兎に角、リハビリ!特急列車⑥
『ピキッと言ったんだろ?横になると固まるんだ。 診察なんじゃないか? 痛み止めをもらえるだろう。リハビリしませんか?って聞かれてテミスは断れないからそのままリハビリになるんだろうな。』
『安静にしましょうね。』
「うん。」
灰色狼に湿布を貼ってもらっても、まだ痛むので左尻を擦りながら泣きそうなテミスだった。
『テミスの腰のこともですが、おばあ様が銀行カードを作ることが出来たことで、私達に嘘をついていることが分かったんですよね。』
アテナは、黒縁眼鏡をかけて自分が使っている赤い日記帳を開いていた。
『テミスのお父さんに作るなって言われていても必要だから、作ったんだ。でも、俺達が来なくなると思って、自分の誕生日を覚えていてもテミスのお父さんに伝えなかった。しっかりテミスには話していたからな。』
『嘘をついてまで忘れている部分を私達に見せるということは、一人暮らしを続けたいということですね。』
気付けば、アテナはシャーロック・ホームズが使っている帽子を被ってすっかり探偵を気取っている。
「でも、ばあば、お菓子一日で10個食べていたら一人暮らし厳しいよ。」
テミスも、アテナからタブレットを借りて必死に物忘れについて調べ始めていた。
『一緒に暮らしても一人の時間はあるだろうからな。』
『難しいですよね。』
「メモすることが大事だよね。」
『できもの、ばあばが出来たのにな。テミスに出来たんじゃないかと話をしていた。できものが出来た時の写真を今度見てもらおう。記憶に残るよ。コスモスを一緒に見に行ったことも覚えていないだろう。』
『認知症の症状だとしたら、悲しいですね。』
「私と一緒に買い物に行ったことは覚えていたよ!」
『最近の記憶がなくて、テミスと買い物に行っていた記憶があるのは、意味が分からんな!後、夜中に食べるのアウトに決まってるだろ! !』
「何を食べたって話していたっけ?」
一生懸命、話に参加しているテミスだが、覚えていないことが多いのだった。
『記憶喪失か! 芋だよ! 夜中に芋を食べたらいけないよねって話していたんだ。時間は関係ないんだ。認知症の場合、食べたか分からないから食べるんだ。判断が出来ないんだ。でも、お菓子を10個食べたって覚えているのは凄いんだ。普通は、そんなこと覚えていないんだ。じいじと一緒にいる時は、お菓子を食べていなかったはずなんだ。俺達が教えてしまったんだ。』
灰色狼は、牙を剥き出しにしている。
『認知症は、満腹になりにくいみたいですね。過食になりやすいようです。』
黒縁眼鏡をかけたアテナは、タブレットでたくさんの知識を吸収していた。
『どうすればいいんだ? 銀行カードを止められているのに、勝手に作るのもやばいだろ。電話をかけたかどうかも分からないんだ。前は、寝ていた時なんか、かけてきてたんじゃない?って電話してくれていたんだ。今、それもないんだ。』
『外部の支援を借りるしかないのでは?』
「一人で今、大丈夫なのかな?」
祖母が心配で仕方ないテミスは、おろおろとしている。
『鮭を入れておにぎりを作るのか聞いたら、『じゃったね』と、話していた。入れると思っていたことは覚えていたんだよ。油と甘いものをたくさん食べたら、もっと症状が悪くなると言っとくしかないだろ。一人暮らしをしたいんだから、大丈夫だよ。』
「何で、たくさん食べちゃうのかな。」
『お父様は、美味しいから食べる。子供と一緒だと話していましたね。』
