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銀色神妖記  作者: ヒカリショウ
12章:阿波妖闘試合
100/150

化け狸の総大将

額をゴツンと軽く小突かれる。そのおかげで眠りから急激に覚まされる事となる。眠気もサッパリ消える。



「額が微妙に痛えんだけど・・・」


「お、悪いな。俺の骨が固すぎたか」



額をサスサスと擦りながら目の前にいる霧骨を見る。過去に戦った事があるから分かる。霧骨は骨格が異様に固いのだ。さらに妖怪憑きの力でさらに固い。固さプラス腕の筋力で拳の威力はとんでもない。



「それくらい耐えられる。たこ焼おかわりだガシャドクロ」


「あ~い~。たこ~焼き~だ銀猫~」



床から大きい骨の手が出てくる。その手には大量のたこ焼がある。銀陽は遠慮なく頬袋イッパイに詰め込みながら食べている。



「えーと。試合は終わったのか?」


「おう。終わったぞ。無論、俺は勝ったぜ」



淡路妖闘試合は一巡し、ベスト8が決まった。今から30分後に2巡目の試合が始まり、ベスト4。つまり準決勝への試合だ。



「寝過ぎたか。悪いな。本当なら爛達と応援に行くつもりだったんだけどな。でも爛達は応援には行ったろ?」


「来てねえよ」


「ん、そうなのか?」


「ああ。せっかく女子の声援があると思って楽しみにしてたのによぉ!! その代わりに対戦相手をぶちのめしたけどよ」



霧骨の対戦相手に同情する猫柳。



「試合会場に行くぞ。司会進行の狸が言う事があるらしいからな。それに千住太郎についても聞きたいだろ?」



身体をグッと伸ばし、異常が無いか確める。少し痛みはあるが問題無し。

歩きながら霧骨の話を聞く。



「報告と言ってもあまり発展は無かったがな。試合も普通に対戦相手を倒してたぜ」


「そうか。でも何か不自然な事をしていなかったか? 何でもいいからよ」


「不自然な事か。・・・ガシャドクロは何か知ってるか? バレない程度に詮索してきただろ」



肩に乗っている小さな骨人形に目を向ける。ガシャドクロは身体を小さくする事ができるのかと、そっちの方が気になる。



「ただのつまみだな」



ガシャドクロを鳥の軟骨と勘違いしている銀陽。何でも食べるのも考えものだ。相手の相棒を食わせるわけにはいかないので銀陽を両脇から抱える。



「た~し~か~合戦の~決着をつける~て言ってた~」


「合戦か。意味が分からねえな」


「合戦なんざただの大勢の喧嘩だ。」



銀陽からみれば合戦はただの喧嘩のようだ。だが猫柳たちからみれば合戦という単語は戦国時代を思い浮かべる。

合戦は戦争みたいなものだ。大勢が殺しあう。それの決着をつけるとは合戦がまた始まるのか。



「合戦って大勢で始まるものだよな。千住太郎に仲間がいなかったか?」


「見た感じいないな。他の仲間に連絡する素振りもねえ」



これと言った情報が何も無い以上、新しい情報は出てこない。気になる単語として合戦。それくらいだ。その単語を頭の隅に入れとく。

試合会場に赴くと盛大な歓声が聞こえる。阿波妖闘試合でベスト8が残ったのだ。今から2巡目の試合が始まる。

目の前には霧骨の他に試合に残った妖怪たちがいる。どいつも一筋縄ではいかなそうな奴等ばかりだ。

特に注意すべきは千住太郎。猫柳たちが怪しいと注意している妖怪だ。



(・・・千住太郎の他にも怪しい奴がいるな)



霧骨に話しかけようとした瞬間に大きく、司会の声が響いてきた。



「いやっほーう!! ベスト8進出おめでとー!! 今から試合の順番を決めるよ」



大きな木の看板に紙が張られる。その紙には選手たちの名前とあみだくじのような線が書いてあった。



「試合の順番はあみだくじで決めるよ!!」


「あみだくじぃ!?」


「そう!! ただトーナメント通りなんてつまらないからね。試合順と対戦相手を勝手に換えさせてもらったよ。だってトーナメント通りだと次に試合する相手の事が分かってるし、対策も練ってるからね」


