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銀色神妖記  作者: ヒカリショウ
12章:阿波妖闘試合
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黒幕タヌキ

走る。猫柳は今回の騒動の黒幕に気付いたからだ。そして黒幕がいるであろう場所は猫柳たちが最初に目にした場所である狸の森の入口だ。

連戦が続いたおかげで身体はボロボロだが、弱音は言っていられない。黒幕をどうにかしなければ騒動は終わらないのだ。

足を早め、狸の森の入口に到着すると1匹の化け狸が大きな樹の根に座り、たこ焼きを頬張っていた。

彼は傘ざし狸の太助。森の案内人だ。



「ほふほふ。・・・お? アンタは確か姐さんが連れてきたお客人じゃないっすか。入口まで来れたんすね。こっからは、おらが出口まで案内するっす。早く避難するのが得策っすよ」


「避難する状態なのにたこ焼きを食ってる暇はあるんだな」


「こんな状態だからこそ、落ち着いてたこ焼きを食ってるんす。それよりも出口に案内するっす。他の皆も避難してるっすよ」



傘を広げて中に入ってくるように誘ってくる。だが、傘の中には入らない。



「どうしたんすか?」


「聞きたい事がある。お前はこの森の唯一の案内人だよな。太三郎が言っていた。今回の祭は案内制したって」


「そうっすよ。おらがたったの1人で全員ここに案内してるっす。怪しい奴が紛れ込まないようにするのも仕事っすから」


「なら、おかしくないか? 紫衛門と千住太郎の部下が 数百匹も突然押し寄せるなんてよ。唯一の案内人が武装した化け狸を、皆が楽しむ祭に普通案内するか?」


「・・・・・・何が言いたいっすか?」


「はっきり言おう。太助、お前がこの騒動を起こした犯人だろ」



怪しい点ならいくつかある。

先程にも述べた、武装した化け狸が入口の方から押し寄せて来たこと。普通は同じ化け狸同士でも、案内人が武装した者を中に入れるのは考えられない。

次に牛鬼だ。彼自身で何か目的の為に動いていたが、彼は穢れに汚染されていた。今回の祭で太三郎が案内制にした最大の理由は穢れた妖怪を侵入させないことだ。なのに穢れた牛鬼が祭に参加していたのだ。穢れに気付かなかったという事もあったかもしれないが、唯一の案内人に選ばれながら、そのミスはおかしいと思ってしまう。