『ばあばは、一週間があっという間だと話していた。何もしていないんだ。寝起きは、みんなぼっーとするんだ。ばあばは、ずっとそうなんだ。多分、飯食ってまた寝ているんだ。夜中にお菓子食べているんじゃないか? お菓子ばっかり食べていると、風邪をひきやすくなるんだ。調整出来ないと、一人暮らしは出来ねぇぞ!もう、めちゃくちゃなんだ。何かしながら、音もよく聞こえていたけどな。ごみ捨てがあるから曜日は、考えることは出来る。一人暮らしを続けたいなら、電話は大事なんだ。』
「ばあばから、電話かかってこないね。」
テミスは、携帯が鳴らないか何度も見ている。
『銀行カードなくしたあたりから、おかしいんだよ!でも、ばあばは考えているんだ。お味噌汁、いつもより少なく作っていたからな。みんなが食べる分を用意して残らないようにしていたんだ。』
「ばあばは、いつもかぼちゃを入れているよね。かぼちゃプリン作りたい!」
『金柑漬けもずっと食べていたからな。』
『一度、はまった食べ物は食べ続けてしまいますからね。』
「そういう人もいるんだよ。ばあばは、バナナを食べなくなったと話していたな。りんごやみかんより、ビタミンB₆が入っているバナナが良いんじゃないか?」
『ビタミンB₆は、長生きするための一つの栄養素ですね。』
アテナは、脳に良い食べ物を懸命に調べてくれている。
「ばあば、夜、眠れているのかな。」
『夜中にトイレに起きるから目が覚めるんだ。』
『睡眠は大切です。ですが、おばあ様は、まだ幻覚や幻聴が聞こえていませんよね。』
『性格が変わるんだもんな。ばあばは、明るいからさ! 穏やかな人が、イライラしたり攻撃的になったりするんだよ。自分の息子に、部屋の換気をしろって言われてばあばは、しっかり言われた通りにしているんだ。テミスが最近、さつま揚げの話をしたことも覚えていた。卵焼きは、テミスのお父さんに作れって言われていたが、思い出したら、作らないわけにはいかないからな。』
『意図的ですね。』
『認知症かどうかテミスが検査をしたらグレーゾーンだったんだ。また、するしかないな。』
「ばあば鼻水出るって話していたよ。」
『冬は、朝一番でわざわざ全部開ける必要はないんだ。夏はいいけど、今はあたたかい昼がいい。風が通ればいいんだからな。表しか開けていないならただ、冷気が入ってくるだけだ。換気扇を回せばいいんだ。でも、あまり料理をしないから。5cmほど表と裏の窓を冬は5分開けるだけでいい。窓を開けっ放しにしているから、風邪をひいているんだ!寒くなるから毛布を探してやらないとな。』
灰色狼は、赤毛の男の姿になり眉間にシワを寄せていた。
「みんなで買いに行こう!ばあば、体操に自分で行くことが出来ているから大丈夫だよ!」
テミスは、何とか祖母が体操の日に忘れずに行くことが出来ているから、大丈夫だと心を落ち着かせた。
祖母のためにも一週間に一度、みんなでお昼ご飯を食べることが大切だと思ったのだ。
『俺達が来る前の日に作ってくれているからな。』
そうすれば、祖母は料理をしてくれる、手を動かす、頭を使う、とても体に良いことなのだ。
テミスは、新聞の中に低栄養だと風邪を引きやすくなるという記事を見つけた。
「私もリハビリ頑張る!たんぱく質、取る! 」
『たんぱく質、なんよ!ってばあば聞いていたぞ。』
『肉、魚、卵、豆腐ですね。』
『偏った食事が体に良いものだったら良いんだ。ばあばは、食べ物のことは、覚えている。びっくりだよな。』
灰色狼『クエン酸って、何に良いんだ?』
アテナ『筋肉痛の軽減に繋がるみたいですね。』
灰色狼『飲んでいいんじゃないか? また、固まるぞ。』
テミスは、生前祖父が飲んでいたクエン酸を真似して買っていたものがまだ残っていたため、飲んだのだった。
テミス「しゅっぱぁっ!!」
* * *
テミス誕生日前日、『テミスちゃん誕生日おめでとう バーバより』と書いてある祝い袋をもらいみんなで、喜んだのだった。




