表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

工学系女子シリーズ(異世界・恋愛、仕事)

【工学系女子シリーズ⑥】勇者選抜は恋の火力も上がるようですが、銃職人女子は祈らず命中率を上げます~謎の魔術師の“愛の一撃”で、ライバル勇者候補も本気になりました~

作者: コフク
掲載日:2026/03/01

「パシッ」

ダンジョンの奥で、謎の魔術師が一撃を放った瞬間――レオンのライバル勇者候補は、本気に戻った。

彼のために一緒に戦う、彼女の存在に気づいて。

________________________________________

王都アルセリオの初夏は、朝から光が眩しい。

石造りの塔が並び、鍛冶の槌音と馬車の車輪の音が混ざる街。

その日、王都に集められた“勇者候補”たちの、選抜が始まった。


銃職人を目指すフェリア・ブラントはこの春、十五歳にして、王都の王立工学学院に入学した。入学から間もない初夏の今、学院の講義を受ける傍ら、小さな町カルンで銃中心の武器専門店を営む父の紹介で、王都の老舗武器工房「ヴァルク工房」に通い、銃と爆弾の研究と開発を続けている。

実家と同じく、油と鉄の匂いが染みついた、工房。眼鏡をかけ、白い豊かな髭のヴァルクさんは、無口で一見気難しそうだが、フェリアには優しく、自由に開発させてくれる。


前回作ったレオン専用の銃の課題は三つ。

・反動の抑制

・照準の安定

・弾道のぶれ軽減

王都に来てから、学院の授業も活かし、ヴァルクさんにも見てもらいながら、改良を進めてきた。

銃身の溝加工で弾道を安定させ、照準機構と握りもレオン仕様に詰めた。

(これで、命中率上がるはず!)

フェリアはぎりぎりまで銃の調整をしてから、朝の工房を飛び出した。


勇者候補の一人、レオン・クライン。

金髪を束ね、片手剣を腰に、王都ギルド前に立っていた。

(ここからだ)


レオンのパーティーも出身地の町カルンのギルドではSランクだが、王都の選抜は相性と総合評価がすべてで、地方の実績だけでは通らない。王都には、地方とは桁違いの実力者が集まる。

貴族出身の魔法剣士。

精鋭弓兵。

王都育ちの神官。

それぞれが課題討伐で成果を競い、勇者認定に近づく。


フェリアが到着すると、既に百人程度の勇者候補と、それを応援しに来た人々でごった返していた。

「レ、レオン!」

人垣の中から、声を張り上げる。が、小さなフェリアは近づくことができないまま、最初の課題が始まってしまった。


________________________________________

最初の課題は飛行型魔獣「スカイレイヴン」の討伐。高速で空を旋回し、群れで襲う。レオンのパーティーは奮闘するが、決定打に欠けた。

剣は届かない。

魔法は当たりにくい。

結果、三匹をどうにか倒したのみで終わった。


(可もなく不可もなく――これでは、駄目だ)

ライバルが弓で複数撃ち落とすのを見て、レオンは唇を噛んだ。

とは言え、全く倒せないパーティーも続出した。


終了後脱落者が出て半分に減り、フェリアはやっと、レオンと話すことができた。

「渡せなくてごめん。でも、課題一つ目クリア、おめでとう。レオン用に、調整してきた」

フェリアは改良した銃を見せた。銃を差しだすフェリアの手ごと、レオンは優しく両手で包んで受ける。

「学院で習った弾道理論、素材工学、加工精度――全部、活かした。反動も抑制して、照準を安定させて、弾道のぶれを減らして。動いていても、命中率上がるように」

「……すごい」

レオンが、銃を受ける手を震わせた。

「ありがとう。フェリア」

「感想、ちゃんと教えて。改善するから」

「大事に使わせてもらう。次の課題は明後日だから、お昼、一緒に食べよう」

腰に銃を差すと、片手を繋いだまま、一緒に食堂へ向かった。


「やっぱりあの二人、甘い~、頑張れ~」

レオンのパーティーのピナも、他の仲間と影からこっそり二人を見守って楽しんでいた。フェリアとレオンをカップルで推している、回復・防御系魔法使い。キャピキャピしているが、一応Sランクのレオンのパーティーの実力者である。


