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21...或る手紙

 エリザ・アーネットさまへ



 ごきげんよう。調子はいかがかしら。

 私はとても元気だけど、シェリル(私の世話人の名前です)にやんちゃがすぎるとおこられて、部屋から出してもらえません。


 今、この手紙をぬすみ見たシェリルが、「手紙に自分の(つまり私の)体のぐあいを書いてどうするのですか」と言ってきました。

 もう、見ないでって言ったのに! ひどいわ!


 ああ、また「手紙にぐちを書くものではありません」とため息をつかれてしまいました。

 見ないでって言ってるのに、どうして見るのかしら!!


 ――ああ、もう大丈夫です。たった今、口うるさいシェリルを部屋の外においだしたの。これでもう、手紙を勝手に読まれることもありません。


 この手紙を読んでいるあなたも、シェリルみたいに、私のへたくそな文にあきれているのかしら?

 じつは私、あまり手紙を書いたことがないの。だから、手紙の書き方はよく知りません。

 じゃあどうしてわざわざ手紙を書いているかっていうと、ある人に、落ちついて気持ちを言葉にしたいときには、手紙を書くのがいちばんいいと言われたからです。

 その言い分はもっともだと思います。

 わたしって、すぐかっとなるし、なまいきなことを言ってしまうから……。(これでも、気にしてはいるのです)

 そういうわけで、こうして手紙を書いています。

 きっとひどい内容になると思うけれど、どうかゆるしてね。


 ……前おきが長くなってしまいました。

 ここからは、よけいなことを書かずに、私がエリザさまに伝えたいことだけを書いていきます。

 それは、文字にするのも恥ずかしいくらいのことなのだけど、どうしても伝えないといけないと思うので、がんばって書くわ。

 あなたがさいごまで読んでくれることをいのります。

 

 いきなりですが、私、つまりエレオノーラ・ブライトンは、エリザさまにやきもちをやいています。

 どうしてだか分かる? エリザさまが王さまのお気に入りだからよ。

 近ごろの王さまは、ちょっとヘンです。エリザさましか目に入ってないみたい。

 私の知るかぎり、王さまがだれか一人にぞっこんなんて、これがはじめて。

 ……あ、ちがった。もう一人、エスメラルダとかいう人もいたわね。

 でも、それはずっと昔のことです。

 どっちにしろ、めずらしいことはたしかよね。


 なにはともあれ、王さまはこのごろエリザさまばかり!

 私だってもっとお会いしたいのに、王さまはちっとも会いに来てくれません。

 それで私はとても悲しくなって、気づいたらあなたにやきもちをやくようになっていました。

 あなたにはそういうこと、ないかしら?


 話を変えます。

 私が王さまを大好きだということは、前に教えたわよね?

 私は、王さまが大好きだからこそ、王さまには世界でいちばん幸せになってほしいと思います。

 たとえば、“めでたしめでたし”で終わるおとぎ話のように。


“かくして、王さまは王妃さまと、いつまでも幸せに仲良く暮らしましたとさ”

 そういう話、いちどは読んだことがあるでしょう?

 めでたしめでたしをむかえる王さまには、すてきな王妃さまがかかせません。

 やさしく、かしこく、うつくしい王妃さまが。


 王さまも(もちろん、これはレオンハルトさまのことです)そういう王妃さまをむかえたら、いつまでも幸せなんじゃないかしら?

 もちろん、わたしがその王妃さまになれたらそれ以上のことはないけれど、王さまがほかの人をえらんで幸せになるなら、それでいいのです。

 そうなったらそうなったで、とーっっってもくやしいけどね!

 ……でも、そのときは仕方がありません。


 そういうわけで、あなたのうわさを耳にしたときは、もうすぐ“めでたしめでたし”になるのだと、くやしながらに思ったものです。

 ほかの人たちは「どうしてあんな女が!」とおこっていたけれど、私はそうは思わなかったわ。

 なぜかというと、あなたが、亡くなったアーネット伯の子どもだから。


 彼のことは、なんとなくだけど、おぼえています。

 お父さまのご友人で、ときどき我が家にあそびにきてくれました。

 とてもすてきな人でした。

 とにかくきれいで、やさしくて、天使みたいだと思ったわ!

