忍者の涙と裏切りの告白
一万の軍勢を退けた楽園には、再び柔らかな月光が降り注いでいた。
世界樹の根元では、戦勝祝いのささやかな宴が開かれている。
「アイヤー! お姉さんの勝利に乾杯ネ! 飲んで飲んで、踊るアルよ!」
「……ふん。わたくしも、少しだけ酔ってしまいましたわ。……ねえ、アリシア。もう少し、近くへ来なさいな」
泥酔して私の腕に絡みつくメイリン(Bカップの引き締まった身体が熱い!)と、顔を赤くして私の服の裾を引くフェリシア。ルナリアは私の背後にぴったりと張り付き、長身の身体を預けてうっとりと目を閉じている。
けれど、そんな賑やかな輪から少し離れた場所。
シノブだけが、大樹の影で一人、夜空を見上げていた。
「シノブ……? どうしたの、そんなところで」
私が声をかけると、彼女はびくりと肩を揺らした。
いつもなら「アリシア殿! 拙者の胸に飛び込んでくるでござるか!?」と茶化してくるはずの彼女が、今は消え入りそうな顔で私を見つめていた。
◆ ◆ ◆
「……アリシア殿。……拙者、どうしても言わなければならないことがあるでござる」
宴の喧騒から離れた、静かな泉のほとり。
シノブは、腰まであるポニーテールを揺らし、膝を突いて深く頭を下げた。
「……拙者は、嘘をついていたでござる。……拙者がこの森に来たのは、偶然ではないでござるよ」
「……え?」
「拙者の里は……王国の影として、汚れ仕事を請け負う暗殺者の集団だったでござる。……拙者は、ミーナ殿……あの偽聖女から、密命を受けていたでござるよ。――『本物の聖女が力を覚醒させた瞬間、その心臓を貫け』と」
シノブの声が、震えている。
彼女が「気配が薄い」という呪いを持っていたのは、皮肉にも、最強の暗殺者としての才能だったのだ。誰にも気づかれず、誰の記憶にも残らず、標的の命を刈り取るための。
「あの日、アリシア殿が森を浄化し、拙者を見つけてくれた時……。拙者は、袖の中にクナイを隠していたでござる。……でも、アリシア殿のあの真っ直ぐな瞳を見た瞬間……拙者の心に、見たこともない大きな花火が上がってしまったでござるよ」
シノブは、顔を上げ、涙に濡れた瞳で私を見た。
「……拙者は、アリシア殿を殺せなかった。……それどころか、アリシア殿に愛されたい、守りたいと願ってしまったでござる。……裏切り者の拙者に、この楽園にいる資格など、本当はないのでござる……!」
彼女は、嗚咽を漏らしながら地面に伏した。
その細い肩が、情けなく震えている。
◆ ◆ ◆
私は、静かにシノブの前に歩み寄り、彼女の冷たくなった手をそっと取った。
「……シノブ。顔を上げて?」
「……嫌でござる。合わせる顔がないでござるよ……」
「いいから、見て。――『植物鑑賞』」
私は、シノブの身体に神の魔力を通わせ、彼女の『本質』を鑑賞した。
そこに見えたのは、暗殺者の冷徹な魂なんかじゃない。
ただひたすらに温かく、誰かに見つけられることを切望し、今は私への愛で燃え盛っている、純粋すぎる一輪の花の姿だった。
「……シノブの心は、こんなに綺麗だよ。……前に言ってくれたでしょ? 『アリシア殿のためなら命をかける』って。……あれ、嘘だったの?」
「……う、嘘じゃないでござる! 拙者の魂に誓って、本物でござる……っ!」
「なら、いいよ。……ミーナの命令なんて、関係ない。……私は、シノブが私の隣にいてくれる今の現実を、信じているから」
私は、シノブを力いっぱい抱きしめた。
彼女の豊かなEカップの胸が、私の身体を押し返す。その熱い鼓動が、私の胸にダイレクトに伝わってきた。
「んぅ……っ、アリシア殿……。……拙者、一生、貴殿から離れないでござる! どんな汚れ仕事でも、夜の伽でも、何でもするでござるよおぉぉん!!」
シノブは子供のように泣きじゃくりながら、私に縋り付いた。
その様子を、少し離れたところで見守っていたフェリシアたちが、溜息まじりに歩み寄ってくる。
「……全く、世話の焼ける忍者ですわね。……あんたが裏切り者だろうと何だろうと、わたくしたちが、あんたを逃がすわけないでしょう?」
「アイヤー! シノブがいないとお酒が美味しくないアル! ほら、泣き止んで飲むネ!」
「……ふふ。アリシア様の愛は深いのです。……でもシノブ、今夜はアリシア様の隣は、私が譲ってあげますから……。感謝してくださいね?」
ルナリアが、慈しむような瞳でシノブの頭を撫でる。
四人の絆が、本当の意味で一つになった瞬間だった。
私たちは、月明かりの下で、深夜まで語り合い、互いの温もりを確かめ合った。
◆ ◆ ◆
数時間後。
夜も更け、宴の火が静かに消えゆく頃。
「……はぁ。……シノブをなだめてたら、なんだか身体が火照ってきちゃった」
私は、四人の女の子たちに囲まれて、世界樹の根元の大きなベッド(植物でできた特製)に横たわっていた。
昼間の戦闘、そしてシノブとの魂の交流。
高揚した気分が、心地よい倦怠感とともに、甘い熱となって全身を駆け巡っている。
ふと隣を見ると、シノブが、涙の跡を残したまま、潤んだ瞳で私を見つめていた。
彼女の手が、震えながら私の寝間着の紐に伸びる。
「……アリシア殿。……拙者、言葉だけじゃ足りないでござる。……今夜は、拙者の身体の隅々まで使って、貴殿への愛を証明させてほしいでござるよ……」
シノブの指先が私の肌に触れ、電気のような刺激が走った。
それに応えるように、フェリシアも、ルナリアも、そしてメイリンまでもが、甘い吐息を漏らしながら私へと擦り寄ってくる。
明日は、王国のことなんて忘れて。
この楽園で、愛する彼女たちと、心ゆくまで溺れてしまおう。
そう決めた私の意識は、濃密な愛の予感に包まれて、深い闇へと溶けていった。




