ヤンデレエルフの独占欲
黄金の光が降り注ぐ楽園の静寂を切り裂くように、無数の精霊たちがざわめき始めた。
風は不自然に渦巻き、色とりどりの光の粒――精霊たちが、怯えるように私の周りに集まってくる。
「アリシア殿、後ろに下がるでござる! この気配、ただ事ではないでござるよ!」
シノブが鋭い声を上げ、腰まであるポニーテールを跳ねさせて前に出る。
「あら、わたくしの魔力を吸い上げたばかりだというのに、もう邪魔者が現れますの? 無粋ですわね」
私の膝に甘えていたフェリシアも、名残惜しそうに身を起こした。スレンダーな彼女は、シノブよりも少し高い視線で森の奥を睨みつける。
木々の隙間から、一人の女性が姿を現した。
すらりとした長身。エルフ特有の尖った耳。
そして何より目を引くのは、その暴力的なまでの「柔らかさ」だった。
薄い絹のような服越しでも分かる、しなやかで肉感的な曲線美。フェリシアのような鋭利な美しさとも、シノブのような弾けるような躍動感とも違う――それは、成熟した女性だけが持つ、包み込むような豊潤な色気だった。
「ああ……ああああ……っ。やはり、ここに……」
ルナリアと名乗ったそのエルフは、私の姿を捉えた瞬間、その場に力なく膝を突いた。
虚ろだった瞳に、どろりとした、濃厚な悦びの色が灯る。
「見つけました……見つけましたよ、私の『神様』。精霊たちが囁いていた通り……なんて、なんて神々しい魔力なのでしょう……」
彼女は這いずるようにして私に近づこうとする。
その様子に、シノブがクナイを抜いて牽制した。
「止まるのでござる! アリシア殿を『神』と呼ぶ不届き者め、それ以上は実力行使でござるよ!」
「……邪魔をしないで。羽虫が」
ルナリアが冷たく言い放つと、彼女の周りにいた精霊たちが一斉に牙を剥いた。
突風が吹き荒れ、シノブの足を止めさせる。
「皆、やめて!」
私が叫ぶと、精霊たちはぴたりと動きを止めた。私の『植物鑑賞(神の権能)』の力は、植物だけでなく、そこに宿る精霊たちをも従わせる力がある。
「あ……ああ、精霊たちが、私よりも先にあなたに傅いている……。素晴らしい……。これこそ、私が夢にまで見た救済……」
ルナリアはうっとりと頬を染め、恍惚とした表情で私を見上げた。
◆ ◆ ◆
話を聞けば、ルナリアはかつて王国の魔導軍で、精霊を無理やり兵器として扱う計画に反対し、実験体だった精霊たちをすべて逃がして追放されたのだという。
それ以来、彼女は精霊たちの声を頼りに、この世界を癒やす「真の聖域」を探し続けていた。
「アリシア様……。あなたは、この汚れた世界に残された唯一の光です。私には分かります……。精霊たちの震えが、私の魂に伝わってくるのですもの……」
ルナリアは私の隣に座り、その柔らかな体躯をこれでもかと私に密着させてきた。
シノブよりはるかに大きく、それでいて吸い込まれるように柔らかい感触が、私の腕に押し付けられる。
「ちょっと! さっきから近すぎるでござるよ、このエルフ! 拙者の指定席を奪うなでござる!」
「……わたくしも、我慢の限界ですわ。その、見るからに重たそうな愛……アリシアが窮屈そうですわよ?」
シノブとフェリシアが左右からルナリアを引き離そうとするが、ルナリアは私の服の裾をぎゅっと握って離さない。
「うるさいですね。……アリシア様には、私がいれば十分です。精霊たちも、そう言っていますよ? 私たちがアリシア様と『一つ』になれば、この楽園は完成するのだと……」
「ル、ルナリア……?」
彼女の瞳のハイライトが、ふっと消える。
彼女は私の手を取り、自分の胸元――高鳴る心臓の真上へと導いた。
「アリシア様。私の魔力、私の感覚、私のすべてを……あなたに捧げます。……精霊を介して、私と『同調』してください」
「同調……?」
「はい。吸血鬼のような原始的な吸血ではありません。精神の底から、すべてを共有するのです……」
ルナリアが私の耳元で甘く囁く。
シノブやフェリシアが止める間もなく、彼女は私の指先に自分の魔力を絡ませた。
――次の瞬間。
私の視界が、パッと色鮮やかな光の世界へと切り替わった。
「っ……!? な、なに、これ……」
精霊たちの視界、風のざわめき、土の温度……それらすべてが、私の感覚として流れ込んでくる。
そして、それ以上に強烈だったのは――ルナリアの『体感』だった。
私の指が彼女の胸に触れている感触。
彼女が私に見つめられて、どれほど熱く火照っているか。
私の香りを嗅いで、彼女の身体がどれほど淫らに震えているか。
ルナリアが感じている「快感」が、増幅されて私の中へと逆流してくる。
「あ、はぁ……っ! アリシア様……私の、中が……あなたの色に染まっていくのが、分かりますか……?」
ルナリアの吐息が、私の脳を直接揺さぶる。
精神がつながっているせいで、彼女の「アリシア様を独占したい、食べちゃいたい」というドロドロに甘い思考までが、私の意識を侵食していく。
「ん、あぁ……っ! 身体が……勝手に、震えて……ルナリア、これ、すごすぎるよ……っ!」
私の肌も、彼女と連動するように真っ赤に火照り、全身が粟立つ。
シノブの手が私に触れるたび、その感触がルナリアにも伝わり、彼女が悶絶する。その悶絶が、また私に返ってくる――。
終わりのない快感のループ。
ヤンデレエルフによる、逃げ場のない感覚の牢獄。
私たちは、精霊たちの輝きの中で、溶け合うように震え続けた。
◆ ◆ ◆
「……はぁ、はぁ……。すごかったでござる……。見てるだけで、拙者まで身体が熱くなったでござるよ……」
ようやく同調が解けたとき、シノブは顔を真っ赤にして、自慢の胸を抑えながら座り込んでいた。
「……信じられませんわ。あんな……あんな恥ずかしい声を、アリシアに出させるなんて……」
フェリシアも、悔しそうにルナリアを睨みつける。
当のルナリアはといえば、完全に「賢者タイム」ならぬ「陶酔モード」に入っており、私の膝の上で、蕩けた顔をして擦り寄っていた。
「ふふ、ふふふ……。アリシア様。これで、私たちは繋がりました。……あなたがどこにいても、精霊たちが私に教えてくれます。……もう、どこへも行かせませんよ……?」
「ル、ルナリア……。嬉しいけど、ちょっと怖いかな……」
私は苦笑いしながら、彼女の柔らかな髪を撫でた。
忍者、吸血鬼、そしてヤンデレエルフ。
追放された女の子たちが集まるたびに、私の楽園はどんどん「濃く」なっていく気がする。
けれど、そんな幸せな時間の裏側で。
私は、聖域を監視している『視線』があることに気づいていた。
精霊たちが怯えていたのは、ルナリアのせいだけじゃない。
森の外。
王国の境界線で、ミーナが送り込んだであろう『使い魔』が、じっとこちらを覗き見ている。
「……ミーナ」
私の呟きに、ルナリアがぴくりと反応した。
「……アリシア様を苦しめた、あの偽物の聖女ですね。……安心してください。次にあの子がアリシア様の前に現れたときは……精霊たちの餌にしてあげますから」
ルナリアの瞳に、今日一番の「ヤミ」が宿る。
……どうやら、王国との決戦は、想像以上に凄惨な「ざまぁ」になりそうだった。




