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今日も木靴で鍛えられる私



「この!この!」


 ガリガリ。


 奥のつま先部分。一体どうやって掘ってるのよ木靴職人は!


 一郎にお願いしたら、


「ここは、難所だ。自力で仕上げると実力がつく」


と、望んでもいないことを言われて立ち去られた。


「二郎!ちょっと、アンタの掘ったお手本見せてよ!」


 先に工程を終わらせてしまった、二郎のお手本を見せてもらう。


(⋯⋯なめらかに削りやがって)


 私の手に完璧なまでの木靴があった。


「左右でこんなに違うの、変じゃない?」


 もう片方も作ってもらいたい、そんな打算な気持ちも込めて聞いてみた。


「お。なら両方作るか?」


「なんでよ」


 笑顔の二郎。の、後ろに木のブロックを持って近付いてくる一郎。


「いやいやいやいや。言うてない、言うてない」


 ストップ!待て!一郎!台所に戻れ!眼力で念じた。


 笑顔でブロックを持つ、一郎が怖い!!


「作りたくなったらいつでも言ってくれ」


と、言うと一郎は部屋から出ていった。


(こいつら、どんだけ鍛えて私で日銭ひぜに稼ごうっていうのよ)


「ねぇ、二郎、ちょーっとだけお手本見せてくれない?」


 小首をかしげてねだってみる。


「しゃーねぇなぁ」


(⋯⋯この兄弟、チョロくね?)


 でも、本当にちょーっとだった。クソ!!


「荒れるな、荒れるな。少しずつ掘らねぇと、また大穴開けちまうぞ」


 二郎の助言。


「⋯⋯穴は開けたくない」


「だろ?なら、ちょっとずつ掘っていくんだ。なんでも忍耐だぜ?すこーしずつ、奥まで掘り進めて、それから、薄さを求めたら良い。いきなり、完璧を求めんな、失敗すんぞ?」



(⋯⋯⋯⋯最初から、そう言え。何度失敗したか見てたでしょ)


 やさぐれた心は、二郎の助言すらムカついてしまう始末。


 顔を見ると、全く邪気のない二郎の笑顔!!


 ⋯⋯笑顔に照らされた己の心の黒いこと!


 二郎の笑顔に免じて、愚痴は心に仕舞って言うとおり、少しずつ掘り進めた。


(⋯⋯ちょっとずつだけなら、まぁ、ちょっと楽しいかもしれない)


 単調な動き。


 私は、木靴職人。

 ずっと、掘ってる。

 なんなら、毎日掘ってる。



 ⋯⋯というマインドコントロールで掘り進めた。


「飽きた。お風呂入りたい」


(まだ風呂掘ってるほうがやる気出るわ!!!)


 掘ってやろうかしら?と思ったが、ボウフラ地獄で天国へと旅立った一郎と二郎のご両親の事情を思い出して、その考えは失敗した木靴と共に捨てた。


「それ、完成したら蒸し風呂だ。頑張れよ」


「頑張るわ!!」


 ヤケクソに返事した。


 二郎からのアドバイスで掘り進めた木靴のつま先。


 なんとか彫り終えた。



「もう⋯⋯木靴は勘弁して」



 そう言う私の後ろに、てんこ盛りの木靴用の木のブロックが積まれていた。


 「い、いつの間に⋯⋯」


 大量の木のブロックに戦慄した私は、『今日の作業は終わりよー!!』と、叫んで蒸し風呂を所望した。

 

 私の我儘は既に叶えられていて、もう入れる状態という。


 なんなら暖炉に湯まで用意されていた。


 ありがとう!一郎!二郎!でもそれとてんこ盛りブロックは別よ!


「なんで、知らぬ間に資材搬入してるのよ!どこの工房よ!」


 髪を片側に流し寄せ、手製の下着姿の私は、怒りであかを擦りながら、大きな独り言。


「片付けはしてやったんだから、そんなにギャアギャア怒んなよ」


 お揃いのショートパンツ型の紐パンを履いて、忙しなく腕を動かす二郎が言う。


 ちなみに二郎は、ブラを身につけていない。

 とっておきの防具となったレースブラは、明日の通勤のため干されている。見たらレース三段仕様になっていた。戦慄する。


 私の背中に香油こうゆを塗ってくれるそんな無自覚変態二郎を、横目で睨みながら「ありがとう!!」と礼を言った。


「⋯⋯怒ってるのか、なんなのか分からんな」


 垢すり道具を私から取り上げた一郎が、私の肌をりあげる。


 垢を見られたところでどうとでもないのだ。


「疲れてるから助かる〜」


 美形兄弟に肌に香油を塗りつけさせ、垢を擦らせる。


 およ?まるでなんかはべらせているような?


 ⋯⋯まぁ、いっか!


 木靴の親方は疲れているのだ!



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