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第4章 夫の浮気に悩む知恵と愛人代表の由美

金持ちと結婚した知恵と、元々資産家の矢島裕子は、上質なシルクのように周囲から大切に扱われているのがわかる。

しかし、この日の上田知恵は、料理が出尽くしたのに、まだビールを煽っている。他の皆がデザートとコーヒーに移っているのに、なかなか帰ろうとはしなかった。会った時から、近くに住んでいる夫の浮気相手の話ばかりして、煽るようにお酒を飲んでいたが、とうとう目が据わって凄み始めた。

「あの女、家のすぐ近くのマンションに引っ越してきて、旦那も暇さえあれば会っているんだから。こんなこと許せる?」と。

「この前だって、旦那の車がホテルの駐車場に入るのを見かけたから、そっと後をつけて行ったら案の定、車から、あの女と一緒に出て来て腕を組んでホテルに入って行ったので、腹が立って持っていたスペアキーで旦那の車を一番遠くの駐車場に移してやった。」

「エーッ。そんなことして大丈夫だったの?」と裕子が大げさに驚いて聞いた。

「随分車捜したみたいで、遅くに帰って来たけれど、私の様子を伺ってチラチラ見ながら何も言えないの。可笑しくって。」と笑うので、晴子もつられて笑ってしまった。

「前なんて、高速道路で旦那の車を見つけて追いかけたら、あの女が車を運転していて、追い越し車線で並んで睨んでやったら、あの女、真っ直ぐ前を向いて、こっちを見ないのよ。横に座っていた旦那の姿が見えないので、おかしいなぁと思って覗き込んだら、後部席にうずくまって隠れている背中が見えてるって。バカじゃない?そこから追いかけたけど、途中で急ぎの用があったのを思い出して、そっちに向かったの。そしたら、旦那ったら、夜早く帰って来て、涼しそうな顔をしてシラを切るわけよ。本当に腹が立つ。」と言って、ビールのおかわりをした。

「飲み過ぎなんじゃない?いくら何でも」と晴子が止めるのも聞かず、「すいませーん。生中おかわり、お願いしまーす」と陽気に大声でオーダーする。独身の由美だけが、面白そうに馬鹿笑いしていた。

「羨ましいね。結局浮気して、旦那は知恵さんの注意を引きたいだけじゃない?」と。

「結婚してない由美にはわからないのよ。自分のしたいことも我慢して、家族のためにタダ働きしているのに、愛人と遊び歩いて自分だけいい思いをして、いったい奥さんを何だと思っているのよ?」と言って泣きだした。

『やれやれ、女で涙を武器にしている奴は、これだから付き合いきれない。だいたい久しぶりの女子会が旦那の浮気話だけで話題をかっさらって、こんな話聞かされてどうしたらいいのよ。何の解決にもならない話をぐだぐだして、時間がもったいない。男なんかにうつつを抜かすから悪いのよ。』とウンザリしながら、由美もビールの追加をオーダーした。

『どうせ飲み放題なのだから、飲まなきゃ損。酔わなきゃ相手してられないわ』と内心不機嫌だが、サービス業をしているだけあって、心とは裏腹に笑顔を作れるので、みんな気が付いていないようだ。そのうち、酔いの力もあって、つい本音が出てしまった。

「浮気なんて、遊びなんだから目くじら立てることないんじゃない?奥さんなんだから、デンッと居直って、男を掌で転がしていたらいいのよ。それとも、女と別れさせて、エロい旦那の相手を毎夜したいわけ?前に、セックスは好きじゃないから、旦那に付き合っていたら体がもたないって言っていたけれど、あれって嘘だったの?旦那に精力があるって自慢したかっただけ?今も、愛人がいるくらい、ウチの旦那はモテるのよって、自慢したいだけなんじゃない?」と言ってしまった。

晴子も裕子もビックリして言葉を失っていた。

知恵も負けてはいない。

「由美こそ、いつまであの男と別れないつもり?奥さんと離婚すると言って3年以上になるのに。都合のいい女でいて、婚期を失くしてもいいの?」とキツイ声で迫る。まるで、本妻と愛人の戦いのようになってきた。

「愛が冷めきった夫婦でいるより、さっさと別れた方が幸せかもね。」と由美が勝ち誇ったように言うので、

「所詮、愛人なんて遊びなんだから。結婚する気も、一生面倒見る気も無いんだから。うちの旦那だって、正式な場所には私を連れて行くし、病気で手術する時の承諾書も、愛人が書くわけにはいかないんだから。旦那が死んでも、葬式にはもちろんのこと、お墓参りだって許されやしない。所詮、日陰者。周囲からは、男の道楽、性の捌け口だとバカにされているのが、わからないなんて可哀想だわ。」と、憎々し気に言い放つ。

「そんなんだから、奥さんから逃げたくなるのよ。子供を人質にしているからって安心してるけど。既に、愛情なんて無いのを知っているくせに。」と言うと、由美の頬に熱い痛みが走った。

「知ってる?愛してくれる男の中から選ぶから、ロクでもない男を掴むのよ。自分から選んだ男をゲットできた者しか、幸せにはなれないんだから。成功だって、豊かさだって、自分で選択し行動して掴むもので、相手から施しを与えられる物ではないんだから。」と爆笑する。

由美も知恵の足を蹴ろうとして、逃げられた。知恵は剣道の有段者なので、闘って勝てる筈など無かった。

「そうやって選んだ旦那が浮気者なんだから、全然説得力ないけどね。」と自虐的になって、泣いているのか、笑っているのか、わからない位、酩酊してしまっていた。

そんな痛々しい知恵の姿に、「お金持ちだからって、幸せとは限らない」と呪文のように言う主人の口癖を思い出して、自分の選択は間違いなかったと、ひそかに安堵していた。しかし、それに気付かれないよう、晴子は同情しているフリをした。

「まあまあ、2人とも、酔い過ぎ。そろそろ遅いから、今日はお開きにしようか」と裕子が明るい声で言った。

「知恵が1万円出してくれたから、2人とも3千円でいいよ。知恵、いつもごちそうさま」と言うので、皆も知恵にお礼を言った。こんな時は、友人なのにと負い目を感じる晴子だったが、正直助かる。

由美は不機嫌だが、それまでの不遜な態度が一変して、にこやかにお礼を言った。こういう所が現金で憎めない。

「旦那の収入があると羨ましいね」と、タクシーに乗り込む知恵に言っていた。素直な羨望の言葉だったようだが、別れた後、裕子が「旦那からは、今1円も生活費をもらっていないそうよ。」と言うので、2人はビックリした。

「今の愛人が経理をしているらしく、昨年から生活費を入れてくれないんだって。同棲しているらしく、知恵と子供たちの生活費を止めて、自分の方に入金しているらしいわ。でも、あの性分でしょ。旦那に生活費を欲しいなんて言えなくて、必死で仲間と事業を立ち上げて頑張っているみたい。幼児教育の会社とか、東京に出張してコンサルの仕事もしているらしく、ほとんど家政婦さんに子供の世話をしてもらっているそうよ。前にも、家政婦さんのギャラが高くて、それを払うために仕事しているみたいだって、こぼしてた。」

大人しそうな裕子は聞き上手なので、いつも友人たちの近況をよく知っている。知恵への嫉妬で反発している由美や、自分の生活に余裕がなくて他人のことなど関心のない晴子とは違い、皆の事情を知った上で、変わらない友情で繋いでくれる信頼できる人物だった。年齢を重ねる度に、1年に数回開催されるこの女子会も様相を変え、回数も減って来た。



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