もっとも、牛鬼自身が言っていた言葉で違和感はあった。



「牛鬼は言っていたらしいぜ。協力者達ってな。達だぜ、達。最低でも2人はいるって事だ」



牛鬼の仲間で、まずは濡れ女。それは犬坂たち一連の流れ分かった。

そしてもう1人の協力者が太助だと思う最大の理由は。



「お互いの目的の為に祭にすんなりと入る事が出来たって言ってたらしいぜ」


「・・・・・口の結び目が緩い妖怪っすね」



傘を閉じ、肩に寄せる太助。

先程までの無害そうな顔から一変、目付きが鋭くなる。爪楊枝(つまようじ)を歯でへし折り、吐き出す。



「洞察力が鋭いって言うか、勘が良いって言うか。面倒っすね。・・・人間。」


「俺が人間だってバレてたか」


「おらは案内人としては超一流っすよ。相手がどんな奴かなんて見れば分かるっす。猫妖怪が憑いている事だって分かるっすよ」


『目は良いようだな。だが、お前自身が何をやっているのかは分からんがな』


「お前たちには関係ないっすよ。帰るなら出口まで案内するっす。帰らないなら口封じで・・・何処かに永遠的に迷わせるっす」



傘を槍のように突きだしてくる。今度はそのまま避けた方向に薙ぎ払ってくる。傘に叩かれれば痛いが温羅のラリアットに比べれば全然マシだ。



「傘の中にお入んなさいっす」



傘がバッと開き、猫柳を中へと入れようとする。



『離れろ銀一郎!!』



傘の中に入る前に右手で空気を掴み、投げ飛ばした。風弾。太助の腹部に直撃し、離れていく。



『銀一郎。傘の中には入るな。入ったら終わりだぞ』


「猫妖怪はこの傘の危険性が分かるっすか」


『傘と言うよりもお前の能力だ』



傘ざし狸は傘の中に誘い込み、とんでもない場所へと移動させられる。



「おらの力は傘の中という範囲内ならどんな奴でも何処かにとばせるんす。だから戦うのに筋力とかは特に必要ないんすよね」



瞬間移動のような力だ。好きな場所へと移動できる。森や海などにでもだ。例えば命の保障ができない危険地にでも。

ならば傘の中に入ってしまえば即終了と言うわけだ。



「傘の中は絶対に入れないな」



両手で空気を掴み、腕に纏わせる。やる事は決まっている。ただ今回の騒動の黒幕を捕まえる。それだけだ。



「おらは願いを叶える為に、こんな所で捕まるわけにはいかないっすね」



傘で自分の頭から包み込み、消える。



「逃げた?」


『いや、逃げないだろう。黒幕だとバレてしまい。黒幕を知っている銀一郎をそのままにするわけにはいかないだろうからな』


「猫妖怪の言う通りっす。何処に逃げても化け狸は何処もいますっすからね。指名手配にはなりたくないっす。だから犯人の顔を知る奴を消すのが得策なんすよ」



消えた太助が木の枝に新しい傘をさしながら立っていた。よく周りを見ると傘がいくつも置いてある。



「あんたらはもう、おらの独壇場にいるんすよ。おらの技。傘ノ(かさのよ)



また傘に隠れ、消える。今度は真後ろから現れた。そして傘の中に入らせようとしてくる。入らまいと逆に太助の背後を取るが、また傘に隠れて消える。



「こっちすよ」



今度は左側から傘を槍のように突きだし、傘を開き入らせようとする。何度も続く。



「おらは傘ざし狸。そして案内人だ。その事に関しては悪くないっす。でも、誰だって野心は持ってるっすよね」


「野心? そうだな。誰だって持ってるかもな」


「化け狸の総大将。狸として生まれたなら憧れるっすよね」


「俺は狸じゃないから分かんねえよ!!」



空気を纏った拳。風纏撃を叩き込もうとするがまた傘の中に入り、消える。



「人間だって何か憧れる存在がいるっすよね。それと同じっすよ。でも違いはあるっす。人間は様々な可能性があるけど、化け狸はそうでもないっす。昔から総大将になった化け狸の血筋が総大将を続けてるんすよね。それだと、おらに総大将になる可能性はないっす」



ある血筋の者がトップとして立ち続ける事はよくある。世襲制度だ。人間の世界でもむかしからある事柄だ。例えば王族とかが当てはまる。



「それだと人間の方も同じだ。王族とかに生まれなければ王族にはなれない」


「人間には多くの選択肢があるっす。確か職種っすか? それぞれに一番になれる可能性があるっすよね。でも、おら達は化け狸に生まれたら総大将の血筋でも無い限り一生一番にはなれないんすよ」



人間の世界よりも化け狸の世界は狭い。人間には様々な職種があり、その専門的な中で1番になれる可能性はある。人間にはそれぞれで1番になれるのだ。しかし、化け狸の世界には人間のように職種なんてものは無い。化け狸に生まれたら化け狸として決まるのだ。化け狸の1番はやはり総大将だ。その血筋に生まれなければ永遠に1番にはなれない。



