ。この天ぷらだって今教えてもらったから作れるのだぞ」



調理に戻る2人。

猫柳が今回の騒動を止めた貢献者というのは森に広まっている。しかも、なぜか化け狸から尊敬の眼差し見られている。



「えーと、狸から様々な眼差しで見られてるんだけど「


「そりゃそうだ。なんせ総大将の俺を倒し、淡路狸合戦を止めた英雄だからな」


「ふーん。止めたのはお前だろ」


「最大の貢献者はお前だ。たがら尊敬の眼差しがあるぞ。さらに雌の化け狸からもモテてるぞ」


「・・・嬉しいんだか何だかな」


「だが、お前には玉麗がいるから浮気するなよ。結婚はまだ許さんがな」


「それはどっちだよ」



旬な川魚の刺身が完成する。綺麗な切身で旨そうである。次に鰻を捌き、蒲焼きを作っていく。甘タレを塗ると火で香ばしい薫りが鼻を刺激する。



「うん。絶対に旨いはずだろ!!」


「 香ばしくて腹の鳴る匂いだな!!」



本当に腹の音が鳴った。さらに口の中には涎も出てくる。



「鰻は栄養も高いし、精力も付くから今の疲れた俺にはピッタリの飯だ」


「 そうそう。鰻を食うと精力が付く・・・って、おい!!」


「 何だよ?」


「 精力を付けて玉麗とナニする気だ!!」


「何言ってんだよ?」


「玉麗と交尾する気か!! 俺は許さんぞ!!」


「ド直球で何を口走ってんだ!?」



ギャアギャアと料理を作りながら言い争う。

その様子を少し離れた場所から見ている犬坂たち。その中で熱い視線を送る玉麗



「うふふ」


「何でトロンとした目でギンに熱い視線を送ってんのよ」



ジト目で玉麗を見る犬坂と羊島。今、彼女たちは意外な衝撃を受けている。理由としては猫柳と玉麗が婚約している事についてだ。実際は婚約とは言えないが。帰って来たら友達が婚約を進めていたと聞けば誰でも驚く。



「あたしたちが居ない間に何があったのよ」


「イロイロとあったのさ」


「ライバル出現ですぅ~。姫音様ぁもっと積極的にならないとぉ~」



お互いに牽制しあう彼女たちであった。



「それよりも私達は料理するのを手伝わなくて良いのでしょうか?」


「ギンのやつがやんなくてもいいって言ってたんだから構わないでしょ」


「うう。猫柳君よりも疲れていないのですから大丈夫なのに」



女子の料理を手伝いをすると聞いた猫柳の内心は焦る。特に羊島に対してだ。



(親切心はとても有難いけど、超激甘料理は勘弁なんだよな・・・スイーツ系は完璧なんだけど)


「おい」


「何だ?」


「うちの太助が迷惑をかけたな」


「何を今更。起きた事はどうしようもないしな」


「太助はどうなった?」


「悪いがどうなったかは知らない。俺が知っているのは奴が海に落ちていく事までだ」



太助が完全に海に落ちた姿は見ていない。瞬間移動のできる傘の中に入った時に見た太助の最後はまだ海に落ちていく途中だった。生存は分からない



「そうか。今回の騒動はあいつの野心に気付けなかった俺の責任だ。せっかくの祭を台無しにして悪かったな」


「 ・・・相手の腹ん中なんて分からないのが当たり前だろ?」



祭の打ち上げ用の料理が完成する。

後は皆で食べて、ワイワイとさわぐだけだ。いただきます、と言った瞬間に銀陽がかぶり付く。



「うむ。美味い!! 後、酒よこせ」


「ほれ。美酒の猫殺しだ」



一升瓶ごと手に取って口に付ける。ゴクゴクと豪快に喉を鳴らしている。良い飲み方をしている。



「 良い飲みだ。ワシと飲み比べしないか?」


「かかってこい!!」


「飲み過ぎ注意だぞ銀陽」


「ヌシも飲まぬか?」


「良い誘いだが、今回俺は飲まない」



鬼の温羅から酒の誘い。嬉しいが猫柳は未成年者であるから飲めない。20歳でないのが悔しいと思っている猫柳だ。



「酒の席に居られないのが悔しいな」


「ならワシの話だけでも聞いとけ」


「何だよ?」


「ヌシはワシを倒した。この意味が分かるか?」


「分からないな」



鰻の蒲焼きにかぶり付く。

口の中に旨味が広がる。美味い!っとつい無意識に言葉に出す。



「これからヌシは他の鬼に注目されると言う事だ」


「 ぐぶっ。・・・それは他の鬼に狙われると言う事かよ」


「 まあ、いきなり喧嘩を売られる事はないと思うがその事を頭の片隅にでも入れといてくれ」



人気者はツライ。そんな言葉が頭の中に出てくる。猫柳は淡路妖闘試合のある意味で優勝者であり、淡路狸合戦を止めた功労者。その最中で大物である妖怪を倒してきたのだ。その猫柳が注目されないはずがない。