________________________________________

ギルドの食堂は、人がごった返していた。どうにか空いている席を見つけて、二人で向かい合わせて座り、注文した。

「二人きりの昼食だね」

レオンがフェリアの目を見つめる。

「すごく、混んでるけどね」

フェリアが言う。

レオンの隣の席の人が食べ終わり、空いた。

「相席よいですか、お邪魔します!」

と言って、どかっと座ったのは……。

「え? お兄ちゃん」

フェリアの兄、ガルドだった。赤っぽい髪で、腕が良く、そして――妹に関しては面倒くさいほど過保護。

「本当に、邪魔をしにきたんですか?」

レオンが表情を曇らせる。

「それもあるけど――騎士団から大量発注を受けた銃、さっき、納品してきた。射撃練習場の整備も手伝ってる。ついでに練習できるぞ」

「レオンも銃の練習、できるね」

フェリアの目が光る。


________________________________________

王都騎士団の射撃練習場では、十個ほどの、小距離や中距離の的を前に、騎士たちが並んでいた。土煙の匂いが充満し、金属音と兵士の号令が響き渡る。


ガルドがフェリアとレオンを連れて行くと、騎士団長のアルヴェルトが、端の一か所を開けてくれた。


「おい、そこの騎士。フェリアに近い」

「近くない、訓練の順番――」

「近い」

レオンも牽制する。

「彼女は開発者です」

騎士たち、半笑い。

「見学者じゃないのか」

「開発って、打てるの?」

フェリアは黙ってレオン用新型銃を構えた。

小さな金属標的までの距離は中距離で、二百メートル程度。

撃つ。

カン。

一発で、中心に当たった。

「おお、すごい!」

歓声が上がる。

が、

「動く的でないと、簡単すぎて分からないか」

フェリアがガルドの方を振り向く。

「じゃ、これ投げようか。前に投げれば安全だろう」

ガルドが、的と同じ丸い金属板を、斜めになるように、前方上に放り投げる。

一枚。

カン。

二枚。

カン。

空気が変わる。

「二枚とも、中心に当たったね。相変わらず、すごい」

レオンが言う。

銃をレオンに渡しながら、言う。

「多分大丈夫だと思うけど、レオンも使ってみて、問題あれば言って。調整する」

「フェリアのように、中心には当たらないと思うけど、やってみる」

他はみんな、言葉を失っている。


さっき軽口を叩いた騎士が、何も言えなくなり、素直に引いた。

「銃って当たらないものだと思ってた」

「あの投げた的、中心に当たったかも、見えなかった」

沈黙のあと、尊敬が生まれる。そしてまた、ファンが増える。


一方、兄ガルドは別方向でも忙しかった。

「……命中しない。銃って難しい」

そう言ったのは、女性騎士だった。手の空いたガルドに声をかけた。

「体格差が出る剣より、私には銃の方が可能性があるかと思ったんですが。どこが悪いか、教えてもらえませんか?」

ガルドは最初、遠慮した。

「いや、手を握るのは……」

「ちゃんと教えてください」

真っ直ぐ言われ、ガルドは観念した。

「……分かった」

彼は手を取って、構えを整え、指の角度を直す。

「引き金は、こう。肩、力抜け。背中で受け止める」

ガルドの指が重なる。手袋越しでも、熱が伝わった気がして、女性騎士は息を飲む。

「……今の感覚、忘れるな」

すると、次の弾が、的を初めてかすった。

「……教え方、上手ですね」

「まだ小距離で、かすっただけだけどな」

「ですよね……」

女性騎士がぽつりと言った。

「でも、妹も、今の状態になるまでに凄い数撃ってる。続ければ、上手くなるよ」

「優しいですね。先生になってくれませんか?」

ガルドは一瞬、黙った。

「時々、来たついでなら……」

ガルドの頬が、ほんの少し赤かった。


________________________________________

討伐課題二日目。王都近郊の新規ダンジョン踏破課題が発表された。今度もまた、複数のパーティーが競い、成果と連携と判断力を見られる。

前日までの討伐点と連携点が合算され、暫定で上位二十組が次へ進む形だ。


薄暗い石造りの通路を、レオンのパーティーは慎重に進む。

今回も、空中から急襲する魔物が現れ、レオンは迷わず撃つ。

一撃で翼の付け根に命中し、魔物が落下した。

仲間たちも喜ぶ。

「命中精度、上がってる!」


だが、その近くにも、鮮やかな魔法剣で、敵を一撃粉砕した男がいた。

エルドリック・レイグラード。

華やかな容姿と、王族の遠縁の、公爵家の血筋。周囲から「お前こそ勇者に相応しい」と言われる男。表向きはそれを受け入れている。

(あの男、勢いがあるな)


