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海に沈んだ聖女。二人の『姉妹』の再会

楽園の夜明けは、今までになく静かだった。

 昨夜、四人の愛に溺れ、魔力を注ぎ、注がれた私の身体は、内側から黄金の光を放っているような不思議な充足感に包まれていた。


「……ん。……みんな、まだ寝てる」


隣ではシノブが私の腕を枕にし、フェリシアが私の腰にスレンダーな足を絡め、メイリンが私の胸元に顔を埋めている。そして背後からは、ルナリアが大きな翼のように私を包み込んでいた。

 ふふ、幸せすぎて、このまま溶けちゃいそう……。


そう思った瞬間。

 私の胸元――世界樹の核となったあの『種』が、熱を帯びて脈動した。

 同時に、私の脳裏に鮮やかな『海』のビジョンが浮かぶ。


「……西。……あっちに、誰かいるの?」


私の呟きに、ルナリアが真っ先に目を開けた。


「……アリシア様。……精霊たちが、海の向こうから届く『祈り』を運んできましたわ。……とても懐かしく、そして悲しい、水の旋律を」


◆ ◆ ◆


私たちは、世界樹の枝で編み上げた特製の『花の船』に乗り、西の果てへと向かった。

 霧に包まれたその海域は、王国の船さえも近づけない「禁忌の領域」だという。


「……止まるのでござる。……誰か、来るでござるよ」


シノブがポニーテールを跳ねさせ、クナイを構える。

 霧が、まるでカーテンを引くようにゆっくりと左右に割れた。

 そこに立っていたのは、一人の女性だった。


深海を思わせる、銀青色の長い髪。

 ルナリアと同じくらいの、すらりとした長身としなやかな身体。

 ボロボロの聖衣からは、成熟した女性特有の豊かな曲線美が覗き、その胸元はルナリアに負けず劣らずの柔らかそうな膨らみを湛えている。


「……あ……」


私の声にならない吐息が漏れた。

 その顔、その慈愛に満ちた瞳。……忘れるはずがない。


「……エルセ、お姉様……?」


数年前、津波を鎮めるための生贄として海に消えた、私の『本当の姉』のような存在。

 エルセは、私を見つめると、悲しげに、けれどこの上なく優しく微笑んだ。


「……見つかってしまったわね。……わたくしの、可愛いアリシア」


◆ ◆ ◆


「待つでござる! アリシア殿を呼び捨てにし、まるで自分の所有物のように扱う貴殿は、一体何者でござるか!」


シノブが割って入る。新参者への警戒を剥き出しにするシノブに対し、エルセは眉一つ動かさず、余裕の笑みを浮かべた。


「あら。賑やかな忍びさんね。……アリシアの側に、そんな『騒がしい子』がいたなんて。……でも安心して、わたくしはアリシアの『所有権』を争うつもりはないわ。……だって、アリシアの初めての抱擁だっこも、初めての添い寝も、すべてわたくしのものですもの」


「な、なななっ……! 先手を取られているでござるか!?」


「……フン。わたくしたちの絆を、そんな昔話で超えられると思わないことですわ」


フェリシアが冷たく言い放つが、エルセは「あら、可愛い吸血鬼さん」と、まるで子供をあやすようにフェリシアの頭に手を置こうとした。


「……触らないでくださいませ! 失礼ですわよ!」


「ふふ、ごめんなさいね。……アリシアがあまりにも素敵な子たちを連れてきたから、つい嬉しくなって。……ルナリアさん、精霊たちもあなたを歓迎しているわよ? ……わたくしと喧嘩をするよりも、今はアリシアを休ませてあげるべきじゃないかしら」


ルナリアの精霊魔法を、エルセは優雅に躱すどころか、自分自身の魔力で包み込み、中和してしまった。

 圧倒的な余裕。格の違い。


「……みんな、やめて。エルセお姉様は、私の恩人なの」


私はエルセの元へ駆け寄り、その柔らかな胸元へと飛び込んだ。


「……っ、会いたかった……! 生きてるって、信じてたんだから……っ!」


「……ああ、アリシア。……こんなに大きくなって。……少し見ない間に、随分と『女の顔』を覚えたみたいね」


エルセが私の腰を引き寄せ、耳元で甘く囁く。

 彼女の指先が、私の背中に刻まれた『神の紋章』を優しくなぞった。


「……あ、んっ……エルセ、お姉様……」


「ふふ。身体がこんなに熱い。……悪い子たちに、毒されてしまったのかしら? ……お姉様が、霧の奥で綺麗に『洗って』あげましょうね」


◆ ◆ ◆


エルセは私を抱き上げたまま、霧の奥にある、彼女だけの隠れ家へと連れて行った。

 シノブたちが追いかけようとするが、エルセの放った『泡』の結界が、優しく、けれど絶対に彼女たちを遠ざけてしまう。


「……アリシア。……懐かしいわね、この匂い」


秘密の入り江にある、温かな湧き水の池。

 エルセは私と一緒に水に浸かると、私の寝間着を、まるで薄皮を剥ぐように丁寧に脱がせていった。


「……あ、お姉様……。自分でも、洗えるよ……」


「ダメよ。……あなたは、わたくしのお人形。……わたくしがいない間に、他の子たちにつけられた『汚れ』を、全部わたくしの魔力で上書きしてあげないと」


エルセの、ルナリアと同じくらい柔らかく、そして温かな胸が私の背中に密着する。

 水の中で、彼女の指先が私の敏感な場所を、熟知した手つきで愛で始めた。


「ん、あぁ……っ! お姉様、そこ……やだ、変な感じ……っ!」


「ふふ、声まで大人びてしまって。……でも、アリシアの中身は……あの頃と同じ、わたくしだけの可愛い妹ね」


エルセの魔力――『深海の追憶』が、私の脳内に懐かしい記憶を呼び起こす。

 それは、ただの快感ではない。

 離れていた時間を埋め合わせるような、背徳的で、けれど絶対的な安心感に包まれた、姉妹の交感。


◆ ◆ ◆


「……はぁ。……アリシア。……もう二度と、あなたを離さないわ」


水面から顔を出したエルセは、蕩けたような表情で私の唇を奪った。

 それは吸血鬼の儀式よりも深く、精霊の同調よりも重い、執着の味。


けれど、結界の外では、シノブたちの怒りと嫉妬の魔力が爆発しようとしていた。


「……お姉様。……みんなとも、仲良くしてあげてね?」


「……考えさせてちょうだい。……わたくし、独占欲は人一倍強いのよ?」


エルセは悪戯っぽく微笑み、再び私を抱きしめた。


新たな家族(?)。最強の『姉』の参戦。

 私の楽園は、さらに複雑で、淫らな形へと進化しようとしていた。

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