ピヨピヨ
深夜三時。宮下は、窓の外の電子音で目を覚ました。
ピヨ、ピヨ、ピヨ……
家の前の横断歩道につけられた、音響信号だった。青信号になると鳴る、あの音だ。日中は何度も耳にしているはずなのに、真夜中に聞くと、やけに大きく響いた。
宮下はカーテンの隙間から外を覗いた。信号は確かに青く光っていた。しかし、横断歩道には誰もいない。車も通っていない。この時間、信号を渡る人間などいるはずがなかった。
それでもボタンを押す人がいたのだろう。宮下はそう考えることにして、また布団に戻った。
音は鳴り続けていた。
ピヨ、ピヨ、ピヨ……
青信号の時間は、長くても三十秒ほどのはずだった。それなのに、いつまで経っても止まらない。宮下は再び起き上がり、今度は窓を開けて外の様子を確かめた。
信号は、赤に変わっていた。
赤信号のときには、あの音は鳴らない仕組みのはずだった。それでも、ピヨ、ピヨ、という音は、変わらず続いていた。窓を開けたことで、むしろ音ははっきりと、大きくなったようにさえ感じた。
宮下は横断歩道を見た。誰もいない。街灯の下に、白線だけが浮かび上がっている。
音の出所は、信号機だった。それは間違いなかったが、その音の間隔が、ふと気になった。
ピヨ、ピヨ、ピヨ……
一定のリズムだったはずのそれが、少しずつ、乱れ始めていた。歩くような速さで、間隔が縮まったり広がったりしている。誰かが横断歩道の途中で足を止めたり、また歩き出したかのように。
宮下は窓を閉めた。カーテンも閉めた。それでも、音は変わらない大きさで、部屋の中まで届いていた。
朝になって様子を見に行くと、信号機は何事もなく、いつも通りに動いていた。近所の人に聞いても、夜中に音がしていたことに気づいた者はいなかった。
それでも気になって、警察に問い合わせた。
「あの信号は午後八時以降、音は停止する設定です」
その夜も、宮下は同じ時刻に目を覚ました。
ピヨ、ピヨ、ピヨ……
今度は、音の間隔が、初めから乱れていた。歩くような速さで、家の前の横断歩道を、行ったり来たりするように。
宮下の家は、その横断歩道の正面にあった。まだ、渡り切ってはいない。