帰還後、レオンは、パーティーの仲間に言った。

「まだ足りない」

仲間も頷く。

「鍛え直そう」


二十組に絞られた中に、レオンのパーティーも、エルドリックのパーティーも、両方残った。

ただ、レオンの頭の中は反省点でいっぱいで、その後のギルドでの噂話は耳に入らなかった。


ギルドの掲示板の前で、ざわめきが起きていた。

「セレスティア姫、隣国へ嫁ぐらしい」

その文字を見た瞬間、エルドリックの指先が止まる。

「勇者になったら、婚約できるって、話じゃなかったっけ?」

いつもなら鼻で笑う噂話に、今日は笑えなかった。

「……くだらない」

そう吐き捨てた声が妙に乾き、指先が震えている。

________________________________________

レオンはフェリアのいる工房へ向かう。

夜の工房で、フェリアは図面を広げていた。

「どうだった?」

「銃は良かった。でも」

レオンは壁にもたれる。

「エルドリックという男が、強い」

顔を上げ、目が合うと、フェリアは言った。

「レオン。勇者になれなかったらって、考えてる?」

「……考える」

「私は、別にレオンが勇者にならなきゃいけないとは思わない。でも、レオンがなりたいなら、なれるように支える」

レオンが、息を呑んだ。

フェリアは続ける。

「戦いも、無事に帰るように。私なりに全力尽くす。祈るんじゃなくて――確率を最大限まで上げるの」


一時置いて、レオンがふっと笑った。

「うん。……改善されるたびに、君が追い込まれるんだけどね」

「どういう意味?」

「……なんでもない」


________________________________________

そして、次の課題、ダンジョン踏破の日。さらに半分の十組まで絞られる予定だ。


今日のエルドリックの目はどこか醒めていた。課題について説明を受ける間も、前のような熱が無く、気が付けば、ぼーっと空を見つめている。

(……やる気、ない?)

「変だ」

レオンは眉を寄せた。


今日、ダンジョン内の討伐には、フェリアは参加しない。その代わり、ダンジョンの外で、研究と整備と、銃の最終調整をし、待つ。

回復役としてレオンのパーティーに入るのは、ピナ。

「えー! フェリアちゃん来ないの? また銃撃つところ、見たいのにー!」

「私はここで、勝率上げる」

「それ! その言い方、好き!」

ピナは両手を握りしめた。

「レオン様、絶対勝ってこようね! フェリアちゃんが“勝率最大化”してるんだから!」

「……うん」

レオンが真面目に頷くのが、ちょっと可笑しい。


一方、エルドリックとそのパーティーも、同じダンジョンへ入る。別のルートを通っていったが――ボスがいる部屋の前に同時に辿り着いた。その場合、ルール上は一緒に倒すこともできるが、どちらが最後に倒したかで、評価は変わる。


その時初めて、今日の彼のパーティーにいる魔術師が、いつもと様子が違うことにピナが気づいた。ローブで顔を隠した、謎めいた魔術師。

「……あれ? ナナさん、私と同じ位の背なのに、今日は大きい?」

「え?」

レオンが声を発すると、エルドリックもそれを聞き――一瞬だけ、目を見開いて、魔術師の方を振り返る。

その瞬間を、ピナが見逃さなかった。

(エルドリックも、気付かなかったの?)

だがピナは口にしない。回復役は余計なことを言わない。

……が、動揺していたのか、ボス部屋に全員入った後、さらに仕掛けを動かしてしまった。ピナは、コウモリ型の魔物が飛び出して、よろけた拍子に、うっかり、偶然、変な“スイッチ”を押してしまった。


