ライン長タロタロ、日本に想いを馳せる
さて、工場と化したテーブルでは、ほぼほぼ苔詰め作業が完了していた。
「一郎〜、ここヨレちゃうかもしれないから、こっち側の布に針が突き出さないように、中の苔を縫い留めてくれる?⋯⋯⋯⋯そうそう、いい感じ」
この二人には、これが生理用ナプキンなんて説明していない。
ただの乾燥してカラカラになった苔を詰めた謎の布を縫わしているのである。
ちなみに、二郎がブラジャーに詰めて盛りブラにされた分は回収した。
(まったく、ただでさえ乳幅あるのに厚みまで出そうとすんな!女の敵め!!)
二郎のシャツからチラリズムする、私の顔サイズカップ数のレースブラを忌々しげに睨みつけていると、いつの間にか、一枚改良されたサニタリー用品を一郎から渡された。
(⋯⋯⋯⋯!す、すごい!ヨレる、としか説明していないのに、苔が端まで留まるように、一周されて縫われてる!⋯⋯⋯⋯っ!?反対側もちゃんと言われたとおり糸を通してない!)
私は、ナプキンを裏表とひっくり返しながら驚愕。
涼しい顔して、二枚目に着手する一郎の通った鼻筋を、信じられない、と言った感情を込めて眺めてしまった。
二枚目のヨレ防止縫いを一周終わらせたところで、私は声をかけた。
「⋯⋯一郎!すごい!ちゃんと私が伝えたかった事、理解してくれてありがとう!完璧だよ!完璧な上にお願いがあるんだけど、ここの真ん中に窪むように縫ってほしいんだ。もちろん裏の布には針を通さず、中の苔を縫い留める感じで⋯⋯」
一郎は、小さく頷くと、先程完成した二枚目を、再び手に取り――⋯⋯
スッ、スッ、ス――。
(す、すごい⋯⋯っ!何も言わずに安心設計三箇所留め!!⋯⋯何この人⋯⋯ナプキン製造の申し子!?)
驚愕して、眺めている横で、二郎がなにか動かしている気配に気づいてそちらを見る。
(これは⋯⋯っ!)
二郎は中に詰めた苔が平坦になるように、バランス良く指の感覚で、布の上からチェックしていた。
チェック済みを一郎が縫っていく。
(⋯⋯な、なんなのこの兄弟!)
凄まじい、職人技!
あんた達、苔布ナプキン作製の経験あんじゃないの!?と、問いただしたいほど無駄のない動きで、私の度肝を抜きにかかる。
(次、生理来る前に、こいつらに作らせよー!!)
私は、歓喜で打ち震えた。
打ち震えて思い出した。
「あ!ごめん!二郎薪割り――」
「もう、とっくに終わらせてるよ」
「え――?あ、ありがとう⋯⋯」
怒ってる?と思って表情を見たけど、そうでもなさそう。
(ど、どうしよう⋯⋯お礼にこのナプキンを、盛りブラ用として、二つプレゼントすべき⋯⋯?)
本気で悩む。だって、貴重なのだ。
いや!ダメだ!私は、頭を振る。
「ありがとう!二郎!明日は、今日できなかった分も頑張るね!」
「おう」
なにが目的なんだ⋯⋯、調子が狂う。
あんなに働け働けと怒鳴っていた二郎が、私を起こさず薪割りを終わらせるなんて
(やはり、ブラパッド⋯⋯、イヤ、ダメよ!)
貴重なナプキンになるのだ!死守せねば!
(大体、ひとつがどんくらい耐えれるか分かんないし〜、吸水量どんなもんなのよ⋯⋯。どうしよう。一日で全部使う⋯⋯なんて、事態になっちゃったら)
不安で不安で仕方ない。
女性に異世界転移なんて過酷すぎるわ、と改めて思った。
うーん、私の転移もビビるけど、転生もどうなの?なんて考えちゃう。
それまで、平然とやってたおまるにいきなり現代日本人の感覚になるのよ、頭の中バグ起きない?いや!もしかしたら、私がいるここがおかしいだけで、その世界は、中世風の見た目だけど、システムトイレ、システムキッチンなだけかもしれない!
漫画の中は石造りだけど⋯⋯っ!!
そうよね!だって、異世界エロだって、普通のパンティ履いてるし!なんなら、スケベランジェリーだって身につけてるわ!
私の頭の中の空想は、日本にいた頃に読んだ、異世界でヒロインやヒーローがよくエッチ、エッチと口にしてたけど、そのたびに奈良を代表するレジェンドお笑い芸人が、引き笑いと共に出てくるのよね。あの人が作った言葉だし⋯⋯、まで飛躍してしまっていた。
「そろそろ止めて、飯にしようぜ」
二郎の声に、現実に引き戻された。
目の前には苔が詰めこまれたナプキン⋯⋯。
(あー⋯⋯転移するならご都合主義の世界が良かった⋯⋯。なんなのこれ)
と、私は、ガッカリ項垂れるのだった。
作りかけのサニタリーグッズを片付け、食事。
漫画のようにはいかない。
小説のようにもいかない。
ゲームは⋯⋯、最近していなかった。
今私の目の前にあるのは、この謎の液体とその中に入った具。そして、硬いパン。
ぱんっ!と手を合わせてからの、
「いただきます!!」私の姿に、その言葉に、長髪から覗く青い目が優しく形作る。一郎ママ、にっこり。
ブチリっ!と、パンをちぎって皿に盛られたスープにポイポイと、落とす。スープに浸すと柔らかくなるのだ。
はあ、これだけで握力つきそう。
最後のひとちぎりは残す。
皿に残った液体を硬いパンに吸わせ掬い取るためのものだ。
(あーん、お肉が食べたい、お魚食べたい、揚げ物食べたい、お菓子が食べたい、サラダは⋯⋯うーん、少しは恋しいかも)
食べ終わった私のお皿を覗いて、鼻筋の通った緑目の二郎が頷く。何気に睫毛も金髪で長い。
(こえーよ、この兄弟。マジで“お残しは許しまへんで!”の世界なんて)
しかも、スープ一滴も許さない厳しさ!
「今日もありがとう一郎、ごちそうさま」
と、お礼を言う。
それを聞くと一郎は、にっこりと笑って食器を下げてくれる。
チョロい。あまりにも。
なんだかんだと、この不自由な世界に適応しつつある私が、そこにはいた。