「まさしくそうだろうぜ。対策を練ってるヤツはいるだろ」



猫柳がまさしくソレにあたる。せっかく千乃対策をいくつか考えていたのだが、意味が無くなった瞬間であった。

微妙に落ち込むがすぐに立ち直る。そして、すぐさま抗議の声を出す。



「おらー!!抗議すんぞ。急に変えんなぁぁぁぁ!!」


「ウチがルールブックだもん!! 文句がある選手はウチが勝手にカップルにしちゃうよ。妄想で」


「カップル?」


「うん。男同士のカップルが良いよねー」



珠緒の言葉に賛同できない。無意識に右手でツッコミのように空を切る。猫柳と霧骨は嫌な顔をする。



「ギン選手とガシャドクロ選手なんか良いカップルになりそうだね!!」


「「なるか馬鹿!!」」



試合の抗議と男カップルの反対を言い出す。ギャアギャアと2人で抗議を言い放つ。試合前なのにヤル気が削がれる気分になった。



「じゃあウチの頭の中でカップルが誕生したから早速試合順を決めるよ!!」


「聞いてねーぞあいつ!!」



抗議に耳も傾けてくれずに試合順が発表されていく。珠緒は鼻歌を歌いながらあみだくじの線を引いていく。

あみだくじの結果を見ると対戦相手は全員変わっている。試合の順番もまた変わっている。



「でも俺がまた初戦か」



2巡目の初戦はまたも猫柳。対戦相手は屋島の禿狸の太三郎であった。

今から15分後に阿波妖闘試合の2巡目が始まる。

阿波妖闘試合2巡目。

猫柳の対戦相手は太三郎である。彼は試合中に化け狸十八番の変化と鍛え上げられた肉体で勝ち進んでいる。変化の能力は実際に見てみると凄いの一言である。



『鬼とはまた違った強さを持つから気を付けろ。しかも化け狸の大将だ。油断して化かされるな』



空気を腕に纏わせ、拳を強く握る。いつでも戦える準備は完了だ。



「ちゃっちゃとぶっ飛ばしてー!! ギン、アンタなら兄貴に勝てるよー!!

てか、絶対に勝て!!」



観客席から騒ぎ声に負けないくらいの大きな声が聞こえる。この声は玉麗だ。応援してくれるのは嬉しい。だが、気になる事を言った。



「兄貴って・・・。え、兄貴!?」


「ん、ああ。俺は玉麗の兄貴だ。どうだ? 可愛いだろ、うちの妹は?」


「確かに可愛い。と言うよりも綺麗と言う方が似合うな」



玉麗が化け狸の総大将の妹とは驚きだ。よくよく考えてみると彼女は太三郎に関して身近な感覚で話していた。それから近しい間柄と頭の隅で予想していたが、正解だった。



「ん、お前はもしかして玉麗に推薦されて試合に出た奴か?」


「推薦? ああ、まあ、そうだな」


「・・・そうかそうか。お前がなあ」



急に物思いにふける太三郎。そして、次の発言がズガンと頭を貫いた。



「つーことは、お前が玉麗が連れてきた婿かぁ!?」


「はぁ!? 何を言っているんだ!?」



本当に何を言っているのか分からない。脱力感が半端ない。首を自分の妻になるらしい玉麗に向ける。玉麗は明後日の方向に首を向ける。

詳しく説明が欲しいと目で突き刺すくらいに訴える。だが、全て無視されてしまう。



「こらぁ無視すんなぁぁぁぁぁ!! いつから俺はお前の婿になったんだ、いつ戸籍を入れたんだ、ありがとうごさいます、いつ婚約指輪を渡したんだ、この状況の説明プリーズ!!」


