表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/24

Ⅲ・赫に近い黒の光(5)

     ◆ ◇ ◆


 自分が何年暗闇に在たのか、それは未だにわからない。わかっているのは、かつて自分は自分という存在すら理解していない“モノ”だった、という事だけだ。

 そんな自分も、やがては暗闇から引き出され、周囲に多くの者が満ちた時がきた。その大半の者達も、そして自分を暗闇から引き出した者達も、邪な願望を抱く愚かな連中だった。しかし、それは許せた。同じ魔族として、それは魔族の性だと理解できたから。せいぜい悪知恵を練る事だ、と微笑ましくさえ感じていたものだ。

 だが――…。

 自分が真に持つチカラの強大さと残虐さに気付くと、それまで裏でも表でもせっせと悪事を働いていた野心家どもでさえ震え上がった。そしてある者は去り、ある者は自棄で挑んできた。それが繰り返される中で、ようやく自分も悟った。――自分は、偽りの中でしか他者と関わる事が出来ない、という事実を。

 あまりにも強大でおぞましい程に恐ろしい存在――…そう、魔の世界における魔族の常識の中でさえ、自分は異質な存在だった。異質ゆえに、あの男は自分を暗闇の檻に入れ、そして異質ゆえに、聞こえの良い差別を受けていた。誰も真剣に自分を相手にする気など毛頭なかった――、ただそれだけの事だったのだ…。


 ――そう事実を受け入れた瞬間、何もかもがどうでもよくなった。


 自分を取り巻く環境の全てを棄てる事を、自分は全く躊躇わなかった。

 業火の炎に包まれた大地は、罵声と悲鳴と焼けた血肉の臭いに満ちた。赤々とした灼熱の炎の海を前に、何故か口元に笑みが浮かんだ事を覚えている。多くの命が生きたまま焼けていく様に、実に盛大な火葬だな、などと無感情に思った。



「――これで、いい」



 今の自分の姿は、あの者達が見て感じた自分の姿だろう。だから、これでいいのだ。何も間違ってなどいない。自分はあの者達が思ったように残虐な存在であり、だからこそこの惨状を作り出したのだから。



 ――だから、これでいいのだ。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