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第1章 宮坂晴子の平凡な結婚生活

25歳で結婚した宮坂晴子は、子供にも恵まれ、質素倹約をモットーに主婦業に励んでいた。愛する家族のために尽くしているのが幸せだった。そう、主人の愛を信じ切っていた時は。どんな犠牲も厭わなかったし、努力を認めてくれていると思っていたから頑張ることができた。でも、やり直せるものなら、やり直したい。無知で世間や男性について何も知らなかった。嘘や裏切りが平気な人と縁を持ったことは仕方ない。理想ばかり追って、免疫が無かったのが悪かった。

『もっと賢く、悪意や裏切りや嫉妬から自分を守る術を、経験を持っていたら、あんなに長い時間、苦しむこともなかったのに』と思う。勧善懲悪主義だった、おめでたい自分にタイムスリップして教えてあげたいくらいだ。決断ひとつできないで、後延ばしにして、周りが変わってくれることだけを願って何も行動できなかった自分に。

とことん落ちて、やっと目が醒めたのはつい最近のことだ。もう50歳になっていた。女性の一番熟していた時に、愛憎地獄でのたうち回っていたのだから、情けなさすぎる。

人生百歳と言われている現在、今は折り返し地点だとも言える。子供たちも20歳を超えて、自分の道に羽ばたいて行った。もう、手もかからない。やっと、自分の時間が持てるようになった。離婚も何度も考えた。しかし、一人で暮らすには年金も仕事も何も無い。

友人たちも50歳になって、ヘルパーや保育士などの資格を取って、頑張り始めた人も多い。特に、この2つの職種は責任が大きい割には、労働は苛酷で賃金は安い。人はどんどん辞めていくので、いつも人材不足で就職には困らない。いつかは親や伴侶の介護をするのを覚悟している女性は、仕事をしなくても、いずれ役に立つだろうと資格を取る人も多い。

子育ては大変だったけど、楽しかった。介護も、やってみたら案外やりがいがあるかも知れない。しかし、今から資格を取るのもタダではないので、今の自分には、まず金策を考慮しなければならず無理がある。保険の仕事の勧誘もあった。説明会を聞いたが、友人も親戚付き合いも無いので、勧める相手がいないと思い諦めた。ネットワークもサイドビジネスも、生活保護寸前の経済状況で、できるはずない。この年になって、生活のために、したくもない仕事をやらなければならなくなるなんて、考えもしなかった。それでも、あり金全部はたいて自分のために使おうと決心したら、ちょっとだけ運命が動いたではないか。

そもそも、お金があれば、80パーセントの不幸は解決できると言う。なのに、「お金があるからと言って幸せとは限らない」と言う夫の言葉の呪文を信じて、貧乏の中に幸せを捜して耐え忍んで来た。それが、全て嘘なのだと最近知った。健全なお金に対するリスペクトが無かったから、お金に嫌われたのだと知った。お金も無いのに、人の好意も受け取らなかった。親や友人たちの愛情も拒否して、カッコつけて来た。助けてくれる人たちの手を振りほどいていて、被害者意識でいじけていた私。誰からも相手にされなくなる筈だ。

清貧などと意識高く生きていて何になるのだろう?人から羨まれる位の美貌も才能も、貧乏という筵をまとって腐らせてしまった。やり直すのは今しかない。もう最後のチャンスかも知れない。自分を取り戻し、自分を生み出した何万人ものご先祖様に報いることが出来るのは。全ては、あの35歳の大学時代の友人たちとの女子会の時に示唆されていた。あの時のまま、自分の我慢や犠牲の上に、どうにか支えられていた家族の幸せ。いや、幸せだと信じ切って、事実が見えていなかった時代に、もし夫の裏切りがなかったなら?自分は、あのまま流されてゴミのように扱われ、老いていたに違いない。自分を取り戻すことが出来たのも、自分の人生について考えるようになったのも、不倫のおかげ?皮肉なパラドックスだが。運命は自分で変えなければ、ただ下りのエスカレーターに乗っているように、年齢を重ねるごとに下へ下へと落ちるだけなのだと気付くことができたのは、幸いだと信じたい。子育ても終わった今だからこそ、できる。許される。誰に?世間や何より自分に。本来の自分の輝きを取り戻して、家庭を離れて、認め愛してくれる人々の中で活躍しても良いのだと。囚われていた35歳の頃からの自分を、どん底だった自分と過去に惜別して。


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