「今お礼を言わなかったかい?」


「気のせいだろ」



妖怪だけど綺麗な女性である玉麗と結婚できるのを心のどこかで嬉しいと思うのはあった。だが、その考えは少し自重するべきだろう。どのような人物かはまだ分からないが、今回の事で面倒事を運んでくるというのは分かった。



「えっとねえ・・・愛してるよ銀一郎!!」


「こらぁ日本語が伝わってるか!? 俺は説明をして欲しいんだ!!」



観客席から違う歓声が響いている。この歓声はどこからどう聞いても他人の恋愛を冷やかす声だ。



「おおーっと、ここでまさかの愛の声援だ!!つーか玉麗ちゃんがついに婿を連れてきたんだね。ウチは祝福するよ。でも兄貴はどうかな~?」



妹が彼氏と結婚する時の兄の気持ちは人それぞれだ。猫柳の場合は寂しいような嬉しいようなと微妙な気持ちになる。ならば太三郎はどう思っているかというと。



「お前が玉麗の選んだ婿か。そうかそうか・・・お前がな。・・・・・・ならば俺に認めさせてみせろぉぉぉぉぉ!!」



漫画やドラマに登場する妹を溺愛している兄のようだ。

このような奴も面倒くさいの一言だ。話も聞いてくれないだろう。狙われるのも理不尽すぎる。



「どうせぶちのめすのだからお前が婿だろうが嫁だろうが関係無い話だろう?」


「いや、けっこう重大な話なんだが・・・」


結婚をする事や籍を入れる事は重大な話だ。銀陽は軽く言うが猫柳にとっては重い話である。

相手は誰になるか分からないが、いつかは猫柳も結婚はする。だが、猫柳はまだ学生だ。結婚の話はまだ考えるつもりは無いのだ。



『犬坂と羊島がこれ聞いてたらどうなると思う?』


「ん、何だよ銀陽・・・恐い事言うな」



なぜか、分かるような分からないようなだが猫柳は今観客席に犬坂と羊島はいない事が助かったと思っている。



(つーか本当にどこに行ったんだ? 逆に恐いんだがな)


『考え事をしてる暇あるのか? 向こうで狸の兄妹喧嘩でお前の名前が飛び交っているぞ』



試合はまだ始まらない。



「悪いけどアタシはギンと結婚するわ。なんなら試合が終わってからでもね」


「それは許さん!! どこの知らぬ馬の骨など。それに俺の約束はどーした!?」


「あんな約束は知らないさ!!」


「ならば俺はこの男の力を見せてもらう!!」



太三郎の目とまた目が合う。その目には火が灯っていた。猫柳の方はいきなり巻き込まれているので、その火についてはサッパリ分からない。

それよりも巻き込まれた理由を詳細に説明を求めている。太三郎から目を離し、玉麗と目を合わすが目を逸らされる。

ピシリとイラつく。勝手に巻き込んでおいて説明無しは困る。



「おいコラ玉麗・・」


「うおおおおおお!! まだ玉麗とイチャつくのは早いだろがあああああ!!」



全速力で走ってくる太三郎。ゴングも鳴っていないのにやっと試合が始まった瞬間であった。

余所見をしていた。それが原因である。右頬に硬すぎる拳をくらい、そのまま殴り飛ばされた。ゴロゴロと転がり仰向けに倒れてしまう。

口の中を切ったのか血の味がする。歯が折れていないか舌で口内をレロレロと確かめる。確かめると歯は折れてなく、やはり血の味がする。

身体の方もまだ動く。手ごたえのある拳をくらったが戦える。



「不意打ちとは・・・」


「大丈夫かい銀一朗っ!?」


「お前の兄貴は何なんだ!?」


「シスコンだよ・・・ったくこちとら困ったもんだよ」



それに関しては一部始終を見ていた為に理解できる。化け狸の総大将がシスコンで心配なところだ。

妹を愛してる事は悪いと言わない。寧ろ良い事だろう。しかし、限度と言うものはある。愛は深すぎると迷惑にもなる。

気にしない人もいるらしいが、その人は心が強いのだろう。



「悪いね銀一朗。アンタに迷惑かけるつもりは無かったんだけど、まさかこうなるとはね。本当は結婚の話なんてしないつもりだったんだけど兄貴が煩かったからさ。アンタをつい婿候補にしちゃったんだよ」