 子どもがいると聞いてはいたけれど、まさかそれがあなたのことだったとはね……。


 まあ、とにかくそういうわけで、すてきな彼の子どもであるあなたなら、同じくとびきりすてきな人にちがいないと思ったのです。

 しかし残念ながら、私の予想はみごとに外れてしまいました。


 エリザさまと出会ったときのことは、よくおぼえています。

 あなたは、シェリルと同じくらいこわくてきれいなじじょのうしろで、ひきつった顔をしていたわね。

 それがあなただと分かったとき、私はとてもがっかりしました。

 だって、あなたってば、ちっとも彼に似てないんですもの!

 彼と同じところなんて、せいぜいむらさき色の目くらい。

 あとはとりたてていいところもなく、ひたすらふつう。

 王さまはこんな女が好きなのかと思ったら、私はとてもショックで、思わずあなたにひどいことを言ってしまいましたね。


 それからというもの、私はあなたにやきもちをやくだけではなく、とても腹を立てていました。

 あなたという人が、私の思いえがく王妃さまに、ちっともかすっていなかったからです。

 それがゆるせなかったの。

 だって……王妃さまがあなたでいいなら、王さまに目をむけてもらえるようにがんばる私や、私みたいな後宮の女たちが、ばかみたいじゃない。


 でも、私がどう思おうと、王さまがあなたを王妃さまにして幸せになるなら、それが一番なのよね。

 それはよく分かっていました。

 だから、どんなに気に食わなくても、あなたが王さまを幸せにできるなら、それでいいとは思っていたのよ。(もちろん、とてもいやだったけれど!)

 それに、あの王さまが好きになったあなたが、ただのつまらない人だと、本気でそう信じていたわけではなかったから。


 私は本当のあなたを知りたかった。

 だからあのお茶会をひらいたのです。

 あの場にわたしとあなたの二人だけだったのは、つまらないやきもちであなたをいじめるような人に、私のじゃまをしてほしくなかったからです。

 私はあなたをいじめたかったわけではなかったもの。

 とはいえ、やきもちをやいていたわけだから、いじわるな気持ちも少しはありました。

 でも――それが理由であなたを川に落としたわけじゃないわ。

 私があなたを川に突き落としたのは、あなたが王さまを本気で好きではなかったからです。

 

 あのときの気持ちを何と言えばいいか、よく分かりません。

 おこっていた気もするし、かなしかった気もします。あるいは、にくらしかったかもしれない。

 上手く言えないけど……私も王さまもいっしょくたにして、ばかにされたように思ったの。

 それがゆるせなかった。


 だけど、そんなことが、あなたを殺しかけたいいわけにはならないわよね。


 ごめんなさい。

 本当にごめんなさい。


 あやまってゆるしてもらえることではないのは、よく分かっているつもりです。

 でも、それでもどうか、私にあやまらせてほしいの。

 いまさらおそいかもしれないけれど……。


 ずっと、あなたにごめんなさいと伝えたかった。

 言えなかったのは、きっと、私がよわむしだったからね。

 それでもやっとこうして言葉にすることができました。

 あなたはここまで読んでくれているかしら?

 そうであることをねがっています。

 すこしでも私の気持ちが伝わっていますように。




 ああ、そうだ!

 ひとつ、大切なことを忘れていました。

 あなたにあやまることができてうっかりしていました……あぶないところだったわ。


 大切なこととは、書院でのできごとについてです。

 これについて、わたしはまた、あなたにあやまらなければなりません。

 理由はあなたがいちばんよく分かっていることと思います。


 王さまから逃げたわたしが、足をすべらせて、階段からまっさかさまに落ちていくとき、あなたはわたしをかばってくれましたね。

 そのおかげで、私は少しのだぼくと脳しんとうだけですみました。


 たすけてくれて、ありがとう。

 何とお礼を言えばいいか、わからないくらいです。



 それで、今度こそ、ほんとうのほんとうにさいごなんだけど……。

 こうして手紙を書いているいまでは(昔はちがったけれど)、王さまがあなたを好きになった理由が分かります。

 さんざんひどいことをした私のことを命がけでたすけてくれるほど、あなたはやさしい。

 もしもわたしがあなただったら、たすけないばかりか、いい気味だと笑うにちがいありません。

 あなたはほんとうに立派な人だと思うわ。

 私もあなたみたいになりたい。


 あなたならきっと、すてきな王妃さまになるでしょうね。

 そうなる日を楽しみにしています。




 エレオノーラ・ブライトンより、敬意をこめて

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