「人間と化け狸は違うんす。分かったすか?」


「そうだな。人間と化け狸は違う。だがお前は案内人として1番だろ? それでは駄目なのか?」


「駄目っすね。おらが望む一番は化け狸の総大将っす。誰だって自分の望む一番はあるっす。取り合えず何かの一番なんて妥協は嫌っすからね」



1番は何でも良いわけではない。野球選手がサッカーの1番を目指すのか、歌手が料理人として1番を目指すのか。そんな事はしない。



「おらが望む一番は化け狸の総大将しかないっす。それ以外は興味ないっすよ」



傘の二刀流。ただ傘を持っただけだが警戒しなければならない。昔、子供の時にやったチャンバラみたいに攻撃してくるのかと思ったが違う。片方の傘を一直線に投げてきた。

そんな事をされたら避ける選択肢を選ぶ。そうすれば簡単に避けられた。でも、それで終わりで無かった。

傘が開き、中から太助が現れる。



「ヤベッ!?」


「避けている最中は急に次の動きはできないっす」


『空気を掴んで体勢を立て直せ!!』


「もう遅いっすよ」



傘が開かれ、その中に猫柳が入ってしまう。視界が歪み、風景がガラリと一瞬で変わったのだ。視界に新しく写ったのは青い空に白い雲。下には青く広い海が広がる。

猫柳たちがいる場所は空。



「標高何メートルかは分からないっすけど、落ちたらまず命は無いっすね」



空に移動したら落ちるのは自然の摂理。ノンストップで空から海へと落ちていく。



『空気を掴め銀一郎。それで止まる!!』



手を伸ばし、空気を掴む。徐々に落ちる速さは無くなる。



「そうはさせないっす」



空気を掴んでいた手を傘で叩かれる。空中で止まっていた身体がまた落ち始める。



「 野郎は何が何でも俺らを海に落とす気だな!! だが落ちる気は無い」


「落ちてもらうっす。あんたを始末したら次の仕事があるっすからね」


「次の仕事だって?」


「そうっす。総大将の太三郎と次の候補の玉麗の始末っすよ」



化け狸の総大将は地域によって複数いる。太三郎や団三朗、珠緒などが良い例だ。確認しただけでも5体は祭に参加していた。その中で太助の狙い目になったのが太三郎と玉麗だ。



「だけど、そう簡単に上手く総大将になれんのかよ!!」


「そこは上手く暗躍すれば良いっすよ。それに太三郎たちは皆手負いっすからね。紫衛門と千住太郎は勝手に争い、珠緒は牛鬼がたぶん手傷を負わせ、太三郎はあんたが倒し、団三朗は針女が倒してくれて嬉しい誤算っす」



太助の言う通り総大将たちは皆手負い。万全の状態ではないのだ。合戦に巻き込まれ、疲弊しきっている。その状態を狙えばひとたまりもない。



「さっさと済まさないといけないっすから、早くあんたとはおサラバっす」



傘を閉じ、切っ先を槍のように突き立ててくる。下に落ちたら鋼鉄の海、上は槍のように鋭い傘。逃げ道は全く無い。

先に猫柳の身体に接触したのは上から襲ってくる傘だ。腹部に刺さるように突き立てられ、胃の中にある物が逆流しそうになる。



「うぐぅ・・・!?」



吐き出さないように喉の部分で飲み込み、耐えた。



「この野郎!!」



腹部に突き立てられている傘を掴む。このままへし折ってしまおうかと考えたが、もしへし折ってしまったら帰りがどうなるか分からない。



「だけど、そんな事気にしてる場合じゃねえ!!」



バキリッと力の限り傘を折った。これで太助が持っている傘は残り1本だ。しかし、いつの間にか新しい傘を持っていた。



「たかが傘1本なんて痛くも痒くもないっす。そろそろ海が近くなってきたっすからオサラバっすね」



傘をを開き、真上に浮かせる。開いた傘の中は森が見えた。その森は狸の森だと直感で理解する猫柳。

あの中に入れば戻れそうだ。だけど、どうやって傘の中に入るかが問題だ

猫柳は今海に向かって高速で落下している。上には襲いかかる太助。さらに真上に浮いている傘の中に入るのは困難な状態だ。



「 傘1本だと掴まれて折られるなら2本で攻めるっす。おらはこのまま、あんたを叩き落として帰るっす」


「てめえ・・・」


「 ギリギリまで攻めるっす。もしも助かった場合は面倒っすからね」



もしもの場合を考え、銀陽と分離して海に落ちるのを回避しようかとしていたが、どうやら読まれていたようだ。ギリギリまで攻めると言ったのが良い証拠。それでは回避できない。



(どうするか・・・ったくピンチじゃねえか。温羅の試合もピンチに陥ったが今よりマシだったな。・・・待てよ?)


「両手両足をどう動かしても意味無いっすよ!!」



傘の先端が顔に向けられる。嫌でも相手の狙いが分かってしまう。顔を潰して海に落とすつもりなのだろう。そして太助自身は猫柳を蹴った反動で真上に浮いている傘の中に入り込み、元の場所に戻る。



「死ねっす。人間に猫妖怪」


「死なねえよ。銀陽、尻尾だ!!」



太助の背後から2本の銀色の尻尾が傘を弾き飛ばす。四肢しか見ていなかったから尻尾の存在が活用できたのだ。これでお互いに海へと落ちていく。



「落ちるのは俺じゃなく、お前だ!!」



空気を掴み、体勢を上へと移動させながら太助の首目掛けて鋭い蹴りを打ち込んだ。

その蹴りは風を斬る。



朝薙あさなぎ!!」


「ぐぅあぁ!?」



蹴った反動で強制的に上下に移動する2人。猫柳はそのまま真上に浮いている傘の中に入っていく。そして、猫柳の目には太助が何かを言いながら落ちていく姿が入るのであった。

ギュルリと視界が変わり、木々が生い茂る狸の森へと戻ってきた。

読んでくれてありがとうございます。

感想とかくれたら嬉しいです!


今回の黒幕でした。物語と上手く繋がったかなー?

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