「その結婚とか婿とかの説明を頼む」



ため息を吐きながら玉麗が面倒くさそうに話す。



「アタシが太三郎の妹という事はアタシ自身も化け狸のトップとしての後継者でもあるんだよ。今は兄貴が総大将だが、もしもの場合があるとアタシが総大将になるのさ。代々、世襲制だからね」



世襲制。血統を尊重した選び方である。



「兄貴はアタシが総大将になった場合、もしもの事を考えてさ跡継ぎを考えてるだよ。それで兄貴はアタシに合う婿を考えてるのさ」


「んなの・・・太三郎の跡継ぎで良いんじゃないのか?」


「アタシもそう言ったんだけどさ・・何でも才能は兄貴よりもアタシの方が上だって言うんだよ。だから才能のある子孫を跡継ぎにしたいみたいなのよ」



人様の家族事情をとやかく言うつもりは無い。しかし、面倒くさく大変と思う猫柳。

そして玉麗たちの言う約束とは結婚の事だ。いつまでも太三郎の言う結婚を考えない玉麗。そこで兄である太三郎はとりあえずお見合いを提案したのだ。しかし、当の本人である彼女は受ける気が無く、まだ1人身でいるつもりなのだ。結婚に興味が無いわけではない。今は1人旅を楽しくしていたいからだ。



「それにアタシはお見合いで出会うよりも自分の足で好きな人を見つけたいのさ」


「その気持ちは分かる」



お見合い結婚は悪いとは言えない。それで結婚している者もいるのだ。だが、玉麗はいきなり初対面で結婚するというのは承認できない。誰だって初対面の人と合って結婚に繋がるの難しい。決まっていた事でも心の整理は簡単にはつかないだろう。



「それでも兄貴はお見合いをさせようとしてるのさ。それでさらに約束を勝手に押し付けたのさ」



新たな約束とは玉麗が1人旅をしている間にせめて婿となるような男を探して来いとの事。



「で、それが俺と勘違いされてるのか?」


「ああそうさ。それでアタシも約束を押し付けた。今年の阿波妖闘試合で自分が見つけてきた婿候補が優勝したら、もう兄貴が勝手に結婚などを決めないでど。アタシ自身で、決めるってね」


