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秘密の地下室は広さが6畳ほどの小さなものだった。家財道具はまったくなく、中央に美術館の彫像を飾る台のようなものがあり、その四隅には天井まで届く細い柱のようなものがあった。
もともと、明かりを発するものがないため、部屋の四隅に簡易照明が設置されている。その明かりに照らされて、四本の柱に何かが巻きついていることに気が付いた。
それは縄のようなものでところどころに白い紙切れのようなものがぶら下がっている。正月のしめ飾りにも似ているが、白い紙には墨のようなもので何か文字が書かれていた。
朽木はその縄に近付いて注意深く観察している。
「なるほど。これは結構なものが、拝めそうね。坊や、そんなところに居ないで早くこっちにおいでよ」
朽木に呼ばれて僕はその近くに行ってみた。
「だから、坊やじゃなくて保谷です」
「いいから、この縄を掴んで、引き千切ってみてよ」
横にいた先ほどの男性が、顔を引きつらせて叫んだ。
「大丈夫なんですか。さっき、うちの若いのが試して、とんでもないことになっているんですよ」
「大丈夫、大丈夫、この坊やは特別製なのよ」
そう言って、朽木は僕の肩をぽんと叩いた。
僕にはわけのわからない会話が飛び交っていたが、上司がやれといったらやらなければならないのは、組織という箱の中に身をおいたものの宿命である。そんなところはヤクザとあまり変わらないということを社会に出てから痛感している。
僕は縄に手をかけた。
一瞬、手にひらに何か電気が走ったように感じた。
縄は青白い炎に包まれた。
そして、灰も残さずに燃えきった。
「よくやった、坊や」
「だから、坊やじゃなくて保谷です」
朽木は四本の柱の間を通り過ぎて、その中にはいった。
そこには黒い石でできた箱が置かれていた。箱の表面には何かも文様が刻まれている。そして、蓋の合わせ目には先ほどの縄についていた御札と同じようなものが、沢山貼られている。
「これは大丈夫みたいね。玄さん、この石の箱を特別室に運んで置いて」
「じゃあ、もう触ってもいいんだな」
そう答えたのは先ほどの男であった。名前が玄なのかどうかはそこで聞くことは出来なかった。なぜなら、僕は朽木に腕を引かれてすぐにその地下室から出て行ったからだ。
「さあ、坊や、先に行くよ」
「どこにですか?というか、坊やじゃなくて保谷です」
僕は朽木の車に押し込まれて何処かへと連れて行かれることになった。