「化け狸にはもう注目されている。さらに鬼までにも注目されるとはな。・・・何か後々、面倒な事に巻き込まれる予勘がする」


「ガッハッハッハッハッハ!!」


「豪快に笑いすぎだろ」


「そうだな。狸にも人気だったな。実際、雌の狸に言い寄られてたしな。今だってこっちに視線が集中している」


「マジか」



ぞろぞろと集まっている雌の化け狸から逃げる。温羅には銀陽を残していく。酒の飲み比べをしているから大丈夫。逃げる先は犬坂たちの元だ。



「爛に羊島、匿ってくれ」


「あ、人気者が来た来た」


「人気者ってのは大変だと始めて実感した」


「人気者はツライですね。ところで玉麗さんとの婚約についてとても気になります。話してくれますよね猫柳君?」


「・・・え」



急に空気が詰まるような感覚が襲う。さらに鋭い視線が身体を貫く。

何故にこのような状況なのかは玉麗を見れば分かってしまう。見ると熱い視線を送り、ウィンクまでしてくる。何か余計な事を言ったのかと思ってしまうのであった。



「 一から最後まで話すから、その手に持っているフォークを机に置くんだ」



フォークを構える3人。犬坂に羊島、切子。



「何で切子までフォークを構えてるんだよ」


「何となく」



スッと両手を構える猫柳。もし、飛んで来てもキャッチできるようにだ。既に飛んでくる覚悟できているようだ。



「分かったカクカクシカジーカと説明するから」



犬坂たちに詳細を細かく説明する。変に省略するよりも全て言った方が良いと判断したからだ。実際にそれでフォークを置いてくれた3人。正直に話すのは良い事だと実感したのであった。

その後に霧骨たちとも合流する。話す内容はからかわれる話か今回の事件の話だった。だがシリアスな感じになるわけも無く、祭の打ち上げなのだから馬鹿騒ぎになってしまう。それが正解だ。

打ち上げは騒いで、馬鹿やって楽しむだけである。食い比べに飲み比べ、力自慢に騒ぎ出す。人間たちの打ち上げと妖怪たちの打ち上げは似てるようで違うのであった。



「いやー打ち上げってのは楽しいな」


「ギン」



シュルリと猫柳の首に髪の毛が巻き付く。この髪の毛の触感だけで何か分かってしまう。祭にいる間で嫌でも分かる髪の毛だ。この髪の毛の持ち主は針女。



「千乃か。何だ?」


「ギン」



ニコリと微笑む。こんな笑顔をもできるのかと思う猫柳。今まで無表情な千乃が微笑むのを見て少しドキリとしてしまった。

その微笑みに返すように猫柳も微笑み返す。



「あ・・・!!」



微笑み返した瞬間に千乃が嬉しそうな顔をする。頬は少し赤くなっている。



「・・・・・ん?」


「あ・・・微笑み返しやがったぜ。マズイかもな」


「どーいう意味なのクロ?」


「犬坂には悪いがライバルが増えたかもな。針女って妖怪だがな・・・」



針女の説明を聞く。針女は気に入った男に微笑みかけ、笑い返した者を髪を振り乱しながら追いかけて髪の鉤で捕らえるのだ。そして捕まった男はそのままどこかへ連れ去られてしまう。その後、捕まった男をどうするかは分からない。これが妖怪である針女の怪奇である。

猫柳は千乃の微笑みに笑い返してしまった。そして猫柳は怪奇に遭ってしまった瞬間であった。



「ぬわぁぁぁぁ!?」



髪の毛が猫柳の身体に巻き付いて、どこかにズルズルと引きずられて行く。



「行こ・・ギン。ギンは微笑み返してくれた。しかも初めてだった。男の方から微笑んでくれるなんて・・・ドキリとした」



「俺から微笑んだ・・・戦った後の事か。って、どこに連れて行く気だ!!」


「ちょっと待った!! どこに連れて行くの!!」


「行かせません!!」



連れて行く千乃と行かせまいとする犬坂たち。打ち上げとは違う意味で騒ぎ出すのであった。



「最後の最後までジタバタしてんな。・・・はぁ」



最後まで大変であったが、忘れない旅となった。



「せっかく四国に来たからすぐ帰るんじゃなくて四国観光でもするか」


「それ良いかも」

読んでくれてありがとうございます。


この章もやっと終わりましたね。次の物語も書かなきゃな。

狸の次は狐だ!!

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