「それ、俺がメチャクチャ関係あるんじゃねえか。前に関係無いとか言ってたなったくせによ!?」


「いやー・・・。優勝してくれたらアタシも銀一朗もハッピーになるでしょ? 負けてもアンタはそれでもよし。アタシはまた兄貴からうるさく言われるだけ」


「いやいやいや、それ関係ありすぎるだろ」



その事に関しては秘密にしないで話しておいて貰いたかったと思うだろう。だが今さらというのが今の現状だ。

太三郎がヤル気がマックスだ。既に玉麗の嫁候補として力を見せてもらいたいだろう。



「勘弁してくれよっと」



仰向けの状態から立ち上がる。頬を擦りながら太三郎を見る。



「目がメラメラと燃えてんな」


『婿だとか結婚だとか関係無い。今は目の前の化け狸を倒すだけだぞ。長い話は後にしろ』



銀陽の言う通りだ。もう既に試合は始まっている。今は試合に臨む事が大事なのだ。



「ったく、玉麗。もう始まっちまったから仕方がねえが次からはちゃんと言ってくれ。困ってたら助けるからよ」


「それは・・・」



本当の事を言っても断られるかもしれない。その可能性はある。だが、猫柳は断らない。



「俺が優勝を目指すのは今でも変わりは無い。応援しながら見ててくれよ」



再度、空気を拳に纏い臨戦態勢をとる。



「俺に力を見せてみろ馬の骨ぇぇぇぇ!!」



拳と拳がぶつかる。拳からは硬い感触が走る。次に右蹴りで太三郎の脇腹に叩き込む。



「ぐ・・・硬え!?」



蹴った足が痛い。原因はすぐに分かる。太三郎の脇腹が金となっている。金メダルの金、黄金の金である。

金の硬度は言わずもがなだ。



「変化は化け狸にとって十八番の力だ。何に化けるかは狸それぞれ。俺は性質変化が得意なんだ。今のように身体を金へと変えるみたいにな」



性質変化。身体の性質を変える力だ。例えば今のように身体を金に変化させたり、砂や水、炎にもなれる。



「こんな風にな!!」



太三郎の身体が全て金へと変化していく。金の像のようになっている。



「この金ピカ野朗!!」



足を掴まれ、地面へと何度も叩き付かれる。背中から叩き付かれたせいか、息が詰まる。トドメにと足で踏み潰してくる。



「危ねえ!?」



ズガン!!と地面が陥没した。転がって避けられたおかげで腹に風穴が開く事は無かった。

素早く体勢を起こし、顎目掛けて蹴り上げるが硬い感触しかない。



「硬いな」


「脆くなる事もできるぞ」



パァアンっと顔を吹き飛んだ。首から上がサラサラな砂金となっている。



「うわ恐ッ!?」


「はっはっはっはっはっは!!砂金にもなれるぞ。そしてこのように攻撃もできる」



身体の半分以上が砂金となり、別に集まっていく。集まった砂金は氷のツララのような形へと変形していった。

その砂金のツララを見て、どの用途に使われるかがすぐに分かる。その考えは的中し砂金のツララが襲ってくる。



「こんな事だってできる」



砂金がさらに集まり、巨大な金の拳が形成される。



砂金巨豪拳さきんきょごうけん!!」



砂金のロケットパンチだ。前後ろに左右から襲い掛かってくる。



「化けるってこんな事も出来んのか!? 化けるの定義を知りてえよ!!」


「化ける力は日々進化する。この程度でうろたえては婿として認めん!!」



脇腹に砂金の拳がめり込み、鈍痛な衝撃を歯で食いしばる。息ができない。



「ぐうぁ・・っこの金ピカ野朗ぉ」



追撃に放ってきた砂金の拳を蹴り返す。



「まだ戦えるな。そうだ。もっと俺に立ち向かって来い!! そして婿としての力を見せて見ろ!!」


「婿婿婿とうるさいな。そこまで玉麗と結婚させたいか」


「もちろんだ。お前が玉麗と結婚に値するかを見極める。落第なら俺が候補として見つけてきた男と結婚させる。これも俺らの一族として、総大将として必要な事だ。そして玉麗のためにでもある」


