11
「・・・で?」
「で?いや、以上で報告終わりです」
朽木は椅子から立ち上がり、僕の顔を鷲づかみにして顔を近づけた。
「坊や、一週間も血税を使いたいほうだいでこれだけ?その銅山の孫の行方はどうなったの?」
朽木の鼻と僕の鼻が触れる。目と目が合う。僕は怒られているという感覚が生まれなかった。いじめられている、いや、いたぶられているといったほうがいいのかもしれない。
「銅山の孫がどこに居るかわからなければ、これ以上調査できないでしょ」
僕は慌てた。つい、思いついたことを口にしてしまった。
「たぶん、おじいさんの斉藤銅山を名乗っているんではないでしょうか?」
「・・・なるほど」
朽木はそれで納得してしまった。
「すぐに斉藤銅山の名前で誰かが活動していないか、調べなさい。銀行、クレジット、なんでもいい。裁判所に私の名前を出せば、すぐにでも令状を出してくれるから」
僕は「えっ」と思った。
証拠もないのに令状が出るはずがない。朽木の名前はどこまで力を持っているのか・・・
それと母親の文恵の異常なまでの若さ。もしかしたら、想像以上に朽木には秘密の何かがあるのか。僕はそんなふうに思ってしまった。
「どうすればいいのかな・・・」
思わずひとりごとをつぶやく僕だった。
銀行にしろ、クレジットにしろ、どこから調べればいいのか。漠然としているから、令状も取れない。
ふと文恵からもらったブレスレットに目がいった。あれから肌身離さずつけている。
別につけていたからといって何か変化があったわけではない。何気なくそのブレスレットをはずしてみた。
机に散らばる書類の山をあれこれ手に取ったりしてみた。
すると一枚の報告書に気になるところを見つけた。
それは斉藤銅山の年金支払先口座の情報だった。
「そうか。今の時代、第三者が別人の口座なんて開くのは結構めんどくさい。もし、銅山の口座の中でまだ生き残っているものがあれば、それを使ってなり
すますほうが、可能性が高いな」
すかさず、斉藤銅山の年金支払先の郵便貯金に他に口座がないかを調べるための令状を取った。
ビンゴ!!
なんといまだに生きている口座がそこにあった。その口座の入出金先を調べた結果、銅山の孫の現住所が明らかになった。
「やれば出来るじゃん」
朽木も大喜びだった。