古い仕掛けが作動して、ボスの入っていた箱が開くと同時に、部屋の入り口の扉が閉まり、部屋が“封鎖”された。

「えっ」

「ピナ~」

「ごめんっ」

ボスは、古代兵器型の魔物。鎧と魔力で動く、異様に硬い個体。

戦闘が始まった。


エルドリックは最初、動きが鈍かった。

強いはずなのに、迷いというか、心ここにあらずで、覇気がない。

レオンはフェリアの作った銃を抜く。

狙いを定め、撃つ。

硬い装甲の継ぎ目へ、精密に――当てる。

「……当たった」

ピナが息を呑む。

レオンの攻撃が“計算されている”のが分かる。

魔物は片腕が、ぶらんと力を失う瞬間、腕を切り離して放り投げ、エルドリックの傍をかすめた。

「危なっ!」

ピナが呟くと同時に……。


「パシッ」

乾いた音。

謎の魔術師が、エルドリックの頬を、迷いなく叩いていた。

「……!」

空気が凍る。

「何して――」

エルドリックが叫びかけたとき、ローブの人物のフードが、少しずれた。

「ぼさっとしてる暇ある? エルドリック、勇者になるんじゃないの?」

何度も隣に立つことを夢に見た、声と、覗いた顔。

この人が遠くへ行くなら、勇者を目指して剣を振るう意味もない、そう思った――

「――セレスティア?」

王家の姫。普段のおしとやかな印象と異なる、抗戦的な目。

「……姫、なんでここに」

「戦いたいからよ。政略結婚の駒になる前に、可能性に、賭けたいの!」

エルドリックの迷いが、燃え去った。

(姫だったのなら、守らないと!)

そして彼は、ようやく“本気”になった。

剣士としての型が、戻る。動きが鋭く、迷いが消える。

ボスの攻撃が来る。

レオンが撃って怯ませ、エルドリックが斬り込み、ピナが防護を重ねる。

セレスティアの魔術が、装甲の防御を弱める。

最後は、一撃。

レオンが、銃で“核”を撃ち抜いた。

ボスが崩れ落ち、封鎖が解け、扉が開いた。

「……勝った。フェリアちゃんの改良銃、大成功だね~!」

ピナが泣きそうな顔で笑った。


________________________________________

ダンジョンを出た後。姫はまたローブを深く被って、いつの間にか去っていた。

エルドリックは、疲労の中でレオンを見た。

「……君も、姫を狙っているのか?」

レオンは首を振る。

「いや、全く。僕は、別にずっと思ってる人がいる」

エルドリックの胸が、少しだけ軽くなる。


レオンが、討伐の報告の後、向かった先を、エルドリックは見た。

フェリアの元にレオンがまっすぐ走って行き、フェリアも駆けてくる。

二人が顔を見合わせて、手を取り合い、ほっと笑う。

それだけで分かる。

(あの子か)


勇者を目指す者、一人一人に物語がある。

だが、選ばれるのは一人。揺らいでいる余裕はない。

エルドリックは、そう思った。


そして、隣国から姫に婚約の話が来ている。それを知った後、絶望にさいなまれていたエルドリックへの、あの、一撃――

(……奪えって、言いたかったのだとしたら)

ダンジョンの中で張り手をしたローブの魔術師――セレスティア姫が、ふと思い出される。

(あの人の賭けたい“可能性”が、僕なのだとしたら……)

エルドリックも、その可能性に賭けたい、と思った。

________________________________________

工房で、レオンが銃をテーブルに置いた。

「フェリア。ありがとう。これがなかったら、今日のとどめは取れなかった。少しだけどその分、エルドリックより、評価高くついた」

フェリアは頷いて、淡々とメモを取る。

「反動どうだった? 照準ぶれた?」

「ぶれなかった。……当たった」

「なら次は、もっと速く撃てるようにする? もしくは、最初の一撃でとどめをさせるように、攻撃力を上げるか……でも、そうすると衝撃も強くなるか……」

レオンが、笑った。

「フェリアってさ。どこまでも、諦めないよね。……好き」

「ん? なに?」

「なんでもない」

メモを取っていたフェリアが顔を上げると、レオンが少しだけ近い。

レオンが、そっとフェリアの手を取った。

「今日、勝てた。十組の候補に残って、勇者にまた近づいた」

フェリアは、手を引かなかった。

「うん」

レオンの指が、ほんの少し強く絡む。

「それはつまり……」

「つまり?」

レオンは言わない。まだ言わない。

フェリアも、まだ知らないふりをした。


工房の窓から入る西日が、机の上の設計図を照らす。

“確率”を上げるための線と数字、フェリアの努力の跡が、静かに輝いていた。


王都のどこかで――別の恋の火力もまた、じわじわと上がっているのかもしれない。

可能性に賭けるために、戦う女性たちをめぐる、火力が――



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