「他人の家族関係をとやかく言うつもりは無いが、本当にそれが妹の為かよ」


「何だと?これが妹のため以外に何があるのだ?」



先程他人の家族にとやかく言うつもりは無いと言ったのだが、やはり口に出してしまう。家族が決めた結婚の話など他人が口を挟むのは意味は無い。それでも口を挟む。

猫柳も妹を持つ身として、太三郎の考えに賛同できないからだ。無理矢理に妹を結婚させる兄に納得できない自分がいるからだ。



「お前は兄と言うの分かってねえ!! 兄ってのは妹の我侭を聞くもんだが、兄の我侭を押し付けはしない!!」



これは猫柳の定義だ。これが本来の兄妹の形と言うわけでは無い。兄弟間それぞれだからだ。



「妹が嫌だって言ってんならそれを受け入れろ。嫌な事を押し付けるな!!」


「家の事をとやかく言うな!! お前は黙って力を見せろ!!」



拳と拳ぶつかり合う。やはり硬い感触が拳から伝わる。金の拳は硬く強い。



「悪いが言わせてもらう。何が妹のためだ!! ただ自分の勝手なわがままを押し付けてるだけだろーが!!」



何が何でも結婚させたい太三郎。その勝手な押し付けに納得できない猫柳に玉麗。互いに一方通行の考えだからどちらが折れる事は無い。

決着をつけるにはやはりどちらかが勝つしかない。



「俺は玉麗の為に勝ぁつ!!」


「かかって来ぉい!!」



太三郎の身体が完全に砂金へと変化する。その砂金は猫柳の周りにへと漂い、完全に囲い込んだ。砂金は猫柳を中心に回り始める。

砂金の竜巻。巻き込まれた猫柳は身体が削れるような痛みが走る。砂金にも粒の大きさが違う。小粒大粒があるのだ。この状況では目も開けられない。だが猫柳は頭上から嫌な感覚を感じた。

猫柳の頭上には巨大な金の塊が形成されているのだ。



巨宝金塊落きょうほうきんかいおとし!!」



巨大な金塊が猫柳の頭上目掛けて落下してくる。踏み潰されれば間違いなく身体は復元できない程えげつない状態なるだろう。

婿として力を見せろと言う割りには殺す気で攻撃してくる太三郎。これが人間と妖怪の差なのだろう。



「くたばれぇぇぇ馬の骨ぇぇぇ!!!!」



もう始末したいだけしか聞こえない言葉が聞こえる。



「約束しろ太三郎。俺が勝ったら玉麗のわがままを受け入れろ。分かったな!!」



腕、拳をはち切れる程に力を込める。銀猫憑武により身体のリミッターを外す。巨大な金塊をどうにかするには砕くしかない。

銀陽からアドバイスが貰える。巨大な金塊と言っても本物ではなく、アレは偽物なのだ。化けるとは本物に成る事ではない。

どんなに攻撃しても意味が無いわけではない。実際は太三郎の身体に直接攻撃しているのだ。



「なら、化ける力を超える程の物理的な力でぶっとばす!!」



巨大な金塊が落ちる前に足にも力を込め、跳び上がる。



凱風一撃がいふういちげき!!」



ただの右ストレート。だが勝鬨かちどきを挙げる右ストレートだ。猫柳が人生の中で1番力を込めた拳。リミッターを外し、限界を超えた拳はただの拳ではなく、危険と安心を合わせ持った力となった。

危険と言うのは誰でも殺せる力であり、安心と言うのは誰でも守れ、自分も守れる力だからだ。

その危険と安心を合わせ持つ拳が巨大な金塊を撃ち抜いた。砕けはしなかったが金塊からは赤い血が滲み出した。次の瞬間に巨大な金塊は大量の砂金となり、滝のように頭から流れてくる。

砂金に飲み込まれ、一緒に流れ落ちていく。口に砂金が入り、喉が詰まる。



「うげえっほぉ!? げほがはげほぉ!!」



積もった砂金の山から上半身を出し、口から砂金を吐き出す。

巨大な金塊が砂金へとなった。これは猫柳の一撃に耐えられなかった証拠でもある。猫柳の一撃が効かなかったら砂金になる必要は無いからだ。

耐えられずにいたからこそ巨大な金塊は塊を形成出来なかったのだ。



「ぐおおおおおおおお・・・」



砂金が集まって身体が形成されていく。太三郎の身体は砂金と生身となっており、中途半端な状態となっている。



「この・・ぐばっ!?」



太三郎が形成されている状態の最中で猫柳は砂金の山から這い出し、砂金の入り混じった顔を容赦無しで蹴り上げた。

綺麗に砂金が舞う。次に蹴り上げるは首無しの胴体。



「悪いが容赦無しだ!!」



完全な決着をつける為に油断はしない。形成されていく顔に目掛けて凱風一撃をお見舞いした。

観客席から静かになった後に歓声が大きく聞こえてくる。決着がついた瞬間だった。

読んでくれてありがとございました。

感想など待っています。


化け狸の総大将と戦い。

化ける力を物理的な力でねじ伏せた猫柳でした。

化けると言っても本物じゃないから何だかんだで化け狸に攻撃は通じると思う。

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